6:読書とこれから
早く目が覚めたので、≪サーチ≫を使って遊んでみることにした。
結果。
≪サーチ≫マジ使える。
敵、で検索すれば敵がわかる。
さらに、マップ機能を追加してみた。
出てくるスクリーン、その右上に全体のマップをつけ、生物の存在や動きを光点で示すマーカー機能もつけた。
おかげで城の中が手に取るようにわかる。
ちなみに、緑が仲間、赤が敵、中立がオレンジの光点というマーカーになっている。
そのマップでもって、周囲を見ると――――
「――ってまぁ、見事にまっかっか……」
敵だらけ……。
城内マップに倍率変更しても、まっかっか。
あってもオレンジくらいだ。
視界内の対象を直接見た場合、名前や武装の情報が表示されるようにしてあるが、マップ上は光点だけで名前などの情報は表示されない。
名前を表示するとごちゃごちゃになってしまうので苦肉の策だった。
そこで、マップ表示を街に向けると、オレンジオンリー。
まだオレという新勇者の事は告知していないようだ。
知らないからこそ中立。
勇者には友好的かもしれないが、オレという個人についてはどちらでもないからだ。
「民衆への告知は、訓練が終わり次第、ってことなんだろうな。
ある程度強くなってからでないと、勇者として見られないわけだし」
おっと。話を戻して。
さらに、≪サーチ≫にロックオン機能をつけた。
補足範囲内のマーカーに対して、任意でロックオン、遠距離狙撃できる。
ちなみに、補足範囲は魔力の波が広げられるだけ。
魔力無限チートの勇者にとっては、それはもう補足範囲無限と同義だ。
これでマップ内にいる敵は一気に殲滅できることになる。
優秀な魔法使いは、魔力の波を検知すると同時にとっさに全方位障壁でも張れば防げるかもしれないが、それ以外の敵はいきなり襲い掛かってくる魔法に殲滅されるだろう。
急に魔法が襲い、逃げても追尾されるのだ。防ぐしか手はない。
「勇者の魔法が防げるなら、な……」
これがあれば、夢物語じゃなくなってくる。
1人VS1国という、荒唐無稽な戦争が。
敵以外、城や一般市民を一切傷つけることなく、一瞬で決着がつくかもしれない。
「侵略戦争とかに便利すぎるな……。楽しみだ」
そして、最も大きな収穫があった。
「王族に攻撃魔法は無理、か……」
ロックオンはできる。
だが、試しに小さな水鉄砲くらいなイタズラレベルのウォーターボール撃とうとするとERRORの文字が表示されたのだ。
無害な魔法は向けられるが、攻性な魔法は向けられない。
「これは格闘でも、他の武器でも無理だと思ったほうがよさそうだな……」
ベッドにぼすっと沈み込む。
思わずため息をついてしまった。
痛みを強弱自在に与える呪文。攻撃、攻性魔法は通用しない。
奴隷に対する主人のなんてチートっぷり。
勇者のチートなんて目じゃないぞ。
「城の制圧はできても、クソ王を殺す方法がない……」
光明がさした道の先が、すっぱりと途切れている。
「はあ…………落ち込んでてもしょうがないか。
昨日見つけた本でも読もう」
各魔導書はイメージの手助け程度と割り切って、斜めに読み流していく。
魔法の名前、その効果だけで十分だった。
おかげで全属性の魔法を軽くだが使えるようになった。
魔力制御が甘いせいで、威力が大きすぎたり、極大すぎたりしたが、そこは課題だな。
ちなみに、小さくはならなかった。
勇者補正のせいで持っている魔力が桁外れらしい。
オレはちょっとのつもりでも、標準の2~3倍の魔法になる困りものだ。
そして、魔法理論、という本。
これはなかなか興味深かった。
普通の魔法についての理論的なことも載っていたが、魔法としてではなく、魔力を魔力そのままとして使う技術。
つまり、魔法に属性という方向性を与えない、いわば無属性魔法が載っていたのだ。
例えば。
魔力をそのまま撃ちだす衝撃。
純粋な身体強化。
これは風属性の身体強化のように、風を纏うことで空気抵抗を減らし、風の鎧として防御力をあげるものとは違い、筋力、骨、神経といった身体そのものを強化する魔法。
程度を謝ると、肉体にかかる負荷が半端ではないため、あまりつかわれない。
しかし、勇者補正を受け、常人を軽く超えた身体のオレなら、うまく使いこなせるはずだ。
あとは、魔法の体系に含まれるかどうかは疑問なのだが、気功のようなものについても語られていた。
気=魔力とみなしているらしい。
硬気功などは、魔力による身体強化の一種だと考えてられている。
そして、あらゆる魔法のどこにも≪サーチ≫は載っていなかった。
そうなると、やはり≪サーチ≫は勇者による魔法創造のたまものということになる。
「魔法創造は、『魔の法則』を創るタイプの方か……。
これは嬉しい発見だな……」
しかし、そうなるとあまり魔法関連書を読むのはやめたほうがいいだろう。
イメージや発想力がこの世界の法則にしばられてしまうからな。
先入観はなるべく排除した方が、おもしろい魔法を思いつく。
そして、次の本はもっと面白かった。
魔法の未来予想。
オカルト本――魔法というオカルトに対してこれはどうかと思うが――だ。
この世界のオカルト本で、「こんな魔法があったらいいな!」「こんな魔法がきっとあるはず!」といった内容が大半を占めている。
「これはお宝だぞ……!」
思わず笑みが漏れる。
この世界の人にとっては、役に立たない空想本なのだろう。
根拠もない妄言でしかない。
しかし、「魔法創造」を持つオレなら。
「あったらいいな」を実際に創れる――!
なので、早速。
「この亜空間創造魔法をやってみるか……」
空間魔法と時魔法に属するはずの魔法。
魔力によって空間を作り上げ、その中に物をいれても腐らない。
某猫型ロボットのポケットのような便利魔法。
空間魔法についての本が見つからなかったので、イメージで創る。
失われた呪文、新呪文の創造だ。
「≪クリエイトルーム≫」
とりあえず、元の世界で済んでいた家くらいの広さを想像し、大量の魔力を送り込んで空間を創る。
15分くらい、魔力を吸われ続け、ようやく空間が完成したようだ。
魔力無限チートがない一般人がこれやったら、魔力枯渇でオダブツすんぞこれ……。
「中に入る呪文はどうするか……。
ま、≪ゲートオープン≫でいいか」
即席の呪文を唱え、現れた身長ほどの黒い扉の中へ。
真っ白い殺風景な、だだっ広い空間。
「これは……ずっとここにいたら気が狂いそうだな……」
扉の外にでて、元の部屋へ戻る。
部屋から出たと同時、ゲートはスゥッと溶けて消えるように設定した。
「じゃあ、今度は……≪ゲートオープン≫」
今度はさっきよりも小さな、カバン大のゲートをイメージ。
扉を固定し、消えないようにして……と。
その中に、ぽんぽんと荷物をいれていく。
かっぱらった剣、魔導書、与えられた服や部屋のタオルなどなど、役に立ちそうなものは全部いれておく。
「あとで補充してもらって、それもまた入れよう」
あらかた入れ終わって、ゲートを閉じる。
これで、城内のお宝はすべていただく準備が整ったってわけだな。
≪サーチ≫と組み合わせれば、根こそぎかっぱらうこともできるぜ、げへへ。
訓練期間が終わるまで、少しずつ少しずつ、金目のものを奪っておこう。
「じゃあ、残ったこの本を読むか」
ベッドに腰掛け、亜空間にしまわなかった本を開く。
「ペルヴィアの勇者」上下巻
ノンフィクション、らしい小説だ。
勇者に関して記された本が見つからなかったので、これを読むことに。
ストーリーはよくあるものだ。
この世界には魔王がいて。
異世界から呼ばれた勇者はそれを倒すことを王に約束。
1ヶ月ほど訓練をうけ、街やギルドで何人かの仲間を作り、この国を出ていった。
獣人やエルフ、精霊などを仲間にして、勇者たちの旅は続いていく。
(ときどき、獣人やエルフに対して差別的な扱いが見られた。どうやらそういう世界らしい)
時に隣の国や獣人の国へ。エルフの里へ。精霊の王に会い、ドラゴンを倒し。
仲間を失うこともあった。
それでも勇者は魔王を倒すため旅路を行く。
そして、ついに魔王との最終決戦。
その戦いで、勇者は魔王と相討ち、双方が死んだ。
仲間たちはその勇者の戦いを様々な国で伝え、勇者は英雄として称えられた。
「よくある小説って感じか、オレからしたらだけど」
勇者の名前はジュンイチ・タナカとなっていることから、やはり同郷っぽい。
彼の使う魔法はあまり参考にはならなかった。
作者自身も又聞きレベルなのだろうし、特殊な魔法を使っているような描写はなかった。
「勇者の子孫がいたら、会ってみたいな……。
もう何百年も前の事っぽいけど」
本当にノンフィクションなら仲間の内の一人と恋仲になっていたようである。
その人との間に子供がいてもおかしくない。
そして、アキラが一番気になったことは。
「クソ剣が出てこないな……」
ペルヴィアで召喚されたのなら、与えられているはずである。
それがないということは、このジュンイチ君は善意で魔王討伐に向かったのだろうか。
すごいな。お人よしめ。
「これが最初の勇者みたいだから、その後の勇者が暴れたりしたのかな……。
だから、クソ剣使って奴隷勇者契約を結ぶようになったとか?
その勇者さんの気持ちはわかるが、後のやつのことも考えてくれると嬉しかった……」
パタン、と本を閉じて亜空間に放り込んでおく。
「クソ剣の収穫はなし、か。
今度書庫に行ったときは奴隷契約とかクソ剣についての本を探すかな」
勇者関係の本はハズレだったからな。
クソ剣についての情報を集めないと。
「最初の勇者と同じ道をたどるなら、一ヶ月の訓練ののち、魔物討伐や戦争にかり出されることになるだろうな。
それまでにこの国の最強程度を軽く倒せるくらいに強くなるぞ」
なによりも、まず力が必要だ。
「今後の方針としては、力を出し惜しみして、訓練期間を延ばす。
与えられていない情報、王家の不利な情報を集める。
魔法、武器の上達。装備の確保。あとついでに金目のものも。
国から脱出するための、城内や周辺地域の地形を完全把握。
やらなきゃいけないことは山積みだな」
こんこん。
「勇者様。起きていらっしゃいますか?」
今日もスフィアが迎えに来た。
深呼吸して、敵意をおしこめる。
「ああ、起きてる。入っていいぞ」
「おはようございます。
今日は斬りかからないんですね?」
「おいおい、まだ疑ってたのか。しょうがないっちゃしょうがないが……。
昨日も打った通り、真面目に契約を果たすさ。報酬はもらうがな」
大嘘だがな。
「お父様からも、報酬の件は了承していただきました。
最初は渋っていたんですけど、頑張って説得しました!」
ほめてください、とばかりに満面の笑みを浮かべるスフィア。
「そうか。ありがとな」
その頭をなでる。
スフィアはくすぐったそうにしながらも、やはり嬉しそうだった。
その姿に、少しだけ和むが、頭を振ってそれを追い出す。
「……?
今日も訓練です。がんばってくださいね。
昨日ほどは厳しくしないよう、言っておきますから」
「せいぜい訓練頑張るさ。
契約から解放されるためにな」
せいぜいオレを鍛えてくれ。
おまえらを食い殺す、牙を研いでくれ。
一ヶ月後を目安に。
いずれくる、勇者のお披露目の日を、この腐った国の命日にしてやろう。
アキラくんの大方針決定。
細かい所はこれから煮詰めるんだ!