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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
2章:獣王国家ムジン編
22/46

1:他者から見た変化

切りのいい前話で終わらせるべきか、続けるべきか、いろいろな意見をいただきました。

自分は元々続けるつもりでしたし、最後の最後はハッピーエンドがいいなぁと思うタチなので先に続けることにします。

できれば最後までよろしくお願いします。

『聖王国家ペルヴィア崩壊!

 ~勇者の反逆と王家の暗部~』


「……なに、これ?」


 手渡された紙束に書いてあったのは、そんな見出し。

 この世界におけるゴシップ雑誌のようなもんなのかな。


「いやぁー、びっくりだよねー。いやさ、僕も行商でペルヴィアに向かうところだったんだけどさ、もう大混乱で。

 城ごと武器も食料の備蓄もなくなって。噂では雷にうたれた兵士の装備がおもちゃになってるなんてものもあるくらいさ」


 ごとごとと揺れながらペルヴィアを離れる馬車の中で、オレ達を乗せてくれた商人のボルクがからからと笑う。

 その表情と言っている内容は真逆だ。


「だが、商人にとってはいい機会なのではないか?

 モノが足りんのならば、儲けるちゃんすであろう?

 どうして引き返したりしたんじゃ?」


 人間形態のリースがそう言う。

 慣れない馬車でお尻が痛いのか、こっそりさすっていた。

 かくいうオレもケツが痛い。

 緩衝材とかマットとかないものかねぇ……。


「それはきちんとした市場の話だよ。

 足りないモノに対する希少価値を含めた対価がきちんと払われてこそ、のね」


「どう違うのじゃ?」


「うーん。例えばね、食料難の時、ご飯を持っていくといっぱい売れるよね?

 だけど、それが儲けになるにはきちんと代金をもらわないといけないんだ」


「買い物に金を払うのは当然であろう。

 アキラに教わったからしっているぞ!」


 どこか得意気に胸を張るリース。

 ま、たいしてはれていないんだけど。


「アキラ?なんじゃその目は」


「なんでもないです。ええ、なにも思ってなんかいないですとも」


「ならいいのじゃ。

 それでボルクよ。お主の言う通りならやはりチャンスじゃろうに」


「いやいや、そう甘くなかったんだよ。

 国庫が消えたって言ったでしょ?

 ようは、国から大量にお金がなくなっちゃったんだよ」


「ん?モノを買うのは民であろう。

 民の金はなくなっていないはずじゃ」


 ちらり、とこちらをうかがうリース。

 それに小さくうなずき肯定を示す。

 そんな時間はなかったからな。


「この混乱に乗じて、隣国の『帝国』と『城塞都市』が王国を属国化しようとしてね。

 さっき言った通り、王都の武器屋以外ろくな武器がなくなって、あっさり終わったみたいだ。

 その国がね、国庫がないからって民から金を徴収してるんだよ。

 おかげで治安は悪化して、行商に来た商人は入って数分で持ち物全部奪われるって噂さ」


「むう……ひどいのぅ……」


「ギルドは?治安維持とかしなかったのか?」


 うなるリースの頭を撫でて、とりあえず紙束を膝に置く。

 ボルクはオレの疑問に手をありえないとばかりに振りながら笑って答えた。


「ギルドは一目散に撤退したよ。

 慈善事業じゃないからね。冒険者は命がかかってるいる分、僕ら商人よりもシビアな時がある。

 金と命のつりあいが取れるかどうかには敏感だ」


「ふーん。そんなものか……。

 にしてもさ、式典にはその国のやつらも来てたんだろ?

 じゃあ、城ごと金が消えたってことくらい知ってたはずだ。

 なのになんでそいつらは侵略しに来たんだ?」


 ボルクに尋ねる。

 兵士がいなくなったから治安の悪化はあり得るかとも思っていたが、そこはギルドがなんとかすると思っていた。

 でも、まさか周辺各国が動くとは思っていなかったのだが。


「ペルヴィアは周りを国に囲まれているからね。

 勇者の力でなんとか侵略を免れていたに過ぎない。

 そんな国を抑えれば遠くの国へ侵攻するのも楽になるし、鉄などの鉱脈もある。

 どうせ難民化した民衆は押し寄せるんだから、せめて旨みを、ってことじゃないかな」


「へー。さすがあきんど。

 金の関わる話には頭が回るねー」


「それほどでもないかな、あはは」


 照れたのか、頭をかきながら頬を染めるボルク。

 どうでもいいが、30半ばの男がしてもなぁ……という仕草である。


 話がひと段落したので、もう一度新聞に目を落とした。


『聖王国家ペルヴィア崩壊!

 ~勇者の反逆と王家の暗部~』


 センセーショナルな見出しの下、記事には事実と憶測織り交ぜて面白おかしく書いてある。

 

 そこに書いてあるのは、勇者が行ったことや宣言、王族の死、城の消失と言った事実から憶測を広げている。

 いわく、王族は今代の勇者を制御しきれなかった。

 いわく、勇者は悪逆非道で容赦がなく、万を超える犠牲がでた。

 いわく、周辺各国、とくに『帝国』が反逆勇者のカウンターとして召喚を行うため研究中!?


(最後のこれ、記者の憶測だろうけど……、カウンター兵器として新たな勇者をよぶつもりか……?)


 こんな重要な情報が漏れるとは思えない。

 だが、根も葉もない、とは言いきれないのが怖い所だ。

 記者でも考え付いたことを、国の上層部が考えないわけがない。

 心構えだけでもしておいた方がいいかもしれないな。


(しっかし、あれだけのことをしでかした前例のある勇者をまた呼ぼうなんて考え……。

 自分たちなら制御できるとでもうぬぼれているのか?)


 自然、手に力が入ってぐしゃりと紙束が潰れた。


「わわ、ごめんボルク。せっかく見せてもらったのに……。

 お金は払うから」


「いや、やぶれたわけじゃないし、僕個人のものだからいいんだけど……。

 どうしたの?そんなに怒るなんて」


 見れば、ボルクだけじゃなくリースまで心配の色を浮かべていた。

 それをごまかすため、努めて明るい声でおどけてみせる。


「この勇者の似顔絵見てねー。かっこいい癖に勇者とかくたばれって感じですよね」


 記事に大きく書いてあるのは変装、というか変身した後の姿。

 ま、イケメンになるようにしたんだけどね。


「む、似顔絵まで出回っているとは……。

 そやつは賞金首にでもなったのかのう?」


「リースちゃん、そうじゃないみたいだよ?

 さすがに一人で国を崩壊させた相手に手を出しても無駄だろうし、表立っては探されてないだろうね」


「表立って?」


 ボルクの言葉に違和感を覚えたのか、リースは小首をかしげる。


「ギルドの賞金首にはならないだろうけど、どこの国も水面下では探してるんじゃないかな。

 あくまで僕の予想では、だけど」


「水面下、ねぇ。

 接触してどうするつもりなんだかな」


「僕が思うに、我が国には手を出さないでくださいって不干渉をお願いするか――――」


「――――とっ捕まえて、兵士にでもするかってところか」


 ボルクのセリフを奪って、そうつぶやく。

 彼はそれに頷いて。


「十中八九後者だろうねー。

 だって不干渉なら探さなくてもいいし」


「野放しでも怖いし、だが好戦的な国に入られると考えるとそれも怖い。

 この勇者ってやつはどこに行って、これからどうするんだか……。

 それだけで色々と大事になりそうだ」


 自嘲気味に、そう漏らす。


 どこかの国へ入ることは、一見するとそう悪い選択肢じゃないように思える。

 一つの国に入り、その国に保護してもらう。

 代わりに戦力になる必要があるが、追われる心配はなくなる。


 だが、それも国がまともだったときの話。

 ペルヴィアのようなクソみたいな国もありうる。


 それに例え国がまともだとしても、監視はつくだろうからゆっくり一息つくこともできなくなるだろう。


 だから、その選択肢はない。

 国なんて信用できるはずがないのだ。


「そうそう。勇者は置いといてさ、アキラくんたちはこれからどうするの?

 ペルヴィアに行く途中だったんだよね?」


「そうだったんだけど……。式典を見に行くつもりが、遅れて。

 でも、そのおかげでボルクに出会えてよかった。

 まさかペルヴィアがそんなことになっているとは思わなかったから」


「うむ、その通りじゃな」


 ボルクはいい人だ。

 そんな人に嘘をつくのは少し心苦しいが、そういうことにしておいた。

 ペルヴィアに向かうつもりが、その国の方角から向かってくる馬車にたまたま声をかけ、状況を知って引き返す。

 運のいい旅人、それがオレ達だ。


「まあ、おかげで目的地がなくなったんだけど。

 そういうボルクはこれからどこに向かうんだ?」


「うーん、このまま拠点のある街まで戻ってもいいんだけどさ、行商でここまで来ちゃったからね。

 帰り道の近くにある街でなにか売っていくつもり」


「その方向に近い国なんかはないかな?

 どうせ旅人、王国にこだわる必要はないしね」


「それなら、獣王国家ムジンだね。

 獣人や賢獣の国で、腕力至上主義の国だよ」


「じゃあ、その分かれ道まで相乗りさせてもらっていいかな?

 これでも冒険者。護衛はするからさ」


「それならオーケーだよ。

 僕もギルドの護衛がいたんだけどね、依頼はペルヴィアまでだったんだけど、王都で別れちゃってね。

 なんでも王都のギルドに知り合いがいるらしくて。

 帰りの護衛は国の混乱でそれどころじゃないし、不安だったんだ」


 だが、そこで彼は口を濁し、申し訳なさそうに続きを話した。


「でもね、食料があまりないんだ。

 切り詰めればいけないこともないけど……。途中で獣を捕えてもらわないといけないかも」


「ああ、こっちもある程度の食糧はあるので、大丈夫です。

 相乗りまでさせてもらうんですから、ボルクさんにもあげますよ」


 そういって、背負ったリュックから食料を取り出す――――ように見せかけて中につくった亜空間からバレないように取り出した。


「それはありがたい。じゃあ、途中までだけどよろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そういって、握手を交わす。

 魔法を使って飛んでいくのもいいが、あまり目立ちたくない。

 いろいろ情報も得たし、乗りかかった船(馬車?)だ。護衛の経験でもしておこう。

 それに冒険者として過ごすなら馬車にはなれないといけないから、いい機会と思うことにする。


 そんな風に納得した時。



「グルォオオオオオオオオオオオ!!」



 遠くで、大きな雄叫びが轟いた。

獣王国家ムジン。

獣王ムジン→じゅうおうむじん→縦横無尽

という安直ネーミング。

ムジンは無人とかけられることに気づいて一番驚いたのは作者かもしれない。

誤字修正。

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