陛下の恋愛事情「なんきんとかんきん」オルジュ編
ラニーとオルジュの話です。次に漸くルリ達と絡みます。
忙しくて書き直す暇がないので、取り敢えずで申し訳ありませんが、お許し下さい。
年に一度の女神の祝福の日を迎えることなく、西日が落下してから8日目の朝。
スターニス王宮の王の専用区域―――。
外は薔薇が開花し、朝露にその強い芳香をお裾分けでもしそうな程、懐に留めている。
まるでダイヤがシャンデリアの光で目映く輝くように、宝石面してキラキラと無垢に。
躯の小さな鳥が甲高い声でチチチ……と鳴く。
それに対抗するかのように、遠くで雀がチュンチュンと囀った。
「ラヴァニーユのやつは居ないと―――」
辺りをキョロキョロ見回しながら、明らかに不審な出で立ちで抜き足差し足―――まだ酒の匂いが残る室内を進む青年が居た。
朝帰りに身を潜めるという訳ではない。
何故ならば青年―――オルジュ・イア・エスピガは、昨日許されて此処に泊まり込んでいた。
主すら居ない静まりかえった室内で、忍び足の目的は1つ。
毛足の長い絨毯の先には、秘密のヴェールに包まれた続き部屋の入り口がある。
こんな事が起きなくても、何時かは覗いてみたいランキング1位の場所。
その玄関、暖炉まで後一歩というところで、ボウッと淡い光が行く手を阻んだ。
まるで、マジシャンの帰還のようにすらりと長い手足が中からニョキニョキッと生えてくる。
「うわぁ~!!!」
驚いて仰け反ると、今度は顔が飛び出してきた。
魔術師の家系ではないので、何度見てもなれない光景である。
「何だラヴァニーユか……吃驚したなぁ~」
「……起きたのか酔っ払い。兄上は?」
企みが失敗し、秘密を暴かれた形となったオルジュは叱られた子供みたいに、しょげかえっている。
オルジュの裏返った声に、呆れながらラヴァニーユは尋ねた。
オルジュは頬を膨らませながら、ラヴァニーユの瞳を見ないように半ひねりでその場所を見る。
「とっくに冷たいよ」
「だろうな」
空になったソファーを指さす。酒の残り香が残る其処に温もりはない。
ラヴァニーユは其処を見つめ、笑みを刻んだ。
「オルジュが気付く前に帰ったか」
ラヴァニーユはオルジュをまじまじと観察しながら、顎に手を当てて何度も納得と云わんばかりに頷いた。
陛下と臣下ではあるが、二人っきりの空間においては対等。
朝の挨拶もないのがその証拠である。
居て当たり前。寝食共にするぐらいこの6年間、共に奔走してきた2人である。
オルジュは子供っぽく感情を顕わにしたまま、チェっと舌打ちした。
「早く起きるんだった―――。ルリ元気?」
「すこぶる元気だったぞ。お前が二日酔いだって話したら特製ドリンクのレシピを渡された―――が、御免……」
ラヴァニーユは何処が悪かったのだろうかと悩みながらも、オルジュの肩に手をかけ耳元で謝った。
オルジュはのけ者にされたことだと思い、「分かればいいよ」と苦笑いを浮かべる。
ありとあらゆる意味での詫びだったことに、当の本人は疎かオルジュも気付かなかった。
所謂予知と云うやつだろうか?
気を取り直して、一呼吸すると、キリッと陛下面になり問う。
「オルジュ、一旦帰るか?」
「いや、自室に戻って出直します。陛下はどうなさいますか?」
こちらも仕事モードに切り替えた。
「今日1日は、宰相に代行を頼むつもりだ。急を要する案件はないからな。箝口令など無意味だろう。ミユが戻ったのはすでに周知の事実。宰相なら上手くやってくれる」
「で、姫さんの所へ通うつもりですか?」
素で突っ込みたいところを押さえて、言葉を選んだつもりだった。
方陣は昼間のは後宮用、夜間酒の相手もせずに励んでいたのは、現在の部屋。
もはやすることもないのに、一日休み。
親友としては狂喜乱舞の内心に、銀の杭が刺さるとは夢にも思わなかった。
「何故だ?」
「って言うか、嫁さんが帰ってきたんだからご機嫌伺いくらいは当然でしょうが!」
開いた口が塞がらない。
よもや此処までとは、オルジュは吼えながら君主の欠陥をどう繕えばマシになるのか、瞬時に頭の中を巡らせるが、円周率と同じで無限に終わりがきそうにないと答えが出た。
「女は夫は元気で留守が良くて、プレゼントを貰えればいいんじゃないのか?」
「ちょっと……それ、何処からの情報ですか?」
「騎士団時代に聞いたのだが……」
オルジュは嘆いた。酒盛りから遠ざけるべきだったと。
自慢の艶やかな栗毛に確実に白髪が生えたと確信した。先程のと合わせると3本はかたい。
オルジュは現実逃避がしたくなり、もしも見つかったらどうしようかと思考をそらしたが、相手を前にしては、それも一瞬で消えてしまう。
「どうかしたのか?」
「……」
あの頃、捨て置かれた王子を王子と見なかった騎士団の連中は、初々しいラヴァニーユの反応が面白おかしく、また、突き放すこともなかった事も相まって、愚痴を聞かされていた事を想い出す。
「では、何のために迎えに行かれたのですか?」
「水晶球が告げたからだ。時が満ちたと。もしもあのままならば、ミユの魔力を王家の石は蝕み始めるだろうからな」
いきなりの爆弾発言にオルジュは面食らった。
目の上のたんこぶが亡くなり、機が熟して迎えに行ったとばかり思っていたのだ。
「何なんですか!!!姫さんの魔力を蝕むとか」
「そもそも、王家の石は最初の口づけで根付き、心を通わせることで芽吹き、初めての契りで温かな苗床となり……」
「いいっすよその先は!大体想像が付きますから//////」
淡々と棒読みするラヴァニーユに、自分で聞いといて恥ずかしくなり遮った。
「まだ、説明になっていないのだが」
「お前の声はエロイ!!!」
バリトンの声はオルジュの鼓膜に甘く響いた。すり込まれそうな感じで、親友の艶事をなまめかしく語られている気になってくる。
指摘されたラヴァニーユはフンと鼻を鳴らすと、盛大に溜息をついた。
「仕方ない。お前がそんなに初心だったとは。早い話男と女が仲を深めて咲くのが本来なのだが、多分ミユは何らかの節目節目に成長させてしまったと言うことだ」
「節目ね~」
「まあ、兄上の見解では、まだ植え付けたときが子供だったから、女として成長する過程で魔力が暴発したのではないかとだな……」
「ああ、なるほど」
オルジュは合点がいったとばかりに手を打ち鳴らした。
聖霊を先祖に持つ双子は魔力を有する。男女の双子の実兄であり、同じ境遇に生まれたルリの義兄であるオルジュは知らないわけがない。
女にあって男にない時期に、女は魔力を乱す。
それ故に、一卵性の女の双子は必ず巫女になる定めであり、二卵性の双子の力の所有者は、一例を除いて生涯神殿に幽閉される身にある。
「ルリは男女の双子だから幽閉されることも神殿での巫女勤めもなく普通の生活が送れているのは、片割れとのシンクロにより振れ幅が少ないからなんだよね」
「らしいな……」
「ラヴァニーユって紙面上とかでは頭にたたき込めるのに、実生活に役に立てないところが不思議だよね」
子供っぽく語るとお腹を抱えて笑い出す。
ラヴァニーユは面白くなさそうにしかめっ面でオルジュを見下ろした。
そんな様子に気付くことなく、身をよじるほどに笑いが止まらない。
「何が言いたい?」
冷酷な魔王を降臨させたラヴァニーユの低い声が地を這うかのごとくオルジュの耳に届き、ゾゾゾッと背筋に悪寒が走った。
下々を凍らせるときと同じ様に緩慢な動作でありながら、眼光鋭く、その目線の先には、オルジュただ1人が捉えられた状態―――。
「すんませんすんません//////」
呂律も回らない状態で口をつく言葉はそれだけ。ぺこぺこと頭を下げざる終えない威圧感。
素を知っていても怖い状態。
ギロッと睨んでいたラヴァニーユの瞳が下へと動く。
数十秒の間を置いて「アハハハハ//////」と大声を上げて笑い出し、オルジュはやっと解放された。
「……」
「悪かったよ。まあ、これで冷酷な陛下ってやつは完成してるって証明できただろう?」
「人が悪いッスよ」
オルジュはようやっと騎士時代の言葉遣いに戻った。
公の場では貴族らしく。内輪では騎士時代のフランクな話し方。
2人だけの時は時折子供時代に返る。
その切り替えの兼ね合いが難しいのに、ラヴァニーユは突然スイッチが切り替わるから順応が大変である。
其程に親しく、信頼する間柄と言えた。
「もしも……だ。お前が裏切ったら、一生このままかも知れないな」
冷酷とは違うシビアな表情を浮かべてラヴァニーユがぽつりと呟いた。
オルジュは何も言えなかった。
裏切らないと確約したところで、何の保証もないと哀しげにあざ笑らせる訳にはいかない。
これ以上傷つけたくはなかった。
オルジュは必死ではぐらかす言葉を探す。
他に話題はないかと捻った頭。角度の付いた目が捉えたのはラヴァニーユの手元の紙片。
先程言っていた特製ドリンクのレシピに違いない。
あの見るも無惨な青汁の。しかし、味はまともという奇跡のレシピ。
一家揃って目に入れても痛くないと豪語するルリの顔が浮かんだ。
「なあ、気付いたんだけど?」
「何だ?」
「姫さんを公爵どもから守るのは分かる。分かるが、お前うちのルリも監禁してやしないか?」
「人聞きの悪いこと言うな。せめて、軟禁と言え」
懇親のオルジュのフリにふんぞり返りながらラヴァニーユは、肯定の言葉を吐く。
あっ―――!!!
言い出した本人も気づき、大声を上げた。
「今すぐ何とかしろ!こんなに近くにいるのにルリに逢えないなんて拷問だ!!!」
「今までろくに逢えなかったんだから、大したことじゃないだろう?」
「それとこれとは別!!!」
「身の安全の保証はするんだからいい話だろうが」
「逢いたい。逢いたい。逢いたい―――」
先程まで恐れ脅える羽目になった人物の胸ぐらを怯むことなく掴み揺すっている。
持ち上げることは叶わないが、強く締めることは可能だった。
飾りの紐が伸びてくる。
耳元でワーワーと騒がれて、ラヴァニーユは折れた。
「仕方ないから、連れてってやる。その前に着替えて食事は済ませろ」
オルジュはパッと手を放すと、鼻歌混じるに揚々と部屋を後にした。
王宮内の自室へと一目散に向かうために―――。
さらっとエスピガ家にも触れてみました。
設定萌えで生かし切れてない物がごろごろ……。
流石に疲れ果てて寝落ちする毎日で、書き直しとか無理でした。
修正すらしてません。矛盾とか色々ありそう。
このままではいよいよ毎月更新すら怪しいです。
その原因の1つは、サイトだったり。
あっちに「皇太子になり損ねた王子~初恋の花~1」を載せるために、奮闘していたので。
良かったら、「バジがラニーを慈しむ訳」の別バージョン?をお楽しみ下さい。
こんな話にお付き合い下さり有り難う御座います。
来年は時間がとれれば良いなと思いますが、みんな反動で休むので忙しさは同じな気がします。
Wishing you a beautiful Holiday Season
and a New Year of Peace and Happiness.
実桜