表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『勇者』の反逆  作者: 本場匠
2章:獣王国家ムジン編
33/46

12:国民大会2日目「智」

修正。

【国民大会2日目】


 大会二日目の「智」の部。

 宰相をはじめ、多くの知力自慢たちが集い競い合うこの日。


 その勝負方法は、戦略ボードゲーム――――――戦駒(いくさごま)である。


 兵を模した駒、天候や地形。

 それは実際の戦争の縮図だ。

 

 それが――――戦駒(いくさごま)である。



 ==================

~side アキラ~



 その会場は広い体育館のような場所だった。

 床にはいくつもの盤が置かれており、その前にはマス目の書かれたボード。

 一番奥にある壇上にはトーナメント表が置かれている。

 その中には、当然クマンじいさんの名前が。シードかと思いきや、みんなと同じ位置だ。


 では、シード枠はだれかと言うと…………キザン=サードリオ。


 またおまえか。ミスターコンテスト、智、武の三種目に出るとは。

 どんだけ祭りを満喫するんだ。



 さて。

 開催時間が近づき、出場者たちはぞろぞろと用意された席に座っていく。


「では、陣形を決めてください。時間は1分です」


 司会の合図を受け、一斉に動き出す。

 自らの陣形を決め、絶対の自信を持って臨む者。

 相手の陣形を窺い、効果的な陣形を構築する者。

 それぞれだ。


「…………」


 ぱちぱちぱちぱち。


「1分経ちました。では、試合開始です」


 ぱち、ぱち……。ぱち……ぱち。


「なあ、アキラ……」


「言うなリース。分かってるから」


「いや、な……?見ていておもしろいか?これ……」


 大の大人が17人。イスに座り盤を挟んで向かい合い、ぱちぱちぱちぱち打っていく。

 その解説はなし。

 一応、各盤の傍に置かれたボードに盤上が再現されているのだが……。


 そこまでするのなら解説しろよ。

 盤の駒だけ見せられてもちんぷんかんぷんだって。


「ルールは聞いたけど、見たこともやったこともないから全然わからん……」


 観客は、キザン=サードリオの追っかけっぽい女子たちを除けば、戦駒が趣味らしきじいさん集団ばかり。

 解説がないからとっつきづらいってのもあるのだろうが……。

 武力、以外の扱いがうかがえるな。

 走力や体力、耐久力など戦闘に関わる大会はもっとにぎわっていたのに……。


「なあ、アキラ。別のところに行かんか?」


「だな……。終わった頃に戻ってこようか。じいさんと話したいことあるし」


「では、行こう」


 なんともいえない空気のまま、オレ達は「智」の部会場を後にした。



 =========



~side クマン=ベール~


 二日目のこの日、「智」の部が行われる今日。


 わかりやすい指標として、この日を、と決めた。


 長い年月をかけ、少しずつ、少しずつ。

 力だけではなく、知力といった他の「力」を認めさせようと身を粉にして費やしてきた。

 国民たちの意識が少しでも変化するように、と。



 ――――――それなのに、結果はこれだ。



 ぐるりと一周、見まわして落胆のため息をつく。


 映るのは、「武」のように観客の集まる姿ではなく。

 閑散とした会場、やる気の感じられない大会側の兵士たち。

 この会場を見て、同じ志をもつ仲間たちも駒を動かしながら現状を嘆いていることだろう。


 この光景は妨害工作を受けた結果だった。


 力至上主義トップ2の妨害。


 やつらはこちらを潰すつもりなどではなく、嫌がらせ程度のつもりなのだろう。

 知力とまともに向かい合う価値など認めていないのだから。


(「武」たちの反応を顕著に見るため、あえて放っておいた。

 部下には相手が手を出すようなら逆らうな、と言っておいた。

 …………やはり、やつらはこうなのだな)


 長年の努力が報われているのか。

 国の者たちの意識が変化したのかを知るいい機会。


 だから、「智」の計画・立案そのものには全力を注ぎ。

 「智」に対する妨害にはなんの手出しもしなかった。

 

 妨害は知力を認めていないという証拠。

 そんなものはないと、信じていたかった。

 長年の意識改革を促すための努力はまったく実っていないとは思いたくなかった。

 

 だが、やつらは変わってなどいなかった。

 この会場を見れば、「武」以外の力を認めていないことなど一目瞭然だろう。


 クマンはトップの2人を思い浮かべ、この場にいる1人を睨み、唇の端を噛みしめる。


 ヴァイ=ニフターツ。

 力至上主義の塊。

 その生まれの高貴さ、王の如き振る舞いと威圧感。

 力の者たちを大勢束ね、それ以外の力を下等だと貶める存在。

 なまじっか力がある分、強大な力に従う傾向の強い我が国の民にもこやつを認めている者が多い。


 キザン=サードリオ。

 ヴァイの参謀役で、力と知の双方を兼ね備えると言われる男。

 表ではきれいな顔を見せているが、その内面は黒い。

 知にも理解がある――――そういう輩ではない。

 良くも悪くも、知力を、力のためにしか使おうとしない。

 やはりこやつも、知は力に従い、一方的にさしだすべきという考え方をしておる。

 「智」の部に参加し、シードをもぎ取ったのも、後の参政を容易にするためだろう。

 力もあり、知力もあると大会で結果を示せば、政治に食い込むのは楽になる。


 この結果は、彼らがやったこと。

「智」の会場の位置、解説の兵士を人員不足と割り振らない、同時刻に開催される人気部門、破壊力の部。

 それらは大会の運営に口を挟んできた力主義者の決定だった。


 おそらく、主導したのはキザン=サードリオの方だろう。


 回りくどい、姑息と言ってもいい嫌がらせはヤツの手口。


 やっかいなのはヴァイよりもキザンの方なのだ。

 ヴァイは力で押さえつける。が、ザコと判断した者には自ら手を下す価値なしと目障りになるまで無視を決め込む。

 一方、キザンは少しでも障害になりえるのならばどんなことだってやる。時に力を振るい無理矢理従わせ、時に相手の内に入り込み懐柔させる。

 このキザンの策略で、知の者にも外面に騙された者が出てきている。


(こいつらが王として権力を得れば……どうなることか) 


 この国では王は政に参加しないのが通例。

 その通例すら破りかねない。そうでなくとも、ヴァイが王、キザンが宰相となればムジンは完全に力至上主義に支配される。


(イチがもっと大人に――――力をつけていれば……。

 いや、言っても詮無いことか)


 イチ個人は腕力以外にも理解がある。

 が、まだ部下を従わせるほどの圧倒的な力と器をまだ持っていない。


 垣間見える片鱗から、いつか持つとは思うが……。

 その時が来る前――――今大会で、ヴァイが優勝し、王位に付いたら。


 イチが王位を取り戻すまで、儂のように知を重視する者が残っているだろうか。

 力至上主義の者に排斥しつくされていないだろうか。

 政治が昔に戻ってしまわないだろうか。


 昔を思い出し、身震いする。


 この国で、政治のほとんどを「知」の者が行うようになったのはここ50年ほどの話。

 昔は政治も「力」の者たちの方が大多数を占めていた。


 だからこそ、政治に参加し、国を変えるためには体を鍛え力をつけなければならなかった。

 今の政治は、そうして国の中に飛び込んだ儂や師匠が、このままではいけないと行動して成した結晶だ。


 それを無意味にしないように動いてきた。

 師匠が亡くなった後も遺志を継ぎ、仲間を集め国の意識を変えようと動いてきた。


 その結果が、この会場か。


 (地道にやっても、正攻法では無理か……。

 やつらの意識を変えるには、巨大な一撃がいる。

 やはり“計画”を動かさなければならんかの)


 知力を蔑ろにする力至上主義たちを国民の前で下し、一気に失脚させる。


 やつらを王になどさせるものか。

 知力をも呑みこむ器の大きさがなければ王はつとまらんのだ。

 腕力だけでどうにかなるほど、国の運営も世界も甘くない。


(そのための、第1段階はすでに終了しておる)


 すでに、アキラという強者にはヴァイを抑えるように依頼した。

 ヴァイが儂をつけて依頼を盗み聞きするのをあえて見過ごし、気の合いそうにない二人をはっきりと対立させた。

 ヴァイとキザンVSイチという不利な構図を、アキラを加え2対2に持ち込むことができた。


(だが、慎重になるべきなのはここから……)


 “計画”の全貌はだれにも話さない。


 アキラが知っているのは、ヴァイを失脚させイチを王にするためとだけ。

 イチには、ヴァイとキザンが国家の支配をたくらんでいるとだけ。

 

 知力の地位向上という目的は彼らが知らなくともいいことだ。


 そう、失敗の時は、儂だけが犠牲になればいい。

 実際、“計画”の全てを知り、動いているのは儂一人だ。


 国を変えようと動くのだ。

 覚悟はできている。


(変えてみせる。

 この国の未来のために!)




 国民大会を象徴する「武」。


 予選に楔を。

 最終日の本選、この国を変える一手をうつ。



 パチン、と。

 クマンは盤に駒を置き、勝敗を決定させた。

予選集団戦、予選トーナメントを書こうとも思いましたが予選だけで3,4話ほどと長くなりすぎるので本選へいきたいと思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ