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呉藍の薔薇  作者: 散花 実桜
二章  王宮編
29/35

番外編 ノワ・ド・ココの話「落下の椿姫」2

本編の更新は無理でした。御免なさい。


文中の補足

八乙女:神楽や舞を奉仕する巫女

巫  :神託(この場合は聖霊)を伝える巫女




血のように真っ赤な石―――が、

じくじくと痛み出した。

その間隔は、短くなってきている。

当初、雨を知らせるかのように前日に痛む程度だった疼きは、痛みを増して数日間隔になった。

その苛立ちを向けるかのように、ノワは小柄な老婦人を罵る。

他人の痛みで自らの痛みを紛らわすかのように。

「そんな目で見ないで!!!」

「痛むのでしたら侍医をお呼びしませんと……」

「誰が痛むなどと言ったのかしら。私を侮辱するの?」

高価な孔雀の扇を振り回し、金切り声を上げるノワの耳に納まる王家の石の周りは、腫れてもいなければ化膿もしていなかった。

それは、毎日幾度となく身支度を調える侍女や女官達ならば、知っていることである。

常はアップにして見せつけている筈の髪を、雨の日は乱れると言いながら縦巻のウェーブしていた。

端正な顔がやや腫れて見えるのを隠すためである。

ノワは数日満足に眠れてはいない。

そのことを冷水を毎朝所望することから、察していた女官長の訪問だったが、不運な役回りになってしまったようだ。

「後宮の主たる証は、本日も一際輝いております。ノワ様の美貌に大変栄える紅に御座います」

「そうでしょう。先代も先々代の妃達も与えられなかった真たる証よ。どうにかなるものではないわ」

女官長はノワの気性を察して、胡麻擂りのように賛辞を並べた。

それに気をよくしたノワは、扇を広げゆるりと仰ぐ。

「でしたら、私は失礼します」

女官長が退出の許可を求めると、掠めるようにして扇が飛んでいった。

「ヒッ!!!」

低い悲鳴がその場にいた者の心臓に矢を刺す。

青ざめた顔を並べて、時が止まる。

「誰が戻って良いと言ったのかしら?」

ノワの血走った目が、獲物は逃がさないと言わんばかりに睨め付けていた。

女官長の落涙が跳ね返った扇の羽を濡らした。


その矛先が何時自分に飛び火するか脅えた侍女は、ココ侯爵に手紙を綴った。

―――ノワ様の成婚の証は小さなまま、日に日に痛みを増しています―――

幾日か過ぎて

―――王家の石が埋め込まれた者は、王の女と呼ばれる―――

とだけの短い返信が来た。

“王の女”となった娘の肩書きにしか用がないと言う意味だろう。

上質な白い紙をグシャッと握りつぶすと、縋るように私を見上げた。

「魔術は魔術師でないと答えは出ないでしょうね」

そう返答して私は逃げた。




毒が蝕むような―――。

麻薬に似た様な状態だと誰が言えよう。

仮にも、今は後宮の主なのだ。

それも“王の女”

もしもを口にすれば、ノワの出自にも及ぶかも知れない。

それは、系譜に連なる誰かが不貞を働いた事になってしまうからだ―――



私が咎を受ける分には構わなかった。


血に連ならない巫女は行き遅れになりやすい。元々結婚に制約があるのだ。

故に人生を半ば諦めていた私は、他人事みたいに答える事しかできなかった。




侍女は、老婦人に密かに接触を図った。

元巫女の端くれだった侍女は、魔力に恐れを抱いていた。

それもましてや冷酷な魔王と繋がっている王家の石。

“王の女”と呼ばれる主は真実王の女にはなって居なかったのも、不安を煽る。

現女官長は、か弱いただの老婦人だった。

故に頼りなく感じたのだろう。

知っている者は毅然とした前女官長を想い出し、「あの方は~」と讃えた。

その身を生涯聖霊のためにと願っていたが、政略結婚に落ち着いた敬虔な女神信仰の未亡人。

陛下の母君の侍女は皆、特殊な家の出だった。その内の一人が先代の女官長を務めていたのだ。巫女から転身した侍女にしてみれば、藁にも縋る思いだっただろう。

筆頭巫女でない者は、各分野の中で1つを極める。

例えば、私が八乙女で在ったように、先代は巫だった。聖霊の声を聞き信託を伝える。

血がなせる魔術と言われる巫女の中でも秘中の秘。

その事は外部には秘密だったが、勘でも働いたのかも知れない。

「先代様なら何かご存じでは?」

そう囁かれ、老婦人は先代の女官長に連絡を取り、後宮の秘密の部屋の鍵を手に入れた。



割と近い一角に秘密の隠し部屋はあった。

後宮の西の中央区画の地下。

誰の訪れもない暗闇に燭台の明かりを差す。

まるで、それが希望の灯火のように誰にも感じられた。

私は神殿でヒステリーな貴族様を体感して育ったような物なので諦めていたが、侍女と女官長に縋られて参戦していた。


牢より頑丈で、宝物庫とは似ても似つかないような質素なたたずまい。

それでいて、武器庫より厳重な―――。

錆び付いた扉に油を差す。

それでも、頑固に拒み、三人がかりでもやっと耳障りな音を立てて少しずつ根負けしたみたいに開いていく様な感じだった。

むわっと埃が舞い、咳が止まらない。

ゴホゴホと痛む喉に苦しむ。

細かい残骸が燭台の明かりの中で、希望が果てるみたいに舞っていた。

「アデルト様!!!」

先代の巫女の名で叫ぶような祈りを上げると、老婦人は中へと光が届くように自らの燭台を掲げた。

埃にまみれた室内には色とりどりの本が収められていた。

雪崩れ込むようにして三人中へ入る。

すると、火を拒むように燭台は全滅した。

「いや!!!」

侍女が泣き叫ぶ。

老婦人はがたがたと音を立てるほどに恐怖し、私の袖口を掴んだ。


私は溜息を一度零すと、小さな魔方陣を描いた。

初歩中の初歩。光を呼ぶ方陣。それは、部屋の仕掛けに反応して、四方に飛び散り、地下部屋を明るく灯しだした。




そしてそれは、運命か必然か、目の前に飛び込んできた。

中は小さな資料館と言っても過言ではないつくりで、書棚がぐるりと囲んでいた。

最後の粒が弾け、何となくその場所へと私は歩み寄った。

中央の配列の目線の高さの右。丁度取りやすい高さだったからなのかも知れない。

辺りは薄い埃に覆われており、全てにおいてはっきりしない。

取り敢えず背表紙を指でなぞると、落下の桜姫と書かれていた。

手に取りぱらりと捲ってみる。

『王家の石は愛によって育ち、愛によって散る―――』

そんな文章から始まる当時の侍女の日記を転載したものだった。





メモ書き復活です。

全然書く(打つ)時間がありません。

妄想?する時間も在りません。

寝落ちばかりの日々です。

何時暇になるのでしょうか?

暇な時間は休憩時間だけな気がしてきました。

お弁当をコンビニに変えて、書けたのが番外編ぐらい。

来月はもっと怪しいです。

バジ頑張るんじゃなかった……。


こんな話にお付き合い下さり有り難う御座います。




                                実桜


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