5:書庫と発見
訓練も終わり、夕食も終えた。
寝るまでは自由時間だ。
当初の予定通り、書庫でいろいろと調べることにした。
あのにっくきクソ第1王女サーシャはいなかった。
ちっ、いたら魔法の実験台にしてやろうと思ったのに。
ええ冗談ですよ。
腕輪使われるかもとか考えたら怖いもんよ。
「≪ライト≫」
テキトーに光属性ライトの魔法で明かりを確保。
自主練で分かった事だが、オレは無詠唱と詠唱破棄ができる。
何にも言わないで魔法発動が無詠唱。
魔法の名前だけで、長ったらしい呪文を言わないのが詠唱破棄な。
理論的にはだれにだって使える『技術』らしいのだが、詠唱になれてしまったこの世界の魔法使いには難しいようだ。
魔法は魔力が変化したものであり、呪文は変換装置。
その変換装置は魔力が魔法に効率よく変わるよう、術者に強くイメージさせるためのものらしい。
だから、極論すれば魔法を強くイメージさえすれば魔法は呪文なしで使える。
しかし、それをするには生まれたときから魔法を見まくって目に焼き付け、強固なイメージを得る、くらいはしないとだめっぽい。
そんな面倒なことするくらいなら詠唱するよ、とのこと。
さらに驚いたことに、詠唱はテキトーでも魔法は使えることがわかった。
例えば、ファイヤーボールなら、≪火よ、球となりて燃えろ。ファイヤーボール≫と唱える。
しかし、≪火よ、球となりて敵を燃やし尽くせ。ファイヤーボール≫でも発動する。
後者は少し火力が上がるようだ。
上級呪文が強いのも、詠唱が長い分イメージが強固だからだろう。
つまり、魔法はイメージ次第で強くなったり、弱くなったりする。
そして、日本でゲームやアニメを見ていたオレは魔法のイメージが楽にできる。
詠唱しなくても、十分な威力が出るほどに。
これが勇者補正の一つ、詠唱破棄&無詠唱の正体らしい。
確かに、なにも言わないで魔法を使う「無詠唱」はできるにはできるのだが、失敗することも多かった。
そこで、魔法の名前だけを言う「詠唱破棄」にすると失敗はなくなった。
やっぱり頭の中だけでやるのは難しい。
「いつかは無詠唱で使えるようになりたいもんだな。
奇襲にも使えるだろうし」
しかし、隊長さんに聞いたところによると、
優秀な魔法使いになると、相手の放つ魔力を感じられるため奇襲は通用しにくいらしい。
それに、熟練の戦士になると、殺気=魔力を感じ取れるものもいるのだとか。
どんだけだよ。殺気とか、クソ剣の戦闘経験をもらわなかったら一生わかってねぇって。
「でもま、王族にそんな能力はないだろ。
んなことより、そもそも王族に魔法が効くかどうかを検証しないと」
全部無効なのか、それとも殺意があるものは無効なのか。
おそらく後者だろう。
治癒魔法がきかないからな。勇者の持つ無限の魔力による回復は捨てられまい。
おそらく、剣も拳も魔法も設定は同じ。
ソフィアの頭を撫でられるってことは、おそらく全部無効ではあるまい。
殺意の有無がキーだと思っている。
王族を殴れるか、魔法が効くか(治癒系、攻撃系、両方)を検証しなければ。
明日ソフィアでためそう。
「それ以外になにか…………。
あ、腕輪の契約強制よりもつよい魔力で、強制力を無効化できないかな……?」
腕輪の与える痛み、王族への攻撃不可。
これらも魔法であるのなら、それを超える魔力や魔法をぶつければ壊せるんじゃないか?
「うかつには試せないけど……。調べてからにしよう」
たとえ壊れても、その後に捕まって対策されたらやっかいだ。
爪はなるべく隠して研いでおかなければ。
「さてさて、そんじゃ切り替えて歴代勇者についての本と魔導書を探すか」
~1時間後~
「見つからねぇ……。
この蔵書量できちんと整理されてねぇとかバカかよ」
アキラの身長ほどの本棚がずらーっと並んでいる。
学校の図書室の二倍くらいはあった。
なのに、きちんと整理されていない。
よく使われる内政関係、法律関係、魔物の生態関係、魔導書関係は整理されている。
しかし、歴史書や著名人の本、だれのかわからない日記、数十年前からの貴族の領地の報告書。
それらのあまり使われない本はテキトーに開いてる場所に突っ込まれているのだ。
火、水、風、土など、この国にも使い手のいる魔導書は見つかった。
だが、初心者用の入門書、光属性、闇属性、派生属性、混成属性の魔導書は見つからない。
なくてもイメージはできるのだが、やはり手本がほしい。
「あーくそ、どうやって探せッつうんだよ。
図書館の書籍検索とかなんて便利だったんだ……」
検索したい本の情報を入力すれば、それがどこにあるのか捜しだす便利システム。
あれ考えた人は天才だ。マジ便利。
そんな風に、元の世界の技術に思いをはせていると。
「おおぉっ!?」
予想外の効果が現れた。
AR技術のような、半透明のスクリーンが虚空に映ったのだ。
そのままきょろきょろとあたりを見回すと、ピピッ!と音がする。
見ると、スクリーンの向こうに映る、とある本棚の一部分に〇がついていて、そこから線が伸び『光の魔導書』と書かれている。
「マジであった!すげー!」
その本棚まで行き、〇で囲まれている本を手に取ると「光の魔導入門」と書かれている本。
それならば、と魔力を集めたまま、今度は明確にイメージする。
望むものに〇で囲み、その情報を表示するスクリーンビジョンを。
「よし、できるな……」
やはりできた。そのビジョンをくっつけたまま書庫をうろつく。
視界に入ると、音とともに〇が囲まれた望みの本が見つかる。
検索項目を増やすこともできた。
「見えないところにも〇がみえるとは……」
積み上げられた本の山に埋まった部分、目では見えない部分にあるモノでも、検索項目にヒットすれば〇とともに情報が表示された。
検索項目に隠し通路、とか入れたら城内探険が楽しいことになるかもしれない。
そんな風に、便利な魔法のおかげで書庫の捜索はグンと効率が上がった。
「これが魔法創造なのか……?」
≪サーチ≫と名付けたこの魔法。
検索項目に入れたモノを捜しだす。
抽象的な内容でもOKの便利な魔法だ。
「いや、決めつけるのは早いか。
同じ魔法があるかもしれないし。
魔法関係の本を読めばわかるだろ」
ほくほく顔で、見つけた本をすべて持ち出し、自室として与えられた部屋に戻ることにした。
てれれ~♪
『アキラは魔法理論、魔法の未来予想、光の魔導入門、闇の魔導入門、火、水、土、風の魔導書、ペルヴィアの勇者上下巻(ノンフィクション小説)を手に入れた』