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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
3章:魔王国家パンデモニウム編
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3:魔法の学院祭

結構間が相手しまいましたね。

師走となって少々忙しくなってきました。

がんばらねばー。

「所詮学院祭と侮っていたか……。すごいなこれは」


 隣でリースが感心したように声を漏らす。


 ムジンのような国を挙げての大きな祭りとはさすがに規模が違うが、それでも十分にすごい。


 蒼空には、魔法で花火もどきが打ち上げられ、炎が歓迎の文字を描き、時折虹が橋を渡す。

 大地では、風で花弁が舞い踊り、色とりどりの鉱石でできた像が人々を迎え入れる。

 そして――――キラキラと、光りの雪が降る。


 そんな幻想的な光景に、しばし目を奪われた。


「おぉ……すごいな」


「同感だ」


「……きれい」


 三者三様、それぞれの言葉でこの感動を表した。

 もちろんそんな言葉では言い尽くせない美しさが今も目に映り、変化していく。


「案内によると、だ。

 今日は生徒たちがいろいろと催しを開く日らしい」


 学院祭は3日間構成。


 一日目……部外者お断りな前夜祭。

 二日目……学生が模擬店やイベントを組む文化祭。

 三日目……研究成果を発表する研究祭。


 となっているようだ。


 単なる観光客などは二日目の文化祭を目当てにする。

 研究者や魔法使いなどは、もっぱら三日目の研究祭の方に興味を示す。


 今日は二日目に当たり、外部の人が入れるようになっている。


「模擬店とか、舞台でなんやかんややったり、娯楽の意味合いが強い日だな」


「マナにとってはそっちの方が楽しかろう」


「ふーん。リースは?」


 なんでもないことのように言ったリースへ聞くと、彼女はそっぽを向いた。


「我は……べ、別に?

 所詮、童のやること。児戯にすぎんわけであるし?」


「へー、ほー、そーかそーか」


 声の音程がおかしい。

 動揺しているのがバレバレ。


 なにより、頭の獣耳もピコピコ動いているし、しっぽも左右に揺れている。

 そっぽを向いて顔は隠せても、こっちは隠せていない。

 これも頭隠して尻隠さず、なのだろうか。どうでもいいか。


「…………そのにやけた顔をやめい。

 ついうっかり、爪が出そうじゃ」


 手を開き、グッと力を込めるリース。

 そこにはしゃきんっと爪が伸びていた。


「おぉっと、勘弁してくれ。

 あと睨まないで。周りの生徒も怯えてるから」


「むっ。まあ、ここは引こう……。

 そもそもそんなに怒っていたわけではないしな」


 彼女もコミュニケーションの一環のつもりだったのか、あっさりと爪をひっこめてくれた。


 ほっと一安心、という時、ついっと袖を引かれる感触。

 そこには、頬を膨らませているマナがいた。


「…………うー、はやくいこ?」


「おー、ごめんなマナ。どこから行く?」


「やはり、ここは食べ物!

 その国を知るならばまず食じゃろ!」


「オレはマナに聞いたんだが……、マナはそれでいいか?」


「……うん。

 おいしそうなの、いっぱい」


 リースもマナも食欲まっしぐららしい。

 今にも、よだれをたらさんばかりだ。


「では、ゆくぞ!」


「おー」


「……おー」





 ~模擬店・食べ物編~




「マジでか…………」


 走り出したリースがどこからか買ってきた一本の串。

 手に持たされたソレに、オレは戦慄していた。


「むぐむぐ。いけるな……」


「…………なかなか」


 そして、何事もなく、ためらいもなく、かぶりついて咀嚼する二人にも、だ。


 おかしい。

 これは食えない。

 味がどうとかじゃない。

 見た目。見た目がアレだ。


 串に刺さったブツ――――――うん、ぶっちゃけ虫だろこれ。


 食べられる虫がいることは知っている。

 イナゴだって食べられる。ハチの子どもだって地方によっては食べるらしい。

 アリを食べる部族がいるとかテレビで見た覚えもある。

 ああ、食べられる虫がいることには疑問はないし、異論もないよ。


 ただ、これはどうだろう。


 こんがり焼いてあって、元の姿は想像するしかないのだが……。


 頭は鳥っぽい。丸に三角形がくっついていて、たぶんくちばしみたいなのだろう。

 隣でリースが、「この頭の部分が珍味でうまいのだ」とか言ってるがみたくない。

 ごりっ、ぐちゅっ、ずぞぞ!とかいう擬音は今すぐ削除しろオレ!

 頭蓋骨砕いて、中身潰して、吸い込んだ場景なんて思い浮かべるな!



 おーけー、落ち着け。

 頭はいいさ。それだけなら鳥だ。


 だが、手足の数が六本である。

 角材のようなまっすぐ伸びた胴体に、小枝のような足が六本。


 虫にしか見えず、そして、一度虫と認識してしまったらもうだめだった。


 アキラの中で、虫は食物ジャンルには含まれていない。

 ランク付けでは、普通に食べるモノ(魚、牛や豚、鶏、馬や羊などなど)、頑張ってカエル、ビルから飛び降りる気持ちでカタツムリことエスカルゴ、餓死寸前まで追い詰められてようやく虫だ。

 地域的にも年齢的にも、イナゴのつくだ煮などには触れてこなかっただけに、やっぱり忌避感が先に来てしまう。ご飯のお供にはふさわしいのだろうが、残念なことに、この世界には白米がないのだ。


 一度食べてみれば、以外とおいしかったりするものなのだろう。

 それほど気にせずとも、珍味としてあっさり受け入れたり、さらには気に入るかもしれない。

 自分が触れてこなかっただけで、好きな人は大勢いる。


 ああ、分かっているとも。

 だが、その最初の一歩が踏み出せないし、まだまだ踏み出そうとは思っていない。

 今ある、おいしい食材をあらかた食べた後でいい。

 冒険するのはその後だ。

 もうちょっと人生の酸いも甘いも噛みしめて、成熟してからでいいじゃないか。



 長々と語ったが、一言でいえば、だ。


 “コレは食えない”である。


「……………………」


 こんがりバッタ鶏(アキラ命名)とにらみ合う。

 くぅっ!なんて威圧感だ!!



「アキラ、どうした?

 食わんのか?」


「…………いらない?」


 食べないのが不思議、みたいな目で見られる。

 ああ、分かってる。おかしいのは自分だと。

 襲いくるカルチャーギャップ。


「……いくしか、ないのか……」


 ぷるぷると震える手で、開けた口に串を持っていく。

 眼はつむり、迫ってくるこんがりバッタ鶏を見ないように。


 ああっ、湯気が顔に当たった。

 すぐそばまで来ていますっ!

 においは焼いたにおいだけで、素材のにおいは消え去っている!






「やっぱ無理だぁぁーーーー!!」




 やはり虫だけはだめだっ!

 順序を踏まないと!カエルとかワニとかから、順にいかないと心が耐えられない!

 郷に入っては郷に従え。そんなことを最初に言った人は、こんな事態を想定していたのだろうか。いいやそんなはずはない。きっとその人も「いやいや、これは無理でしょ」って言うに違いない!


「そうか、なら我がもらおう」


 ぱっと手から串が奪い取られ、リースの口の中へ。

 聞くのもおぞましい音が聞こえ、ごっくんと終了。


 ああ、悪魔は見事退治されましたとさ。


「今こそ、リースが一緒にいてよかったと思ったことはないぜ……」


「そ、そうか?

 それは嬉しいが、なんだか釈然とせんのぅ。

 大体だ、好き嫌いはいかんぞ?」


「オレは必要に迫られなければ食べない。

 そう誓おう。うん。とりあえず、肉の腸詰でも食べて口直ししよう」


「口直しもなにも、アキラは食べておらんだろうに」


「いいから行くぞ!」


 他の屋台を探して歩き出す。

 途中見かけた例の屋台。どうやら、あの串焼きこんがりバッタ鶏、なかなか好評のようだった。

 だが、食べているのは魔族や獣人たちばかりで、人間はあまり串を持っておらず、自分は間違っていなかったと一安心したのは余談である。

 この世界の食文化にはまだまだ慣れないぜ。




 ~模擬店・遊戯編~



 射的を発見した。

 おなじみの、4段の棚に並べられた商品の的を狙い、倒せばそれがもらえるという遊びだ。


 しかし、得物はライフルにコルクを詰めて――――のような形式ではなく、魔法の弓。


 矢はない。

 弦を引っ張ると、そこに魔法の矢が形成される。

 それを放って的を狙うというものだった。


 弓を手渡してくれた生徒から説明を受け、試しに近くの的へ一発。

 込めた魔力が弱かったからか、ぽすんと情けない音を立てただけで終わってしまった。


「へぇー、おもしろい道具だな」


「なるほど……。威力は込めた魔力次第、というわけか……。

 では、我が一撃で全て倒してくれるわぁ!」


 そういって、リースは弓に込める魔力を跳ね上げる。


 ――――ぷしゅぅうう。


「なぁ!?矢が消えた!?」


 驚くリースに、係りの子が訳を説明する。


「あー、すみません。

 安物なんで、あんまり強い魔力だと矢が形成されないようにリミッターがかけられてるんです」


「なるほどね。リース、ズルはだめだってこったな」


 ランクは低そうだが、一応魔法具。

 そうそう壊されちゃたまらないってことか。

 まあ、矢の威力を制限することで、簡単に的を倒せないようにするって意味もあるんだろう。

 一石二鳥だ。


「むぅ……。ぎりぎりを見極めるしかないか……」


 難しい顔で唸りながら、小刻みに魔力を込めていくリース。

 そこまでするか。そこまでして威力を追求するのか。


「……むむむ」


 隣ではマナが弓を握って力を込めている。

 だが、もともともつ魔力が少ないので、矢が形成されることすらない。

 それでも一所懸命に力を込める。力み過ぎて顔が赤くなっている。


「マナ、そんなに頑張って、なにが欲しいんだ?」


「……あれ」


「あれっていうと――――」


 指さした先にあったのは…………。


「え゛?」


 さっきの、串焼きバッタ鶏(調理前)らしき姿のぬいぐるみ。

 おいおい、なんであんなのが飾ってあるんだよ。

 キモい。需要あんのかあれ。


「あんな、虫が欲しいのか?」


「……違う。隣の」


「ああ、あの小熊のぬいぐるみか」


 指の先には、しりもちをつき、四本の手足を前に突き出した小熊のぬいぐるみ。

 紙相撲の相撲のような態勢で、頭を狙えば簡単に倒せそうだ。


 とりあえず、安心した。すごく安心した。

 虫を持つマナと小熊を抱えるマナ、その癒し度は天と地ほどの差がある。


「よーし、任せろ。オレがとっちゃるからなー」


「ふっ、ふはははは!見切った!

 この量が限度ぎりぎり!回転と矢の形状をいじったこれはまさに最大威力だ!

 アキラが出るまでもないぞ!我に任せよ!」


 弓を確かめているオレの横では、なにやらコツをつかんだらしいリースが高笑いしていた。


「我が射抜いて見せようっ!」


「ふぇっ!?」


「ぬいぐるみ射抜くなー。マナが泣くぞー」


 そんな忠告など意にも介さず、リースは引き絞った弦を――――放つ。

 他の参加者とは段違いの、荒々しい輝きをたたえる矢は一直線に小熊を目指し飛ぶ。


 ――――ドスッ!


 という鈍い音を立て、ぬいぐるみに穴が空いた。


「あぁああ!?」


「あっぶねぇ」


 小熊――――の隣にあった、バッタ鶏の、だ。

 見事に頭を貫通している。


「あ、あはは……」


 屋台を見ていた係りの学生が頬を引きつらせていた。

 ぬいぐるみは倒れることなく、脳天に一つの風穴。

 その穴が後ろの棚まで貫通していることに気づき、矢の威力にビビっている。


「魔力の込めすぎはやめてください……。ほんと、お願いします……」


「すまん……」


 さすがに悪いと思ったのか、リースが謝り、弓を返す。

 本来なら3回放てるが、試し打ちとさっきの大技、2回しか撃っていないのだが、さっきので不具合が出たようだ。

 当然だが、もう一回分残っているから替えよこせ、とも、虫のぬいぐるみ寄こせとも言わなかった。


「アキラ、頼んだ……」


「よっしゃ任せろ」


 試し打ちに一発使ったので、残りは二発。

 弓道なんてやったことはないが、見様見真似で矢を放つ。


 パシュッ――――。


 軽い音とともに、光の矢が飛ぶ。

 それはまっすぐに突き進み、目標であるぬいぐるみの額に当たる。


「…………倒れない、ってかびくともしねぇ」


 少しもグラつくことなく、小熊は依然としりもちをついている。

 あれか。これはもしかして、後ろに倒れないようななにかがあったり、っていう。

 まあ、しっぽが大きくて支えになってるって可能性もあるが。


 小熊はマナくらいの子が抱えなければ持てないくらいの大きさ。

 重量の関係もあるのだろうが、やはり学生にとっては、午前の内からポンポンとられちゃ困るかもしれない。


「ふーん、そうくるんだ……。

 なら、こっちにも考えがある」


 しかし、こっちは客だ。

 マナのためにも、非情にならせてもらおう。


 再び、弓を構え光の矢をつがえる。

 さっきの狙いは脳天にどんぴしゃり。


 だが、それよりも少しだけ横――――ぬいぐるみの横を狙う。


 パシュッ―――――。


「ああっ」


 狙いがそれた。

 そう思ったマナが小さな悲鳴を漏らす。


 このまま進めば、矢はぬいぐるみを素通りしてしまう。


 だが、これでいい。


 光の矢は自分の魔力によって形成されている。



 ならば――――。


「――――操れない道理はない」


 小熊と虫の間を通り過ぎようとする矢が、くるりと向きを変える。


 そうして、矢は小熊の側頭部に当たった。


 前に手足が出ているから、前には倒れにくい。

 後ろには支えでもあるのか、容易には倒れない。

 ならば、横。


 狙いたがわず、小熊はこてん、と横へ倒れた。

 その背後が見えたが、不正はなかった。ただ、小熊のしっぽがすごくでかかったけど。


「よっし!

 倒したんだから、それもらえるよな?」


「……え、ああ、すごいですね!」


 呆然としていた係りの学生は慌ててぬいぐるいを手渡してくれた。

 それを、マナに渡す。

 マナはぬいぐるみを力いっぱい抱きしめた後、上目づかいで。


「……ありがと」


 といった。


「どういたしまして」


「ほへ~、魔力の遠隔精密操作をこなすとは!

 お客さんすごいですねー」


「あ、ああ。魔力がそう多くないからね。

 いろいろと模索している中で練習したんだ」


 係りの子が感心しながら言ってきたので、テキトーなことを言ってごまかしておく。


「じゃ、目当てのものも取れたし次に行こうか」


「じゃな」


「うん」


 オレ達は逃げるように、射的を後にした。




 ~イベント編~


 やってきたのは大きなホール。

 ホールの前に立てかけてある看板には、タイムスケジュールが書かれており、今の時間は魔法のコンテストのようだった。


 主旨は至って簡単。参加者が魔法を使って、観客を楽しませる。

 ただそれだけだ。

 飛び入り参加もOKな、まさにお祭りにふさわしいイベントである。

 ちなみにこのコンテスト。学院祭でやるものとは別に、毎年それなりに大きな大会が開かれるのだそうだ。そこでは幻想的な光景で満ちているという。


「模擬店でも思ったんだが、魔法と娯楽が完全につながってるよな~。

 さすが魔法の国と言うべきか、娯楽がないのかとツッコミ入れるべきか」


「どっちでもあるのだろうよ。

 魔法が生活と密接にかかわっているのだろう。

 だからこそ、日常的に修練するし、それが娯楽にもなる」


「……きれー」


 マナはオレ達のつまらない話など右から左へ受け流し、参加者のパフォーマンスに目を奪われていた。


 それはまさに光の噴水。

 舞台から淡雪のように細かく儚げな光が噴き出し、降り注ぐ。

 さらに、色とりどりの照明を反射し、上から下へ降る間に何度も色が変わっていく。


 光の噴水は勢いを強め、それは観客席まで届きだす。

 やがて、形作られるのは七色に移りゆく光のドーム。


 観客たちは幻想的な空間の中に誘われ、「ほぅ……」と感嘆の息を漏らした。


「使ってる魔法はシンプルだが、魅せ方がうまいなぁ……」 


 殺傷力のない、ただの光を灯す魔法。

 それを改変し、舞台の照明までも利用することでそれを幻想にまで昇華している。


「無粋だぞ、アキラ。

 今この瞬間は、ただ眺め、感じ、記憶するだけでいいのだ」


「違いない……」


 三人で並び、自分たちを包む光のドームを見上げる。


 ああ、本当に、きれいだ……。


「…………さて」


「ん?なんだリース」


「我も飛び入り参加してくるか。

 格の違いを見せてやろうぞ」


「…………え゛?」


 おかしいな。

 いま、耳がおかしくなってしまったような?


「なぁ……ってもういねぇ!?」


 明後日の方向を見て黄昏ていた間に、隣にいたはずの少女はどこへやら。


「粋とか語ってたのはなんだったんだ……。

 てか、絶対飛び入りしにいきやがった……」


 司会っぽい人がリースの名を呼ぶと、幻術か変化か、いつもは生えているしっぽと獣耳を隠したリースが舞台に出てくるところだった。

 ポリシーというかプライドというか、獣耳としっぽを隠すことはめったにないリースだが、パッと見、魔法の使える獣人と捉えられてしまうからだろう。


「我が魔法に見惚れ、溺れるがいい!」


 片手を振り上げて空を突き、パチンッと指を鳴らす。

 オレに習って指パッチンことフィンガースナップを練習していた成果が発揮されていた。全然できず、諦めたと思っていたが……。こっそり練習していたのかもしれない。


 リースが生み出したのは氷。

 それも極小の、だ。


 ――――――ダイヤモンドダスト。


 魔法や照明のような疑似的な光を反射したチャチなものじゃない。

 太陽の光できらきらと輝くそれは自然の美しさの再現だ。


 それらを、風の魔法を使って散らし、漂わせ、氷像や建物を形成させていく。


 舞い散る細氷。

 踊る氷の小人たち。

 そびえる氷の建物。


 ――――描き出される氷の世界。


「うわぁ……」


「すごーい……」


 今まで見てきたパフォーマンスとは比べ物にならない。


 幻想的、という言葉はこの光景のためにある。


 ――――パチンッ!


 小さな音のはずなのに、それは会場中に響き渡った。


 氷の世界が、ほどけていく。

 さらさらと。さらさらと。

 長い年月をかけて風化した都市のように、建物は上から流され吹き飛んでいく。


 そうして舞いあがった世界の欠片は、輝きながら、空で踊る。


 ――――ああ、と。誰かが漏らした。


 やがてくる終わりを嘆き、惜しむように。

 ゆっくりと近づく終わりを感じ、噛みしめるように。


 そして、すべての氷が落ちきったと同時、ワァ――――ッ!!と会場が沸いた。


 その歓声を一身に受け、ぺこりと軽くお辞儀をして、リースは舞台から去って行った。


 彼女が完全に見えなくなるまで、拍手が鳴りやむことはなく。


 去り際にリースが見せた得意げな顔とウインクへ、オレも精一杯の拍手でこたえた。




 こうして、学院祭の二日目を満喫したオレ達だった。

今回は情景を想像しながら書きました。

こんなんだったら楽しいだろうなぁ、綺麗だろうなぁ、とか。

そのせいか、今までにない長さになっている……。


つくだ煮ディスってしまって申し訳ありません。

あくまで個人の意見であり、イナゴのみと修正させていただきました。

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