1:召喚
「勇者様、この国をお救いください」
そこは神殿のような、厳かな雰囲気の空間だった。
いくつもの柱が立ち並ぶ石造りの部屋の中心は、自らが座り込んでいる場所のようだ。
「どうなってんだよ……これ……」
神殿なんだからいるだろう神様とやらに届いてほしい。この気持ち。
ついさっきまで見える景色は、学校帰りの通学路だったはずだ。
それが、いきなり光に飲み込まれたかと思うと、こんなところにいる。
どうなってんだよ、おい……。
「勇者様……?」
「なあ、あんた。これどうなってんだよ。どこだここは」
さっきから目の前で跪く少女に、そのまま疑問を投げつけた。
一応、ラノベやゲームをたしなむオレとしては、想像がついていないこともない。
よくあるテンプレな展開。
まあ、当たってほしくない想像なんだけど。
――――異世界召喚、なんて。
「ペルヴィア王国にあります、召喚の間です」
「召喚の間、ねぇ……。こりゃ、確定か?」
少女の答えに、めまいを感じた。
そうやって途方にくれていると、少女に呼ばれる。
「それで、勇者様」
「その勇者様ってのやめて。そんなのガラじゃない」
「では、なんと……?」
「東城アキラ。それともアキラ・トウジョウって言えばいいのか。
好きに呼んでくれ。
で、君は?」
「申し遅れました。ペルヴィア国の第3王女、スフィア・ペルヴィアです」
巫女か神官かと思ってたら王女様かよ……。
やば、無礼な口きいたとかで怒られたりしねぇかな……。
「じゃあ、スフィア。なんでここにオレを召喚したんだ?」
「それについては、後程、王から聞いていただきます。
ついてきてください」
彼女は疑問に答えることなく、立ち上がって踵を返した。
すたすたと先を歩いていくスフィアに慌ててついていく。
王の間までの道のりは珍しいものだらけだった。
見るからに高そうな調度品やら絨毯やら甲冑やらが並んでいる。
そして、壁に掛けられたこの世界の大陸らしき地図を見つけた。
「ああ……、マジで異世界かよ……」
その大陸は自分が見慣れたものとは似ても似つかず。
しかも、何故か文字がわかる。
見たこともないような、ぐにゃぐにゃにのたくった字なのに。
この国のある場所、隣国の名前、すべて読める。
便利っちゃあ便利だけど、なんだかなー。
違和感に頭をひねっていると、歩みが遅くなったことに気づいたのか少女が振り返っていた。
「どうかしましたか、勇者様」
「また勇者って……。いや、もういい……」
「地図、ですか?」
スフィアは視線をたどったのか、同じように壁の地図を見る。
「そ。ちょっと気になっただけだよ。
行こう」
「はい、勇者様」
これから、どうなるんだろうな?
スフィアが第2王女→第3王女と修正しました。