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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
1章:聖王国家ペルヴィア編
14/46

11:布石

 ~ペルヴィア王都近辺の荒野~


「なあ、なんでオレがいるって気づいたんだ?」


 気になっていたことを、リースに聞いた。


≪ステルス≫を見破られ、攻撃まで通されたことだ。


『すてるす?』


 ああ、狼に小首を傾げられるとマジで和む。

 もふもふしたい。ああ、もふもふしたい……。


『なあ、アキラよ。離してほしいのだが』


「はっ、すまんすまん」


 無意識のうちに、もふもふしてしまった……。恐るべき魔力。


「いや、な?

 あの時、オレは完全に消えてたはずなのになんで見つかったのかが不思議でな」


『消えることなど不可能だ。

 そもそもあれは幽鬼のように、そこにあるが干渉できない存在に変換する類だろう?』


≪ステルス≫を創った目的は、だれにも見えないこと。

 見えないだけじゃ、ぶつかることもあるだろうと物理干渉不可にし、ついでに魔法干渉も不可にしたはず。


 ああ、そう考えると、幽霊みたいな存在になるってのが本質っぽいな。

 魔法創造は、無意識下をいい感じに読み取ってくれるのはいい所なんだが、ちょいちょい欠点でてくるなー。


「干渉できないのに、なんでおまえはオレに攻撃できたんだよ」


『うむ、なんというべきか……。

 幽鬼は干渉できないが、確かにそこに存在する。

 その……少しだけ、次元がズレているとでもいうのか。

 その次元へ攻撃すれば、そこにいる幽鬼をも攻撃できるのだ』


 幽霊は次元、世界がズレた向こうにいるからこの次元からは干渉できない。

 しかし、幽霊のいる次元へ攻撃すれば、通るってことか?


『我の爪ならばそれくらいのことはできる。

 他の魔物でも、古代魔法や空間魔法が使えるのならば確実にできるだろうな』


「人間相手なら使えるが、上位魔物や幻獣レベルになるとだめってことか」


 ま、人間には効くなら何の問題もない。


「今からしばらく、城に忍び込んで、暗躍する。」


 フェンリル討伐任務の期限まで。

 すべての準備をすませる。


『我はどうすればよいのだ?』


「うーん、≪ステルス≫かけてついてきてもいいんだけど、ぶっちゃけやってもらうことは今ないしな」


『では、観光してくる。人間の街は初めてだ』


 どこかわくわくとしている感じで、声が上ずっている。

 尻尾も振ってるし。


「ああ、じゃあ、決行前日くらいにはよぶから」


『そうか。では街を満喫しようかな。

 その前に――』


 ぼんっ、と。


「人型の方がいろいろと便利であろう」


 銀髪の幼女が現れた。

 全裸で。


「前回言った通りになったぁああああああああああ!?」


 慌てて≪防具創造≫でテキトーなワンピースを用意。

 下着は……ね? ないよ。だってイメージできないもん。

 女性用下着なんて絵でしか見たことないもん。

 なにより、気が進まない。

 真剣にパンツをイメージする男て……きもっ。

 街で買ってもらおう。 


「むぅ、身体の上に何か着るのは違和感があるな……」


 不満気なリース。

 見た目銀髪美少女がノーパンて。狙いすぎだろ。


「ついでに金わたしとくから、下着かっとけ。マジで、ホント頼む」


「ふむ。これが貨幣というやつか。知識では知っていたが、これでモノが買えるとはな」


 とりあえず銀貨60枚ほど渡しておく。

 タヌキ宰相からもらった路銀の残り全額だ。残してたらどうせ没収されるんだろうし。




 ~ペルヴィア王都・城内~



 今日は、宝物庫と貴族の領地、貯め込んだ賄賂などを荒らそうと思う。

 まずは城からだ。

≪ステルス≫でもって城に潜入。

≪サーチ≫で宝物庫や隠し部屋がないか探っていく。


 まずは宝物庫。

 鍵に加え、アンロックの魔法に対策がしてある。


「ま、こっそり鍵はパクってるから問題ないけどな」


 パクったままでは困るので、似てるけど使えない鍵と交換しておいた。

 時間稼ぎの意味もあるが、ぶっちゃけ嫌がらせが主である。

 ふはは、なぜか鍵が合わずに宝物庫が開けられなくて困るがいい。


「では、お宝ごたいめーん!」


 手当たり次第に、金貨や強そうな武器防具をぽいぽい亜空間へ放り込んでいく。

 いらないものとか使わなさそうなものもとりあえず回収。

 あとで売っぱらう。


 1時間ほどかかって、宝物庫は空っぽになった。


「よし、次に行くか」


 ドアを開ける際は物理干渉できない≪ステルス≫を解かないといけないので、≪サーチ≫で人がいないのを確認してから退出。


 次は≪サーチ≫で見つけた隠し宝物庫だ。


 王族の財産などが収められている。

 宝物庫はあくまで国の財産、こっちは王族の私的財産だ。


「王族のくせに私的財産とかため込むんじゃねェよ。トップがそんなだから貴族まで腐ってくんだ」


 金銀財宝、宝石に加えて秘蔵らしい酒がいっぱいあった。

 もちろん、全部かっぱらう。


 次は宰相だ。


 宰相の私室にはいろいろ危ないものがたくさんあった。

 暗殺部隊への指令書とか、いろいろと。

 国の暗部が凝縮されたような部屋だ。


 改造オーガもこいつの指令だと判明。

 ふふふ、オボエテロ……?


 宰相含め、王都に住んでいる貴族の住所を調べあげ、後で盗みに入ることを決意。


 あと、手ぶらで帰るのもシャクなので、とりあえず、不正の証拠をパクっておいた。




 そんな感じで、城の中にある金目のものを次々と亜空間に放り込んでおく。

 しかし、廊下にある調度品などは手が出せなかった。

 バレたら困る。


「まあ、≪サーチ≫したところ見かけだけはきれいな贋作とかばっかだったけど」



 さて、次は武器・防具庫だ。


 ここは訓練前に、騎士たちが自分で開けられるように、鍵はかかってない。

 貴重な武器などはここにはなく、団長や隊長のように個人で肌身離さず持っているか、宝物庫にあった。



「さて、ここの武器を全部スポンジ製にかえてやるか」


 嫌がらせ以外のなにものでもない。

 しかも、スポンジにした後、≪チェンジカラー≫で鉄の色にかえて、変わらない重さしておいた。


「防具は……どうしよう。布でいっか」


 同じように、元の形とは変えないようにして材質だけを変えた。

 布の鎧。

 ただの重ね着じゃん、ウケるw



 すべてを終えるのに結構時間を費やした。

 でも楽しかった。

 これに気づいた時が楽しみでしょうがない。


「一部のやつらの武器は個人所有だから変えられなかったが、それでもいいか。

 あまり簡単に行き過ぎても、おもしろくない。

 希望を持たせて、それが敗れて、少しずつ絶望してもらいたいし」


 じゃあ、次は、逃げ道をなくそうかね。




 ~王城・王族専用地下通路~


≪サーチ≫で見つけた隠し通路。

 王城の外へ通じている。



「さて、塞ごうか。≪ロックシールド≫」


 岩の盾呪文で壁を創りだし、通路をぴっしりと塞ぐ。

 ついでに≪固定≫の魔法をかけてびくともしないようにする。


 王族用、そして貴族用の脱出路は城にいくつかあったので、それを全てふさぐ。




 さーって、お次は召喚の魔法陣を壊しに行こうかなー。



 ~城内・召喚儀式の間~


 この部屋のカギも、やっぱり偽物とすり替えてっと。

 次の召喚は10年以上後らしいし、もうその頃には全部終わってるけどなんとなくだ。


「これ、リースの言う古代魔法っぽいんだよな……。

 ま、前回来た時に≪サーチ≫で魔法陣の形はコピーしてるからヒマになったら研究してもいいかもしれん」


 とりあえず、床に彫られた魔法陣をがりがり削っていく。

≪プロテクト≫の魔法(古代魔法ではない。おそらく、後世のやつがかけたんだろ)なんか目じゃないね。


「ちまちま削るのは面倒だ。一気にやるか」


 亜空間からP90を取り出す。


「リース戦では、どうせ防ぐか避けられるかされる銃は使わなかったからな。

 気分よくぶっ放そう」


 儀式の間全体に≪サイレントフィールド≫をかけて音漏れ防止。


「せーのっ!」


 パパパパパパパパパパパパパパパ!!


「ひゃっはー!!」


 魔法陣の刻まれている床が穴だらけになっていく。

 テンションあがってきたー!



 撃ち続けること数分。


「ふう、もはや原形はとどめてないな」


 魔法陣のあった場所はすべて塗りつぶした。ふーっ、これで第2第3のオレという厨二的展開は防いだぜ。



 次は、書庫だな。


 魔法陣関係の書物を根こそぎ焼いておこう。



 ~書庫~


 いつかのように≪サーチ≫で重要な書類、書籍を探し、役立つものはパクって魔法陣関係は焼却。

 全部燃やそうかとも思ったのだが、今は露見を避けるため必要最小限にしておこう。

 今は、だけどな。


「よし、城の中にはもうないな。

 …………おっと、最後に謁見の間に行こう。

 あそこは国の顔。いいもんがいっぱいあるだろ」




 ~謁見の間~




 こっそり忍び込んだ先、無人だと思いきやなにやら集まっているらしかった。


「それで、勇者は今どういう具合なのだ?」


(ん?オレの話?)


 ここにいるのは、クソ王と宰相、王族くらい。スフィアの姿もあった。


 クソ王の言葉を受けて、宰相が前に出る。


「それが、城を出たところで見失ったようでして。

 ノーマの村に行き、依頼を終えたことは潜入した魔法部隊からつい先ほど報告がありました。

 今は帰り道の途中でしょう。

 腕輪の力で探しますか?」


「それは明日戻ってこなかったらでいいだろう。

 それよりもやるべきことがあるだろう?

 勇者の披露会はいつにするのだ?」


「明日帰還した場合、その3日後というところではないかと」


 ふむ。明日あたりにはつかないと不審に思われるか……。

 

 そして、お披露目まであと4日。

 少し急がないとな。



「では、そのようにはからえ。

 次だ――――スフィア」


「はい」


 宰相がさがり、代わりにスフィアがクソ王の前へ。


「勇者のいない今、おまえの印象を聞いておきたい。

 あやつの籠絡はできているのか?」


「いえ、まだです。

 どうも、ァ……勇者様はあまり女性に手を出されないようです。

 城内のメイドも含め、わたし相手でさえ手を握ることすらありません。

 どうやら、女よりも金、なお方のようです……」


 スフィアの尻すぼみな答えに、王は声を荒げて叱咤した。


「なにをやっている!

 おまえの役割は勇者の召喚と籠絡だろうが!!

 いつまでも金をせびられてはかなわん!」


「……申し訳、ありません」


「契約と痛みという負の鎖。

 女と信頼という正の鎖。

 その二つが揃って初めて、勇者を完全に操れるのだ!

 負の鎖だけでは縛るだけ。

 使える道具だが、最高の道具にはならんのだ!

 勇者を最高の道具として完成させること!

 それがおまえの役割だ!それを忘れ遊びほうけていたのか!?」



 ああ、そうか。

 そういうことか。


 最初は、警戒していた。

 こいつも王族だから、と。


 でも、彼女だけはオレを奴隷として扱わなかった。

 知っているのに。

 オレを名前で呼んでくれた。



 なんだ。

 こいつも、変わらないか。


 ああ、本当に≪サーチ≫は優秀だな。

 頼りになる魔法のことを思い出した。

 

 スフィアのマーカーは、オレンジ。

 中立。


 オレに、敵意は持っていない。



 他の王族と同じように(・・・・・・・・・・)、オレンジ。


 

 当たり前だ。奴隷という道具に敵意を向けることはしない。

 

 設定を変えて、オレが敵意を持っている人間を赤にしてみる。


 謁見の間、オレを除くすべての光点が赤に染まった。




(はは、本当に、優秀だな……。

 言葉で誤魔化そうとしても、こうもはっきり見せられちゃ、な)


 今までの態度は、すべてクソ王の作戦だった。

 危うく懐柔されかけていたかもしれない。


 スフィアだけは、助けてやろう、なんて血迷ったかもしれない。


 ああ、今すぐこいつらを肉片にしてやりたい。


 でも、ダメだ。それじゃあ、気が済まない。


(……抑えろ。今は耐えろ。

 ここで殺してやるほど、オレの復讐は軽くない。

 一瞬で終わらせてやるほど、オレの憎しみは甘くない)


 ここで爆発してはいけない。


 なんのために、今まで耐えてきた?


「一気に」ひっくり返すためだ。


 契約の腕輪をつけたまま、痛みに怯えたのはなぜだ?


 演技を真に迫らせるためだ。


 奴隷に甘んじてきたのはなぜだ?


 道具に殺される、滑稽な姿とそれを知ったときの顔を見たかったからだ。



 すべては、あと4日耐えるだけでいい。



 城内でやるべきことは終わった。

 今日はもう王都にいる貴族の家を漁って終えるつもりでいる。


 そうなれば、あとは、腕輪の破壊の試行錯誤。


 今まで、誤って壊してしまったら……と思い、やらなかった。


 強気なポーズをしているが、痛みに怯え、王族の顔色をうかがう。

 そういう奴隷根性の染みついた勇者を演じきるため、腕輪は必要だった。


 もう、いいだろう。


 演技と我慢も、もう少しの辛抱だ。


(4日後、おまえらの顔が見ものだよ……)

スフィアの今までの行動という布石。

アキラくんの戦争のための布石。


前者は儚く崩れ、後者はそろそろ実りそう。

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