2:勇者
はい、やってきました謁見の間、の前ですよ。
リポーターの東城アキラでーす。
さて、来たのはいいんだけどね。
待たされてます。
めっちゃ待たされてます。
かれこれ一時間くらい。
「勇者召喚なんてことやるんだったら準備しとけよクソが……」
国家的プロジェクトとかじゃねぇのかよ。
ペルヴィア王国に対する好感度がグングン下がっていく。
勝手に召喚しやがった時点で限界値振り切って地の底だけど。
そんなわけで、ヒマな間にスフィアにこの世界について教えてもらうことにした。
「あのさー、勇者とか言われても、オレ一般人の上にただの雑魚だよ?
なんもできないよ?
そこらへん、どうなの?」
当然の疑問。
召喚、なんて魔法があるのだ。攻撃魔法なんて当然のようにあるだろう。
そんな世界でできることなど、高が知れている。
「大丈夫です。歴代の勇者様によって分かっていることですが、
勇者様はこちらにいらした時点で身体能力が上昇しますし、魔力も計り知れません。
それに、勇者様だけの魔法がありますから」
おお、まさにテンプレ。
試しにちょっとジャンプしてみたい衝動にかられ、とんでみた。
「せーのっ、――――ぶっ!?」
オレ個人の感覚としては、あれだ。
体育の時間に準備運動でだらだらとジャンプする感じだった。
その程度のつもりだった。
そのはずが。
ジャンプ。
天井にロケット頭突き。(マジでロケット並)
重力にひかれ、落下。
無様にべちゃりと着地(むしろ墜落)←いまここ
「だ、大丈夫ですか!?」
スフィアが心配そうに駆け寄る。
ジャンプして天井に激突、さらに落下してみじめに潰れたオレの元に。
「あー。だいじょぶだいじょぶ。
なんか全然痛くないし」
頭をさすりながら、すっくと起き上がる。
本当だった。
込めた力に反して相当なスピードでぶつかったのだが、さすっている頭にはたんこぶひとつできていない。
しばらく悶えていたのはあまりにかっこ悪かったからです。
「それならいいのですが……。
勇者様はもう一人だけの身体ではないので、気を付けてくださいね」
≪アキラは好きな彼女に言ってもらいたいセリフ17位くらいの言葉をいただいた≫
照れるなこれは……。
にやけそうになる表情を無理矢理固定し、話を続けることに。
「――そういえば、勇者だけの魔法って?」
「そのままの意味です。この世界のだれにも使えない、勇者様だけの魔法」
「えっと、よくある聖剣とか、そういうの?」
スフィアはふるふると顔を横に振った。
「いえ、それもありますが……そうではありません
召喚された勇者様が作る、その勇者様だけの魔法です」
「魔法を……作る?」
「ええ。
勇者様方はみな、この世界にある魔法を軽く超えてしまいますが、それは序の口。
勇者様が勇者様たる所以は魔法創造にこそあるんですよ」
まあ、無詠唱や混成魔法だけでも十分すごいんですけどね、とスフィアは笑った。
「へえ……」
「勇者様も学べばすぐにできるようになりますよ
勇者様がどんな魔法を作るのか、楽しみにしてますね」
「できるといいけどねぇ……」
アキラは少し、気を引き締めることにした。
ソフィアの中では、オレが勇者として働くのが決まっているようだ。
勇者として召喚した者だから、勇者として働け。
そう言われているようで。
無理難題を吹っかけられないようにしないとな……。
「スフィア様、勇者様、準備が整いました。
お入りください」
メイドさんはそういって。
謁見の間へと通じる扉を開いた。