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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
2章:獣王国家ムジン編
31/46

10:国民大会「武」予選…………の予選

 国民大会。


 正式名称、ムジン王国国民実力大会。


 毎年4日間にわたって行われる大会で、様々な力を示す場である。

 戦闘力を競う「武」。

 知力を競う「智」。

 魅力を競う「魅」。

 他にも、鍛冶屋や細工屋などが参加する道具作りの腕を競う「匠」や料理の味を競う「味」など多種多様な部に分かれている。「匠」や「味」などは展示や出店という形で売り、最終日に投票で順位が発表される形式だ。


 その中で、目玉はもちろん、最終日前日の予選グループ別トーナメント、最終日の本選バトルロイヤルと二日にかけて行われる「武」だ。


 他国からも観戦、偵察含め多くの人が訪れるムジン国の名物行事。


 それが「国民大会」である。






 国民大会、開催三日前。


「国民大会の名の通り、国民向け行事。

 つーわけで、国民じゃないオレは予選の予選から、ってわけか」


 ≪仮面舞踏会(マスカレード)≫で変装したアキラは、ため息を一つ。


 この国民大会、外国からの挑戦者は予選の予選からなのだ。

 一般国民は予選から、イチやヴァイ、お姉さん推薦キザン=サードリオなど、国の上位はシードでいきなり本選から。

 その三人は時々行われる武闘大会や試合で優勝した時、シード権をもらってるんだとさ。


 そんな風に、他国の人間に対していささか不利な条件が存在する。たぶん他にもあるだろう。


 強い人間を倒し、どんな挑戦者にも勝つ王を演出するか。

 万が一、王を倒す人間が現れる可能性を排除するか。


 第1回の国民大会でルールを決めた時の宰相は後者を選んだようだ。


 それも当然。人間に勝っても得るものは少ないが、負ければ失うものが大きすぎる。

 王なら人間なんかには勝って当然、という風潮があるからな。



 閑話休題。



 その、予選の予選だが。


 はっきり言おう、みんなやる気ないでしょ。


 理由一つ目。

 人が少なすぎ。


 観客数…………3人。(参加者の友人、仲間のみ)

 出場者…………8人。



 参加者は、まあいいさ。

 毎年このくらいらしいから。


 だが、観客。少なすぎないかい?実質ゼロなんて。


 三日後の国民大会開催を控え、ムジンの民衆は三つに分かれている。

 自らの力を磨き上げる者、大会準備に追われる者、祭りの開催に胸を弾ませている者。


 前二つはともかく、最後の集団ならば、前哨戦である今日の戦いを見に来る人がいてもおかしくない――――はずなのに、だ。


 うん、獣人の方々は予選の予選なんて見るヒマがあったら、大会の準備をやるみたい。

 シード三人はもちろん、予選出場者だって敵情視察くらい来てもいいはずなのにな。

 参加者も少ないし……。少年野球の方がまだ多いって……。


 ちなみに、観客の中にリースはいない。「アキラがそんな段階で負けるはずないであろ?」だって。

 いや、まあそうなんだけど。寂しいな。



 理由二つ目。

 試合会場――――とはとても呼べない場所。


 それはムジンの郊外、防壁のすぐそばにある広場。 

 広場と言っても、公園のような雰囲気ではなく。ただただ広く荒れた土地という意味で。



 最後の理由。

 審判。


 1人て。

 しかも、下っ端兵士。つまらなそうにあくびしてるぞこいつ。

 あ、どっかいった。職場放棄か?



「国民大会なのに、これはひどいな。

 人少なすぎだろ……。

 杖持ちが見えないから、魔法使いもいないっぽいし」


「ま、それにゃ理由があるんだよ少年」


「ん、あんたは?」


 いきなり声をかけてきたのは軽薄そうな若い男。

 背中に大剣を背負い、軽鎧を装備している。

 体つきからして、大剣を十全に扱えるようには見えないのだが。


「少年も参加者なのか?

 おいらもだ。ま、よろしくな」


「そっか。よろしく」


「見たところ、初参加みたいだな?」


「あんたは違うの?」


「なにを隠そう!おいらは去年も参加したんだぜ!」


「へえ。どこまで行ったの?」


「うん?……ん~、本選には行けなかったな……」


 本選には……。

 こいつの力量を見るに、予選にも行けなかったんじゃね?

 いや、確かに本選には行けてないから嘘じゃないが……。


「そっか。でさ、魔法使いがいない理由って?知ってんの?」


 彼――チャラ大剣と命名しよう――はよくぞ聞いてくれました、と得意気に笑った。


「ルーキーには親切にしなきゃな。教えてやんよ。

 まず、この国民大会は本選こそバトルロイヤルだが、予選の最後は1対1のトーナメントだ。

 それが理由。

 獣人相手に、前衛のいないタイマンじゃ魔法を使う暇もない。

 純粋な魔法使いは勝ち目がほとんどねぇのさ」


 限られた舞台の上で、獣人と1対1――――ようは、前衛のいない魔法使いは詠唱の時間を稼げないのだ。


 本選のバトルロイヤルなら可能性はあるだろうが……。

 やっぱ、獣人に有利な大会だと思う。

 ……良く考えたら、主催者が獣人の国なんだし、当然か。文句言うなら参加すんなってわけだ。


「ただでさえ、力と速さで獣人には敵わない。

 あらかじめ魔法による強化をしておいて、ようやく五分になるかどうかってとこだ。

 その五分ってのが、銀メダルの下位レベルってんだから嫌んなるぜ」


「へー」


「少年、棄権するなら今のうちだぞ?」


 むしろあんたは大丈夫なのかと。


「心配どうも。ま、やれるだけやるさ。

 ああ、言ってなかった。オレの名前は――――」


 これも何かの縁、と偽名だが名乗ろうとしたら――――。


「おおっと!待った!

 これから戦うんだ、名前を憶えてもしょうがないし、やりづらいだろ?

 試合の後、後腐れなく教えるのが恰好いいんだぜ?」


 きらんっ、と。

 ウインクをプラスしたドヤ顔で名乗りを遮られた。


「うわぁ、うぜ……」


「なんか言ったか?」



 と、その時、視界の隅で例の審判っぽい下っ端さんがどこかから箱を持ってくるのが見えた。


「いやいや、なんでもない。それよりほら、もう始まるみたいだ」


 下っ端さんは箱を脇に抱え、周りを見回して。


「あー、なんでこんなこと……。貧乏くじひいたなぁ……。

 どうせ予選で負けるんだからくんなよ、もう……」


 ピキィッ!

 聞こえたボヤキに会場に緊張走る。


 あいつ、やっちまおうか?と言わんばかりの空気である。

 敵であるはずの他の出場者と心が一つになっている。


「試合のどさくさ紛れで痛い目みせたろか……」

「賛成だ」


 そんな空気もどこ吹く風、下っ端さんはさらりと受け流す。


「あ、時間だ。

 はーい、じゃあー、今から始めまーす。

 みなさん、この中からくじを引いてください」


 穴のあいたくじボックスを持って呼びかける。


 出場者たちは次々とくじを引いていき(その際、下っ端を睨むことを忘れない)、①と②、③と④、と戦う相手のペアごとに並んでいく。


「全員引きましたねー。

 えー、トーナメントです。

 ペアの人と戦って、その勝者が次の――――ってわかりますよね。わかれよ?

 よーし、オーケー?

 ではルールを。

 試合は、場外、戦闘不能、降参の三つで決着します。

 殺しはだめです。いろいろ面倒なので。仕事増やすなですよ。

 もし増やしたら失格にしてやろうか……。

 いいや、さっさとやります。では第1試合からー」


 心底やる気を感じない下っ端審判だった。


 ============


 さくさくと試合は進み、いよいよ決勝戦である。


 もちろん勝ち残ったオレのお相手は、やはりチャラ大剣――――――なわけがない。


 え、彼はどうなったかって?

 あれは、1試合目のこと。

 チャラ大剣VSトゲトゲハンマー(モーニングスターだっけ?)を武器とするおっさん。


「ふっ、このおいらと当たったのが運のつきだな。

 なにより、あのテキトーな審判のせいで、おいらの名前――――あんたを倒す男の名前も知らない」


「ああ゛ー、だれがテキトーだって?失格にすんぞこら。

 ほら、さっさとやれー。試合開始ー」


「…………ま、まあいいさ。安心しな。

 あんたを負かした男の名は、試合の後にきちんと教えてやっからよ。

 しっかりと刻みな。

 このおいら、ハルベルト=ラヴァ――――ぶふぉぅ!?」


 長々と語り、試合の後と言いつつ挙句なぜか名乗ろうとしたチャラ大剣――――改めハルベルト=ラヴァぶふぉぅは吹っ飛ばされた。


 これなんてかませ犬。


 オレはそのモーニングスターおっさんに勝ち、いよいよ決勝戦。

 決勝戦の相手は、フードをかぶった謎の人だ。


 コートとフードで全身すっぽりと覆われたこの人、なんと魔法を使う。

 チャラ大剣の説明や杖もちがいないから、てっきり魔法使いはいないと思っていたので驚いた。

 弓も使うので、純粋な後衛――魔法砲台タイプではないが。


 1試合目は弓でもって相手をけん制しつつ、魔法を放つという戦い方で意表を突き勝利してきた。

 2試合目は魔法を使わせないよう間断なく攻めた相手をあざ笑うかのように魔法を使って勝利。


 弓を使いながらの魔法行使。

 杖の補助なしに、詠唱破棄ができるほどの使い手かもしれない。

 自然、警戒心をワンランクアップさせ、向かい合う。


「では、試合開始!」


 開始の合図とともに、全力で前へ跳びだす。


「先手必勝っ!」


 無詠唱だろうと、使う前に倒せば関係ない!


 一瞬で至近距離に詰めより、引き絞った右拳を顔面へ向けて放つ!


「――――っ!」


 息を呑む音すら聞こえるほどの距離。

 入る――!



 と思われた。



 ゴウッ!

 音はアキラの腹部辺りから。

 フードさんとアキラの身体の間、わずかな隙間しかないそこで火の玉が形成され、襲い掛かってきた。

 火属性の初級魔法≪火の玉(ファイヤーボール)≫だ。


「くっ」


 魔力を込めた左手を腹部を引き寄せてガードすると同時にバックステップ。

 衝撃を殺しつつ、左手を振るって火の玉を弾き飛ばす。


「魔法速すぎだろ――っと!」


 着地した途端、矢が飛んできた。再び跳んでかわす。


「こっちのセリフよ。驚いたわ。いきなり目の前に来るんだもの」


 初めて聞く声は勝気そうな女性のもの。

 顔を上げると、深紅の髪を露わにした女性の姿があった。

 どうやら、さっきの戦闘の余波でフードが取れたらしい。


「女――――、となんだ?精霊?」


 女性だったってことも驚きだが、その首の横でふわふわと漂う半透明の存在に目をひかれた。

 羽根の生えた小人…………精霊か妖精ってところか?


「……なるほど。一人じゃなくて二人だったのか。

 弓と並行しての魔法じゃなく、分担作業なわけね」


 一人が弓を使いながら無詠唱で魔法を行使したのではない。

 二人組で、一人が弓を、もう一人が魔法を使っていただけ。


「使い魔は数に入れないから、ルール違反じゃないわ」


「だからって、隠しておくのもどうかと思うけど。

 まさか精霊とはね……。凄腕魔法使いかもしれないから詠唱前に倒そうとしたんだけど、勘違いか」


 精霊の魔法行使速度は人の比じゃない。

 彼らは人間が身体を動かす感覚で魔法を発動させる。

 危険が迫れば反射的に、それこそ人が手を払う感覚と速度で魔法が飛ばせる。


「ま、タネが分かればどうってことない」


「言ってなさい。あなたはなにもできないわ。

 たとえ弓と魔法をかいくぐれても、またこの子が魔法で突き放す。

 速さが自慢みたいだけど、この子の魔法の方が速いみたいだしね」


 彼女は新たな矢をつがえながら不敵に笑い、精霊は腕を前に突き出す。


 矢と魔法が次々と放たれ、降り注ぐ。


「当たらなきゃどってことないね!」


「くっ、ちょこまかと!」


 しっかりと相手を見て避けていく。

 目を見ればだいたいの狙いはわかるし、そもそも見切れない速度ではない。


 それでも、反撃しないのは、≪解析(アナリシス)≫で精霊の魔法行使がどうなっているのかを盗み見ているからだ。

 興味本位で調べてみたが、その無駄のない術式は美しさすら漂わせる。


「ふっ!魔力切れを狙っているなら残念、ねっ!

 あらかじめ魔石にたっぷりため込んでるからそうそう無くならないわ」


「解析終了。人には真似できない業か……残念」


 アキラの真意にも気づかず、得意げに言い放つ彼女の首には、ビー玉ほどの輝く石。

 容量の低い低ランク魔石だが、あの光量をみるにまだまだ余裕がある。 


「近づくこともできないまま、大人しく的になりなさい!」


 女性が常に攻撃し続け、アキラはひたすら避けるだけ。

 一方的な展開。

 だからこそ、女性は自らの方が優位だと誤認した。



「近づけない、ねぇ。

 じゃ、遠くから殴るだけだ」



 ――――パァン!!


「がっ!?」


 はじけるような音とともに、いきなり女性の頭が大きくのけぞった。

 そのまま、ばたりと倒れてしまう。


 精霊はなにが起こったのかわからない、と一瞬呆けていたが、すぐに再起動、慌てて主の傍へ。

 倒れた主の周りを心配そうにぐるぐる飛び回る。


 アキラは戦闘が終わったことを確認し、気を緩める。


 最後の一撃、その原理は簡単。

 素早く強く拳を振るって、拳圧を飛ばしただけ。

 拳で放つ空気砲みたいなものだ。


 威力は抑えておいたので、軽い脳震盪で済むはず。



「……あ、試合終了!予選進出者はアキラ=キャストル選手!」


 審判が偽名を呼んで、アキラの国民大会への予選進出が決定した。

次はバトル……ではなく、大会を見てまわる話になりそう。

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