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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
2章:獣王国家ムジン編
26/46

5:誤算

「――――さぁ!汝が力を示せ!!」




「いきなりそんなこと言われてもな……。

 門番!オレは具体的に何をすればいいんだ?」


「さっきも言った通りだ!

 どんな力でもいい!おまえを認めさせるだけのものを見せろ!

 そうすれば、入国許可証であるメダルを与える!」


「メダル?」


「そうだ。強さのランクで、金、銀、銅の三色に塗られているメダルだ。

 人間に決闘を仕掛ける民が多くてな。相手がどれくらい強いかわかっていれば、余計な決闘は未然に防げるだろう?」


 なるほど。入国した人間の強さを示して、下手に獣人が負けることがないようにしているのか……。

 まあ、人間にとっても格下からむやみに決闘を挑まれなくなるって利点もあるが――――。 


「金とか銀のやつが胴メダルの人間に決闘を挑んで来たらどうする?」


「力に誇りを持つ民がそのような真似などするはずがない」


「そんな大雑把な……。絶対格下の銅メダルにケンカ売ってるヤツいるだろ」


 ぼそっとつぶやいた声は聞かれなかったようだ。


 確かに強者ほど力に誇りを持つ。

 格下を相手に力を振るって悦に浸るようなやつは銀はともかく、金にはいないだろう。

 そういうことをする奴は、一流にはなれないからな。


 そういう奴らがいると仮定して、銀の下位~中位レベルが怪しい。

 そいつら相手なら勇者補正を使わずとも勝てるだろう。 


 となると、理想は銀メダル。

 どんな強者がいるかわからない金からは相手にされず、銅のように格下狙いのやつからも狙われにくい。


 なんだけど、獣人の基本的な能力がどれくらいかわからないから、どの程度の力を出せばいいのかわからねぇ……。


 警戒されない程度に弱く、ムジンの中でケンカを吹っかけられない程度に強く。


 なんて面倒なミッションだ。


 ふむ、何の力を示すのがいいか……。


 知力。

 一応、力ってつくけど頭でっかちなモヤシと侮られる可能性もあるので却下した方がいいか。


 魅力。

 検討するまでもなく却下。


 耐久力。

 マゾじゃないので、殴られるとか却下。


 腕力、魔力。

 手加減の程度が不明なので却下。



(すべてが潰えた……。

 くっそ、平和に過ごすには強すぎず弱すぎずが一番。

 せめて基準値となる、適当なお手本がいればいいんだが……あっ!)


 その時。

 閃く。


「じゃあ、模擬戦しよう」


 模擬戦の相手に合わせればいい!

 そいつを少し上回る程度!


 試験に出てくるのは銀レベルくらいのはず!

 苦戦してる風を装い、ぎりぎりで倒せば万事解決だ!



「ほう。我等獣人と戦う、と」


「ルールは相手を殺す以外は何でもありだ。

 格闘も武器も魔法も詐術も卑怯も不意打ちも。文字通り何でもあり」


 挑発するように、にやりと笑う。

 それを見て、門番の顔にはっきりと笑みが浮かんだ。


 獰猛な、肉食獣の笑み。

 本能で戦いを望み、本能で戦いに臨む。


 言葉はなくとも、強烈な殺気が告げている。

 ――――よく言ったニンゲン。食い殺すぞ、と。


「いいだろう!

 ならば我、センワがそなたの挑戦を受ける!!」


「だれが来るかと思ったが、門番とはな」


「門番は強くなければつとまらん。

 押しとおろうとする者を蹴散らさなければならんうえ、試験官も兼ねるのでな」


「レベルは?銀か?」


「銀の内、中の上くらいか。

 安心しろ。倒せずとも、力を見せれば銅と認めてやる」


「おまえを倒せば銀、瞬殺で金でいいのか?」


 そういうと、彼はポカンとした表情の後、大声をあげて笑い出した。


「ふ、ふはははは!

 倒すなど、ましてや瞬殺など、なんの冗談だ!」


「いいさ、笑ってろ。

 それで、おまえは人化したままでいいのか?

 いまなら獣化するまで待ってやるぞ?」


 獣人に限らず、不特定多数を相手にする門番という性質上、人化しているセンワ。

 彼が獣化すれば、戦闘力は跳ね上がるだろう。


「はっ、させて見せろよニンゲン!」


「上等!かかってこいや!」


 互いに互いを挑発し、周囲に闘志が満ちていく。

 リースがマナを連れて離れ、準備が整った。


「狗族センワ!」


「アキラ・トウジョウ!」


「「いざ尋常に――――勝負!」」




 =======




 アキラは武器として、ベレッタを選択。


 双刀・天地は強すぎて殺さないのが難しい。


 魔力を撃ちだす銃ならば、威力の強弱がつけられる。


 そう考え、右腰につけておいたホルスターからベレッタを抜き放つ。


 センワに狙いをつけようと、アキラの右腕は銃を腰から真正面へつきだそうと跳ね上がる。


「なんだ……?」


 アキラの右手に握られた小さな塊――――銃が武器と知らないセンワは、戸惑いの声を漏らす。


 槍すらも届かない離れた間合いで、それでも自信満々で小さな塊を突き出す敵。


(よくわからないが、とりあえず避けろ――――!)


 わからないからといって、棒立ちになってやる義理はない。

 とりあえずアレは魔法具と判断し、左へ飛ぶ。


 タン!

 と軽い音の後、ついさっきまでセンワが立っていた場所に魔力の塊が放たれた。


(やはりあれは魔法具!魔力を放つ物か!

 ならば間合いを空けておくのは不利!)


 今の間合い、そして槍では遠くから撃たれ続けるだけで反撃できない。


 センワは獣人ならではの速度で、跳ぶ。


 限界まで頭を下げ、射線を外れると同時に空気抵抗を減らし。

 速度は出せる最速で。

 一足で、間合いにとび込む。


 その動きは、一般人には消えたように見えるはずだ。

 見ていた先にはすでに存在しないことに戸惑う内に、間合いに入られたことに気づかないまま槍に貫かれるだろう。


 だが――――。


「モード、≪散弾銃ショットガン≫」


 ――――補正を受けた勇者には丸見えだ。


 アキラの静かな声の後、ベレッタから放射状に魔力の弾丸がばら撒かれる。


 撃ちだすのは魔力の弾丸。

 定形のない魔力ならば、弾丸の種類を変えることだってできると考えたアキラは即座にそれを実行した。

 選んだのは近、中距離という状況で最も効果を発揮する散弾銃ショットガン


「くっ!」


 とび出した身体は急には止まれない。

 センワは壁の如く視界いっぱいに広がる魔力の弾に突っ込む寸前、せめてとばかりに槍を回して弾を弾く。


 それでもすべてを弾くことはできず、センワの身体は大きく吹っ飛ばされた。


「がはっ!」


 背中を地面にしたたかに打ち付け、肺の空気が追い出される。


「止まったらいい的だぜ!」


 アキラはその隙を逃すことなく、シグも取り出して散弾銃ショットガンモードを解除した二丁を撃ちまくった。


「くそったれ!」


 センワは痛む身体を奮い立たせ、今度は雨のごとく降り注ぐ魔力弾を避けていく。


(間合いを詰める暇がない!

 これじゃ遠距離から一方的になぶられ続けることになっちまう!

 こうなったら――――)


 手詰まりだからこそ、それを選択した。

 センワがいくら撃たれても避けるのに十分な間合いをとると、アキラも銃撃をやめた。


 それを受けてセンワは立ち止まると、吼えた。


「やってやるぞニンゲン!

 ォオオオオオオオオオオオ!!」


 センワは先祖から受け継いだ遺伝子を高め、人化を解いた。


 誇り高い狗族としての力を使うことを選んだ。


 センワの着ていた兜は脱げ落ち、服や軽鎧の隙間から毛がのぞく。

 筋肉は隆起し、口からは牙がぎらりと反射した。


 アキラはその変化を銃を向けつつも、黙って見ていた。


 センワはそんなアキラを睨みつけ、槍を捨てて爪を出した。


「安心しろ、殺すのは反則なので、半獣化で抑えておいた。

 だが、これを使わせたからには、さっきまでのようにはいかないぞ」


 自らの内にある、膨れ上がった力を感じ、センワは勝利を確信して嗤う。



 しかし、獣化したセンワを見たアキラの感想は。


「うわぁ、こえぇ……」


 兜が脱げたため、顔がはっきり見える。

 人ではなく、犬の顔。


 アキラの知識から見れば――――その顔はチワワだった。

 その特徴的なぎょろりとした目。

 なのに、鍛え上げられた肉体。


 今のセンワは、狼男の顔だけをチワワにすげ替えれば、イメージしやすいだろう。


「チワワって小型犬だからこそ可愛さが出るわけで……。

 筋骨隆々ムキムキマッチョの身体に小さな顔とギョロ目とか。

 アンバランスすぎて、キモい通り越してもう怖い……」


 生理的に無理であった。

 チワワなら可愛がれるが、アレは無理。


 そんなアキラの心情など知らないセンワは第2ラウンド開始とばかりに闘志をむき出しにしている。


「こないのならば、こちらから行くぞ!」


「うぉわぁああああ、来んなぁあああああ!!」


 迫ってくるセンワを見て、あまりの恐怖に半狂乱になったアキラはやたらめったらに銃を撃ち、振り回す。


「そんな狙いであたるものか!」


 めちゃくちゃにぶっ放しているだけなので、狙いもクソもない魔力弾は当たらない。

 ただでさえ、半獣化して敏捷性もあがっている。

 また、ろくに魔力も練られていない弾ので、体毛にはじかれる始末。



 どんどん迫ってくる人型マッチョチワワ(アキラ視点)。

 アキラはとりあえず引き離そうと、強力な範囲魔法を使って吹き飛ばす。


「くそがっ!来るなっつってんだろ!≪砂塵の嵐サンドストーム≫!」


「こんな上級魔法を使えるのか!?」


 センワは慌てて急ブレーキ、全力で範囲外に逃れる。

 アキラが動揺しているためか、威力も範囲もさほどではなかった。


(あんな魔法も使えたとは誤算だった。

 あれも考慮すると、これからどうするべきか……)


 再びある程度離れたところで、センワは作戦を練り直す。


 アキラが魔力弾を使っていたからか、センワはアキラがあまり魔法を使えないと判断していた。

 魔法の補助媒体である杖を持たず、ローブもないため、高位の魔法使いではないと。

 そして、魔法を上手く使えないから、魔法具を使って魔力そのものを撃ちだす戦闘スタイルを取っているのだと。


(懐に入られるのをああも嫌がる、ということは他の魔法使い同様接近戦は得意ではないということ。

 魔法抵抗力に低い獣人相手に魔法使いは天敵だが、格闘剣術などの戦闘力が低い魔法使いにとっても獣人は天敵。

 狗族としての速度と身体ならば、あれくらいの魔法は避けられる)


 センワは懐に入り込めばたやすいという新たな誤算を導き出した。


 アキラが懐に入られるのを嫌がったのはセンワが怖かったからで接近戦が得意じゃないからではないというのに。



 一方、アキラは。


 さっさと半獣化を解いて、人化するか完全に獣化するかしてほしい。

 そのためには、さっさとこの戦闘を終わらせるしかない。


 さらに言えば、あいつを近づけたくない。

 だが、あいつは速いし硬い。生半可な攻撃は避けられるし防がれる。


(なら、気づかれないように強力な攻撃をするしかない)


 相手に気づかれないなら速さは意味を失う。

 それを、硬さをもろともしない強力な一撃で行う。


 方針は決定。

 やり方は思考中。


 準備万端とは到底言えないが――――、やるしかないか。



「どうしたセンワ?黙っちまって。怖気づいたのか?」


「おまえがあんな魔法を使うとは思わなかった。

 だが、あの程度なら避けられる。もう終わりだ」


「そうかい。じゃあ、仕切り直しだ」


「ああ。いつでも来い!

 狗族の力を見せてや――――――」


「≪座標攻撃ポイントアタック≫!!」


「――――がはっ!?」


 アキラが声を遮って、魔法の行使を叫ぶ。

 その名の通り、座標そのものへ直接攻撃を叩きこむ魔法。


 予備動作は魔法の詠唱しかなく、それも一瞬で済む。


 いきなり、後頭部に衝撃を受けたセンワは前のめりに倒れ込んだ。

 何が起こったかわからないが、なにかをされたことはわかる。

 だから、センワはアキラを睨みつけた。


「きさっま……!」


「最初に言った。卑怯もあり。不意打ちくらい当然だ。

 それにな、おまえが言ったことだぜ。

『いつでも来い』とな。オレが攻撃したのはその言葉の後だ」


「くそ、ったれ……!」


 くらくらとかすむ視界の中、悪態をついた。


 悪態はついたが、きちんとわかっている。


 卑怯汚いは敗者の戯言。

 それに、これは決闘ではなく試験だ。

 提示されたルール上も問題ない。


 自らの油断が招いたこと。

 センワは潔くそう判断した。


「で、オレは合格か?」


 アキラは銃を向けながら、そう聞いた。

 ここに至っても、センワの顔を極力見ないようにしながら。


 失礼だとは思っていても、怖いものは怖いのだ。



「――――ああっ、合格だ。

 最後、おまえ何しやがった?」


「あ、あれか?あれはな、えっと、おまえの背後からこっそり、な」


 内心、冷や汗を垂らしながらアキラは平静を装う。

 やべ、そう苦戦しないで勝っちゃった……。

 しかもオリジナル魔法使っちまったし。


「あの魔法はいったい……?」


「うぁ~、あれだ!撃っておいた魔力弾をこっそり動かしておまえの背後に持っていったんだ!」


「なんだその言い方は?」


「気にすんな!これで、オレも入国していいんだろうな!」


「ああ、ちょっと待て。

 それをなくすなよ?なくせば不法入国扱いされても文句はいえんからな。」


 センワは懐から紐につけられた金色のメダルを取り出す。


「いや、金じゃなくて銀でいい」


「おまえは間合いに入られることなく、無傷だ。銀の我を圧倒したのならば金がふさわしいだろう」


「オレに金を受け取る資格はない。

 あんな不意打ち、正々堂々たる決闘じゃあ使えないからな。

 だから、おまえを正々堂々倒せるようになったら金をもらうさ」


「そうか。なら、貴様との再戦を待っている」


 よっし、誤魔化せた!こんな風に言っとけば金を辞退する理由になると思ったぜ!

 再戦とかしないがな!


「ああ。じゃあ、ありがたくそれを受けと――――」


 改めて銀色のメダルを受け取ろうと手を伸ばしたとき。


「ちょっと待ったぁああああああああ!!」


 ダン!


 目の前に飛び降りてきたなにかが、センワとの間に立つと同時、メダルを奪った。


「うぉ!?」


「な、なんだ!?」


 突如降り立った男は、メダルを懐にしまってバックステップ。

 一連の流れが実に自然に、そして早く行われた。


「おい、なんだおまえ!」


 やっと硬直がとけたアキラは乱入した若い男を指さし怒りを露わにする。


 しかし、相手はそんなものどこ吹く風。

 さらりと無視する、どころか。


「このメダルが欲しければ、オレと戦ってもらおうか!

 おまえ強そうだからな!!」


 挑発してきた。



「あ、あ……」


「どうしたセンワ。門番として、このメダル泥棒ひっとらえろよ」


 なぜか口をぽかんと開き、同じ言葉しか発さないセンワを小突く。


 しかし、彼は再起動はしないまま、壊れたレコードのように「あ、ああ……」と繰り返す。


 そして。


「あ、あなた様は……ムジン様!?」



 ムジン、サマ?

 確か、この国の王がそんな、名前……。


「うえぇええええええ!?

 なんで王サマが!?」


「さっきも言ったろ。

 おまえはもっと強い!オレの勘がそう言ってる!!

 だからおまえと戦いたい!

 だからオレと戦え!!」




 アキラの大きな誤算は2つ。



 真の強者は弱者のことなど相手にしないと、単純に考えてしまったこと。

 センワの半獣化マッチョチワワに動揺し、さっさと終わらせようと力の片鱗を見せてしまったこと。



 ここは力こそ全ての国、獣王国家ムジン。


 つまり、極端に言えば、ここは戦闘狂バトルジャンキーの国なのだ。


 真の強者は本能で強者どうるいを判断する。

 力に対する嗅覚が尋常ではないため、『弱者を装った強者』は嗅ぎ分けられる。


 そして、ひとたび力の片鱗の垣間見せれば、全力を引き出そうと集いくる。


 その結果。


「さあ、オレと楽しく殴り合おうぜぇ!!」


 アキラは国王ジョーカーを引き寄せた。

ムジン国王のファーストネームどうしようかなぁ……。

ネーミングセンスがほしい……。

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