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『勇者』の反逆  作者: 本場匠
1章:聖王国家ペルヴィア編
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7:VS魔物

サラっとバトろうと思っていたのに、ついつい筆が乗って長くなりました。

「そろそろ力もついてきたことだろう。

 一度、魔物と戦ってみるのはどうだろうか?」



 召喚されてから半月あまりが経過したころだろうか、騎士団長サマが余計なこと120%で構成された妄言を発してくれやがりました。



「そうですねグレン団長!

 勇者とやらの力と度胸試しに最適ですっ!」


 あ、今のオレじゃないよ?

 こんなキラキラした目でクソ男を見るわけないじゃん。


 彼女はオレに「私の敵だ」発言をしやがった、団長との勝負を邪魔したあの槍女だ。


 グレン直属の副団長らしく、あふれる好意が丸わかりだ。

 騎士団には、気づかない団長とわかりやすい副団長をなんとかくっつけようとしているやつらもいる。


「いいわけないだろ……。まだオレは騎士団の中でも中の上くらいなんだぞ……?

 簡単に殺されるんじゃないか?」


 能ある鷹は爪を隠す。

 かっこいい諺を、オレは今実践中なわけだ。


 訓練期間をなんとか伸ばすため、模擬戦ではあえて力をセーブしている。

 勇者の高すぎる身体能力制御の修行にもなるので一石二鳥だ。


 そのおかげか、騎士団長に勝ったのはまぐれということになった。

 副団長サマが嬉々とした顔で言いふらしまくってくれたしな。

 よって今回の「勇者はあまり強くはない」、一部の聡い奴には、「勇者は力の制御ができていないのでは?」ということになっている。


(オレがわざとテメェに負けたとは知らず、団長の仇をとったぞー、とか言ってた姿は滑稽だったな)


 ただ、にやにやと見下すような笑みを浮かべるのだけは、本気でぶん殴ってやりたい。

 女?いやいや、こいつは謁見の間にいたヤツだから、人じゃないって。

 それに、オレは男女平等主義者だから。

 女は男を殴ってもいいのに、男はだめってそりゃないだろ。

 力の差?女にもゴリラみたいなやつはいるだろ?こいつがそうだ。


「君は自分を過小評価しすぎるきらいがあるな。

 仮にもわたしに勝ったのだから、堂々としてもらいたいね」


「なにを言います団長!

 こいつは私にも勝てないのです!団長のときはまぐれにすぎません!」


 はいはい、おまえのほうがまぐれ、というか道化ですよー。


「あー、うっぜ……」


「なんだ?」


 やべ、聞こえた。


「なんでもない。魔物と戦う、ってどこで?

 外壁の向こうにでも狩りに行くのか?」


「そうではない。一応停戦中とはいえ他国に勇者のことを知られてもまずいからな。

 強くなる前に、と攻めてこられてはこまる。

 今回は調査のために捕えておいた魔物と戦ってもらおう」


「もう戦うことが決定しちまってないか?なあ?」


「うるさい。おまえはつべこべいわずグレン団長の言うとおりにすればいいのだ!」


「くっそ、こいつにだけは勝っとけばよかったか……?だが、トップ、ナンバー2の両方に勝ったらまぐれとは言いにくくなる。

 我慢、我慢だオレ……」


 拳を握りしめ、顔面ぶん殴って陥没させてやりたい衝動を、なんとか、なんとか抑える。


 いいさ、魔物相手に発散してやろう。


「では、わたしは準備をしてくる。王にも一言申し上げねばなるまい。

 一刻後、訓練場に来るがいい。ではな」


「ふっ、おまえなぞ無様に負けてしまえ」


 二人はついぞオレの言葉など聞かずに行ってしまった。


「こう、なんていうか……。

 ちょいちょい、見えるよな。勇者への態度の差ってやつが。

 知ってるやつと、知らないやつで」


 今までのより遅咲きの勇者(このぐらいのレベルにとどめている)とわかってから、より露骨になりやがった。


 当初の予測通り『知っている』連中、団長、副団長や隊長、副隊長などの上のやつらがそうだ。

 たまに調子に乗った武官一族のお坊ちゃんとかいたが、そいつらには負けてやんなかった。

 うざい上に弱いから。

 お坊ちゃんてやつは、力もないのに人を口撃する箇所だけは見逃さない目をもってやがる。

 もっとないのか、見るものは。


「気をつけるのはそいつらくらいでいいだろう。

 心の内を悟られないよう、うまく演技しないとな」


 念のため、精神に作用する魔法の対策もしている。


「まあ、どうせ全員ぶっ殺すんだ。攻撃不可じゃないやつらなんて勇者の敵じゃねぇ」


 無関係?

 違うだろ。

 本来なら、オレこそ無関係だ。

 この国どころか、この世界に。

 なのに、オレにテメェらの尻拭いをさせる?

 それが当然のことだと思っている?

 おかしいだろ?

 なのにこいつらはそれをおかしいとは思っていないのだ。


 確かに少数派には、オレに感謝してくれるやつもいる。

 だが、そいつらも含め、この国の馬鹿どもは「勇者は国に尽くすもの」という見方をしている。


「そういうやつらは反省しない。

 オレが暴れても、『今代の勇者はなんてひどい』とか言って次を召喚しやがる」


 勇者の召喚儀式を行っていた神殿をぶっ壊すことも、目的としようかね。


 書庫で調べたところ、あれは王族の今までの交配によって得た多量の魔力とそれを増幅できる日付という条件の元で行われる。

 必要なのは、中級魔法使い100人分の魔力と星の配置、そして神殿の魔法陣。


 最初の勇者を召喚したのはもう何百年も前。

 魔法陣はそのころから変わっていない、というか変えられない。

 魔法陣の構成方法を知る人間はすべて死に、もはや失われている。


「調査して、再現できないよう跡形もなく消してやる」



「アキラさーん!魔物との試合ですよ!」


「なんでオレをよびに来るのは毎回スフィアなんだ?

 本当にヒマなのか?」


 この半月で、スフィアとはそれなりに打ち解けた。

 オレに対して、普通に味方として話をしてくれるのは彼女だけだ。

 王族であることに、召喚主であることにしこりはあるが、クソ王やクソ第1王女に対するものよりは小さなものだ。


「むー!応援しようと思ってきたのに、そういうこというんですねっ!

 アキラさんなんかとても苦戦すればいいんです!」


 スフィアにだけは、アキラと呼んでもらっている。

 最初の時は人から呼びかけられることを久しぶりと感じてしまった。


「苦戦て……。一応勝ってはほしいわけね」


「だって、捕獲したとはいえ、魔物相手ですよ?

 騎士団や魔法部隊のように手加減も寸止めもしてくれません」



「やれるだけのことはやるさ」


 見直されない程度に、な。


「では行きましょう。今回は多くの人が見学に来ますから、緊張しないでください」


「はあ、また見世物になるのか……」


 今回はおそらく、勇者の仕上がり具合の途中確認。

 クソ王なども観戦に来るだろう。

 優雅に酒でも飲みながら、何分で倒すか賭けでもしているかもしれない。



「事故に見せかけてぶっ殺してやろうか……」


「なにか言いました?」


「いや、なにも。いいから行こうか。そろそろ時間だ」


 ダメだな。それではオレの気が済まない。


「拷問魔法、創っておこうかねェ……」


 ニタァ、と口角を歪ませる。

 歴代勇者の分まで、ツケを払ってもらおうか。


 せいぜい、今日の試合を眺めて油断しててくれよ。




 ~訓練場~



「ではぁ!これより勇者VSオーガ&ゴーレムの試合を開始します!」


 司会はいつもの下っ端兵士。

 だが、今回はクソ王をはじめ国の重鎮どもも観戦しているからあまりふざけてはいないようだ。

 やつらは安全圏にいて、ゆうゆうと観戦している。

 オレの扱いは完全に、コロッセウムでのグラディエイターだな……。


「あれが、オーガ……。モンスター、か……」


 オレの正面、訓練場の入り口に置いてある檻の中にソレがいた。

 身長はオレよりも一回り大きい。

 たくましい筋肉、鬼の角、そして、ギラギラとした目つき。

 武器はメイス。騎士団が与えやがったらしい。

 見ただけでわかる。強いな……。


 そして、檻の外には土色のゴーレムが3体。

 オーガだけでは足りないだろう、と魔法部隊副隊長|(土、水の使い手)が造ったそうだ。

 試合開始とともに、副隊長がオレを殺す気でやれという命令を送り込む。

 一応、緊急停止はできるようにしてあるらしい。全然安心じゃねェけど。

 直接操作しないのは、訓練とはいえ初の魔物相手なのだから、という気遣いなんだって。

 じゃあゴーレムなんていらねぇよ。まずそこに気ィ遣え。

 そう言ったら「魔物は群れできますから、対複数戦闘は基本です」だって。

 正論だけど、ねぇ……?もっと弱いやつらじゃね、群れで来んの。


 オーガもゴーレムも、騎士団では上の中レベルが数人がかりで攻略するレベルの相手。


「でも、やるしかないか……」


 クソ剣を実体化。

 それをだらんと下ろしたまま、オーガとゴーレムを視界におさめておく。


「ではっ、はじめ!」


 オーガが檻から解き放たれ、火ぶたが切って落とされた。




「ゴォオ!」


 最初に動いたのは一番右にいたゴーレム。3体いるから右から順にゴーレムA、B、Cと名付けよう。


 ドスドスと大地を震わせ、一直線に襲い掛かってくる。


「ゴーレムってのは拠点防御にこそ真価を発揮すんじゃねェのか?

 なのに向かってくるとは」


 今回は術者の操作がない。本能のままに襲い、大振りを繰り返すのみ。


 いくら攻撃力が高かろうが、当たらなければ意味はない。


 振り回される茶色い拳を軽く避ける。

 そのまま、すれ違いざまにクソ剣で切りつけた。


 ガキィッ!


「ちっ、かてぇじゃねぇかこのヤロウ……」


 土を凝縮させて硬さを増しているのか?


「こりゃ、1割じゃなく3割くらいの力を出すべきか……?」


 後ろから襲いくるゴーレムB、Cを見ないで避ける。

 すでに訓練場の戦闘領域に魔力の波を広げてある。

 気配だけでも察知できないことはないが、細かな動きがわかるこれは便利だ。


「苦労して魔力制御覚えたかいがあるってもん、だっ!」


 さっきよりも力と速さをこめ、振り返りざまにゴーレムBの左足を刈り取る。

 バランスを崩したゴーレムBは隣にいたゴーレムCにもたれかかった。


 それを広げた魔力で感じ取りながら、振り下ろされるゴーレムAの腕を切断。

 ゴーレムAの腕と、ゴーレムB、Cが倒れて土煙を上げる。

 それに紛れ、一時間合いを取る。


「オーガは動かないのか……?」


 襲ってきたのはゴーレムのみ。オーガは試合開始の位置から動いていない。


「オーガはBランクの魔物だったはず。

 もしかして、ゴーレムとは共闘しないのかもな。仮にも自分を捕えたやつらだ。

 オレもゴーレムも、オーガにとっては敵なんだろ」


 自分を納得させると、土煙の向こうに起き上がってくるゴーレムに目を向けた。

 一応、オーガに注意は向けておくが、まずゴーレムを先に片づける――――!


「はぁっ!」


 魔力による身体強化、風魔法による風の鎧と空気抵抗の減少。

 それらを同時に、魔法部隊の平隊員程度の魔力で行う。


 この半月間、訓練時間外もずっと自主練してきたんだ。

 魔力制御と歴代勇者の戦闘経験を自分のものにした。


 そうして得たのは――――速さ。


 魔法による速度上昇。鍛錬による無駄を省いた最適行動。



 のろいゴーレムの動きなんて、止まって見えるぜっ!!


 一瞬で背後に回り、クソ剣で薙ぎ払う。


 胴で上下真っ二つにしてやった。


「次っ!」


 残った2体のゴーレムに切りかかる。

 やはり大振りな拳をかいくぐり、同じく上下に分断する。


「――っ!?」


 直観とともに魔力の波が動きを感知。

 横っとびに跳んだ。


「さっき切ったはずだろ……?

 なんで動いてるんだあのゴーレム」


 ゴーレムA、B、Cは変わらず動いている。


「……いや、色が濃いな。地面と同じ、乾いた土色だったはず。

 副隊長がなにかやったな……?」


 一度、軽く切りかかって、すぐに間合いを離す。

 腕を切りおとしたはずだが、ズズズッとうごめきくっついた。


「ふ~ん、泥、か……。副隊長は水と土属性が使えたな。

 土で造ったゴーレムに魔法で生み出した水を混ぜたのか。

 混ぜてから放つんじゃなく、放ったものを混ぜたわけだから混成魔法じゃないが、いい発想だ」


 なら、どうするか。

 元の世界のゴーレムはなんか文字をかけば死んだはずだが、こっちとは違うだろ。

 書庫で読み漁った本や、勇者の経験による知識を思い出す。


「……どっかに核があるわけか。それさえ壊せば復活はない」


 探し物にはうってつけの魔法がオレにはある。


「≪サーチ≫」


 軽くつぶやく。

 検索項目は『ゴーレムの核』。

 それだけで、スクリーンを通した世界に映るゴーレムのある部分に〇が表示された。


 ゴーレムAは右目。ゴーレムBは心臓。ゴーレムCは喉、か。


「ロックオン。

≪光よ、其はなによりも速く、貫く矢なり。アローレイ≫」


 詠唱破棄はしない。

 歴代勇者と違ってできないと思わせているのだから、使うわけにはいかない。


 詠唱と力強いイメージによって、無形の光は形を得る。

 普通の≪アローレイ≫よりも、速さと貫通力を詠唱で強化してある。


 ヒュッ――――!

 音は3つ。

 すべて一撃で、ゴーレムの核を撃ち抜いた。


 泥のゴーレムは核を失ったことでまとまりを失い、どろどろと崩れていく。



「来たか!」


 ゴーレムが崩れ始めるのとほぼ同時。

 敵を倒して、気を緩めてしまう絶妙のタイミング。

 オーガがメイスを振り上げ襲いかかってきた。


「オレにはそんな隙ねぇけどなぁ!」


 クソ剣で受ける。


「重いな……。さすが鬼。身体強化かけてなかったら勇者でも互角くらいか」


「ガァアッ!!」


 力任せに押されるメイスを、クソ剣を操って流す。


「≪サーチ≫」


 オーガの弱点。どこだ……?


「人間とあんまかわんねぇ。角が入ってる以外は人体の急所と変わらねェな」


 空気をぶち抜き、唸りをあげるメイスをさける。

 初めての、本気の戦闘。

 騎士団の訓練とも、緊急停止付きゴーレムとも異なる、殺し合いの空気。

 歴代勇者の経験とも違う、肌で感じる殺意と凶器。


「くそっ、ビビってんじゃねェよ」


 震えそうになる心を叱咤する。

 本気の戦闘だが、まだ実践じゃない。

 横槍のない訓練場。予想外の第三者の乱入もない、安全な場での試合に成り下がった殺し合いだ。


「殺し合いには違いないけど、なっ!」


 足払い。

 かたい。が、勇者と強化の力で無理矢理押しとおる。

 態勢を崩した。

 当然、致命的な隙は逃さない。


「とっとと終われ!!」


 メイスを持っている手首を切り取る。

 予想以上にかたかったが、さっきのでそれは知っている。ゴーレムに対した時以上の力を込めた。


「グガァアア!!」


 オーガの悲鳴。


「恨みはないが、死にやがれっ!」


 空気を切り裂くクソ剣。

 オーガの首が飛ぶ。


「はあっ、終わった……」


 吹きだす血を避け、クソ剣を杖のようにして支えにする。


「試合終了!

 勇者様の治療とオーガの回収を行え」


 訓練場に声が響き渡り、ぱらぱらとまばらな拍手が降ってきた。


 初めて、人型の生物を殺した。

 なんの恨みもなかった分、クるものがあるな……。


 オーガの死体をちらりと見て、訓練場を後にした。


 あいつも、オレと同じく、捕まって、いいように使われた。

 殺したオレが言うのもおかしな話だし、知能が低いことで有名なオーガに言うことじゃないかもしれない。

 でも。


 おまえの分まで、観覧席で眺めているクソどもに思い知らせてやるよ。

初めて拙作を読んでいただいた感想をいただきました。

ありがとうございます。これはうれしい。

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