14:騎士団と魔法部隊
今回はいろいろとグロイことに。
「――――誓おう!
初代聖王家の志に仇なす、貴様ら現王族を殺す剣となることを!!」
「なっ――――!?」
全国民を代表し、クソ王が驚愕の声を漏らす。
そんなものにはかまってやらず、畳み掛けるように大声で叫ぶ。
すでに拡声器のような魔法を使っていて、オレの言葉は王都中に広がっていく。
「勇者と王は盟友だった!
ともに戦うことを誓った対等なる友だったはずだ!!」
知らんけど。
初代聖王家の志?
以前の勇者との関係?
どうでもいい。
だが、大義名分が手に入るならいくらでも吹いてやる。
後々追いかけられないように、オレこそが正しいと誤認させ、畳み掛けてやる。
「だが、いつしか王家はそれを忘れた!!
勇者を従わせ、格下として扱い、いいように使い捨ててきた!!」
オレの言葉に、だれもが耳を傾け、思考を巡らせる。
勇者のアドバンテージ。
それは――――カリスマ性だ。
盲目的な、宗教的な、『勇者は正義の味方』という幻想だ。
「黙れっ!そんな出まかせを――――!」
「何度も何度も!
いいように使い捨てては新たな勇者をよび、奴隷のように扱ってきた!!」
さあ、来いよ。
オレがこれだけ挑発してんだ。
「勇者も人だ!
家族がいて、友がいた!
召喚され、それらをすべて失った勇者の最初の友になることが王家の誇りだったはずだ!!」
やってみろ。
おまえらの切り札を、使え。
「だが!!
貴様らはわたしを騙し、奴隷の契約を結ばせた!!」
「黙れっ!
≪腕輪よ、その力を持って契約を知らしめよ――――――≫」」
その魔法が発動するよりも速く、アキラはある魔法を発動させた。
「≪感染爆発≫!!」
「≪コンライス≫!!」
「「「「「ぐぅああああああああああああああ!!!!???」」」」」
国中から、苦悶の声が響き渡った。
「なっ!?」
あまりの出来事に、王が罰の魔法を解く。
アキラは自らを苛んでいた魔法が解かれるのを感じ、ゆらりと立ち上がった。
「なにをした!?」
拡声魔法を一時解除し、ニヤリと笑って答えてやる。
「おまえがくれた苦痛を、この国全員を対象に感覚共有した。
痛覚だったからか、王族とは共有できなかったみたいだが……それだけが残念だ」
何度か味わったオレなら分かる。
あれはなんの覚悟もなければ一瞬で気絶しかねない。
くる、ことが分かっていなければ、今、広場にうつる景色のようにだれもが地に伏すことになる。
一部、冒険者などは痛みに強いのか、膝をつく程度で終わっているようだが。
これでいい。
だれもが今の痛みを感じた。
冷静になれば、勇者が与えたものという別の間違った答えを思いつくかもしれない。
だが、王族の服従魔法行使を聞いた。
王族だけが無事で立っている。
そして――――先程の、勇者の演説。
それらは繋がり、人々は勝手に信じやすい真相を見出す。
王家が、悪だと。
「オレは、『正義の味方』扱いらしくてな」
びしっと指を突きつけ、並んだ王族全員をさしていく。
スフィアがびくっと震えたが、なんの感情も浮かんでこなかった。
「おまえらは、オレの前に立っている。
正義の味方である勇者の敵として。
そして、だからこそおまえらに残された役は悪役しかない。
悪役として踊ることしかできない」
再び、拡声魔法を復活させる。
「これが!!王家のやり方だ!!
今のように服従の呪文を使い、代々勇者を奴隷に貶めてきた!!」
さあ、今こそ。
「そんな王家は許容しない!!」
ようやく、雌伏の時が終わる。
「今代の勇者――――アカツキ・ヒガシは!
王家への反逆を宣言する!!」
舞台の幕が開く。
何百年も続いた、歴史ある国家の、最後の日が。
========
だれもが、声を失っていた。
拡声魔法はもう解除した。
それでもいまだ、騎士や魔法使い、王族、民、だれもが。
勇者の告げた言葉の意味を考え、呆けていた。
そんな隙を、見逃すわけがない。
「ロックオン!!」
王都内全域のマップ。
検索条件。
王都の兵隊。団長、副団長クラスを除く。
貴族とその私有兵。謁見の間にいたヤツらを除く。
検索結果。
18672人。
その光点すべてに、【LOCK-ON】の表示が重なる。
「≪勇者に仇なす輩に神の鉄槌を!トールハンマー≫!!」
王都内のあちこちで、雷が落ちる。
パレードの道を警備していた兵。
広場の警備をしていた兵。
城内から広場を見ていた兵。
それらを映す光点が、すべて黒に変わった。
一瞬で、18672人が死んだ。
「さて、王様ァ!!
これであんたを守る兵隊は、団長と副団長くらいしかいなくなったァ!?
オレのことを奴隷にしてくれやがった、
あの時謁見の間にいたヤツらだけは、この手で殺してやりたかったんですよォ!!」
「貴様ァ!!」
誰よりも早く、硬直から覚めたのは騎士団長。名前は忘れた。
彼が立ちふさがるように切りかかってきた。
双刀・天地を取り出し、剣を防ぐ。
「王よ!城へ!速くお逃げください!」
『リース、逃がすなよ。
一応城内の通路はすべて塞いだけどな。
あと、自害もさせるな』
『わかっておる』
隠し通路がある城の方が安全だと思ったんだろうが、残念。
外にも中にも、逃げ場なんてねぇんだよ。
王族と残った貴族たちは近衛の団長副団長に導かれ、慌てて城内に駆け込んでいく。
それを見送って、騎士団長へ向き直った。
「どうしてだ!どうして勇者の君がこんなことを!?」
「黙れよ。
この腕輪の意味を知っている、おまえらが、オレを勇者だって?
はははっ、馬鹿馬鹿しい!
自分までも騙してるのか!?」
ガキィッ、キィン!
剣戟とともに火花が散る。
「その見慣れない剣、聖剣じゃないな。
なのに、それ以上の業物だ……」
「クソ剣でおまえらをぶった切るのも楽しそうだったけどな。
使ってやるかよあんなクソ剣」
会話しながらも、騎士団長の剣は鈍ることのないまま猛攻撃を続ける。
アキラは涼しげな顔でそれをすべてさばいていた。
リースの速さに比べれば、この程度止まって見える。
リースの膂力に比べれば、指一本で止められる。
だが、実力を知らない団長はその事実を許容しない。
フェンリル討伐成功という噂より、手合せしてきた自身の戦績を信じているから。
フェンリルの牙という証拠も、どうせ偽物だと思っていた。
だからこそ、一撃も加えられず、いいようにあしらわれている状況が理解できない。
それは焦りにつながり、力みにつながり――――死につながるというのに。
「くそっ、どうして!
いつもはわたしが勝っていたのに!
力を隠していたのか!」
「全力出したら、おまえらみたいな虫、簡単に死んじゃうだろ?」
「誇りはないのか!」
「その誇りを奪って、奴隷に貶めたのは貴様らだろうが!!」
右手に持った天で、騎士団長の剣を、持っていた腕ごと切り落とした。
「グレン団長!」
その肩越しに、副団長が見える。
(最初の模擬戦を再現しているみたいだな。
違うのは、あの時腕は切り飛んでいなかったことと)
「――――もう間に合わねぇってことだっ!!」
「グレン団長ぉおおおおおお!!」
今度はだれの横槍も入ることなく、騎士団長の首が飛んでいった。
身体は噴水と化しながら、倒れて。
首は副団長の、足元までごろごろと転がっていく。
彼女は崩れ落ちるように膝を突き、震える手でそっと手を伸ばした。
「あ、ああ……、ぁあああああああああああっ!!」
「次はおまえだよ。副団長サマ。
愛しの団長の仇、とりにきな」
生首を抱きしめていた副団長に、声をかける。
気色わりぃ。
「貴様……殺す。殺す殺す殺してやる!!」
ゆらりと立ち上がる狂った戦鬼。
自らの獲物である槍を構え――。
「真っ直ぐ突っ込んでくるとか、バカか?」
ひらりとかわし、背中を蹴りつける。
「あぐっ!」
簡単に転がった。
冷静さのかけらもない。
怒りにのまれ、狂気のままに突っ込むだけ。
「んだよこれ。あー、この状態でやってもなぁ……。
そだ、いいこと思いついた。
よいしょっと。これこれ。よし、愛しの団長サマの剣で、やってやるよ」
双刀・天地をしまい、ついさっき斬りおとしたオブジェのついた剣を回収。
無雑作に構えた。
「さあ、来いよ。なんならサービスでおまえの腕と首飛ばしておんなじ姿にしてやっからさ」
だが、倒れ伏したままの副団長はうわごとのようにつぶやくだけで反応しなかった。
「くそっ、くそっ、こんなのおかしい。間違ってる。
どうしてグレン団長が、なんで、どうして、おかしい、間違ってる」
「あーめんどくせ。もう切っていいか?」
「まぐれ以外、グレン団長にも、わたしにも手も足もでなかったあいつに負けるはずがない。
そうか、これは悪夢なのか……」
ぶつぶつと、倒れたままでつぶやいている。
「ちっ、この程度で壊れやがって。
あ、そうだ」
思いついた。
===
「おい、何を呆けている」
「えっ――?グレン団長!?無事だったんですか!?」
副団長は、目の前に立っているグレン団長を見て驚愕した。
「無事?何を言っている。わたしが負けるはずないだろう。
それより、立て。王の所まで行かねばならん」
「はいっ!」
くるりと振り返り、城の中へ走っていこうとして。
「先に逝け――!」
ドスッ――――!
「え、なん、で……?」
背中から腹へ、剣が飛び出していた。
憧れとともに見つめ、見慣れていた、愛しい人の長剣が。
振り返ると、グレン団長が、笑っていて。
わけがわからないまま、彼女は絶命した。
「はははっ!≪仮面舞踏会≫は面白れぇな!」
正気を失ったヤツに復讐しても意味がない。
きちんと正気を取り戻してもらって、それから絶望してもらわないと。
そのために、騎士団長の顔を借りた。
「さて、魔法部隊と近衛のトップ二人ずつを片付けに行くか」
騎士団は剣で。
魔法部隊は魔法で。
近衛は両方を使って。
同じ土俵で圧倒的に勝って、絶望してもらおう。
「今まで侮ってきた勇者が、どういうものなのかきちんとわかってもらおうか」
≪サーチ≫で居場所をさぐった後、その場所まで跳んだ。
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「やーやー、魔法部隊の隊長さん、副隊長さん」
「なっ!?」
急に目の前へ降り立ったアキラに、魔法部隊トップツーであるの女性二人は驚きを隠せなかった。
しかし、すぐに気を取り直して、杖を構える。
そんなものは歯牙にもかけずアキラは笑う。
「さ、かかってこい。
魔法使いとしてのプライドをずたずたにして、その後死んでもらうから」
手のひらを上に向け、全部の指でくいくいと手招き。
かかってこい、と。
「なめないでっ!勇者の魔力量や属性が上でも、腕と経験が違うのよ!」
「勇者とはいえ反逆者、ここで死んでもらうわ!」
「あんたらも勇者って……。知ってるくせになんでそういうことが言えるんだ?
この国じゃ奴隷と勇者は同義ってのは周知の事実なのか?」
それに、腕も経験も、オレの方が上だろうに。
「≪火よ、風とともにあれ。風よ、火とともにあれ――――≫」
「≪水よ、土とともにあれ。土よ、水とともにあれ――――≫」
二人が詠唱を始める。それをのんびり構えて待っていた。
「へぇ、混成魔法か。待っててやるから、ゆっくり準備しな」
「≪炎となりて、その力を増せ≫」
「≪泥となりて、その力を増せ≫」
隊長が、火と風を混ぜて、火の上位派生である炎を疑似的に作り上げる。
副隊長が、水と土を混ぜて、ゴーレムの時のような後出しの偽物ではなく最初から泥の混成魔法を用いる。
「≪炎よ、すべてを燃やし尽くせ。触れたものを許さず燃やし続けろ。地獄の業火≫」
「≪泥よ、すべてを包み込み、糧とせよ。敵を包み動きを止める、動く人形となれ。マッドゴーレム≫」
副隊長の周りに、泥人形が3体ずずぅっとせりあがる。
出現が終わるまでの間に、隊長が青白い炎を生みだし、こちらへはなった。
「≪地獄の業火≫」
こちらも、同じ魔法を放った。
「そんなっ、上級魔法を詠唱破棄!?しかも同じ威力なんて!」
「おいおい、どこ見てんだ。同じ威力?」
オレの言葉に、隊長が炎のせめぎ合いを見やる。
片方の炎が、もう片方を飲み込もうとしていた。
「そんなっ、わたしの最強魔法が……」
「最強?あんたは上級魔法だと思ってるようだが、こんなの炎属性の初級だぜ?
ファイヤーボールの炎属性版みたいなもんだ」
リースに聞いたことだ。
魔法関連の本があるから、読みたいといったリースに貸したのだが、彼女は憤慨しながら文句を言っていた。
「この程度で上級魔法じゃと!?」とか「魔法の構成が違う!効率が悪いではないか!」とかいろいろ。
「まさか、きゃぁああああああああ!」
隊長の魔法を吸収し、大きくなった青白い炎はそのまま彼女を飲み込んだ。
圧倒的火力は一瞬ですべてを焼きつくし、後には何も残さなかった。
当然だ。彼女の詠唱がそう望んでいたのだから。
「隊長!?」
「あんたの魔法展開が遅いからこうなる。
なんでゴーレムなんか出しちゃうかなー。ゴーレムは動きが遅いから数の少ない相手には使いづらくて翻弄されるだけなのに」
それでも、防御に専念すれば、その高い防御力で壁にはできる。
だが、その程度だ。
「ま、同じ土俵でやってやるけどね。≪マッドゴーレム≫」
同じように、泥のゴーレムを3体生み出すと、それをぶつけ合った。
ゴーレムがなぐり合うたび、泥が飛び散る。
が、元が泥なのでどちらもすぐに再生する。
「まさに泥試合(笑)」
「ふざけないでっ!ゴーレムたち!」
「ふぅ、これじゃ終わらねェ。
悪いが、これから先の予定も詰まってるんだ。
ちゃっちゃと終わらす。≪錬金≫魔法」
オレが造ったゴーレムたちに使う。
属性について学んだ時に考えた魔法。
火属性と土属性の混成魔法。
土にある鉱石などを火の熱と土の打撃によって鍛えるイメージの混成魔法。
それにより、ゴーレムが鉄に変わる。
「アイアンゴーレム!?」
「鉄と泥じゃ、勝負にもなんねぇよ」
はじまったのは一方的な蹂躙。
鉄が泥を殴り、蹴り、再生しようとすればそのたびに散らす。
そのうちに、核が壊され、泥のゴーレムの数が減り、全滅した。
「じゃあ、終わりだ」
「そんなっ――――!?」
ズドォゥン!!
鉄の拳が、副隊長を押し潰し、地面へとめり込ませる。
それを見届けて、ゴーレムたちを消した。
残るは、王族と一緒に逃げた近衛と貴族たち。
「さあ、いよいよメインディッシュだ」




