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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
1章:聖王国家ペルヴィア編
15/46

12:前夜

 ~ペルヴィア王城・アキラの自室~


「さて、リースも来たことだし、やろうかね」


「アキラよ、我をよんだということは明日なのだろう?」


 人間形態のリースをこっそり侵入させた。

 ちなみに下着を買ったかどうかは聞いていない。

 羞恥心なく教えてくれそうだが、そこはアレだ。シュレディンガーー?

 知らなければ、はいていない、はいているの可能性が……。



 閑話休題。



 勇者のお披露目は、日が昇れば行われる。


 討伐任務から帰った際、フェンリルの牙(リース的には生えてくるから別にいいらしい)を見せて驚かれた。

「フェンリルまでをも倒すとは!」的な感じで。

 もう立派な勇者として民に紹介できよう!――――って、成りたくないから。


 ちっ、うぜぇ。

 透けて見えんだよ。


 力出し惜しみしてた時は、「今代の勇者使えねェ」みたいな顔しといてさー。

 フェンリル倒したって知ったら、「やはり勇者は伊達じゃない」みたいな?

 むしろそれくらい当然みたいな顔しちゃってるからね、彼ら。


「テメェで一回戦って見ろってんだ。秒殺どころか瞬殺されんぞ」


「いやいやアキラ、やつらは戦いに入った事にも気づかず、死んだことにすら気づけんじゃろ」


「あっはっは、そりゃそーだ」


「ふはは、そうだろうそうだろう」


 話がそれそうだったので、パンパンと手を叩いて。


「さて、呼んだのは他でもない、このクソったれな腕輪についてだ」


 クソ剣と腕輪。

 ぎりぎりまで破壊するのはやめ、その方法の模索をしている段階だ。


 そこで、古代魔法など、詳しそうなリースも交えてナマ討論会。


「正直、オレはあんまり魔法は上手くないんだわ。

 魔導書だって初級~中級レベルしかこの城にはなかったし、目を見張るほどの使い手もそんないなかった。

 オレにできたのは、勇者補正の魔力量で力任せに初級を中級、中級を上級に引き上げるくらいなわけで。

 魔法そのものについての知識はそんなにないんだよね」


「我を追尾した≪光の槍≫があったではないか。

 魔法の自力操作ではなく、追尾効果付加は古代魔法レベルじゃぞ?」


「あー、なんていうの?勇者の能力で、魔法を創るってのがあんだよ。

 それで、魔法が追っかけたら便利なのになーって創った」


「そんなあっさりと……。

 本来であれば、相手の魔力を読み取って、それを攻撃魔法に組み込んで、という繊細な作業なのだがな」


 どこか呆れたような銀髪幼女。

 どうでもいいけど狼耳とかしっぽとか出せないのかな……。

 狼形態のもふもふもいいが、人間プラス獣耳&しっぽもすばらし――――げふんげふん。


「まあ、それはおいといてだ。

 この腕輪の最適な解除方法を話し合おうというのが主旨なわけで」


 右腕につけられた、むしろ憑りついた腕輪をリースに見せる。


「これがアキラを縛っているという例のものか……。

 我を破った者なのに、どうしてかの……」


「油断だ」


「胸を張って言いきられても……」


 ああ、げんなりしてる。

 獣耳があったらしょぼくれてるに違いない!なぜないんだ!!


「案としてはいくつかあるんだ。できるかどうかは度外視して、考えてみただけのやつは。

 できるかどうかも含めて意見を聞きたいんだよね。

 ①≪ディスペル≫系の魔法

 ②クソ剣状態にして、頑張ってぶっ壊す(今までのウラミ!)

 ③契約を莫大な魔力でオーバーヒートさせて上書き

 ④王族を脅す。(どうにかして)

 ⑤一度仮死状態になって契約破棄、その後復活(番外その1)

 ⑥腕を斬りおとす(番外その2)

 ってとこだな」


「ふむ……。

 まず、≪ディスペル≫系魔法は効かないであろう。

 当然対策されておるはずじゃ」


「まあ、≪サーチ≫でそれがあるのはわかってたけどな。

 魔力にものを言わせてできるかと思ったんだがやっぱ無理か?」


「アキラ……、お主は魔法を力技で使いすぎじゃ……」


 そもそも魔法とは――――うんぬんかんぬん(約15分)――――よって、対策魔法は魔法の持つ構成をうまく機能させなくさせる。

 とはリースの談。


 そんなこと言われても……、フィーリングでできるからいいじゃん、と思って半分以上聞き流したのは内緒だ。


「次に、剣状態?というのにして、もっとよく見せてくれ」


「あいよー」


「ふむ。≪固定化≫がかかっておるの。

 生半可な力じゃ壊せまい」


「リースやオレの刀でも?」


「できるかもしれんが、無理矢理破壊しようとするとなんらかの防衛機能が働くかもしれんぞ?」


「いやぁ、大丈夫でしょ。

 そんなことしたら、ドラゴンとかとバトったときに不可抗力でも防衛機能はたらいちゃうじゃん」


「まあ、話が終わってから試すといい。

 次は、契約者に解除させる、ということでいいのか?」


「ああ」


「それならば安全に解除できるかもしれんが……そう素直に解除してくれるのか?」


「してくれるわけねぇよな」


 そもそも、そんなことするくらいならこんなもん使わねェって話ですね。

 まあ、そこはいろいろとどうにかこうにかしよう。


「では、次の……なんだこれは。仮死状態?死ぬ気かお主っ!!」


「ちょ、近い近い!いきなり詰め寄るな!!」


 透き通るような瞳が、目の前にある。

 少し動けば、簡単に触れ合える距離。


「させんぞ!復活する確信などないのであろう!!絶対にダメじゃからな!!」


 すごく心配されました。

 まあ、確かに復活の確信はなかったけど。

 死ぬのって怖いし、だからこその番外だ。


「わかった、これはやらない。約束する」


「ぜったいじゃぞ?ぜったいじゃからな?」


「ああ、約束だ」


 リースの頭にポンと手を置いて、サラサラの髪をくしけずる。

 目を細めて、身をゆだねてくれた。

 しばらくしてから、恥ずかしそうにはねのけられたけど。


「……ごほん。それで、次じゃ。

 腕を斬る……。まあ、治癒魔法もあるし、切り口が綺麗ならすぐにくっつく、か……?」


「あんまやりたくないんだよな……。

 痛いし、本当に腕輪が取れるか心配だ」


 クソ剣の腕輪が右手首にあるのは、きっとクソ剣を抜いたのが右手だったから。

 別に、腕輪でなくともいいのだ。

 元の形態はおそらく剣なのだから。

 形態変化できるのなら、腕輪であることに意味はない。

「肌身離さず」が一番の目的なのだ。

 呪いの道具ばりに、アクセサリー装備欄がロックされているかもしれん。


「右手首を切ったら、左に移って、それも切ったら足、二の腕、太もも、最後に首とか移動したらヤバいだろ」


 それに、腕を斬りおとしてすぐにくっつける。

 事故にとる大けがを大手術で治すのなら受け入れられるが、魔法で簡単に、なんて。

 接着剤で治す人形みたいだ。

 新しく生やすのも論外。トカゲのしっぽじゃあるまいし。

 そこまで、人をやめたくない。


「確かに。切ってすぐに治療しても、別の場所に移動されてはな……。

 首なんて切ったら即死じゃから、実際は仮死よりも危ないのではないか?」


「これ以上悩んでも無理だな。こうなったら実際にいろいろ試して……それもダメだったら、めっちゃ嫌だけど、ほんっとーに嫌だけど、手の斬りおとしを試すか」


「やってみなくてはわからんからな」


「そんじゃ、とりあえず、亜空間に行って検証しよう。≪ゲートオープン≫」



 現れたおなじみの黒い扉へ入る。リースもこの魔法を知っているのか、普通に後をついてきた。


「おおっ、財宝が沢山じゃな!」


 ぽいぽい放り込んでおいた金銀財宝が無造作に散らばっている。


「この中で修行することも考えると、整理しといた方がいいのかな……」


 取り出す時は、思い浮かべるだけでとりだせてしまうのだが、中で修行するとなると邪魔だな。


「いまはテキトーな倉庫でも建てとくか」


 土属性を駆使して、簡単な倉庫を建てる。

 風を操作して財宝などをとりあえず押し込んでおいた。


「掃除が苦手なやつが押入れに全部ぶち込むようなもんだな……。まあ、掃除苦手なのは否定しないが」


「すっきりしたな。で、アキラ。まずはどうするのだ?」


「まずはクソ剣をぶっ壊そうと画策しようかね」


 クソ剣を剣形態に。


「その辺に置いて、と……あれ?」


「消えたの……」


 クソ剣を置いて、少し離れるとクソ剣が消えて腕輪に戻りやがった。


「あー、オレに触れてないと戻ってくるんだった。ほんっと忌々しい」


 今度は土属性魔法を使い、ブロックを二つ生み出す。

 ブロックを橋渡しするようにクソ剣を置き、足で踏んづけた。

 お父さんが日曜大工でのこぎりを使う時のような体勢だ。切るのは木じゃなく剣なのだが。


「一刀・天」


 天地の内、天だけ呼び出し、上段に構える。

 光、嵐の属性と魔力で覆って無属性を発揮させ、速度と切れ味を増す。


「くらえ、今までのウラミスラッシュ!!はあっ!!」


 ――――ィン!


 刀を振り切ると同時、透き通った音色が響いた。

 振り切れた。


「はははっ、真っ二つだクソ剣め!!」


「やったなアキラ!」


 リースと仲良くハイタッチ――


「あれ?」


 ――した手首には、見覚えのある腕輪が。


「…………実体化」


 嫌な予感。


「直ってる……」


「これは……、アキラの魔力を吸い上げて自己修復したのか……」


 ほほう、このクソ剣は人の魔力を勝手に持っていきましたか。

 いくら溢れんばかりの魔力とはいえ、貴様にくれてやる分などないわぁっ!!


「いいだろう、跡形も残らず粉々にしてやる……!」



「ロックオン」


 つぶやく。

 再びブロックの上におかれたクソ剣。

 それに【LOCK-ON】と表示される。


 集中。


 練り上げる。

 自らの内に存在する莫大な魔力を。


 まずは光。

 求めるは、速さと貫通力。

≪其は光、なにものよりも速く速く、速く。貫き穿ち、駆け抜ける光≫


 闇。

 求めるは、毒の如き侵食。

≪其は闇、すべてを飲み込み、侵食し、虚空へといざなう、暴食の闇≫


 炎。

 求めるは、圧倒的攻撃力。

≪其は炎、一切を燃やし尽くし、蒸発させ、なにもかもを奪い去る炎≫


 氷。

 求めるは、敵の不活性化。

≪其は氷、触れたものを遍く静止させ、眠りとともに死を運ぶ死の氷≫


 嵐。

 求めるは、攻撃の連撃化。

≪其は嵐、立ちあがるのを許さず、何度も何度も吹き飛ばす暴虐の嵐≫


 岩。

 求めるは、魔法の不滅化。

≪其は岩、ただそこに在り、なにごとにも動じず静かに佇む不滅の岩≫


 白、黒、赤、青、緑、茶色の玉が宙に浮かんでいる。

 その一つ一つに、常人ならば浴びただけで卒倒しかねない魔力が練り込んである。



「≪フュージョン≫!!!!」


 叫ぶ。


 すべての属性を、無理矢理まとめ混ぜ合わせる。

 そして、凝縮、凝縮、凝縮。

 溢れだそうとする力を、魔力で押さえつける。


 そうして出来上がったのは、クソ剣のみを押し潰す長方形の黒。


 これが今、出来る限りの最強魔法。


 撃ちだす直前に、足を引き、クソ剣が腕輪に戻る前に消す。


「――――――≪カオス≫!!」



 なんの音もしなかった。

 音を置き去りにして、進路上にあるすべてを薙ぎ払って、突き進む。



 びりびりびり――――!!



 魔法が完全に見えなくなって、ようやく音が追いついた。



「うぉおおおお!?あ、アキラ!亜空間が壊れかけているぞ!!」


 言われ、慌てて亜空間に補強用の魔力を流していく。

 クソ剣のあった場所は……。


「やったか……?」


「ちょ、リース。それはフラ……」


 言いかけて、気づいてしまった。

 あー、手に軽い重みが。


「実体化。…………また魔力パクリやがったな」


「ふむ。アキラという巨大な魔力タンクとつながっている今、破壊はできんと考えるべきじゃな」


 がっくりと肩を落とす。

 では次。


 以下ダイジェストでお送りします。


 検証①

「≪ディスペ――≫あだだだだだ!」

 警告の意味か、唱えようとしたら軽い反撃を受けた。

 無駄とわかっていても、クソ剣に八つ当たりした。


 検証②

「くらえ、オレの魔力をぉおおおおお!!」

 魔力、食べられた。

 クソ剣は光り輝き、切れ味が増した!

 とりあえず、地面に叩きつけた。


 検証③

「一思いにやってくれ……」

 リースの爪では繊維がずたずたになるかもなので、一刀・天を貸した。

 怖かったので、≪パラライズ≫を部分的にかけ、局所麻酔としてみた。

 腕輪は左手首へ移動しましたとさ。

 腕をくっつけた後、クソ剣を力の限り叩きつけた。

 しかも次に腕輪に戻ったときは右手首の戻っていた。てめぇ……。



「やっぱ、契約を解除させるしかないか……」


 鬱だ……。

 実は契約はすでに無効だったんだよ!

 な、なんだってー!!

 みたいな夢の展開が……。


「アキラ……、そう落ち込むな。

 我も手伝うから、な?」


 リースは優しいなぁ。


「わかった。そうだよな。味方もいるし、明日なんだ。

 今から落ち込んでてもいいことねぇし、前向きに考えよう」


 いやいや、レッツ、ポジティブシンキング。


「計画変更!

 奴隷に命令される王族、よしそれでいこう!」



 うんうん、こっちの方がより出し抜かれるよりも屈辱的だろう。

 今までずっと、臣下に、民に、奴隷に、そして――――勇者に。

 命令してきたんだ。


「そろそろ、命令される側に回ってもらおうか」


 ああ、明日が楽しみだ。

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