3:地獄の訓練1.5
地獄の訓練は騎士団長への勝利で華々しく終了!
すればよかったんだけどね……。
さすが地獄。
「午後は魔法です♪」
テキトーに自主練した後、昼飯を食っているとヒマな第三王女様がやってきてそう告げました。
「えーっと、マジで?」
「はい。マジ?ですよ」
マジの意味がわからないのか小首をかしげる。
そんなことされたって、ドキッとなんかしないんだからねっ!
おっととち狂っちまった。
閑話休題。
「またいきなり魔法部隊と戦えなんて言わないだろうな?」
「そんな無茶なこと言いませんって。
最初は属性を調べて、簡単な魔法の扱い方を教えるだけです」
「ならいいけど……。
魔法を使うってのはわくわくするな」
最初にみた魔法がアレだったのはもう忘れよう。
こうなったら最初に使った魔法に希望を持つことにする。
「つかさ、ソフィアはヒマなの?
オレんとこしょっちゅう来てるし」
「ご迷惑ですか……?」
「そ、そんな上目づかいで懐柔されると思ったら、大間違いなんだからなっ!」
ちょっとツンデレ風味だな、オレ。
男のはツンデレとは言わんか。
あーあ、ツンデレ女の子いないかなー。
「じゃあ、頑張ってくださいね」
そういうと、ひらひらと手を振って彼女は行ってしまった。
「王女様はこんなとこじゃ飯は食わねぇってか」
城内の下っ端や衛士、従者の食堂らしいからな。
ソフィアはただ単に嫌味を言いに来たんだろう。ヒマ人め。
がつがつもしゃもしゃもぐもぐごくん。
「ふーっ、ごっそさん。
んでも、まだ時間あるな……。
城の探険でもすっか」
口笛を吹きつつ、気の向くままに歩いていく。
右に左に、階段登って降りてみて。
気がつけば。
「広すぎだろ……。城内地図とかねぇのかよ……。
ここがどこかわかんねぇじゃんか」
迷ってないぞ?
だって目的があるわけじゃないし。
強いて言えば散策が目的なので、どこにいったって目的の場所なのだ。
「だからオレは迷ってない!!」
「うるさいわね!」
「すんませんした!」
怒られた。
「ん?今の声はだれだ?」
あたりを見回しても、長い廊下があるだけでだれもいない。
「どこ見てんのよ、あんた」
「ああ、部屋の中からか。
そこは、えっと、書庫か?」
すぐ横にあった扉から顔を出している少女の奥には大きな本棚がいくつも覗いていた。
「知らないの?
って、ああ。あなた勇者じゃない。それじゃ知らないか」
「だれだおまえ」
「失礼ね。第1王女、サーシャ・ペルヴィアよ」
第1王女……。
サーシャと名乗ったその少女は、見れば確かにスフィアと似た顔立ちをしている。
ついでに言えば、クソ王の面影もある。
その人を見下した目なんかとくに。
「なるほど。それで、第1王女サマはなんで書庫なんかに?」
「資料があるからよ。私はまだ少しだけだけど、内政にたずさわってるの。
どっかの誰かみたいに、剣を振るって遊んでるヒマはないのよ」
「そんな発言していいのか?
騎士が敵にまわるぞ?」
「今はいないからいいのよ。
それに、あんた相手に気をつかってもしょうがないしね」
「その言葉遣いも、か……。
普段を知らんが、こっちが本性ってことか」
「ええ。かたっ苦しいのとかだいっきらい!」
「本性みせちまっていいのかよ。
一国の王女がこんなって、嫁の貰い手がなくなるぞ?」
「王女ってだけで貰い手はできるのよ。
だいたい、あんたなんかにもらわれる気はないわ。
だから見せてもいいのよ。あんたなら口を封じるのも簡単だし」
「内政ばっかで、運動しない貧弱王女様にできるのか?」
胸を締め付けるような。呼吸を妨げるような。
恐怖を感じる。
しかし、それを無理矢理押さえつけた。
知っておく必要がある。
サーシャの浮かべる自信満々の表情。
やっぱり、アレか……?
「その身で味わいなさい。
≪腕輪よ、その力を持って契約を知らしめよ。コンライス≫」
「ぐ、ぁああああああああああああ!!」
「あはははははっ!わかった?
あんたごときいつだってどうとでもできる!
死んだら次の勇者を呼ぶだけ。代わりのいる奴隷なのよ!」
高らかに笑うサーシャ。
彼女が魔法を解いたのか、腕輪から与えられる痛みが急になくなった。
「――――っはあ!ってぇ……!」
「ふう。すぐに黙らせられるし、気を張らなくていい分、奴隷相手は楽よね」
「ぁあ、は、っぅあ……!」
「……?ああ、まだそこにいたの?さっさと消えなさい。」
また食らわされる前に、気力を精一杯振り絞り、なんとか立ち上がる。
「……失礼、しましたっ……!」
サーシャはこちらをちらりと見ることすらなく、本をとりに戻った。
扉が閉まり、彼女の姿が消える。
壁にずるずると寄り掛かるように歩き、なんとか見つけた空き部屋に飛び込んだ。
ドアを閉めて、そのまま崩れるように座り込む。
「あぁ……マジで、いってぇ……」
腕輪の痛みはほんとにシャレにならない。
罰の目的でこれなら、意識を奪おう、殺そうと思われたら痛みでショック死できるレベルになるはず。
これでも、あのクソ王の時よりはマシだったが、あと少し続けば確実に気絶していた。
「やっぱ、王族はオレに罰が与えられるのか……」
予測はしていたが、それはあくまで予測。
こうして実際に受けて、ようやく事実になる。
王だけではなく、王族には逆らえない。
「この罰を受ける検証だけはもうやりたくねぇな……」
かなり痛いが、得られる事実にはそれだけの価値がある。
この奴隷勇者契約は王族とオレとの間らしいな。
クソ王が死んでも、その息子、娘がオレをいいように使えるようにってことだろう。
まったく、いやに行き届いてやがる。
「腕輪よ、その力を持って契約を知らしめよ。コンランス、か……。
この言葉を言いきらせる前に、やりきれるか……?」
その可能性は絶望的だった。
王族は、謁見の間で見ただけでも6人はいた。
クソ王、王妃、第1~3王女、そして王子。
妾とかはどうなるのかね。
「まあいいか。とりあえず皆殺せばいい」
でも。
「その手段が、問題か……」
呪文を唱える前に全員をやるのは難しい。
広範囲殲滅魔法でも覚えるか?あったらだけど。
そもそも攻撃できるのかも疑問だな。
「だったら、別のアプローチ……。
契約解除の魔法を探すか……?」
幸いにして、書庫は見つかった。
あそこには魔導書の類もあるだろう。
今日の魔法訓練が終わったら、行って本を漁るのもいいかもしれない。
「よし、なんとか体は動かせるようになったな……。
行くか」
部屋を出て、訓練場へと向かう。
途中、書庫の前を通った。
その扉を睨みつけ、銃をかたどった指を突きつける。
「クソ王の次は、おまえだ。サーシャ王女サマ」
順番をつける。
騎士団長との戦いで、わかった。
もうあいつらを殺すことを忌避する感情はもうない。
――――やれる。
奴隷は道具。
道具は意志を持たない。
ゆえにだれも害さない。
「おまえらはそう思ってるんだろ?」
バン、と口に出して、反動を模して指をはねさせた。
「おまえらがオレを道具扱いするなら
オレはおまえらを人として扱わない」
タンスが人をつぶしても、それはただの事故なんだから。