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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
2章:獣王国家ムジン編
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17:国民大会4日目「武」本選4「乱入」

マケン姫っ!のOP「Fly Away」が良曲過ぎると思う。

書いてる途中、何度もリピートしています。

 そこは戦闘の余波でボロボロだった。


 いたるところに傷や穴が空いており、無事なところを探す方が難しいくらいだ。


 今も、ドン!という轟音と共にイチが家に突っ込み、家をゴミに変える。

 イチは押し潰そうとしてくる瓦礫を吹き飛ばし、ヴァイに跳びかかった。


「だぁあああくそっ!

 今度はこっちだ!」


「ふんっ、剣皮爪!」


 イチの爪とヴァイの爪プラス毛皮がぶつかり合う。

 火花を散らし、二人は立ち位置を入れ替えた。


 にらみ合いは刹那、すぐにまた交差する。


 一度、二度、三度、四度と激突するにつれ、イチが押され出した。


 剣狼の毛皮を越えて大きなダメージを与えるには、やはり大技――――すなわち溜めが必要になる。

 その時間をとれないイチは必然、防戦を余儀なくされる。


「くっ、離れろっ!」


 離れてできた溜めの時間。それを逃さず身をひねって身体ごと拳を撃ちつける。

 今度はヴァイが家に穴をあけながら吹っ飛んだ。


 お互いに傷だらけ。服には爪で切り裂かれた跡があり、激戦を物語る。


「ヴァイッ!!

 みんな追い出して!戦いで頭がいっぱいのやつだけで国が回せると思ってるのか!?」


「なにも全員追い出すわけではない。弱ければ鍛えればいいだけのことだ。

 だが、弱いのに鍛えようという向上心もない、そのくせ強者への反発心だけは人並み以上。そのような肉体だけでなく心までも弱い者はいらん!」


「それでも!国民だ!!」


「誇りなき者はムジンにはいらない!」


「この分からず屋がッ!

 一部からしか慕われない、そんな王があっていいもんかよ!」


「強者がついてくればそれでいい。

 弱者など、従わせればいいだろう!

 弱者は強者に従えばいいのだ!

 それを変えようとするから歪む!弱くなる!

 弱者が強者を動かそうなど思いあがるから!

 あのクソジジイが出しゃばるようになってから、この国は歪んだんだよ!

 それを――――俺様が正してやる!!」



 ヴァイが語るその言葉に。





「へぇ……そういうこと言っちゃうんだ?」





 ――――アキラの逆鱗が含まれていた。



「アキラ……」


「貴様か、人間……」


 二人の頭上。

 とあるはりぼて民家の屋根の上、なにかを抱えて二人を見下ろすアキラがいた。




 =============


 ~side アキラ~



「ほれ、やるよ」


 ぽいっ。

 無雑作に抱えていたモノを投げ捨てる。

 ちょうどヴァイとイチの中間あたりに。


「なっ!?」


「これはっ……!?」


 鈍い音を立てて地面に落とされたソレ。



「キザンッ!?」



 虚ろな瞳で転がるソレはキザン=サードリオ。


 明らかに異常な姿に、イチとヴァイは驚愕する。


 キザンの服はボロボロで、かろうじて隠せているくらいしか残っていないのに、外傷がない(・・・・・)

 傷がついたであろう証拠はあるのに、その傷がない。


「これは、いったい……」


「ん?回復薬ってのはさ、あらかじめ大量に服用して万全まで治ると、傷を受けた(・・・)ときに勝手に効果が現れるようになる。

 飲ませた後で切り刻むと、身体は勝手に回復するが、服はそうはいかない。

 だから、そんな風に服はボロボロ、身体は無事って感じになるんだよ。

 ああ、飲ませた方法?まず回復薬を球体にして、キザンの顔を包んで呼吸できなくするだろ?

 すると、顔の周りだけ水に覆われて呼吸ができなくなるんで、肺から息がなくなると身体は呼吸してしまう(・・・・・)

 それで溺れた時よろしく回復薬を飲んじゃったわけだ」


 アキラは愉快な物語の内容を教えるように、楽しげに語りかける。


「あと、痛覚増大魔法をかけたっけか。もちろん、発狂防止に精神強化もな。

 最初はさ、『こんな真似が許されると思うな!?』とか『やめろぉ!』とか『憶えていろよぉ……!』とか言いやがったんだよ。こう、キッと睨みながらな?

 んで、20回くらい刺したり斬ったりすると、『ひっ!?』とか『もういいだろう!?』とか『ぎゃああ!?』とか、悲鳴ばっかにシフトするんだ。

 ここら辺で飽きてきて、刺し方がぞんざいになるんだけど、それはまぁいい。

 40回を超えるとほとんどしゃべらなくなる。斬ったら反射で体が跳ねるくらいだ。精神強化魔法でもさすがに無理っぽかった」


 語られる凄惨な拷問に、イチだけでなくヴァイも気分が悪くなっているようだった。


「んで、そこまで言ったらアレだ。もーいっかい、ってな?

 精神回復させて、『それじゃ、今度は痛覚5倍な?』って言ったときは泣いて謝ってたぜ!?

 面白かったから、2回目は痛覚10倍にしてやったんだよ!

 その結果がソレだ!」


 ぎゃはは、と哄笑が響き渡る。


 そんなアキラに、イチが食って掛かった。


「……なんでっ!そんなこと!!」


「それは『なんでやったのか』ってことか?

 それとも、『なんでそんなことができるんだ』ってことか?」


「どっちもだ!!」


「やった理由は、強者気取ってやりたい放題しやがったんで、弱者の立場ってのを味わってもらおうと思ったから。

 できる理由は――――そうだなぁ。最近、オレは周りに怒りをまき散らさない程度に丸くなったんだけどさ。

 その反動か、ムカつくヤツに、一点集中するようになったからかな?」


「そんなのっ、納得できるかよ!」


「納得させるために言ったんじゃないからな」


 いつもとは違う、暗い雰囲気を纏うオレに、イチは困惑しつつも気丈に返す。

 王として、武人として、拷問じみたマネは認められないのだろう。


「それにな。結局、そいつが弱かったってだけの話だ。

 なあ、ヴァイ=ニフターツ。オレは、なにかまずいことをしたか?」


「…………別に、なにもしていないな。

 キザンが、戦闘力において人間に負けるほど弱く、また心も弱かったというだけのこと。

 第3位がこのざまとは……やはり質の低下は著しいな」


 その表情からはなにも読めず、言葉が本心なのかどうかもわからない。


「ふーん。ま、その言葉が虚勢と本音、どっちなのかねぇ……。

 っと、退場か」


 キザンの身体が淡い光に包まれ、消える。

 指輪からではなく、この近くの送信用魔法具を見ていたのだろう。

 これでキザンは本当に脱落ってわけだ。


「さて、この場は三人か……。どうする?」


「ふん。貴様らは二人とも俺様の敵。

 そちらは共闘するなら勝手にしろ。2対1……まぁ、ハンデとしては十分だ」


 ヴァイが少し間合いを開け、オレとイチ、どちらにも対応できるように注意する。


 このまま2対1で始まるかとも思われたが。


「いや、アキラとは組めない……。

 例え敵でも、あんなことをするやつとは……肩を並べられない。

 国民をみだりに傷つけるような、そんなやつとは……」


 イチがそれを認めなかった。


 拳が震えるほどに握りしめ、こちらを睨んでくるイチに。




「へ~。あの話、信じちゃったの?

 バッカで~」



 そんなことを、言った。


「………………………は?」


 心底バカにするような、呆れた口調。

 それを聞いたイチの頭はフリーズした。


「……いやいやいやいや!!

 だって、おま、えぇっ!?」


「拷問?あほらし。そんな悠長なことしてたら試合おわっちまうわ。

 他の敵に奇襲されるかも知んないだろうが」


「は、いや、ちょ、じゃあなんで!?」


 いまだ、絶賛テンパり中のイチである。


「そこの、お偉いヴァイさんが言ったこと、マジなのかなぁと思ってな。

 弱者には何の権利もない、みたいな言い方にカチンと来たんだよね。

 じゃあ、仲間が人間如きに負けるような弱者だったとき、どんな反応するかと思ったわけだが」


 少しでも隙を見せれば、襲い掛かろうと窺うヴァイを殺気と視線で牽制しつつ。



「結果はやっぱり、サイテーだ。

 例え仲間だろうと弱者は認めない。

 驚きはしたものの、心配はしないとはね……」


「いや、待て!だって、キザンは――――!」


「傷一つ、なかったよな?」


「あ……。

 で、でも!ただ気絶させたんならその時に退場するだろっ!

 なら、あんなっ、心が壊れたとしか……!」


「ありゃ、悪夢を見せる幻覚魔法をかけただけだ。

 どんな夢を見ていたのかは知らんが、よほどらしいな。解いた瞬間気絶して退場だ。

 ああ、なんで解除するまで退場しなかったのかっていうと、指輪がモニタリングしているのは身体面だけだからだ。幻覚にとらわれてても、身体は元気なままだから強制退場はさせられない」


 くらった側が、もしかしたら、自力で魔法を破って復活するかもしれないのだから。

 魔法をかけた側も、その後とどめを刺さないまま放置、なんてことはないだろうから問題はない。


「つまり、キザンのヤローは()、かすり傷一つ負ってねぇよ」


「な、なんだ……安心した。

 だよな、アキラがそんなひでぇ真似するなんて、んなわけないか」


 ほっと息をつくイチ。

 その言葉に、どこか違っていてほしい予想が外れていたことを喜ぶようなものがある。



 それを見て、こちらも安堵した。





 ――――うまく騙されてくれた、と。


 本当は、彼らに語った内容以上のことをしている。

 痛覚増大。発狂防止。精神汚染。

 幻覚による無間地獄。


 嘘だったのは叫び声がわずらわしかったので、音を遮断して届かないようにしたこと。つまり、悲鳴のくだりは嘘だ。

 持論だが、人間と言う生き物は悲鳴を聞くと心が萎える。オレは純粋な苦痛による悲鳴で悦ぶレベルまで達してない。

 なら、聞かなければいい。

 人間、悲鳴を聞かなければけっこうひどいことができるのだ。

 相手の痛みなんて、わからないんだから。


 確かに、『今』のキザンは傷一つない。傷ついた傍から癒されていった。

 だが、実際には傷つけられなかったところなどなく、負傷と回復を何度も繰り返していた。

 そして、後々疑われないよう壊れたキザンの精神を作り直した(・・・・・)

 色々とまともな神経の持ち主に生まれ変わり、トラウマなんて存在しなくなった。


 多少の違和感はあるだろうが、それは『本選敗退のショック』などと周りは勝手に理由をつけて自らを納得させるだろう。

 だって、キザンは身体に傷一つないし、心に傷を負った様子も見られないんだから。



「おい、イチ。ほっとしてるとこ悪いが、なにも終わってないぞ?」


「っおお、悪い」


「で、どうする?

 本音を言えば、そこのをぶちのめしたいところなんだが、割り込んだのはこっちだ。我慢してもいい」


「…………いや。悪いが断る。

 急ごしらえの連係なんてマイナスにしかならない。

 なにより、これは王を決める戦いだ。

 正々堂々、真正面から打ち勝って証明してやる!」



 ヴァイを潰したいのは本当だが、百歩譲って我慢する。あいつの物言いが癇に障ったのは確かだが、ある程度ストレス解消は済ませた後だったので我慢はできる。あくまで『今』は我慢するだけ。後でこっそりなんかする予定だ。


 それに、依頼の都合上共闘は難しい。

 例えヴァイに勝っても、2対1で勝ったのでは最強の資質が疑われかねない。


「……なら、存分に」


 屋根の上から睨み合う二人の姿を眺める。


「そーいうわけだ。待たせたな」


「別に、こちらとしては二人がかりでもよかったのだがな。

 それを打ち破ってこその王だ」


「おまえに王は任せられない」


「抜かせ。おまえが王など許容できん」


「「行くぞ!」」


 小休止は終わり。

 二人は同時に跳び出し、再び、王をめぐる激戦が始まる――――。



「悪いが、邪魔させてもらう」


 ――――ことはなかった。


 瞬間。イチの前から、ヴァイが消えた。


 それは思わぬ方向からの乱入。


 イチからはヴァイが急に視界の外へ消えたように見えただろう。

 屋根の上からは飛び込んできた者が見えていたが、この距離から止めることはできなかった。


「なっ!?」


「今の感触……仕留めきれなかったか……?」


 驚くイチを無視し、ヴァイの飛んだ方向を見て憎々しげにつぶやくのは。


 激突の寸前、側面から奇襲を仕掛けた乱入者。


 ――――仮面の男がそこにいた。

いつか二次創作が書きたいなぁと思っていたのですが、TPPとやらのせいでなんだかこれから難しくなるかもという話。

ほんとのところどうなるんですかねぇ……。

これは今のうちから書いとけってことなんかな。

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