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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
1章:聖王国家ペルヴィア編
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EX3:side~リース~1

500万PV記念のリース話です。

アキラくんと出会う前までの話となっています。

 自分と他の同族たちは違っていた。

 フェンリル族の隠れ里という小さな世界。


 その中で、我は“ズレて”いた



 それを最初に自覚したのは、生後1年ほどの時。


 初めての狩りの時だ。


 同族たちが傷つきながらも学び、獲物を狩っていった。

 かすり傷一つでさえも、つくことはなかった。


 同族たちが初めての成功に喜び、鮮やかな思い出を得た。

 それはただの作業に過ぎず、達成したというほどのことでもなかった。


 色褪せていた。

 温度差があった。


 同族の感情が頭では分かっても、心では分からない。

 理解はできても、共感はできない。


 どうして喜べる?

 あんな雑魚に傷をつけられたのに。


 どうして喜べる?

 できて当然のことができただけなのに。


 なあ、どうしてなんだ?




 そうしたズレを抱えながら、年月を過ごし。

 次のズレを感じた。


 ある時。同い年のオスを下した。

 発情期に、とあるオスが寄ってきたのがその原因。


 どうしてもそんな気にはなれず、嫌悪すら抱いた我はそれをはねのけた。


「こんな奴に身をゆだねるなどあり得ない」


 言葉にするなら、これが一番近いように思う。


 上手く言いづらいが、自らの選択は――――心は正しいことだと思っていた。

 だから、それを信じ続け、それに従い続けた。


 しかし、このようなことを考えるのは異端だったようだ。


 個体種の少ないフェンリル族は、絶滅のすぐ隣を歩いていたのだから。


 強いオスを望む精神性・誇りはあろうと、それは何十年もの間、子をなさないこととは直結しない。

 巡る年月の中、一度も子を産んでおらず、そもそも一度だって交わってすらいない、なんて個体は彼女だけだった。


 自分よりも強い個体は確かにいたのだから、ソレを選ぶこともできたはずなのだ。


 それでも。

 たとえ強く、里一番とされるソレが。

 皆が言うほど強くも気高くも感じられなかったのは、やはり我だけだったのだろう。



 ズレが決定的なものとなったのが、里一番のオスを下した時だ。


 ヒマな時間、いや、ほぼすべての時間を鍛錬にのみ費やしてきた。


 そのおかげか、元よりぬきんでていた実力は瞬く間に伸びていった。


 メスの中では、最も強いと噂されるほどに。


 我としては、その噂は間違いであり、メスの中という枠などいらないと思っていたが。



 里一番のオスから襲われた――――という表現は我の認識であり、向こうとしては繁殖のための当然の行為だろう――――時、それをはっきりと確信した。



 そのオスとしては強い個体を求め、より強い個体を産み出すためだったのだろう。

 まあ、我の不遜な態度に誇りを傷つけられ、鼻っ柱を折ってやろうというのもあったのかもしれないが。



 そして、それはどちらも失敗した。


 我が強く、相手が弱かったからだ。

 一瞬だけひやりとした場面はあったものの、それだけだ。



 そして、我の行いは同族にとって、やはり異端の一言に尽きたようだ。


 フェンリル族としての繁栄を望まぬかのような行い。

 力で言えば群れのボスともなりうるオスを拒絶。


 そのオスを慕っている、狙っている者からすればやはり苛立つ行いだったのだろう。


 我としては、当然の如く、弱き者に身を任せる気が起きなかっただけなのだが。



 だが。この戦いで得たものがあった。


 一瞬だけ。

 ほんの刹那。

 感じたものがあった。


 微かに、触れた死は。

 我に色を与えた。


 色褪せていた景色が、鮮やかに見えた。


 初めてであった困難が、壁が、達成の喜びを垣間見せた。


 ……次の瞬間には、やはり容易いことだったと、諦めることになったのだが。


 刹那の間に得たソレは、この手から零れ落ち、二度とはつかめなかった


 だが。

 あの時感じた熱が、(ほとばし)る「生」の実感が、我を(とりこ)にした。



 だから、戦いを求めた。

 近くになければ外に出て、ひたすらに強者を求めた。


 同族たちと戦った。

 終始つまらぬ戦いだった。


 魔族と戦った。

 初めて見た魔法に関心を覚えたものの、打ち破ってしまえば再び色が抜け落ちた。


 獣人と戦った。

 身体に傷をつけられたことに歓喜したが、全力をだせば終わりが訪れた。


 人間と戦った。

 思いもよらぬ方法が飛び出してきたが、一振りでそれは脆くも崩れ去った。



 戦いを経るごとに、求める強者の基準が上がっていく。

「生」を感じる瞬間が減っていく。



 同族とのズレだったものは、いつしか世界とのズレのように感じていた。


 ただ漫然と生きている。

 呼吸している。食事している。就寝している。

 ああ、それだけだ。


 そこに意味はない。

 そこに意義はない。

 そこに貴賤はない。

 そこに価値はない。


 ズレている。

 色がない。


 望んでいた「生」は得られないまま過ぎていく。


 もがくように、戦いを挑み続ける。

 終わった後に残るのは虚しさだけ。


 ふと、原因を考えてみた。

 このズレの原因は、いったいなんなのかと。


 答えは、強さ。


 生まれたときから、その強さ故に同じ立場の者がいない。

 その強さ故に、伴う誇りは尊く気高いものとなる。


 だから理解されない。理解できない。


 ――――強者が欲しい。

 ――――生を実感させてくれる強者が。

 ――――このズレを埋めてくれる強者が。

 ――――共に並び立てる強者が。



 そんな、諦めが混じり始めたある日。


 見つけたのは、半透明の幽鬼。

 か弱い人の姿をしているにもかかわらず、放つ力の波動は今までとは段違いだ。


 ――――ああ、そういえば、まだ霊の類とは戦っていなかったか。


 そんなとりとめのない思考が浮かび。

 速やかに意識、身体、すべてを戦闘へシフトさせていく。


 ――――おまえは、どうなのだ。そこな幽鬼よ。


 ――――我に、「生」を実感させてくれるのか?


 そこに宿すは一縷の望み。

 ずっと届かなかった願いへ、今一度手を伸ばす。



 ――――さぁ、幽鬼よ。

 ――――おぬしは我とともに、並び立ってくれるのか?

かっこいいリースを目指して書き始めたはずが、なぜかこんな話に……。


孤高という属性もちだからか会話らしい会話もなく……。

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