陛下の恋愛事情 なんきんとかんきん 陛下編1
タイムアップでした。
ミユ迄たどり着けなくて御免なさい。
しかも書きかけなので短いです。
「本日のお飲み物は珈琲・紅茶・ホットチョコレートどれになさいますか?」
ふくよかな体格の侍女が、おきまり文句を今日も言う。
「珈琲でいい」
「ミルクは如何致しましょう?」
「いらん」
おなじみの会話が繰り広げられたのち、出されたのはオーダーした黒色の液体ではなく、紅茶と大量のレモンスライスだった。
「頼んでいない」
「何も王だからと大して美味しくも感じないくせにブラックで珈琲を飲む必要は御座いません」
「豆の味とか香りとかちゃんと嗜んではいる」
「しかし、その反動でスコーンにクロテッドクリームを塗って更にジャムやクロワッサンにこっそり蜂蜜などを掛けているようでは本末転倒です」
乳母だった女性はそう言い放つと、満面の笑みを浮かべて「さあ、どうぞ」と勧めた。
朝から刺激的なのには変わらないとは思うが、込み上げてくる胃液には叶わない。
表情は渋々、内心はしてやったりという心情で「勿体ないから頂く」と答えた。
幼い子を諫めた後には深い懐で受け止めると言わんばかりに、侍女はにこやかに朝食を並べた。
元乳母は6年前も侍女の任についていたが、ミルティーユが後宮を辞した事を知ると、「甲斐性がない」と嘆いた。
自分の教えが悪かったとも悲嘆に暮れ、それから一月と立たずに辞めていった。
それが、偶然にもマール公爵家でメイドをしていたと知ったのは、つい数週間前のことだった。
急ぎの案件で、カバジートの元を内密に訪れた際再会したのだ。
「陛下は昔から食に疎う御座いましたから」
最近案件が立て込んでいて、碌に食事も取らずに職務に励んでいた所為か顔色が悪く感じたのだろう。
侍女は嘘っぽい涙を流しながら、大仰に目元をハンカチで拭って見せた。
「陛下、夕食は召し上がられたのですか?」
「……ああ。何か忘れていると思ったら、朝から食事を取るのを忘れていた……」
その呆れた物言いに、侍女は卒倒しながらも迅速に食事の用意をコックに頼みに行った。
当の本人は、騎士時代に断食も経験済みで、刺さった小骨が抜けた程度なのだが、侍女にはそうはいかなかったらしい。
すぐにマール公爵に直談判し、カバジートと言う後ろ盾を得て、6年ぶりに復職を果たしたのだった。
以来、どんなに忙しくとも食生活は改善されてきた。
本日の朝食は、人参のムースにクロワッサンにバゲット。勿論バターにジャム付きだ。
何時もより豪勢にパウンドケーキも付いている。
「これのために紅茶にしたのか?」
「いいえ、それは王妃様が帰城されたので、コックに頼んだのです。陛下の分はあまりです」
一番偉い人の出した食事が余りだと大それた事を平気で言い放つ。
しかし、機嫌を損なうこともなく席に着くと寧ろ笑みを浮かべて侍女を見上げた。
「これだけではないのだろう?」
「ええ。何と言っても監禁されている訳ですから、食事や衣服などは楽しんで頂きませんと」
侍女は食えない笑みを浮かべて、本日のお品書きを懐から取り出すと、ピラピラとはためかせた。
ラヴァニーユは深く溜息を吐く。
昔は思慮深く厳しい女性だったが、今や偶に小煩い母親的立場にある。
しかし、居住のケアーに関してはこの侍女に任せておけば間違いないと分かっているので、
「頼むと」頭を下げた。
ふんわりとした笑みを浮かべて、侍女は頭を垂れた。
「手始めに退屈なさらないように、各地の民族衣装とバリエーションにとんだ食事をご用意致しました。あちらは豚のリエットや野菜のスティック等追加して御座います」
「女心は分からないから任せる」
「こういう時にはあの方の……」
「お陰で休む暇がない」
“ボーネ・ダティルによる国土拡大が役に立ちましたよね”と失言しそうになり、侍女は慌てて口を押さえた。
それも虚しく伝わってしまい、ラヴァニーユは深く眉間に皺を寄せながらバゲットにバターを塗りたくった。
「この8日間ほど、余り食事をなさられて居りません。その様なことでは、民が困ります。明日からは朝食だけでも王妃様となさいませ」
「考えてみる」
苦笑いを浮かべて答えた。
後宮での付箋をちょっぴり回収してあります。
元乳母の侍女は、6年前に出てきた婦人です。
この話を書くのに、没の話が2つ。書いている途中で挫折したんですけどね。
2次サイトの更新をしていたので、時間があまりとれませんでした。
オリジの方のブログに、没ネタの途中まで載せておきますので、許して下さい。(その話は用意でき次第、サイトに移す予定です)
次回更新予定までに、もう一回フライング更新したいのですが……。
お付き合い下さり有り難う御座いました。
実桜