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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
2章:獣王国家ムジン編
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20:国民大会・終幕後

 長かった国民大会もやっと終わり。


 今、閉会のあいさつが終わり国民がどんちゃん騒ぎの中だ。

 本来なら、イチも「武」の優勝者として大勢に囲まれ、祝われているはずなのだが。


「おい、なんでいるんだよイチ」


「んな硬いこというなって。

 なぐり合った仲じゃんか」


「なぐり合ったというのに、仲良くできると思っているのかおまえは。

 どうなってんだ脳筋思考回路」


 なれなれしくも肩を叩いてくるイチの頭はいったいどうなっているのだろうか。

 つい数時間前には戦っていた間柄なのに。


「いやな、戦うってのにはそれぞれ理由があるって思ってな。

 殴って分かり合えることもある。分かり合えないこともある。

 でも、できるだけ分かり合いたいと思うんだよ」


「ふーん。すげぇ成長したっぽいな」


「おうよ!

 これからももっと伸びんぜ!じいさんにもあの技習うんだ!」


 心底嬉しそうに、そんなことを言う。


 あんなことがあったのだ。

 オレやじいさんはイチとの関係がちょっと険悪になるかと思われたがそんなことはなく。

 戦いが終わってみれば実にさばさばとしていた。


 ちなみに、ヴァイはこの一件で自らの支持者を大きく減らすこととなった。

 力至上主義を謳っていたのだ。負けたのだから、それは当たり前のことと言える。

 しかも、ヴァイは今まで蔑んでいた知力派閥のクマンじいさんに。

 キザンは最後で最大の敵役となったアキラに。

 そりゃあ、失脚するってものだ。


 あと、この二人は次世代において軍部で上位に返り咲く可能性が高いので、クマンのじいさんがしっかりと矯正させるらしい。

 ま、将来の反逆の芽を潰す、っていう魂胆もあるんだろうけど。

 ご冥福を、なむなむってな。


「そんで、アキラはこれからどうすんだ?

 この国に来たのは旅の途中だったんだろ?」


「だな。この国での用事もあらかた終わったし、そろそろ次へ行くさ」


 クマンのじいさんからは報酬としてしっかりと秘伝を習い、魔法減退結界――――アンチマジックフィールドを使えるようになった。


 ただこれはあくまで獣人用のもので、人間が使うにはいろいろと改良がいると判明。


 なぜかというと、結界の中ではすべての魔法が強制的に弱らせられる。

 つまり、術者も例外ではないということだ。

 結界の中にいる自分の魔力まで弱くなるのだから、意味がない。獣人ならばそれでもよかったのだろうけど。


 要改良、ということだ。


「そっか。出ていくのか……。

 残念だ」


「おいおい、おまえがそんな――――」


「もう戦えなくなるなんてな」


「……ああ、そんなヤツだったよおまえは」


「ま、またいつかやろうぜ!

 そん時は圧勝してやるからな!」


「言ってろ。返り討ちにしてやるよ」


「はっ、それは楽しみだ」


 軽口を叩きながら笑いあい、お互い拳をゴツンと突合せる。


 そのまま、振り返ることなくオレ達は別れた。

 

 こういう関係も、悪くない。



 =========




 大会の熱気も下り坂。ようやくすべてが終わり、アキラ一行は宿へと帰るところだ。

 宿へ帰ったら出国の準備。

 

 これ以上、この国に長居してもいいことはない。


 国民大会も終わった。

 変装していたとはいえ、敵(役)だったのだ。

 イチと親しい人間、互角に戦える人間。

 いつ勝手な連想(・・・・・)をされないとも限らない。


 クマンのじいさんにも、ちゃっかり釘を刺されたしな。


「さて。時に儂は思うのだが。

 だれかが事件の全貌に気づく前に、出ていった方が望ましいのぉ」と。


 あくまでやんわりと、だが。

 ああ、ヴァイの記憶はちょっと弄っておいたので安心だ。

 今大会の中で行われた全貌は、もはやじいさんとオレだけしか知らない。


「はぁ~、やっと終わった……」


 ん~っと背伸び。ようやく肩の荷が下りた気分だ。


「………………」


「まったく、めんどくさかった……。

 じーさんの依頼に、脳筋の矯正、イチの敵役。

 いやー、めんどくさかったぁー」


「………………………………」


「でも、オレとしてはなかなか楽しかったね。

 悪役とかもうノリノリだったし。

 やられた後のセリフどうしようかとか本当に悩んだから。

 オレは四天王で最弱に過ぎない、とか、第二第三のオレが現れるだろう、とかさー。

 さすがに狙いすぎだと思ってやめたけど」


「………………………………」


「………………………………」


 そう、さっきからすごくいたたまれない空気。

 冷や汗がとまらない。


 大会からの帰り道。観客やってたリースとマナと合流したのだが……。

 隣を歩きながら、ずごごごごごご!!とでも聞こえてきそうな威圧感を出す銀髪狼のリースさんである。頭上の狼耳がピンと立って、しっぽの毛もちょっと逆立ち気味だ。


 そのあまりの威圧っぷりに、道が勝手に開いていく。

 大会からの帰り道でにぎわっているのに、みなさんきれいに端を歩いてらっしゃる。

 ちょっとしたモーゼだよ、これ。


「…………あの、リース――――さん?」


「なんじゃ」


「……な、なにかお怒りで?」


「いや、別にな。

 我の代わりに、あのいけすかん犬コロをアキラがぶちのめしてくれるかと思っていたのに、じじいに横取りされるし。サンクとかいう娘も犬コロの取り巻き①に横取りされるしぃ。 アキラは画面にめったに映らない上、映っても小さいし? 犬コロの取り巻き①を倒したらしいが、その場面はなぜか機器の不調とかで我は見れんかったしぃ? サンクとかいう娘となにやらいい感じのようだったしぃ!? なぜか小僧王に無様に負けるしぃっ!! アキラに負けた我があの小僧王よりも格下みたいではないか!!」


「長い……。オレじゃなくて、大会側の文句が入ってるし」


「なんじゃ!?」


「はいっ!なんでもございません!」


「ないのか!!我に対して言いたい事とか!言わねばならん事とか!!」


「いや、さっきも言ったけどさ?

 あれはクマンじーさんの依頼のうちで、元から優勝はしない方針だっただろ?

 ヴァイはあれだ。現場でじーさんに止められたというか、キザンをぶちのめしてすっきりしてたというか?」


「…………そのキザンとやらをどう倒したのか分からんかったぁ!!」


 やばい、ちょっと泣きが入ってきている。


「ちょっと映像見られちゃまずいかなって……言い訳ですね、はい」


「アキラの勇姿が見たかったのじゃ!!

 娘っこは格下すぎてすぐ終わり!取り巻き戦は見れない!犬コロは無視!小僧には苦戦の末負け!!

 我はなんのために何時間もぎゅうぎゅう詰めの中映像を見に行ったのじゃぁーーーーーー!!」


 明後日の方向へ叫ぶリース。


 そのコミカルな姿が可愛らしくて笑える。


「ぷっ、くくっ……」


「なにを笑っているのじゃ!」


「な、なんでもないって」


「どもった!なんでもないわけないじゃろうが!」


「なんでもないわけなくない」


「なんでもないわけなくなくない!」


「なんでもないわけなくないかもしれなくもない」


「なんでも――――うぅがぁあああああ!!」


 やば、ちょっとおちょくりすぎた。


「もういいっ!帰る!」


 リースはぷいっと顔をそむけてさっさと宿へ帰って行ってしまった。


「あらら、すねちゃった……」


 後にはオレとマナが残される。


「さて、マナ」


 腰を下ろして、小さな彼女と目線を合わせる。

 向けられる瞳は疑問が色濃く、小さく首を傾げていた。


 それを見て、少しだけ安心する。

 最初の頃は、そんな些細な仕草ですら表に出てこなかったくらいなのだから。


「じーさんから教えてもらったんだけどな。

 マナの種族は国の外に一族だけの里を作ってるらしい。

 なんでも、種族特有の力のせいでいろいろあったんだと」


 それは教えてもらえなかったんだけどな、と苦笑い。


「…………」


「なにが言いたいって言うとだな。

 マナ。そこへ行くか?

 じーさんが言うにはある程度の交流はあるらしいから、頼めば連れて行ってもらえるらしい。

 ま、そうなるとオレ達とはムジンでお別れってことになるけど」


 正確な場所は隠れ里だけあって秘密だったが、大まかな位置としてペルヴィアの近くにあるそうだ。

 今、あそこらへんに近づきたくない。帝国あたりが出張って勇者捜索に精を出している、なんて話もある。

 簡単にバレるとは思えないが、自ら火種になって飛び込むつもりはさらさらない。


「…………」


 マナはじーっとこちらを見つめている。


「せめて、首を縦か横に振ってくれるとありがたいんだが……」


「…………」


 ふるふる、と首を横に振る。


「里に行けば、家族……はわからないけど、仲間がいるぞ?

 それでも行かないのか?

 ついでに、オレ達と一緒だと厄介事がたくさんだぞ?」


「…………いっしょ」


「マナ……」


 それはマナのはじめての言葉。

 鈴のなるように澄んだ、幼い声で発せられたのは、少女の小さなお願い。


「そっか……。

 ま、そうしたいってんならいいさ。

 でも、いつか、さ。その里に行こうか?」


 こくり、と首肯を一つ。


 今度は声が出てこなくて少しがっかりした気分だが、長い目でみることにする。



「おぉーーい!

 貴様らぁ!追いかけてこんかぁ!!」


 一人でさっさと行ってしまったリースが遠くで叫んでいる。

 振り返ったらだれもついてきておらず、遥か後ろで立ち止まっているのだからおかんむりみたいだ。

 声がちょっと震えている。まさか、心細かったのか?


「じゃ、行こうか」


「…………うん」


 聞こえるか聞こえないか、そんな微かな一言。

 それが嬉しくて、さし出された手のひらを握って歩き出す。





「おーーそーーいーーぞーー!!」


「ああもうっ、子どもか!!」


「あはっ」


 その小さな声を生んだ、マナの表情。

 それを見逃したのは、一生の不覚だったかもしれない。

リースのキャラがどんどん崩れていっている気がする……。

狼時代のカッコいい彼女はどこへ……。


いや、まぁこっちの方が好きなんですけどね。

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