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呉藍の薔薇  作者: 散花 実桜
一章  再会編
13/35

嘘が育てた花

※「第四の名前」の後半部分です。「ガールズトーク~の続きです」

第15部までラヴァニーユ陛下は正式に出てきません。ご期待に添えない展開で御免なさい。

嘘が育てた花




「ミエルさんの耳飾り素敵ね」

話に加わっていなかった向かい側の女官が唐突に発した言葉にミルティーユは、吃驚して両手で覆い隠した。本日2度目の出来事だった。

絶対外せない枷。真っ赤な蕾は開花前で粗末な衣装には似合わなかったあの薔薇。

食堂へ向かう前に、女官長が用意した上質なワンピースに袖を通している所為か、違和感はない。

あの空色のワンピースよりはシックで、落ち着いたデザインだが、三角巾を外し結わいていた髪を解き、一部結い上げた状態では目立たない筈だった。

冷や汗を掻きながら、記憶の糸を辿る。

「母の形見です」

「だから、先程の服装とは不似合いでしたのね」

「ああ。ミエルったらね、お兄さまに王城へ呼び出される口実が、お部屋の掃除だったの//////馬鹿正直にこんな格好していざ屋敷の掃除をと思ったら、攫われて王城でしたのよ。可哀想に」

ルリはするすると嘘を紡ぐ。強ち間違いでもない。何処までルリは把握しているのだろうか。ミルティーユは、驚きに見開く目を伏せて隠し、笑いが零れそうになる口に無理矢理紅茶を流し込んだ。

つんつんと突っつかれ、ルリが顔を横に向けると、隣の女官がこそこそと耳打ちしてきた。

「オルジュ様って……そういう趣味がお有りなんですの?」

「そういう趣味って?」

「だ・か・ら……メイドさんがお好きとか、コスプレがお好きとかですわ?」

「クツクツクツ//////あら、失礼//////」

ルリは愉快そうに笑った。ミルティーユを守る為に付いた嘘が、面白いぐらいに意図しない方向に向かって花を咲かせていく。

女官は顔を真っ赤に染めて、イヤ~!と年甲斐もなく乙女モードだ。

ルリはオルジュがそういう趣味があったと想像すると、楽しくてしょうがない。

ルリに可愛いドレスを着せようと散々画策したオルジュのことだ。あり得ないことでもないから、リアルに感じられて笑いが止まらなかった。

ひとしきり笑い終えた頃、話題はぶり返したようで、ルリは正反対の顔つきになった。


「紅い薔薇の蕾かしら?あの方より本当見事ね。まあ、本物ならだけど……」

「ツィトローネ!」

叱る声はやけに響いて、雑談は止んだ。皆の表情が一瞬にして強張る。

窘めた女官は集まった集団の向こうへ視線を向けると、人差し指を動かして集まるように促した。

皆でこそこそ話をするために顔を寄せ合う。

「あそこにいるのは、ノワ様の言いなりだった女官達とお付きだった侍女達なの」

「……」

食堂には、後宮で働く女官達が集っている。

ミルティーユが妃として、何日か使用した豪奢な造りとはかけ離れた質素な一室は、街の食堂よりは数段に華やかで、温かい紅茶やバターの匂いがきつく薫る御菓子が山積みになっていた。

集団はいつの間にか数人を残して、端と端に別れていた。

入ってきたときは、小グループで仲良く話している感じだったのだが。

入り口付近に居る我々と、窓側で時折此方を伺う身なりの良い一団。

「ここでその話はタブーだわ」

「でも、知らないと可哀想よ」

ブリュネットの髪の女官と先程、ツィトローネと呼ばれたワイン色の髪をした女官は小さな声で囁きあう。

ミルティーユはガレットを1つ手に取り囓って、一口紅茶を飲み干した。

ラヴァニーユが拒んだノワの死。

喉に刺さった小骨のように、気になる事項ではあった。

誰で在れ人が亡くなるのは良い気持ちがしない。ミルティーユは想い出すと不思議とイライラしてきて、気持ちを落ち着かせようとティーカップにレモンのスライスを大量に投入して、ポットの紅茶を注ぐと、蜂蜜をスプーンで3杯加えて飲み干す。

今度はスコーンにクロテッドクリームと苺ジャムをたっぷりと塗って食べる。

クリームティなんて贅沢は久しぶりだったし、お昼抜きだったのでがっつり食べてしまった。

「幸せそうね//////今日の御菓子は後宮の料理人の手によるものだから、残したら勿体ないのよ」

口元に手を当ててクスクスと笑う女官は、何処か親近感があり、ミルティーユは手を休めずに微笑で返した。

「紅茶も良い物ですよね」

「//////私はメリザナ・オベルジーヌって言うの。宜しくね」

「……ミエルです。ミルと呼んで下さい」

良く笑う人だ。でも、不快感を与えない。ミルティーユは慣れない名前を口にした。

メリザナは、「王妃様用に食材を一新するって言ってたから」と言い残すと、フルーツをとりに中央のテーブルへ行ってしまった。

カットフルーツが、宝石みたいに目映くガラス皿の箱の中で輝いていた。

ミルティーユは、近くにあった給仕用のティーポットに手を伸ばすと、スライスしたレモンをそのまままた紅茶を注ぎ、行儀悪くも少しティースプーンで突っついて実を潰す。

その紅茶すら飲み干し、3杯目には実がぐちゃぐちゃでほろ苦い紅茶を飲み干した。

凄く幸せだった。

お腹いっぱいだし、少したぷっと水腹気味だが、甘い御菓子は大好きで満腹に満たされることは心にゆとりを与える。

一連の行動を眺めていた三〇半ば位の女官が首を傾げる。

「その飲み方……」

「御免なさい、つい!」

女官が口を開いて止めた。

下品だったよねと反省してとっさに謝った。ホッと一息って時に!うっかり、癖が!!!見られてるとは……。ミルティーユは恥ずかしさと焦りで冷や汗を流した。

何時からだったか、気がついたらこの飲み方をしていた。

食堂での給金で買った苺柄のマグカップに贅沢にもレモン一個分のスライスを淹れて、紅茶を注ぐ。砂糖だったり蜂蜜だったり……甘く味付けして月にの1回の楽しみを味わっていた。偶に、お客さんがクレーマーだったり嫌なことがあると、奮発して回数を増やしていたが。

女官は苦く微笑むと、視線をそらす。

こんな下町娘にはルリ様の兄は相応しくないと思っただろうか?

こんな事なら、サバを読むのを年下にすれば良かったと、反省したところで無駄なことである。今の容姿で、年下とした方が不審に思われることをミルティーユは気付いていなかった。



その間に何か閃いたのか、ルリの隣の女官がモスグリーンのドレスの袖をつまんだ。

先程染めた頬は、薄桃色になっている。

「私達、今日はこの後非番ですの。勿論王妃様が後宮入りなさったり、陛下がお渡りになる場合は別ですけれど。何処かでルリ様の武勇伝をお聞かせ願えませんか?」

「私たちは大部屋ですけど、シフト的に4人とも揃ってって事はありませんから、いらっしゃいませんか?」

「ええ、勿論。私の武勇伝など詰まらない話ですが……そうね、王妃様がいらっしゃる前に少しお部屋の方を弄りたいと思っておりますの。何方かお手伝い願えますか?」

「「「喜んで♪」」」

「「「羨ましい~」」」

反応は悲喜こもごもと、言ったところだろうか。

ルリはニヤッと微笑んで、「3人くらいお願いできます?」と再度尋ねると、ガタッと席を立った。







本編は、1回公開した「第四の名前」の後半部分です。

加筆は災難なオルジュ部分でしょうか?

ルリらしい一コマかな。



目下の目標は、再会編完結です。

拙い話ですが、お付き合い頂けると嬉しいです。


次話に今後の更新予定を載せます。





                                       実桜

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