15:国民大会4日目「武」本選3「躾」
アンケートご協力ありがとうございました。
アンケの答えだけでなく、様々な意見をいただきました。
いくつか参考にさせていただきます。
最近戦闘ばっかりで疲れる……。
閑話とか息抜きに書きました。
EX2を書いています。
どうしてこんなに頭にきているのだろう。
目の前で、傲慢に踏みにじられる様を見せつけられたから?
上に立つ者と下で這いつくばる者という憎き光景だったから?
いや、それだけじゃない。
きっと――――――貫かれ、ゆっくりと倒れていく姿が、妙に『彼女』とダブって見えたから。
ひどく歪んでいて、だからこそ無邪気な笑顔を向けてくれた『彼女』とサンクが。
重なって、見えたからだ。
分かっている。
サンクと『彼女』は違う。
でも、似ていたんだ。
サンクは純真で真っ直ぐな様子だった。
『彼女』はひどく歪で壊れていて、正も負もなかった。
大元は違えど、結果はそっくり――――二人とも無邪気な笑顔をしていた。
そんな少女が倒れていく姿は、あることを思い出させた。
復讐を遂げ、過去のことにして、ペルヴィアに置き去りにしてきたことを。
おそらく無意識下で思い出そうとしなかったことを。
『彼女』の最期の姿を、はっきりと。
すべてが壊れ、すっきりした顔を浮かべ。
解き放たれて、自由を喜び、満足げで。
解放の代償に、死を運んでくる男に感謝さえした。
アキラが束縛と強制を嫌う気持ちをより強くさせたであろう、王家の哀れな道具の最期。
いったい『彼女』が最期に何を想っていたのか、今となっては知る由もない。
そうしたのは、自分だ。
騙し、縛る道具でいることを選んだ『彼女』――――故に銃を向けた。
しかし、復讐を遂げた今――――最期を見た今、『彼女』に抱くのはもはや憎しみではなく憐れみだ。
すべて終わった後に思うのは、手遅れの同情心だ。
あれからしばらくの時間が経った今、アキラは自分の気持ちをそう分析する。
たぶん『彼女』個人を憎む気持ちはもうない。
だから、サンクにペースを乱された。
幻視したんだ。
いつかの光景を。
彼女の役割を知らず、彼女だけは信じられていたあの時を、そこに見たんだ。
オレと『彼女』が失ってしまった眩しい光景。
『彼女』が道具のままでいることを良しとしなかったら。
オレが、『彼女』への復讐をやめ、その手を取っていたら。
そんなIFがあったのなら、きっとあれは今この時も続いていた光景。
『彼女』が諦めてしまったモノ。
オレが復讐を選び、拾おうとしなかったモノ。
今となっては、儚い幻想と成り果てた。
だから。
頭に来たのは。心が痛んだのは。
キザンの傲慢な態度なんかよりも。
――――失った眩しい幻想を踏みにじられたように感じたから。
だから、オレは――――――。
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「――――今すぐ黙れ」
ぞわっ!!
アキラを中心に、猛烈な殺気が場を満たす。
キザンは表面上涼しげにしていたが、内心アキラの急変に驚いていた。
「……さすがに、口が過ぎるんじゃないかな?」
そして、そのすぐ後には腹を立てた。
下等な人間如きが、この自分に、と。
獣人たる自分が人間如きに気圧されることなどあってはならない。
「君も、国の第3位の僕に――――強者に逆らうのかい?
ここでは、力こそが全てなんだよ?に・ん・げ・ん?」
「――――っ!」
ブンッ!
アキラは裂空を振り切った態勢で残心していた。
途中の経過を全く見せないほどの速さで。
魔力の刃が飛び、キザンの背後にあった街を斜めに斬り裂く。
つぅーっと、キザンの頬を一筋の血が伝った。
「傷……?
この、獣人の僕が……?
人間如きにっ……!?
ふ、ふふふ、ふざ、ふざっ――」
「……ふざっ?
変な鳴き声の犬だな」
「ふざけるなぁああああああ!!
強者は僕だ!おまえは無様にのた打ち回れぇええええええ!!」
高すぎるプライドのあまり、逆上したキザンは切り札をきる。
圧倒的力。圧倒的暴力。圧倒的速度。
蹂躙。屈服。
その体現。
筋肉が盛り上がる。
背は曲がり、腕は軽く前にたらされる。
全身から毛が生えて、陽光を反射し。
耳は逆立ち、牙が伸び、鼻が突きでる。
槍を捨て、代わりに爪が命を刈り取る形へ最適化する。
キザンは狼族。剣狼族やフェンリルのような突出した特徴はないが、その分オールマイティ。
変化したその見た目は、まさに人狼。
完全な獣化は四足歩行の獣モード。二足歩行で人型の獣は獣人モード。普段は人擬態モードと分けるとするなら、今回は獣人モードである。
「……この姿になったからには、君の勝利は万一にも存在しない。
さっきの彼女みたいに、儚く散らせてあげるよぉ!!」
「つくづく、苛立たせるな……」
キザンが爪が地面に家に、三本線の傷をつけていく。
だが、それらがアキラの身体につけられることはなかった。
時に避け、時に受け流していく。
それはあまりに完璧で、その場から一歩も動かず行われた。
「遅すぎる。リースと比べれば、この程度止まって見える。
ほら。どうした、オレは一歩も動いてないぞ?
オレをのた打ち回らせてくれるんだろう?」
「お、そい……だと?
この、僕が……遅い!?」
一言。
しかし、その一言は圧倒的速さで相手を寄せ付けずに勝つのを信条とする彼の自尊心を大きく傷つけた。
「なめるなァ!!」
キザンの腹を蹴り、引き離す。
地面を音を立てて滑りながら、離れていく間を待つことなく。
「――――躾をしてやろう。犬」
アキラは裂空を振りまくり、魔力刃を飛ばしていった。
めったやたらに魔力刃が飛び交い、模された市街地はずたずたに切り裂かれていく。
その中で、キザンは自分に当たるものだけを見切って避ける。
余裕たっぷりに、その場から一歩も動くことなく。
「これがどうした?
何度も見せられた手品だ!
剣に頼るだけの腕じゃあ、こうなった僕は倒せないよぉニンゲン?」
キザンは、アキラが本選に勝ち上がったのは裂空という武器があったからだと思っている。
だがそれも、扱うのが人間ごときなら恐るるに足りず、とも。
「僕はこの場を動いていないよぉ?
君の攻撃なんて、止まって見える!簡単に避けられる!それこそ一歩も動かずに!
さぁさぁさぁさぁ!君が遅いと言った僕に、あてて見せろよ!!
せめて一歩、この僕を動かしてみなよ!!」
ついさっきアキラに行われたことをキザンはやり返す。
プライドと余裕から、一歩も動かず避けてみせた。
――――だが、そんな慢心は、続くアキラの言葉にあっさりと打ち破られる。
「はっ、周りを見てから言えよ」
「なに……を……?
なんだこれはっ……」
周囲に目を向けたキザンは驚きに目を見開いた。
先ほどアキラがばら撒いた魔力刃が幾重にも重なり合い、キザンを中心にぐるりと囲っている。
それはまるで――――。
「――――檻だよ。オレの魔力刃で作られた特製の檻だ。
一応、全部斬撃だから触れたらすっぱり切れるぜ?」
裂空の魔力放出。
放たれるのは自分の魔力。
それも属性のついていない素のままの魔力だ。
魔力操作の訓練さえしていれば、簡単に操れる。サンクにしたように、地面にぶつけた魔力を爆散させるなんて初歩の初歩。
だから、放った後、任意の場所に留めておく、なんてこともできる。
アキラは滞空させた魔力刃を格子状に配置し、檻を形成したのだ。
「檻、だとっ……!?
貴様ァ……!」
「躾のなってない犬は、檻に閉じ込めて反省させないといけないよなぁ!!」
「ニンゲェエエエエン!!」
「閉じろ」
アキラはパチンッと指を鳴らした。
それを合図に、キザンを囲っていた魔力刃の檻が狭まっていく。
中に閉じ込められたキザンをそのままに。
バァアアアアン!
「…………」
ぶつかりあった魔力刃は消え、その後にはなにも残さなかった。
それを見たアキラは裂空を血振るいするように、ひゅんひゅん振るってから腰に戻す。
そして、イチたちのところへ行こうと背を向けた。
「――――まだだよニンゲン!!」
アキラが背を向けたと同時。
タイミングを計っていたキザンがボゴッという音とともに地面から飛び出す。
キザンは檻が小さくなっていく中、唯一の逃げ道――――地面に穴を掘って逃げたのだ。
さすがに360度囲っていた魔力刃の檻も、地面の下まではカバーしていなかった。
無防備なアキラの首筋へ、命を刈り取らんと爪が迫る。
「いや、終わりだよ」
振り向くこともしないまま。
パチンッ。指を鳴らす。
「っぐぁあああああああ!?」
キザンの背後から、ブーメランの如く舞い戻った魔力刃が二つ。
先程、裂空を腰にさす前に、血振るいに見せかけ振るった時の魔力刃だ。
それが合図とともにキザンを襲った。
「な、どうして……。
痕跡は消した……、脱落したと思ったはずだ……」
背後から切るはずが、切られたキザンは苦しげにうめきながら問いかける。
いくらタフな獣人とはいえ、無防備な背中に、それも魔力攻撃を受ければしばらくは動けない。
「戦闘不能で転移させられたなら、あるはずの転移残光がなかった」
「くそっ……、人間ごときに……この僕が!」
背中の傷にうめき、倒れているキザンの背中を踏みつけ。
獣化の恩恵ですでに回復しつつある傷を再び開かせた。
「ぐぅあぁっ!」
「おいおい、なに終わった気になってんだよ。
まだまだだろうが」
「な、にを……」
「映像送信用の魔法具は檻を作る際のどさくさで全て壊した。
……これから起こることを知る者はだれもいない」
≪サーチ≫で調べ、振りまくったときに破壊した。
さらに、周囲に他の本選メンバーもいない。
この場で起こることを知るのは、当事者の二人のみ。
「――――っお、おい!ぼ、僕を転送しろ!
はやく!」
キザンは顔を真っ青に染め、指輪――――選手の戦闘不能を判断する魔法具に必死で叫ぶ。
この魔法具(装備者の体調モニタリング機能)で、これをモニターすることで選手のリタイアを判断しフィールド外に転送しているのだ。できるだけ死人を出さないためだ。
脇腹を貫かれ、転送されたサンクのように。
つまり、魔法具が判断するより早く治療すれば、いつまでだってなぶり続けられる。
モニタリングする運営側に気づかれなければ、いつまででも。
他の本選出場者が介入してこなければ、いつまででも。
「その指輪に通信機能はない。残念だったな?」
「お、おい。待て、よせ!!
僕は国の第3位だぞ!?こんなことをしていいとでも!」
「こんなこと?
さっきもいったよなぁ。
――――それを知るやつは、いないんだよ」
にたぁ、と。
凄惨な笑みを浮かべたアキラに、キザンは息を呑むことしかできない。
「――――――――さあ、躾の時間だ」
魔力の遠隔操作。
書いてる途中、ヤムチャの必殺技(笑)こととっておきの技である繰気弾とかあったなぁと思い出しました。
面白い技だけど、威力的に微妙だったなぁ……。
対戦相手の顎を跳ね上げてたから、せいぜいアッパーくらいの威力しかないみたいだし。
そんなヤムチャは大好きですが。