1:目指すは魔法の国
というわけで三章です。
あと、前話の博士の口調を修正しました。
シリアスブレイカーにもほどがあるということで。
耳にすればイラつく感じを出したかったんですけど、ブレイクされちゃたまりません。
某教授に似ているという指摘もありましたし、気を遣いすぎでしょうが変えておいて悪いことはないと思いましたので。
「さて、もうそろそろ魔族の国パンデモニウムだ」
ムジンで買った地図を眺めつつ、アキラは旅の仲間に問いかける。
ムジンを出国してから早数日。
創った馬車でのんびり旅を進め、目指すはムジンを挟んでペルヴィアの反対にあたる国、パンデモニウムである。
「ふむ。パンデモニウムか……。
人間は我やマナをじろじろと見てくるからな。
その点、人間の少ないムジンやパンデモニウムはいいところではないかと思うぞ」
「……うん」
リースが尊大に言い、マナは小さく賛成する。
「しかし、パンデモニウムはどういうところなのだ?
我は魔族の国と言うことしか知らんのだが」
「その辺はぬかりないぜ。
ムジンには結構長い間いたからな、その間に情報収集はばっちりだ」
魔族王国、パンデモニウム。
獣王国家ムジンが“腕力”の国ならば、パンデモニウムは“魔法”の国と言える。
その国に暮らしているのは大半が魔族。5分の1ほどが人間や獣人たちだ。
魔族の多い国柄のため、国自体が魔力の多い土地に建てられている。
豊富な魔力で満ちた土地は自然が豊かである反面、そこに生息する動植物は他では見ない進化を遂げている。さらに、パンデモニウム周辺個体と他地域に生息する個体では、同じ種族でもその戦闘力に2倍ほどの個体差が生じるというのだ。
そのため、城壁はかなり丈夫に造られているし、軍も強い。
また、魔族が多く住んでいるからだろう。魔法というものに対しての造詣が深い。
こと魔法、というものに関する環境では世界一を誇る。
国内でたくさんの学校、研究施設があり、さらには魔法書専用の図書館まであるほどだ。
その中でも有名なのが、「パンデモニウム王立魔法学院」。
そこへは多くの魔法使いたちが日々精進している。
学生は国民だけを対象としているのではなく、一定の審査を通れば他国からの留学も許可される。
学院では学生が自らの力を研鑽させるだけではなく、高名な魔法使いたちが新魔法の研究や失われた魔法の解明・復元などを行っており、その雰囲気は未熟なものが学ぶ小・中・高校のようなものではなく、いわゆる大学兼研究機関に近い。
もちろん、附属では未熟な者たちが学ぶ教育機関も存在する。
――――といった情報をリースとマナに聞かせたところ。
「ふむ。それで、アキラはその魔法学院とやらに行ってみたいわけだな?」
「まぁな。パンデモニウムにしかないところだし、興味もある」
「人間が間違ったことを言わぬよう見に行くのもよいか……。
ペルヴィアではひどいモノじゃったしの」
そういえば、書庫にあった本を見てずいぶん憤慨してたっけか。
「……楽しみ」
「おぉーっ!マナ!そーかそーか楽しみか!」
わしゃわしゃーっとマナの頭を撫でるリース。
ついこの間から、マナが短いながらもしゃべるようになった。
それはいいのだが、それを受けたリースの過保護具合がかなりレベルアップしている。
気持ちはわかるんだけどね。保護欲を刺激されるというか……。
しかし、そのあまりの急変ぶりにおそるおそる尋ねてみると。
「アキラが我を放って遊んでいるからな~。その間にマナと仲良くなったのじゃ」
とのこと。
拗ね拗ねモードのリースの頭を撫でてご機嫌を取ると赤くなってそっぽを向かれた。もう拗ねモードは終わったらしいが、過保護っぷりはそのままだ。
見た目は母娘…………いや、リースの身体的に姉妹みたい。
「しかし、魔族の国、魔法の国か……。
うん、これこそファンタジー!な感じで今までにないくらいわくわくするな」
魔法。
パンデモニウムには見たこともない魔法があるかもしれない。
魔法を創造すれば容易く同じことはできる。
だが、それはそれ。
リースに指摘されたことがあるが、見る者が見れば術式の違いが分かるらしい。
通常での魔法行使と創造した魔法の行使。
結果は同じでも過程が微妙に異なるらしいのだ。
特に、魔族の中には魔法の術式を可視化できる者がいるらしいのでマズイことになりかねない。
新魔法を編み出した、という言い訳すればすむかもしれないが、せいぜい一回が限度。
自分の若さでいくつもの新魔法を編み出すなど異質そのものだ。
その異質さから、勇者と感づかれるかもしれない。
たとえ勇者がペルヴィアのトップシークレットで、どんな能力を持つかは外に知られていないとしても、だ。
ただでさえ、ペルヴィア崩壊の時に派手な新魔法を使ってしまったのだから。
それではまずい。
きちんと魔法の国で学ぶべきだ。
この世界にある魔法、ない魔法をしっかりと区別すること。
手段は多ければ多いに越したことはないし、バレる危険性もできるだけ排除しておきたい。
ただ単に、おもしろい魔法がないかな~という気持ちも多分にある。
「っと、そういえばリース。
魔法の国に行って大丈夫なのかな?」
「大丈夫って、なにがじゃ?」
「いやさ、ムジンが力の国だっただろ?
で、入国にも一悶着あったわけで。
中に入っても弱いくせに、みたいな目で見られるしさ。
力が魔法に置き換わって面倒なことに、とか?」
「あー、まぁ、ないじゃろ。
魔法の国、といっても魔法が上手く使えるから偉いのではなく、魔法の研究が盛んな国という意味じゃろうし」
「だよなー。そっかそっか」
「それに、我とアキラの魔法ならば並大抵の者には勝てるだろうて」
と、そこで疑問がわいた。
「なあ、リースは獣人なんだよな?
なんで魔法がバカスカ撃てるんだ?
オレとやったときなんてシャレにならないもんもあっただろ?」
今まで、あっさりとスルーしていたこと。
あのころは獣人について良く知らなかったから不思議に思わなかったが、ムジンを訪れた今では違和感を覚えた。
「ふん。フェンリルの別名を知らんのか?
氷狼。魔狼とも言われるのだぞ?
確かに獣人でもあるが、魔を操る術を持つ――――俗にいう魔獣というやつだ。
なんでも、元々獣人も魔法を使えたとか、大昔の祖先が魔族と交わったとか、いろいろ説はあるが詳しくはわかっておらん」
実際、どうだったかは知らんがな、とリースはどうでもよさそうに付け足した。
ちなみに、イチ――王牙虎の大地を操るあれもそう。魔の血が薄まり、地属性に特化した結果ではないか、と言われているようだ。
「へー。ま、リースは大丈夫か。
もしも突っかかってくるバカがいたらマナを最優先で守るってことで」
「マナは獣人じゃからな。それに……栄養が足りていなかったのか、まだ身体が出来上がっておらん。
今の魔法抵抗力だと初級が直撃するだけで危ないかもしれん」
「いちおう、今のうちに加護でもかけとこうか。
≪聖なる加護≫」
これは中級の補助魔法だが、結構使える魔法だ。
攻撃力などは一切上がらないが、防御、魔法防御、幸運などがグンと上がる。
この幸運上昇はおそらく自分しか知らない。
ペルヴィアで魔法を習っていた時、いろいろと試行錯誤したのだ。
≪サーチ≫を使って自らのステータスを数字化。
攻撃魔法の攻撃力最大値、補助魔法の上昇率を調べていた。
この世界の魔法は魔力を込めれば込めただけ効果もあがるが、それはある一定量まで。
それを越えると、どれだけ大量の魔力を術式に注ぎ込んでも効果は横ばいになる。
「そういえば、マナはいったいなんの獣人なのだ?
クマンとかいうのに聞いたのであろう?」
「なんつーか、イルカみたいな――っていっても分からないか。
仲間同士である程度の意思疎通が取れるテレパシーもどきが使えるらしい」
といっても、交信可能な範囲は限定されるのでどこまででも届くわけじゃない。
「ほぉ。そんな種族なのか……。
しかし、我とは交信できんのか……」
しゅん、となって狼耳を垂らすリース。
「年齢を重ねれば、才能次第で一方的に相手に送ったり、勝手に読み取ったりできるようになるらしいんだがな。さすがに今は無理だろ」
仲間とのテレパシー。
それはマナがずっとしゃべらなかった理由の一つかもしれない。
しゃべるようになった今となってはどうでもいいことだが。
「さ、そろそろ外壁が見えてくるはずだ」
「確かに、近いのだろうな。
それにしても、この地はすごいな。
他とは段違いに魔力が満ち満ちている」
「確かに、なんていうか……空気がうまい?」
「空気は食えんぞ?」
「……アキラ、変」
くっ。なんだこの疎外感!
そもそも、この二人は汚れた空気なんてものをほとんど吸ったことがないんだろう。
工場や排気ガスなんてものはない世界だ。
荒野などはあるものの有害物質が多いわけではないので、言ってしまえば、どこでだって空気が上手い。
ちょっとしたカルチャーギャップを感じてへこむ。
「ま、いいから行くぞ!
魔法の国だ!」
そう、魔法の国。
魔法の研究・復元・開発が盛んな国。
そこでなら。
あるかもしれない。
「――――向こうの世界、か……」
召喚魔法と対をなす魔法。
――――――送還魔法が。