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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
2章:獣王国家ムジン編
24/46

3:最低と最悪

やはり戦闘シーンは難しい……。

なんか冗長になるなぁ……

「アキラ……?」


「リース、ちょっと行ってくるわ」


「ちょっ!?」


 最後まで聞かず、馬車の淵に足をかける。


 アキラは顔に手をやり、その手を下ろしたときには顔には一つの仮面がつけられていた。

仮面舞踏会マスカレード≫。

 それは顔を変える魔法。


 いつかのように、東城アキラではなく、金髪イケメンの対外的な勇者アカツキ・ヒガシの顔に変化。


 それが終わったことを確かめ、「ふっ」と呼気を一つ。一気に跳ぶ。

 足場にした木が折れた音がしたが、かまうものか。


 100メートル超の距離を一足飛び。

 通りすぎる風を心地よく感じながら、舞うように跳ぶ。

 その距離を滞空している間に、亜空間から久しぶりの登場になるベレッタとシグを取り出した。


「よっ、と」


 軽く狙いをつけ、無属性のただの魔力弾を放つ。

 狙いは、戦闘領域を離脱しようと急ぐ馬車。


 タタタタッ、と馬車の周りへ発砲。

 馬は怯え、御者は転げ落ち、馬車はその動きを止められた。


 脂小太りのわめき声が聞こえる気がするが、無視して嫌がらせも兼ねて何発も撃っていく。

 その反動で体勢を微調整、身体をランドドラゴンの頭上へ持っていくために。



「グルゥォアアアアアアアアアアアア!!」


 眼下から、ようやく石つぶてと爆風から復活したランドドラゴンの怒りの咆哮が響く。


 魔法使いの少女と数人の奴隷たちは、それを見てビクッと身をすくませる。

 腰を抜かし、ケガした足や鎖のついた足のままで、叶わないと知りながらもずるずると後ずさろうとする。


 そこへ。


「口閉じろトカゲ」


「ガフッ!?」


 強烈な一撃。


 ランドドラゴンの頭上へつけたアキラは身をくるりと回し、全体重をかけた回し蹴りをくらわせた。

 強制的に咆哮は鳴りやみ、冒険者たちを飲み込まんとしていた口は閉ざされる。



 その光景を、だれもがポカンとした表情で眺めていた。


 理解ができない。


 冒険者からすれば、あれほど苦戦していた相手にあっさり放った蹴りがダメージを与えるなんてことが。


 奴隷からすれば、突然どこからか跳んできて、竜種に蹴りを入れる救いが現れるという事態そのものが。



 アキラはそんな彼らではなく、虚ろな目でただただ諦観している数人を真正面から見据え、突きつける。


「さて、おまえらの全部諦めたクソみたいな人生をまだまだ続かせてやる。

 ここがおまえらの転換点だ」


「グルァアアアアアア!!」


「うぜぇよ」


 背後から、完全なる死角からの攻撃。

 それを虫でも払うかのような態度で蹴り飛ばす。


 斜め下からの回し蹴りで顎をかち上げ、這っていた身体をのけぞらせる。

 顎を蹴った勢いのままに足を地面につけると、ランドドラゴンが体勢を立て直す前に懐へ。

 がら空きになった胴体に、魔力の身体強化を受けた全力の蹴り上げ。


「ギィギャァアアア!」


 アキラの4倍はあろうかというランドドラゴンがくの字に曲がって、宙へ。

 砂塵を伴い飛び上がる。


「オラァアアアア!!」


 持っていた二丁拳銃を向ける。

 属性をランドドラゴンの弱点、風の上位属性の嵐へ換装。

 魔改造によって得たフルオートに設定。

 二丁を構え、引き金をぐいっと引いたまま固定する。


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!


 まさに嵐の如く降り注ぐ緑の彗星。


「ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 銃撃の音は鳴りやまず。

 竜の悲鳴は途切れない。


 絶え間なく撃ち込まれる銃撃に、竜は地面へ落ちることを許されない。

 肩が下がれば肩が、足が下がれば足が、頭が下がれば頭が、次々と撃たれ跳ね上げられる。


 威力の抑えられた弾では体を貫通することなく、打撃を与えられ続けたランドドラゴンは悲鳴すら上げることはできなくなっていた。

 アキラは銃をしまい、緩やかに下降してくるそれに、手のひらを向けて。


「さあ、終わりだ。

≪火よ、汝はすべてを燃やし尽くす破壊の権化。≫」


 先程の少女が失敗した魔法を強化させ、放つ。

 いい趣向だろう、と言わんばかりに口の端を歪めて。

 力量を計られないよう、無詠唱ではなくきちんと詠唱する。


「≪風よ、汝は火を助け、ともに燃え盛り炎を成す。≫」



 それは魔法使いの少女のものとは似て非なる魔法。

 なによりも、それは少女が一番肌で感じていた。


 炎は一瞬で形を成し、籠められた魔力と熱量はビリビリと威圧感を発し、なのに肌を軽く焼くような熱さは感じない。

 熱はすべて槍に閉じ込められ、完全に制御されている。


 その色は赤ではなく、もはや青白い。

 少女は気づかなかったが、火と風によって酸素供給量をいじった結果、火と火のかけ合わせでつくるよりも少ない魔力で到達できる炎の領域だ。


 それを、いとも簡単に作り上げた。



「≪炎よ、汝はすべてを燃やし、燃やし、燃やし尽くせ。灰すら残さずすべては無へ≫」


 込められた意志は「燃やし尽くす」という強烈な意志。

 少女のように「爆ぜよ」と爆散させるのではなく、「燃やし尽くせ」と燃焼させる。

 前者は衝撃が広がる分、与える威力が若干下がってしまうが、後者にはそれがない。


 槍を構成するすべてが敵だけを殺すために存在する。


 圧倒的な殺意を宿す槍。

 それなのに。


「きれい……」


 少女は思わずそう漏らした。




「≪蒼炎の槍≫」


 アキラは青く燃え盛る炎の槍を、振りかぶって――――投擲。


 飛べないランドドラゴンに避ける術はなく、槍はその腹に直撃すると貫通することなく炎がそこから広がり竜を包みこむ。


「――――――!!」


 断末魔の叫びすら漏らすことも許さない。

 青い炎は一瞬にしてドラゴンを燃やし、微かに残った灰すらも風に流されて。

 なにも遺さなかった。


「……………………」


 だれもが呆然と、竜が燃え尽きた後の空を見上げていた。




 ===========




「おっ、おぉおおお、よくやったぞ貴様!」


 静かな空気をぶち壊したのは、馬車から文字通り転がり落ちた例のアイツだった。


「……空気の読めねぇ脂小太りが」


 アキラは心底憎たらしい、とばかりに舌打ちする。


 おまえに褒められたくなんかねェし、おまえのためでもねぇ、と嫌悪のオーラが身体全体から発せられているがそれに気づかず脂小太りはのしのし歩いてアキラに詰め寄った。


「貴様、よくやってくれた。

 おかげで『商品』は無傷だ!」


 ピクッ、とこめかみに青筋が立ったような気がする。

 自分でも自分の顔がどうなっているかわからない。

 脂小太りが汚らしく笑っているから気づいていないんだろうな。


「先程の護衛たちはなんとも使えないやつばかりだった!なので貴様は我輩の護衛として使ってやろう!」


 どんだけ上から目線だこいつ……。

 我慢我慢。聞きたいことを聞くまで我慢だオレ……。


「使えない……?

 ランドドラゴン相手に善戦していたようだが?」


「ぶふっ!」


 ええぇー、なにその笑い方……。

 アキラはドン引き。

 脂ぎった醜く汚い顔が歪んで何とも言えない、というか言いたくない顔を形成していた。


「6人がかりでいつまでたっても倒せず、挙句同士討ちするような冒険者など役立たずとしか言いようがないではないか!

 Bランクだというから雇ってやったのに、まったく使えない!」


「そんなっ……最低っ!なにそれ!

 依頼を受けた護衛に対してそんなこと言うなんて!

 しかも、わたしを剣で斬りつけてドラゴンのエサ兼足止め扱い!

 このことはギルドに報告して罰を受けてもらうわ!」


 魔法使いの少女はいまだ倒れている仲間たちを治療する傍ら、投げつけられた罵倒を聞いて憤る。

 そこに今までの気弱さはなりをひそめ、脂小太りを気丈な目でにらみつけていた。


「それは困るな。

 ほら、そこの新護衛。そのうるさい女を殺せ」


 脂小太りはアゴで指示する。

 その目線の先にいるのは……え、オレ?

 護衛するなんて言ってないのに、もう護衛扱い?


「…………」


 オレは黙って少女に近づくと、少女はビクッと身を固くすくませ、それでも持っていた杖をオレに向けた。

 杖を軽くのけて、手のひらを彼女に向ける。


「≪治癒ヒール≫」


「……え?」


 魔法使いの少女、そしてその仲間であろう護衛パーティーの傷を癒す。


「き、貴様!なにをしている!」


「治療しただけだ」


「貴様、命令に逆らうなど!」


「オレも冒険者でね。信頼できない依頼主につくなんざありえない。

 護衛を切りつけ、奴隷を捨てゴマにする。そんなやつの下じゃいつか自分も切られるからな」


 ベレッタを持ち上げ、脂小太りに向ける。

 この世界にここまで高度な銃はないが、先ほどの戦闘を見ていたらこれがどんなに危険なものかはわかるだろう。


 その証拠に、面白いほど慌てはじめた。


「お、ぉい、なんだそれは。なんのつもり……」


「おまえの護衛?そんな依頼は受けない。だからおまえの命令はきかない」


 …………≪――――――≫。

 脂小太りに聞こえないように、そうつぶやく。

 持っていたベレッタが微かな魔力に反応して、淡く光ったことには気づかれなかったようだ。


「――――テメェごときが、オレに命令できるだなんて思うなよ?」


「なっ!!このクピッグ商会次期会長のトンポー・クピッグ様に対してその口のきき方……!!

 貴族御用達の我が商会を敵に回すことがどういうことかわかっているのだろうなっ!!」


「さっさと消えろ」


 クピッグ商会……。それが聞ければもう十分だ。


「くっ、クソッ!」


 脂小太りはわたわたと落とした食料を拾い集め、奴隷たちを馬車へと押し込んでいく。


 アキラはそれを眺めながら、その背中に声をかけた。


「待て。その子は置いていけ」


 奴隷たちの内、一人だけ。

 頭に猫耳が生えている獣人の少女。


 奴隷たちの中で、最も目が虚ろで、生気が感じられない。

 生命力ではなく、生きようという気持ちそのものが感じられない。


 そこに、自分が歩んでいたかもしれない果てを幻視して、アキラはその少女を要求した。

 今から向かう獣王国家ムジンならば獣人もいる。

 せめて彼女だけは直接連れて行こう。そう思って。


「貴様、言うにことかいてなにをっ!」


「命を救ってやったんだ。これくらいいいだろう。

 ……それとも、今すぐテメェを殺して奪ってやろうか?」


 全力の殺気を叩きつける。

 脂小太りは「ひっ」と震え、何度も何度も失敗しながらようやく手かせ足かせを解いた。

 その様を、件の猫耳はただただ見ているだけ。


 奴隷契約書を交わし、首輪にアキラの魔力を認識させて終了。

 一連をびくびくしながら終えた脂小太りは一目散に馬車へ乗り込んでいった。


 獣人の少女を除いた奴隷たちが乗り込み終わった後、ようやく目が覚めた護衛たちが不承不承といった感じでそれについていく。

 さすがに、荒野のど真ん中でおいて行かれるのは困る上、護衛の依頼を放り出すわけにはいかないらしい。

 後々、ギルドに報告はするだろうが、それまではついていくようだ。


 その中から一人がこちらに歩いてくる。

 護衛パーティーのリーダーらしきヒゲ槍のおっさんだ。


「どうやら、あなたのおかげで助かったらしいな。礼を言う」


「別にいい。ただ、ギルドに報告するなりしてあの脂小太りはきっちり制裁しろよ」


「ああ。力ある商会だから直接の制裁はできないだろうが、ブラックリストに乗せるよう働きかける」


「ならいいさ。気をつけろよ。魔物にも、あの脂小太りにもな」


「感謝する」


 うーん、ダンディだ。

 ヒゲ槍の後ろ姿を見ているとそう思う。


「行くぞっ!!」


 走り出した脂小太りの馬車を見送る。


 今は殺さない。


 今は、な。





 さっき、こっそり脂小太りに使った魔法は≪寄生虫パラサイト≫。


 相手の体内にもぐりこみ、魔法を使った者の命令に対象者を永続的に従わせる魔法。

 相手の持つ魔力を糧に、ずっと働き続ける最悪の魔法。


 これが便利なのは、発見の困難さにある。


 精神干渉系の魔法は、魔法の痕跡が残る。

 探査系魔法を使うとバレてしまい、被使用者以外の、第三者(魔法行使者)の魔力が見つかってしまう。


 ようは、探査系魔法に引っかかるのだ。


 だが、≪寄生虫パラサイト≫はあくまで宿主の魔力を使っているため、感知されるのは宿主の魔力だけだ。


 第三者の魔力は感じられず、探査系魔法の網を潜り抜ける。



 ここで、脂小太りに宿した≪寄生虫パラサイト≫に与えた命令は5つ。


 1、奴隷や護衛に害を与える行動はしない。

 2、クピッグ商会に戻って、商会にいるすべての奴隷たちに商会の全財産を分配した後、解放せよ。

 3、2の邪魔をする者は全力で排除。

 4、クピッグ商会を潰せ。

 5、すべてを終えたのち、自害せよ。



 今ここで数人の奴隷たちだけを助けても、どうにもならない。


 荒野のど真ん中から連れて行く手段もない上に(ボルクの馬車はそう広くない)、孤児院などのアテもない。

 なにより、大元の原因、奴隷商人であるあいつらの商会は潰せない。



 だから、≪寄生虫パラサイト≫を使うことにした。

 結果は、数日後。あいつらが拠点に着いた後にわかる。

 例のゴシップ雑誌まがいの新聞らしきもの(なんとも怪しい雰囲気だな)が楽しみだ。



 にやにやほくそ笑んだ後、アキラは隣の少女に声をかけた。


「そんじゃま、オレ達も行くか?」


「…………」


「反応なし、か。まあいい。行くぞ」


 ポツリとそう言って、アキラは獣人の少女を背負って、地面を強く蹴る。

 遠くに見えるボルクの馬車へ向かう。


「…………」


 にこりともしない少女を伴って。


「やれやれ。先が思いやられるね……」


 そのつぶやきにも、虚ろな少女は何の反応も示さなかった。

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