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呉藍の薔薇  作者: 散花 実桜
二章  王宮編
32/35

番外編 ノワ・ド・ココの話「落下の椿姫」4

※ノワの話だけが先行する形になってしまいました。

一応、保険で3月更新時に此方も設定しました。

本編を書く時間があれば差し替えます。

一刻の後、人払いが成されたノワの寝室。

艶やかなままのブロンドを何本かの縦ロールにし、サイドの髪を指で持て遊びながら、5年目にして初めて口にした。

「ねぇ、あの子は生きているのかしら?」

「……」

「お父様はあの子の望みを叶えて居るべき場所に帰したと言っていたけれど……。子供には耐えられないと想わない?」

「……そうですね」

訳の分からない言葉に棒読みみたいに答えるしかなかった。

あの事件の時、先の女官長と私は綴り手の契約を受けるべく神殿に赴いていたからである。

知らされたことは、王子様に夢見ていた少女が結婚の現実と一夫多妻制に悲嘆して、後宮に使えていた低級の魔術師の手を借りて逃亡した―――。ただそれだけだった。

薄々と言うより確信していたことだが、本人の口から仄めかされると、心の内部に燻る闇が暴れ出しそうである。

世間知らずの小さな子供に、ノワはいったい何をしたのだろうか?

いけしゃあしゃあと語る姿に虫ずが走る。

物静かな印象を持つ女官長が慌てふためいて捜索隊を出したが、魔術師は魔術が身に跳ね返り、惨めな姿で冷たくなっていたと聞いた。

「陛下は何であんな子供を選んだのかしらね?可哀想にホームシックにかかっても仕方ないでしょうに」

「政略結婚において昔はあのくらいの歳でと言う事も御座いました」

「でも、陛下はご自分が結婚したくないからとあのような年端のいかない子供を選んだように見えたわ」

「そうで御座いましょうか?」

耳に返ってくる自分の抑揚が酷く冷めて聞こえる。

反比例して耳に付く高い声が更にトーンを上げた。

「だって、月のものもなかった子供に王妃だなんて……務まるわけ無いじゃない!!!」

「……」

「ましてや出自不明。何処かで拾ってきた子供だったのよ。もしくは、自分好みに育てて裏切られたのだわ。陛下が表立って捜された事実はないのだし//////」

ご自慢の孔雀の扇が高らかな笑いと比例して大きく宙を仰いだ。

真っ白い骨には細やかな透かし模様。そして、鮮やかに描かれた世界の母と崇められる聖霊と家紋が、白く細い手の中で5年の月日を感じさせずに存在していた。

私は巫女であった事も忘れ、穢れた想いを何度も身のうちで繰り返し唱えた。

身分ある者は腐っていると。自分が染まってはいけないと戒めながら。


謳うように饒舌に真っ赤な嘴から次から次へと言葉が出る。

「例えこの世になかったとしても、それが定めなのよ。だって、王が選んで植え付けたのですもの。王妃として葬られなくともそれだけで幸せでしょう」

真っ赤な二粒を最高の宝石と慈しみながら、自らの栄華に浸るノワ。

そんなを滑稽と内心あざ笑う。

「何故、お止めにならなかったのですか?」

「アグゥリ何が言いたいのかしら?自分の利に繋がることよ。願ったり叶ったりだわ」

「見殺しにされたのですか?」

淡々と紡いだ言葉は、鋼鉄の刃となって相手を攻撃するのではなく、跳ね返って心に突き刺さる。

5年前、王妃様は何歳だっただろうか?

年端もいかない子供だった。

誰もが見殺しにしたのだろうか?

必死で聖霊に懇願した。


「王家の石にこんな副作用があるなどとは知らなかったのよ。後宮の争いに簡単に負けてしまうような子……」

「……」

「貴女は幸運ね。だって私に選ばれたのよ。この私に!世の中は出自で決まるのよお名前は?とか、王妃となるべく育てられた格の違いとかちょっと話しただけで怖じ気づいてしまうような子ではなくてね//////」

「貴方様に敵う方は中々御座いません」

「そうでしょう。ドロース公爵の孫よ。例え民が食に困っても最期の時まで贅沢が極められる身分よ。何て言ったら緑色だった瞳が金色に見えたのよ。だから言ってやったわ気持ち悪い貴女なんて王に愛されやしないって」

王妃様は魔術師の家系にでも生まれたのだろうか?

魔術の発動時瞳が紅く染まるのは、紅蓮の悲鳴の一件もありこの国において周知の事実だが、30年以上生きてきて瞳の色が他の色に変わる等ということは聞いたことがない。

小さな子供が心細い状態で傷つけられ罵られたのでは逃げ出すだろう。

「だから、魔術師を後宮に入り込ませて手はずを整えてあげたのよ。だって、後宮に華は1つで良いんですもの//////」

抑揚無く話していたことが幸いしてか、ぽろぽろと真実が紛れ込み始めた。

気分良く高笑する主を眺めていると、塞き止めていた気持ちが爆発してしまった。

「……失礼」

ノワから扇を奪い取ると八乙女として幾たびも踊った舞を舞った。

意味を違えたノワが賞賛の声を上げる。

「流石八乙女ね。祝福の舞かしら素敵ね」




聖霊よ かの子を守り給え

代価として 我が命を差しだそう

それでも足りなければ……


生玉の舞を踊る。

けして目の前の者にではない。

寧ろ糧だとばかりに禁聖歌を口ずさみながら。



しかし、私には禁聖歌の歌う資格はない。

発動させるだけの力がないからだ。

これは呪いだ。今唯一出来ることはそれだけだった。




「全てが私のもの。後宮の唯一の華たる私のね//////」

ノワは何も知らずに新たな扇をひらつかせる。

チュールレースにはこの部屋の庭からは見えない大輪の薔薇があしらわれていた。

それ越しに見えるノワの顔は酷く醜かった。

優越感に浸る顔。


闇歴史の綴り手とは公平で客観的でなければならないと、感情を押し殺してきた日々の終焉。




愚かにも他人の死を望んだ瞬間だった―――。





禁聖歌とは上位巫女の間で口伝されるもので、何種類かあります。

禁聖歌の元は偉大な魔術師の呪文から出来ている設定。

異国語で歌われた呪いみたいなものです。



後は、冒頭のココ侯爵が知った事実と半年間のノワの変貌とかで2話分ぐらいで終わるかなとか。

本編書きたいのですが、時間があるかどうかより、心の平穏があるかどうか何ですよね。





                               実桜


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