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呉藍の薔薇  作者: 散花 実桜
二章  王宮編
25/35

小話「バジがラニーを慈しむ訳」

章設定を間違えたのでしょうか?

何故かバジの話が閉鎖宣言に取って代わってました。

あり得ない!!!





“男女七歳にして席を同じうせず”ではなく、“男女12歳で床を同じうせず”が後宮でのルールだった。



ラヴァニーユは後宮を11の歳に出た。

本来は12の歳、後宮で褥を覗き見させられてから追い出されるのが慣例だが、主たる父王がその前に亡くなったのだ。

必然先王の後宮は閉じられる。

「いいか、ラビ。父王崩御の知らせがまずはお前にいく。そうしたら、俺の所へ空間転移してくるんだ分かったな!」

第3王子にして、今はマール公爵次期当主となった兄がラヴァニーユの11の歳の誕生日祝いの際、囁いた。

この頃、先王(先々王)は一年の殆どを床で過ごしており、実質政務をになっていたのは、臣下に下ったカバジートであった。

長兄は極端に言えば、実直か放蕩かどちらかと言えば後者であり、隣国の姫を母に持つ故にプライドが高く、姑息で―――劣等感の塊でしかなかった。

と言うのも、誰もが口に出さないが詰まりは漢字2文字が当てはまると言うことなのだ。

臣下に下っても、父王が健在な限り王子の身分は剥奪されない。

それがスターニス王家の決まり。

故に、先王は数居る息子の中から第3王子を指名したのである。

「まさか、お前がそんな選択をするとは想わなかったよ……」

「父上は何がお望みで?私とてこんなに早いとは想っておりませんでしたよ」

ベッドに縫い付けられたままの先王は、不意に弱音を吐いた。

息子は苦笑いを浮かべるしかできない。

アネーモナと離婚できるわけでもなく、かといって妃に迎える事も出来ない。

例え国が荒れても……。

幾民の命を奪う結果になっても……。

17の歳にはもう戻れない―――。





何も知らない温室育ちの王子様と真綿で包む王子様。

後宮を出てしまったカバジートとは頻繁に逢うことは叶わなかったが、兄弟の中で異質なほど仲が良かった。

先王の代わりを務めだしてから、後宮に出入りが可能になり、そっと人目を盗んで末の弟の成長を見守っていたからだ。

異国の御菓子や書物を土産に近づき、何時しか深く入り込んだ。

存在は大きくなり、ラヴァニーユはカバジートに憧れた。

「兄上、大きくなったら私は兄上の役に立つ人になりたいんです。方陣の勉強も母上に褒められたんですよ」

「そうか頑張ってるな。王家の者は力がある者が王位を継ぐ。また、支えるのだ。そうして、国を民を守るんだよ」

「はい!精進します」



王子は小さな宮を与えられる。

カバジートが5年過ごした花の宮を12になったら与えられることになっていた。

その事が嬉しくって、父王が予定より長生きしてくれればとラヴァニーユは願っていた。


しかしそれは、成就することはなかった。




夜中暑苦しさで目が覚めた。

季節は夏へと移り変わる雨期の終わりだった。

聖霊が労るようにラヴァニーユの額に触れる。

心地よい冷たさは、すぐに身体の芯までを冷やした。

「……崩御されたのか?」

声変わりする前のハスキーな声が、問いかける。

聖霊は、黙って頷いた。



ラヴァニーユはガバッと起き上がると、寝間着のまま空間転移を実行に移した。

後宮は汚される事を許されない聖域。故に妃が何人居ようとも、血で血を洗う醜い争いも起きない場所だった。

しかし、主が崩御した。

聖霊は風のように去った。


男子禁制の後宮に何者かが近寄る気配がする。

その気配を察知したのか、隣室からラヴァニーユの母フルトが血相を変えて飛び出してきた。侍女が慌ただしく結界を張っている。

「早くお逃げなさい!」

「母様は?」

「私は陛下を送る役目があります。命の心配はありません。しかし、貴方は違う。貴方は唯一の希望よ。どうか生き延びて、愛する子!!!」

何故、カバジートが崩御の知らせが先にラヴァニーユに行くと言っていたのか、理解した。

王聖霊は次代をラヴァニーユに定めた。それは、父王の意志による物だろう。


まだ不慣れな転移の方陣がぐるぐる回り出す。幾つもの呪文が混ぜ合い、解け合い……大きな円を描く。

蒼い光は、部屋一杯に溢れ一瞬で王城近くに構えるマール公爵邸へと飛んだ。

消える間際、フルトが泣いていた。

声を掛けることも出来ないまま、一瞬の閃光に飲まれる。



移転先は、カバジートとアネーモナの寝室だった。




カーテンは閉められて居らず、月明かりが闇を追い払っていた。

「……誰だ?」

咎める声とは違う尋ねる声が聞こえる。気配で敵味方を判別したのだろう。ラヴァニーユ程ではないが、カバジートは王子の中でラヴァニーユに次いで力を有する者である。

他はカスでしかない。

ラヴァニーユは声のする方を見た。そこは大きな天蓋付きのベッドだった。

ゴクッと唾を飲み込む。誰かの寝室に入るのは初めてで、緊張して動けない。

ラヴァニーユは母が賜っている一番良い部屋の侍女用の部屋を長年自室として使用していた。それは異例のことだった。


バサリとカーテンを払い中から夜着に身を包んだカバジートが顔を覗かせた。

「何だ、ラビか……」

カバジートが付けた愛称を掠れた声で呼び、そして、事態に気付いて顔を硬直させる。

兄弟の中で一番賢いのだ。

恐れていた現実が、予定と変わらない時期にやってきたのだと悟った。

ぐちゃぐちゃと顔を顰めて泣く子供は、十分に現実を理解していた。

「兄上……」

「……」

「……」

「まあ、中へ入れ」

カバジートは、事態を察すると、生欠伸をかみ殺しながら、夫婦のベッドへ思春期の子供を誘った。

そういう面に疎いラヴァニーユでも、女性の仄かな甘い香りに戸惑いを見せる。

母と侍女、女官に囲まれての生活だったが、男を求めるような環境ではなかった。

ただのテントの中へ入るのではないのだから、気が引けて動けないでいると、カバジートは仕方ないなとばかりにベッドから降りる。

其れを追いかけてか、プラチナブロンドの長い髪が天涯の隙間からチョロチョロと揺れた。

「本番後とかじゃないから安心しろ。父上の知らせは明日の昼過ぎないと来ないだろう。明日の朝の儀でアールドゥ様に問いかけて、身を清め全て整えてからでないと公表されないからな。そして、送るときはエーアデ様に祈りを捧げる夕刻でないと。お前の母上は大丈夫だ。墓守になる使命があるからな」

「うっ……ひぃく……」

カバジートは力一杯ラヴァニーユを抱きしめた。時折慰めるようにポンポンと背中を叩く。

しゃくり上げる苦しさが次第に和らいでいくのを感じていた。

伝わる熱は温かく優しい。ちらりと涙を溜めた瞳で見上げると、夜着から覗く肌は引き締まっていて固く、少し花の香りがした。

「可愛い小鳥さん。真の闇はこれからよ。一緒に寝ましょう?」

鈴を転がしたような愛らしい声が天涯から漏れてきた。ラヴァニーユの義姉アネーモナの声だ。

巻き毛の成れの果てのような髪がうねるように誘う。

「ほら、子供は寝る時間だ」

そう言って頭を撫でると、カバジートは抱き上げてするりとベッドへ運び込んだ。


初めてのことにガチガチに固まったまま真ん中に寝かされた。



誰かと寝るのは凄い久しぶりで、挟まれるのは初めての体験だった。





父王の崩御後命を狙われると理解していたが、真っ先に狙われる対象だとは思っても居なかった。末子だからと。一番弱い雛なのに……。



守られる安心に満たされると、冷静に事が見えてきて、先を見通せなかった子供な自分に嫌気が差した。






「何固まってるんだ?……お前、追い出しの儀式の前か//////」

「……」

クククと楽しそうにカバジートは笑う。

「俺なんか父上に11になるや否や呼び出されて、早くにやらされたのにな……まあ、仕方ないか。あれから、床に伏したからな……って、他はどうしたんだろうか?」

先王(先々王)は、ラヴァニーユが産声を上げたときにはすでに病床の人だった。

それから、11年良く持ったと言っても過言ではない。

と言う事は、第4王子から第6王子までは、儀式が行えたのかと今頃になって疑問を持つ。

其程までに他の兄弟に関しては無関心だった。

「バジ様ったら//////」

反対側に寝そべっているアネーモナは真っ赤に染め上げた顔を覆う。

ラヴァニーユは何のことか分からないまま、涙をぴたっと止めてカバジートの話を聞いていた。

「まあ、もう時効だから、思い出話に話してやろう……」

今夜の寝物語は、儀式の話になるようだった。

小さい頃、カバジートに守られていた頃は、良く寝物語を聞かされた。

懐かしくて嬉しくて、父王の死を忘れてしまうぐらいだった。



でも、それは王家の真実を暴く恐ろしい話だった。




『俺が10歳の終わり、男爵家から巫女が嫁いできた。それがラビの母上。

父王は7人目の妃を迎えたのだ。』

そう言うと、カバジートはラヴァニーユの頭を撫でた。

両親の馴れ初めなど聴いたことがなかったのでポカンと押し黙っている。

撫でながら、カバジートは話を続けた。

『今までの6人全て一人ずつ子を成していたが、2人目が産まれることはなかった。

それ以前に、生存者は一人しか居らず、皆早世している。

1つの原因は、力ない王族の王の子でさえ産むのにはそれなりのリスクが伴う。十月十日胎内で慈しむ命に、全て持って行かれたのだ。

第5王子の母親は庶民で、孕んでいるときはずっと床に伏していた。

大きな悲鳴が聞こえて部屋の前を通りかかっていた為開ければ、がりがりに痩せて腹だけが突き出ていた幽鬼な状態で出産を迎えたようだった。豪奢なドレスからはみ出た手は、枯れ枝のように嗄れて細い。

断末魔は大きく木霊し、鼓膜に張り付かせた。』

そういう話題から遠ざけられて育ったラヴァニーユでさえ、怪談話のようなカバジートの語りに背筋を凍らせた。

後宮の醜い争いを封じられたとは言え、嫉妬に塗れていた時代を知らない少年は何処まで理解出来るのだろうか?

カバジートはラヴァニーユを伺うこともなく喉を潤すようにゴクッと唾を飲み干した。

『結局難産で、辛うじて取り上げると同時にこの世を去った。

非情に美しかったが最期は枯れた花みたいだった。

長兄の母親も美しい人だったらしい。出産と共に亡くなったのはこの2名だと後に聞かされた。

産後の肥立ちが悪く亡くなった妃も一人居り、当時、俺の母上だけが辛うじて生存している現実は、奇跡のように思えていた。

その母も、ラビが知るとおり今は他界している』

自らも呪いに悩まされるアネーモナは、可愛らしい顔を歪めて聴いていた。

子供には早い話だが、ラヴァニーユは正当な王位継承者。王が死した今、この話を語れるのは、一時期皇太子と見込まれていたカバジートしかできない。

ラヴァニーユは拳を強く握りしめて、聴いていた。その瞳を瞑ることなく、蒼穹の瞳を見開いていた。

何も知らない子供に語るのは酷だったかと、微笑を浮かべてその大きな腕に抱き、背中をポンポンと叩いた。

『第2の原因は、父王が姫の誕生を望んだ事にある。

長年、力ない父王は、姫の誕生を夢見ていた。公爵家に産まれて王家に産まれないのはおかしいと。

それは、俺の母上の死因の原因でも在るのだが。

妃達が懐妊に気付かない内に流れてしまう。その全てが姫だった。

繰り返した妃達は、幼い子を残して死んでいった。

母は数度それがあったようだが、公爵家の娘だったため助かったようだ。

しかし、身体は弱り、成人前に逢えぬ人になった』

カバジートが16の秋、2人しか居なかった妃の1人カバジートの母は地下の礼拝堂に祀られた。

やせ細った王が見送り、それが公式の場に出た最期になった。

『父王は、何かを悟ったように、12の歳に行われる儀式を前倒しして俺を連れ出した。

寝ていた俺を無言で迎えに来た父王に手を引いていった。

「身体は大人になっているんだから問題無い」と言ってな。

今にして思えば、皇太子には正式な儀式を自ら行うつもりだったんだろう』

幼い瞳は間近で大人びた瞳へと変わった。

哀しみを含んだ瞳……。

「兄上はどうして、皇太子の座を棄てたんですか?」

「それはね、私が毒持ちの公爵令嬢だったからよ」

「……」

ずっと聴きたかったことを尋ねたことを後悔して絶句した。


カバジートは聞き流し、話を続ける。

一昔と言える様な年月を経たが、未だ記憶は鮮明。

脳裏にこびりつくような強烈な場面を幾つも見させられたからかも知れない。

それとも、淡い想いを閉じ込めた心のパンドラ故だろうか?



『たどり着いたのは、後宮の中央の部屋。先までラビお前が居た部屋だ。

寝室のバルコニーに繋がれ、夜風に晒されながら、清楚で気丈なフルト殿が自らと二回りも離れた父王に初めてを捧げるところを一部始終具に……見させられた』

カバジートは、言いようのない表情を浮かべて当時を振り返る。


この時、フルトは17を迎えたばかりだった。

『「この者はお前の母だ。かつての名はフルト・デ・ヒンコ。ヒンコ男爵家は代々巫女を輩出する不思議な家系だお前も知っているだろう?」

父王は薄く透ける天涯の中の寝台に居るフルト殿を見せ、発した言葉がそれだった。

知っている馬鹿にするなと少々反抗的な目で、俺はフルト殿を見ると、少し強張ったように肩が揺れた。

隣国では初夜が公開だとか、契って散った純潔の証を掲げるとか馬鹿らしい風習がある国もある。しかし、スターニスにはそんなことはなく、かなりショックだっただろう』

目を瞑れば初めて後宮入りした時の、線の細い可憐な少女だったフルトが思い出せる。

カバジートが6歳年上の父の妃に恋をした瞬間だった。

幼き頃より巫女として神殿に上がっていたフルトは、耳年増ではなく世間知らずな箱入りだった。

『身体を壊していた父王はそんなフルト殿を一晩中抱き続けた。

外は満月で、薄い天涯すら邪魔だとばかりに開け放たれたベッドはよく見えた。

交わる度にきしむ音が、初心者が奏でる弦楽器にも似て聞こえ、不快に感じられた。俺の憧れは音を立てて崩れていく。その度に何かを手放すかのように、涙を零すフルト殿とシンクロしているようで、無意識のうちに必至で手を差し伸べていた。

切なさが伝わる涙ですら救い取ることも拭うことも出来なかったが……。

普段はのらりくらりとした性格の良い意味で言えば、温厚な父王は正しく獣で、俺はその瞬間夢も憧れも無くなった気がした……』

少し刺激が強かったのか、カバジートの胸元をラヴァニーユの涙が濡らした。

音を立てて崩れたのは初めて経験する甘酸っぱい想いではなく、父王への憧れや信頼感だった。父上としか呼ばなかった存在は、偶に遠くを見る様に父王へと変わった。

きっと、ラヴァニーユはそんな物は持ち合わせていないだろうと思っていたが、ベッドに寝たきりでも王たる威厳だけは最期まで失うことはなかったのだろうか?


「泣くな……」と、優しい声で諭す。今語っていることとは反比例して、身体は何も聴くなと言わんばかりにラヴァニーユを包む。

すると、隙間からフルフルと首を振った。

泣いていないと言いたいらしい。

そんな背中を背後から優しく撫でるのはアネーモナだ。

出来ればこの話はアネーモナには聞かせたくなかったが、仕方がないことだ。

「彼は恐ろしさに泣いているのではないわ。きっと、貴方の心が傷ついていると思ったからよ」

「俺は傷ついていないよ。それが、儀式だと今では割り切れているからね。……そして、ここからが本題なんだ」

カバジートは苦笑し、ラヴァニーユを放す。

温かさに薄桃色になった顔がひんやりとした空気で冷えていく。

『確かに欲望・興奮・快感……繰り返し見せる波に、嫌悪を抱き、やがて見ている自分にも罪悪感が芽生えた。

すべてが終わった後、白けた空に父王の言葉が現実へ引き戻した。

「儀式は終わった。お前は特別だ」

その意味が理解出来ないまま取り残され、羞恥に頬を染めるフルト殿と2人きりになった。

「貴方は味方?」と尋ねられ無意識に首を縦に振っていた。

多分、俺の初恋はフルト殿だったと思う』

ラヴァニーユ越しにアネーモナの反応を伺いながら、カバジートは片手で自らの顔を覆った。

知ってか知らずか、初めての行為を義理の息子の儀式として見世物にされたのだ。

泣き伏せるか、罵倒するか、癇癪を起こすか……数ある選択肢の中から、フルトは気丈にも背を但し、にこやかに微笑んでカバジートに問いかけた。

その姿は凛と咲く花のようであった。

『巫女の家系に産まれたフルト殿は予感していて言ったのだと、悟ったのはそれから随分しての事だ。あの日の晩から父王は王宮の自室で床に伏せったから断言できる。父上はその時唯一力在る俺を、皇太子にすると決めていたのだと思う。

俺も幼心に、当時はあれを王位に付けたくは無かったから、漠然とだがなる気ではいたんだ……』

「……」

しかし、時は残酷だ。儀式を済ませることもなく継承権もないままにラヴァニーユを放り出す。

12歳にならなければ、王たる資格はない。つまり継承権を得られないのだ。

其処にカバジートの計算の誤差が生じた。

『あの日、フルト殿はお前をラビを授かった。再びお逢いしたのは、父上が危篤状態になった時だった。すぐに持ち直したがな。腹がドレス越しにでも分かるぐらいには、ふくよかになっていた。それを悟った瞬間、あの日の問いかけを想い出した……』

カバジートは儀式開けの朝、気丈に放った言葉の意味を知った。

そして、永遠に断ち切れない初恋の呪縛の始まりでもある。


「お前の愛称はな、俺が付けたんだ。で、誕生祝いは引っかけて兎を選択してただろう?」

場の空気を変えようと、ケラケラと笑いながらカバジートは爆弾発言。

「ラビって兎なんですか?」

「月にはな、兎が住んでるらしいんだよ。満月でよく見えたからな……」

月のクレーターなどの陰影が、スターニス王国からは兎の餅つきのように見えると昔から言われている。

カバジートは目を細めてラヴァニーユを見下ろした。酷く真剣な面持ちである。

『フルト殿もけしてお前が王位に就くことを望んでいたわけではないと思う。何故ならば、お前を私の元に来るようにと導いたと言ったとき、安堵した様子で肩の力を抜かれたからだ。なあ、ラビ。俺達の養子にならないか?』

「……」

突然の申し出に何と答えたらいいのか分からない。大好きな兄の息子になれるのは嬉しい。

けれど、何故こんなことを言い出すのか腑に落ちなかった。

カバジートはラヴァニーユを追い越して、その先のアネーモナを見る。

満面の笑みを讃えたアネーモナがコクッと頷いた。

ラヴァニーユにはシーツの擦れる音しか聞こえない。

新婚なカバジートが何故と言う疑問が堂々巡りを繰り返すだけだった。

『多分、俺達には子供は出来ないと思うんだ。でも、マール公爵家には跡継ぎが必要だ。

お前なら納得するし、公爵家なら何れ王聖霊が呵るべき場所に帰ることも可能だろう』

「……」

「私ね……毒持ちなの。マール公爵家の娘は時々呪われるのよ」

「!?」

吃驚して振り返ると、アネーモナは唇に手を当てて秘密よと。

ごく自然なことのようにすました顔で言うから、担がれているのかと思った。

“毒持ち”とは、双子の呪いの一部だ。胎内にいる内に片割れを吸収してしまう恐ろしい行為。これが二卵性なら大した問題ではない。

聖霊の血を引く王族の濃い流れの一卵性の女児だったから問題なのだ。

しかし、事実だと次の言葉が語る。

「貴方が頷いてくれると、私はバジに妾を薦めなくても良くなるの」

鈴のような高い声は、掠れた声になってラヴァニーユの耳に届く。

毒持ちは、聖霊に感化されやすく、傀儡になることもあり、聖霊との繋がり故に子をなす機能はない。

花が萎れるような錯覚に囚われた。愛とか恋とか知らない世界で育ったが、漠然と脳裏に浮かんだのは“義姉上は兄上を愛している”と言う直感。

「ラビ頷いてくれるか?」

その言葉に、再度寝返りを打ち、元のカバジートの腕に返る。

何時も余裕綽々なカバジートの切羽詰まった顔が迫って来た。

カバジートも今ではマールの珠玉の花を愛しているのだろう。

養子が王弟なら誰も文句が言えない。

本当に実現するなら、デがバジかラビになる日が来るのだろうか?

ラヴァニーユ・バジ・マールとかラヴァニーユ・ラビ・マール。想像してくすぐったい想いに胸が囚われた。

「……僕でも良いのですか?」

「一番の選択肢だよ。ラビが生まれたときから、導く者でありたいと願っていたからね」

夢のような気がして恐る恐る尋ねる。

カバジートはくしゃくしゃに緩んだ顔をして、力一杯抱きしめた。

「さっそく、朝一で手続きしましょう。明日は色々な意味で忙しいわ。寝られたら寝ましょう」

弾む声がラヴァニーユの背を温める。

大好きなカバジートを“父上”と呼び、同じ屋敷で生活が出来る。

多くを学び、期待に応えなければと思いを馳せて寝られなかった。



しかし、この夢は12歳迄しか続かなかった。

王にダティル3世が即位し、王子達の運命が変わったからである。










他にも何処か抜け落ちてたりするのでしょうか?

怖いです。

早急にサイトに移す努力をすべきか?

有り得なさすぎて……。パニック状態!

この話は、あとがきで連載したものでした。

もうちょっと詳しいのは、サイトに載せてます。


こんな話でも良ければお付き合い下さると嬉しいです。





                        実桜

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