覚醒
真っ白な世界。
何処までも白く、何もない空間。
全てが白く地と空の境界線すらわからないほど。
そんな白一色しかないはずの世界に、一つの大きな闇が広がっていた。
真っ白な半紙に墨汁をこれでもかというほど垂らしたかのような黒。
……そして一人の少女が膝を抱え俯いたまま、闇を前にただ座っている。
一切の動きがない状態で。それこそ死んでいるかのように。
真っ白なその空間に澄んだ音が響く。
「……時間か」
少女は覚醒する。
透き通るような肌を持ち、自らの存在している真っ白な世界に溶け込むかのような純白の衣を纏うその少女は、その世界には対照的な黒髪をたなびかせながら立ち上がる。
少女の眼前には大きく、底の知れない漆黒の闇が広がっている。
その場に佇む少女は、闇に向かって呟く。本当にこの少女から発せられたのかと疑いたくなるほど、とても普通の少女とは思えない、低く落ち着いた声で。
「あれから10年か……。我々にとって10年など、ほんの一瞬と同義でしかない。しかし、……」
僅かばかりの沈黙が流れる。その先の言葉を続けるべきかどうか逡巡するかのように。
しかし、言葉は紡がれる。
……闇の中に沈む、もう一人の少女へと。
「……しかし、この10年は長かった。今までに感じたことの無いほどに」
声は闇に吸い込まれ、そして消えていく。
少女の言葉は何かを決意したかのように、淀みなく続く。
「もはやこれ以上待つことに意味はなくなった。ついに賽は投げられたのだ……」
少女が闇さえも打ち消さんばかりのまばゆい閃光に包まれる。そして、ふわりと宙に浮きあがった。
闇に沈む少女、それに対して光に浮き上がる少女。
「私は本当に非力だ」
自嘲めいた笑みを浮かべながらそう囁く。
「だが、必ず取り戻してみせる。それまで……」
刹那、少女は真っ白な世界より消え去った。
あとに漆黒の闇と、のまれる少女を残して。
4/4.2012 改題(サブタイトル)