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呉藍の薔薇  作者: 散花 実桜
一章  再会編
15/35

過去は甘く切なく薫る

前話と二話に分けたあげく、後半を少し削ったので短めです。


過去は甘く切なく薫る






ルリが居なくなった途端に、女官達は一斉にミルティーユに質問を振る。

最初に口火を切ったのは、メリザナだった。

「オルジュ様とは子供の頃から?」

「何時からお付き合いを?」

「//////オルジュ様は王宮で人気№1なのよ」

「オルジュ様のプロポーズって、凄く文学的なのかしら?それとも、情熱的に//////」

「ミエルさんの初恋ってオルジュ様?」

メリザナとペスカは、矢継ぎ早にまくし立てた。自ら発した言葉でキャーキャー言えるなんて、面白い性格をしている。職務中は生真面目なのか、別人に思える変貌ぶりだった。今の彼女らは住む世界が違うとさえ思わせる。

ロマンスに飢えているようで、物語を手にして頬を染めるノーチェに何処か似て、懐かしいノリだった。

ミルティーユは、微苦笑を浮かべると「窓が」と言って逃げた。落ち着いたイメージだったのに、メリザナはスイッチが入ると、乙女モード全開になるらしい。

ルリが貴族の仮面を貼り付けているのと同じなのだろう。

「まあ、照れてるのね」と言って追いかけられ、ルリの消えたドアが開かないかとジッと睨み付けたが、どうやら無理そうだ。唯一職務熱心なアグゥリに助けを求めても、無駄だった。直接的ではないが、間接的話に加わっているらしい。

こういうときはどうしたらいいだろう?

逃げながら思いついたのは、ノーチェに見せられた物語のヒロイン。

「それは秘密です!」

物語の主人公になったつもりで、花のように微笑んで言ってみるが意味がない。

余計、詰め寄る透きを与えたようだった。

「隠すなら毎日お尋ねしますよ」

こんな煩い方達に付きまとわれるなんて冗談じゃない。

上手い物語も浮かばず、渋々6年前のことを想い出す……しかなかった。

経験しなければ実感がこもらない。だから、仕方ないと。


最近は想い出しても紙芝居の一枚の絵程度に忘れていたのに、今日は随分と回想が多い。お陰で細部まで細かに記憶が蘇り始めていた。





でも、あの1週間は嫌いじゃない。むしろ楽しかった。

下町で現実を知って、酷く飯事のように感じられて、さも苦々しい思い出のように封じてしまったが……。





真っ白い花が一面に咲く、屋敷の庭。名を春夏秋冬と書いてひととせ。其処に湖よりも輝く太陽を頂く真っ青な空の様な蒼が降り立った。キラキラとビー玉のように輝く蒼穹がミルティーユを見下ろす。

『お前の名は?』

『ミユ。貴方は?』

『私の名はラニーだ。ミユお前を迎えに来た』

ラニーがそう言うと、真っ白い花は花びらを舞わせ、気がつけば蒼に染まっていた。

『私の人生はずっとお前との出逢いを待っていた。どうか、私の花嫁として共に生きて欲しい』

甘い言葉を囁かれ、物語の王子様が迎えに来たと思った子供の頃。

うっかり手を取ってしまったことを、本当は後悔したことはない。




「あれが初恋なのかしら?錯覚だと思うんだけど?」

つい、声に出してしまった。

漆黒の闇に浮かぶ星みたいな王子様は、慈愛に満ちていた。

慣れない古語を必至に話してくれていたように思う。

ミルティーユが子供だからか、ラヴァニーユは皆が呼ぶ冷酷王なんて言葉が、何処から沸くのか分からないほど優しかった。あの身長は威圧的だが……。

思い出に浸っていると、予期せぬ反応が返って来て肩すかしを食らった。

「仮にも婚約してる人間が言う台詞?」 

「何か、犬も食わない話がするわ//////マリッジブルーじゃないかしら?」

「で、プロポーズの言葉は?吐かないと尋問に掛けるわよ」

女官はそう言って後方から羽交い締めにすると、擽りの刑を申し渡す。

いやー!!!バラバラと動く細い指は巧みに刺激を与えた。

ミルティーユは我慢できず、オルジュのことも忘れ、必然とラヴァニーユだけが頭の中を閉める中、渋々あの日の言葉を小声で呟いた。

『お前を迎えに来た。……私の人生はずっとお前との出逢いを待っていた。どうか、私の花嫁として共に生きて欲しい』

あの日のラヴァニーユの言葉を紡ぐ。久しぶりの古語。

鳥籠から羽ばたいて一週間。ミルティーユは驚異的に現代語を覚えた。

それまで、古語しか知らなかった。




「共に生きて欲しい……ねぇ。あの方がそんなこと言うなんて」

「オルジュ様真剣!!って。えっ、古語分かるの……って、アグゥリさんて巫女だったのよね」

「ヌエよりは古語に明るいわよ。って言っても、拾えた言葉はそれ位なんだけどね」

「「なあ~んだ」」

ミルティーユは女官長が言っていたアグゥリが、皆と違うスカートなのは元巫女故なのだろうかと勝手に納得した。

巫女は純潔で無ければならない。故に露出が極端に少ない。

何時もベールに顔を隠し、肌を覆う鉄壁の砦のような巫女服に覆われている。

「本当に私が分かったのは“共に生きて欲しい”だけよ」

ミルティーユの視線に気がついて後退するアグゥリ。その彼女をガシッと掴んだのはいつの間にか隣室から戻ったルリだった。

「面白い話してるわね。私だって聞いたこと無いのに。お兄さまったら陛下と共に近年真剣に古語を学ばれてると思ったら、プロポーズの為だったのね。素敵~。私も学ぼうかしら?」

「ルリ様は“魔弾のトリガー”なんて素敵な異名がお有りなのだから、古語にも明るいのでしょう?」

「詠唱系ではないから巫女様と同じで片言ぐらいしか分からないのよ」

「ルリ様の異名って“凍花の女王”じゃないの?」

「それは身内でのよ」

柔らかい物腰だが、初対面時の騎士様っぷりや副隊長さんを務めていた程の人物なのだから、それなりの力を持ち、恐れを持ち合わせていても不思議ではない。

そう考えていると、ルリは哀しそうに微笑んだ。

「異名は勲章の様なものだけど、好きではないわ」

どっちの異名に対して言ったのか分からなかったが、場はどんよりと沈み込んだ。

周りは理解したみたいなのに、ミルティーユだけは何も分からずキョロキョロしている。

閉鎖空間にいたミルティーユは、“紅蓮の悲鳴”の真実を知らない。

下町でその後過ごした6年間、古語は廃れた言葉との認識しかなかったが、この会話からしてごく1部の巫女や異名を持つ者の詠唱者しか知らないものだと初めて知った。

そして、意味が理解出来ないまま……。


城に来た当初世話をしてくれた女性も古語を話していた。

彼女も巫女だったのだろうか?

それは、必要だから与えたのか。それとも、ラヴァニーユの優しさだったのか。

何も分かろうとしないまま逃げ出したのだ。



“愚かにも私は無知である。何も知り得ないで生きてきたのだと改めて実感した。”







ラニーが”冷酷な魔王”等と呼ばれる原因の中に、ルリも絡んでいます。

あの若さで副隊長な理由です。

この後、その話を少しかいつまむか、ノワの話にするか悩んでます。

どっちもシリアスです。時々息抜きを含めつつ。

タイトルは、ルリ視点「過去は苦く切なく漂うもの」

ラニー視点「過去は甘く切なく留まるもの」なんてどうかな?

ますますラニー出番無し。可哀想~。なので、本編ですが。


話が全然進みません。


ミユが何故古語を話せるのかという疑問に気付く前に、ルリ登場で異名の話に……。次回は急速展開です。



読んで下さり有り難う御座います。

ひっそりと夜中の更新ですが、偶にでも覗いて頂けると嬉しいです。


稚拙な話にお付き合い下さり、有り難う御座いました。





                             実桜

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