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呉藍の薔薇  作者: 散花 実桜
一章  再会編
16/35

小話:伯爵令嬢3分レッスン

次話からやっとラヴァニーユが再登場なので、その前に再会の少し前をラヴァニーユ抜きでお届けしようかなと。

***伯爵令嬢3分レッスン***





ルリとルークは所謂お隣さんだ。

隣と言っても数代前の王弟ロイを婿養子にしたギゥルレーク公爵家は広大な敷地を有しており、方やそれ以前にヒッツェシュライアー王兄が下ったエスピガ伯爵家は貴族の家にしてはこぢんまりとしているが、庭は広大だった。そんな両家は庭どうしが繋がったお隣さんだったりするのだ。


そんな2人の会話は唐突な事が多く、出会したら挨拶から始まるなんて事はまずない。

端から見れば険悪とも捉えかねないが、本人達は必要がないほど親密な間柄あのである。

家族のような……親戚よりは親密な。

遠くの親戚より近くの他人の良い例だと口外している。

「金木犀どうにかならないか?」

「良いじゃない。トイレの匂いがして」

出会い頭に始まる会話が今日も用件から始まる。

凄い不機嫌なルークが食って掛かった場合がこんな感じである。

「嫌いなんだよ」

「私は好きよ。あの花を摘んでお酒に漬けるのよ。きっと綺麗に違いないわ!」

「だって言ったじゃないか!トイレの匂いだって今。そんな酒飲んで美味しいか?」

「あら吃驚だったらどうするのよ?」

強い匂いが苦手なルークは、お酒を造る目的で移植された金木犀が大嫌いだった。花をとるためじゃ咲いた途端に伐採も出来やしないと、内心毒づく。

昔から事をなす中心人物は、一番幼いルリだった。紅一点。必然とみんなが甘やかすから、世の中の立ち回りが上手くなってしまったと嘆く。

「せめてオレの部屋の前は止めてくれれば良かっただろう?」

「境に色々植えてしまったから開いていたのは其処しかなかったのよ」

苺畑や観賞用のトマト畑を動かせばどうにでもなるのに……。

結局、食って掛かってもこんな風に、さらっと交わされるのが落ちだが……。

幸せが逃げるくらい盛大な溜息を吐く。

すると、本当に飛び出ていったみたいで、自らの頭の上で小躍りを始めたようだ。

それ位、唐突で意味不明な台詞が次の瞬間、控えめな口紅で彩られた場所から聞こえてきた。

「嫌い」

「はぁ?」

「だって、買い置きのビスケット食べたから」

ルリの食べ物の恨みは恐ろしい。

両家の子供は顔パスで、行き来が可能な程親しい間柄。

ちょくちょく顔を出しては、ルリのお取り寄せを拝借してしまうルークである。

どうやら、これが原因で今回の樹が植えられたのだと悟った。

態々、花が咲く前に大がかりに土壌ごと……。



そんな一件から数日。経った数日の出来事だった。


呼び出されて浮かない顔で目指していると、またルリに出会した。

だが、今回は少し了見が違ったようだ。

背後にオルジュを立たせたルリは最近では見慣れないドレス姿でルークの眼前に立っている。王宮の王の執務室前でだ。

所謂シュミーズ・ドレスのルリは大きく開いた胸元をレースで覆い隠し、体型の変化をもたらさないデザインの裾には満開の薔薇の刺繍が咲き誇っていた。

オルジュはこの手のドレスを好み、娘らしい服装には無頓着な妹に着せていた。

淑女らしくスカートを摘むとたくましい顔のまま、

「ごきげんようルーク」と発した。酷くドスの利いた声がルークの鼓膜を強く刺激する。

「はい、原点-100」

何処で手に入れたのかオルジュが指揮棒片手に無表情のまま、採点結果だけを告げる。

ルリは口元をひくつか、大きな深呼吸の後、吹き出しそうなぐらい似合わない乙女顔で、今度はルークを様付けした。

「ごきげんようルーク様」

「原点-70。そんな角度で威圧しない。ほら笑って僕の可愛いお姫様……」

「ブッ!」

ルークは、吹き出すのを我慢していたが、毎回聴く溺愛台詞に弱いらしい。

「おひ…お姫様//////……誰が?//////」

「其処笑わない!!!ルーク-1000」

「はぁ?」

何でですかと言う言葉は声にはならなかった。

しゃっくりに見舞われるほど未だ笑いが止まらない中、はき出せた言葉はそれ位だったからだ。

ルリは傍目から見ても分かるほど限界だった。ぴくぴくと震えた全身が怒りの度合いを増す。

「お兄さま!」

「ルリは怒っていても可愛いけど、笑ってる方がもっと可愛いよ」

相変わらず食えない顔して、にこにこ微笑みながら、可愛いを連発する。

昔からエスピガ家はルリを溺愛してきた。

が、度合いが増したのは、“紅蓮の悲鳴”時、先王に攫われたのが原因だろう。

もしかしたら、庇護欲だけで一生手元に置いておきたいから結婚するかも知れない。

そう思わせるほど、オルジュはルリに対して素直だ。



ルリは怒りを抑えるように両腕を抱くと、可愛いとは言えない声でオルジュを見据える。

おやおやと肩の力を抜いたオルジュは、陛下の隣に立つ公式の顔をしていた。

「で、ルークまで呼んでご用件は?」

「まあ、中に入ろうか」

「オレもですか?」

「勿論だよ。我々は兄弟だからね」

暗号の言葉が呟かれる。ラヴァニーユ派同胞は皆兄弟。

オルジュが右手を挙げると、執務室の扉が開かれた。

盗聴されることない室内は、もぬけの殻で冷酷と噂される陛下の姿はない。

勝手知ったる顔してツカツカと入室したルリが尋ねる。

「お兄さま、陛下は?」

「今、別室でドロース公爵と会ってるよ」

「珍しいですね陛下があの方々にお会いになるのは」

ルークが発したのを最後に沈黙が暫く続く。ドロース公爵としか言われていないのに、うっかりとココ侯爵も一緒だと口を滑らせたのがビンゴのようだ。



何時ものにこやかなオルジュは居なくなっていた。

険しい顔で、熱の籠もった息を吐き出しながら、思い悩む感じ。

そんな姿は珍しいことだった。

「まあね。西日が落花したからね……で、呼んだわけだ。暫く厳重注意を怠らないようにね」

オッとと失言した口をルークは覆った。

これからは、何もかもが失脚の原因に繋がる恐れがある。

落花ではなく毒殺ではないかとさ疑われるかも知れないからだ。



「取り敢えず、陛下より先に手は打つよ。陛下はノワ殿はお嫌いだからね。あのお方の意向もあることだし……」

「そう言えば、ランネからの定期報告が今日届きますよ」

「じゃあ、私が受け取りがてらお相手しましょうか?」

「「駄目!!!」」

血相を変えたルークとオルジュに、鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔して仰け反るルリ。

何でよと何時もなら突っかかるところが、勢いに負けたらしい。

小首を傾げて「変なの……」とぼやいているに留まった。

「ランネにはあのお方の密偵が忍び込んでるから、ルリは関われないんだよ。陛下さえ存じ上げないことなのだから」

子供のご機嫌取りみたいにポケットからあめ玉を取り出して与えながら、腰を折って話す。

ヒールの履いたルリがやや低いぐらいなのだが。

「有り難う」と言って、口に入れるには大きな子供用のデカ飴を頬張りながら、すっかり忘れかけたルリを見てホッとした。

オルジュは話を変える気だと察し、さっき近衛の友達から聞いた情報を活用することにした。

「陛下は雨期の前に戦火で痛手を被った場所の治水工事を終えたい考えでしょうから」

「そうなんだよ。それでここ何日も詰めて居たからね」

「では、雨期までは……中々お屋敷には……お帰りにならないの?」

大きな飴を歯に当ててガラガラと回しながらルリが尋ねる。

オルジュは苦笑いを浮かべて、哀しそうにルリを見下ろした。

「ちょっと無理かな……」

「折角、金木犀でお酒造りにお兄さまの手をお借りしようと思ったのに」

「庭の金木犀咲いたの?可哀想だけど今年は諦めて貰うしかないかな」

とほほと明らかに大げさに残念がるオルジュに、ルークはマジですかと叫びたい想いを呑み込んだ。

「オルジュ兄が駄目ならオレ?」

人差し指を胸に当てて漏らす声は何とも情けない上擦った声。

オルジュはルークの肩に手を当ててフルフルと首を振った。

まあ、まさに政局。そんな暇はないだろう……。

来年もあの樹が部屋の前で強烈な香を放つのか!!!


頭を抱えて苦悩していると、何時もの口調に戻ったオルジュが「まあまあ」と今度は肩をペシペシと叩く。

「我々は兄弟だからね。適材適所頑張ろうじゃないか!」

全てがオルジュの掌という盤上で繰り広げられて居たかのように繋がる。


オルジュのこの発言も、採点結果も後日へ繋がる序章だった。





誕生花更新です。6月はピンク。美しい少女とか気品って言う意味があるとか。


つまらない話にお付き合い頂き有り難う御座います。

書いてるときは本人が楽しんでいるので、自己満足公開です。

王宮編の”陛下の恋愛事情”の重要なテーマを含んだ小話でした。


この3人の組み合わせもありかな?と思ったり。


相変わらず下手な文章で突き進んでおります。読み辛くて御免なさい。





                                実桜

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