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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
1章:聖王国家ペルヴィア編
16/46

13:はじまり

 その日は、朝からお偉いさん方に囲まれていた。


 どうやらこのお披露目、結構でっかい行事らしい。

 勇者召喚の頻度などは知らないが、魔法陣の条件を満たす時機はそう来ないから、回数は多くないはずだ。


 今は式典の一時間ほど前。

 タヌキ宰相によって諸注意を受けているところだ。


「勇者のお披露目なのだ。

 くれぐれも、それらしい振る舞いをするようにな」


 奴隷らしい、ですか?

 ――――とは言わず。


「特に注意することなどはあるのでしょうか?」


「おそらく、他国の間諜は入り込んでいるだろう。

 あまり目立つことはせず、大人しくしていればいい」


「では、念のため顔と名前を変えていいですか?」


 一国家を転覆させようというのだ、本名と顔バレだけは避けないとな。


「それもそうか……。

 では、紹介の時は何とよべばいい」


「アカツキ・ヒガシとでも。

 顔は魔法で変えておきますので」


 アキラ→暁→アカツキ。東城→ヒガシ、というなんとも安直なネーミング。


「そうか。護衛の騎士どもにもそう伝える。

 それと、忠誠を誓う場面と民に演説する場面が存在する。

 きちんと文言を考えておけ」


「わかりました」


 直前に言うなよ。

 存在しない物をでっちあげる必要があるんなら先に言っとけって。


 今回の勇者お披露目という式典。


 その全体の流れは。

 ある程度、王都内を馬車でパレード。

 城門前広場に戻ってくる。

 そこで、王と忠誠を誓い騎士となる儀式を行う。

 集まった民衆に所信表明演説。


 こんなところか。


「では、よばれるまで自室で待機しておけ。

 侍従がおまえを着替えさせにいくからな」


 一礼し、部屋へと戻る。


『リース、聞こえるか。オーバー』


『聞こえるぞ。おーばぁ?』


 念話でリースと連絡を取った。

 彼女は今、人間形態になってオレが≪ステルス≫をかけ、潜んでもらっている。


『王族の見張り、頼むな。

 逃げようとしても、できるだけ殺さないでおいてくれ。

 ダルマまでなら許す』


『それもう首だけしか残っておらんだろうに……。

 まあ、わかったよ。国潰しとは、これはこれで楽しいかもしれん』


『おっけ。王族についてれば、たぶんオレの動き出しはわかるから。

 臨機応変にな。最低限、王族さえ逃がさなきゃ何しててもいいよ』


『逃げた奴はどうする?』


『オレのところにつれてきてくれ』


 唇の端が吊り上る。

 自然と、肉食動物をほうふつとさせる凶悪な笑みが浮かぶ。


『――――オレが、ヤるからさ』


『殺気、抑えた方がいいと思うぞ。

 離れていても感じる。

 人は我ほど敏感ではないとはいえ、気づくものは気づく』


『おっと、すまんすまん。じゃあ、よろしくね』


『あいわかった』


 念話は終了。



 さあ、茶番劇の始まりだ。


 踊ろうか。

 踊ってもらおうか。




 ~王都~



 もうすぐパレードが始まる。


 見るからに豪奢な馬車の中にあるのは階段。

 これを上って、馬車の屋根の上から顔を出して選挙カーのごとく顔を見せまくるのだ。


「ふぅ……」


 ため息をつき、顔に手を当てる。


「≪仮面舞踏会(マスカレード)≫」



 アキラの顔と手の間に、魔法の象徴が顕現した。


 それはオペラ座の怪人であるファントムの仮面をイメージしたモノ。

 この日のために創った変装特化の魔法である。

 装備することで、仮面は顔になじんでいき、まったく別の顔となることができるのだ。


 ちなみに、元に戻るときはルパン三世の変装の如く、顎からぺりぺりめくればいい。

 様式美を追求した遊び心満点の魔法である。


「顔立ちは、完全に別物にするか。

 髪と目の色も変えよう。色が同じって言いがかりつけられても困る」


 そうして出来上がったのは茶色い髪と目のイケメンさん。

 あらこれがわたし、ってなもんだ。



「そろそろパレードが始まります。

 準備をしてください」


「わかりました」


 御者台にすわる騎士に声をかけられ、階段を上る。


 馬車の上から見える景色は、人、人、人、人。


 某ラピュタ王の名ゼリフを叫びたいくらい、道の両側にずらーっと並んでいる。


(これが、この国が勇者にかけてきた期待か……)


 それは、勇者に押し付けてきた身勝手な希望。

 無自覚で、無意識で。

 純粋だからこそ、この上なく傲慢な。

 そういうものを押し付ける視線だ。


 馬車はがたがたと揺れながら進んでいき、王都の街並みをぐるりと回っていく。


 そのどこへいっても、民衆たちは勇者に希望の目を向けていた。


「勇者様ー!!」

「我等をお救いくださいー!!」

「魔物を退治してください!!」

「息子の仇をとってくれー!!」

「俺らも一緒に戦いますからー!!」



 道すがら、かけられる声が、つくづく癇に障る。


(ああ、いらいらするっ!!)


 勇者だと?

 オレを勇者と呼ぶな。


 救う?

 どうして?なんのために?


 魔物を退治?

 ギルドにでも頼め。


 息子の仇?

 人任せにしていい程度なら復讐なんて考えるなよクズ。


 一緒に戦う?

 おまえらだけでやれ。オレは無関係だ。



 彼らは善意で声をかけているのかもしれない。

 久しぶりの勇者を前に、これからの期待を募らせているだけなのかもしれない。


 だからこそ、腹が立つ。



 他人にすべてをゆだねることを疑問に思うやつは、いないのか?

 異世界から呼び出すってことが、どういうことかきちんと考えたヤツはいないのか?

 魔王がいないこの時代に、勇者という存在の必要性を考えたヤツはいないのか?



 そんなやつも、≪サーチ≫を使えば、見つかるかもしれない。

 あいまいな検索でも、きちんと結果を出してくれるこの魔法なら。


(でも、今さらだ)


 こいつらは慣れてしまっている。


 身勝手な勇者召喚という、人ひとりの人生を奪う最悪なシステムに。

 一方的な奴隷契約という、人ひとりの尊厳を汚す醜悪なシステムに。 


 後者の、裏の事情を知らないからって、情状酌量の余地はない。

 前者だけでも、十分だ。



 目を覚ませばいい。

 国の崩壊とともに。


 今まで頼ってきたツケを、支払えばいい。




 ~城門前広場~




 広場の周り。

 そこは勇者の姿と騎士叙任の模様を、ナマで一目見ようと多くの人が殺到していた。


 彼らの視線を背中に感じて、アキラはしかれた絨毯の上を歩いていく。


 いつかの、謁見の間のように。

 王が玉座に座っているのではなく立っていたり、室内と外との違いはあれど。

 

 あの時と、見かけ上(・・・・)の構図は変わらない。

 

 片や、身分が上の。

 片や、身分が下の。 


 アキラが、王の前までたどり着く。


 そうして、片膝をついた。


「今代の勇者、アカツキ・ヒガシよ」


 頭の上から、クソ王の声が降ってくる。

 広場にいるだれもがその声に耳を傾け、片膝をつくアキラを見つめていた。


「汝を、我が聖王国家ペルヴィアの勇者として。

 剣となり盾となり、王家を守護することを誓うか?」











「――――誓おう!

初代聖王家の志に仇なす、貴様ら現王族を殺す剣となることを!!」

長くなりそうだったので、ここで分割。


だが断るが不評だった。

言ってみたかっただけの深夜テンションだったことを許してください。

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