番外編 ノワ・ド・ココの話「落下の椿姫」1
随分前にBlogに載せたものを書き直したまま放置していたモノになります。
ノワの話です。
お嫌いな方は御免なさい。
しかも、続きます。でも次回はこの続きではなく本編を更新したいです。
非情に忙しくて書く時間がないので、番外編にしました。
***落下の椿姫***
その昔、遙かな昔、落下の姫が居たという噂を聞きつけてきたのは、陛下とノワが成婚の儀を行ってから、5年以上の月日が経ってからだった。
ノワの父にあたる侯爵は、近親婚により聖霊の血を守るとしか考えていなかった為、自らの娘にも資格があると思っていたし、お気楽な公爵だった祖父は、聖霊の血を濃く引く王族は、同じく血を引く者との間でないと子がなせない薄々感づいていた。
その程度だった。
聖霊は女で世界の母。聖霊は今も尚世界を守り、愛した男に連なる一族を守る。それは己の血族でもあるが人との子。その人の中に愛した面影を求める。故に濃い血筋には女は産まれにくい。
そう、長年解釈されてきた。
この500年、何処の国の王族にも己の血族婚において女児が誕生した記述はない。
後宮の最果て。小さな一室のテーブルには数え切れない程の文献が山住になっていた。
でも、秘匿が早々容易く手に入る訳がない。
ノワは最期まで、その秘密を知ることなく散った。
+++落下の椿姫(海石榴)+++
成婚の儀が急に決まった。
陛下が出自を明かさぬ者を妃に迎えると宣言したからである。
先王の長子で名を変えられたるボーネ・ダティルが死した戦“紅蓮の悲鳴”から半年、先王の末子が戴冠の儀を終え、掟に従い伴侶を迎えなければならなくなったのだ。
私は、先日まで巫女だった。そして、陛下の女官となったばかりだった。
そんな私は、ドロース公爵の意向で、ノワ様の侍女の一人として後宮入りすることになった。
そして、後宮の闇歴史の綴り手となったのだ。
私はアグゥリ・エーツ。一介の商家の娘にしか過ぎない。だが、妃にも成れない、ただ植え付けられただけのノワ・ド・ココの綴り手となった。
私は、儀式にヌエと共に立ち会っていた。ヌエとはヌエース・デ・ヒンコ。男爵令嬢で儀式の際、筆頭巫女だった人物である。
王家の石を捧げ持ち恭しく陛下の眼前に立ったのはヌエ。
私は、筆頭巫女の後方に控えるお付き巫女だった。
王家の石は欠片で紅い石だった。
じくじく痛むようだ。欠片に過ぎなかった王家の石は耳たぶに治まると、まるで種のように丸く息づいた。
「ねえ、貴女私を誰だと思って?」
後宮を仕切る老婦人に妃の証を見せつける。老婦人は平伏して毎日謝り続けた。
小さな主が去り、後宮何度か姿を変えた。
元々後宮に興味すら抱かなかったラヴァニーユは、先王ダティル(記述的には抹消されているが)時代のまま手を付けていなかった。
勿論、ダティルの妃だった公爵の娘は皆実家へ帰しているが、多くの女官や下女、料理人はそのまま残り栄華の名残を惜しんでいた。
其処に更に高飛車な妃がやってきた。ノワ・ド・ココである。
妃とは言え、王籍に入っている訳ではない。
だから、先代から居る女官はあざ笑った。
「主はお一人に御座います。陛下はそう定めました」
先代からの女官長たる老婦人は、最後まで自らが守れなかったミルティーユを後宮の主だと言い張った。
しかし、この場所にいるのはノワのみ。
「貴女私を馬鹿にしたでしょう?王籍が何だというのかしら?古の契約で成婚の儀を挙げたのよ。私は立派な陛下の妻。唯一の//////」
ノワは大仰に孔雀の羽で出来た扇を開き、口元を隠して高らかに笑った。
その際、必ず扇は耳元を避ける。
ノワは毎日最初に鏡で確認し、態と髪をアップにして紅い証を誇示して歩いた。
煌びやかな後宮に主は一人でいい。
喩え、西の最奥の簡素な部屋を賜っても、何代も為し得なかった王家の石を頂いた身。
それだけで人生薔薇色だった。
「前の方々が何だって言うのかしら。あの方達なんて、ダティルが王籍から抹消されては妃だったことすら残らないじゃない。私は唯一よ。やがて国母となる身」
先王を呼び捨てにし、強烈な花の香りを身から漂わせながら、後宮の敷地内を所狭しと練り歩く。
すぐに、辟易して女官らは辞去し、後宮は一新されたのだ。
そして、毎日謝り続け気が狂う寸前まで追い詰められる。
哀れな2代目の女官長が誕生したのだ。
前書きで書きましたが、10月からずっと忙しくて……。
ノワの話を発掘しました。
短くて御免なさい。
プライドが高いノワは書きやすいと言えば書きやすいのですが、綴り手はアグリですからね。
ずっと、さわりを触れて放置していた話なので、進めることが(後退とも言う)出来て良かったかな?
ゆっくりも進められなくて御免なさい。
それでも、お付き合い下さり有り難う御座います。
実桜