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呉藍の薔薇  作者: 散花 実桜
一章  再会編
11/35

女官長プロデュース

※この話は「陛下の趣味ですか?」と「第四の名前」の間の話です。

blogで触れましたが、ノワ・ド・ココの「落下の椿姫」を一人称にする為、ミユの一人称版を、元の文体にする事にしました。

時系列に入れ替えます。ご迷惑をお掛けします。

女官長プロデュース







着せ替えで疲弊していたミルティーユは、甘い飲み物を欲する口を大きく開けて、椅子に項垂れていた。

ルリはタフで物足りなさそうな顔をしている。

「冷たい飲み物が欲しいです~」

「あら、そろそろ時間ね。まだ、私の屋敷から荷物も届かないし、この中から着替えは無理だから前の服を少し弄って……」

ミルティーユが弱音を吐くと、ルリは時計を確認し小一時間で知り尽くしたであろうクローゼット内を忙しなく動き回る。

その間に、大きく息を吐き出し重くなった身体を奮い立たせ、横に掛けられた元の簡素な服に袖を通すと、丁度良いタイミングでノック音が響いた。


「懐かしいでしょう?」

その言葉にミルティーユとルリは固まる。了解を取ることなく1人滑り込んだ女官長は、迷うことなくミルティーユ達が居る衣装部屋へとやってきたのだ。

ばれているのか……カマを掛けられたのか。

「……」

「そう、警戒しなくても大丈夫です。私はミルティーユ様に1度お逢いしているから憶えているだけですよ。もう、あの頃の事を知る人物は此処には私とアグゥリ位しか居りません」

そう言われても、ミルティーユの記憶の中には思い当たらなかった。

「そう言えば兄様が…陛下は何年か前、人を入れ替えたって……ヒンコ……もしや、先代の巫女様ですか?」

「ええ。成婚の儀の際、巫女として王家の石を祭壇まで運ぶ大役を頂いた者に御座います」

「ヒンコ男爵家は陛下の母君のご実家で在らせますから、巫女の中から選ばれるのは当然ですわ」

「公爵令嬢や伯爵令嬢を差し置いて選ばれ、先代巫女と陛下の従姉言う理由だけで、今は後宮の番人ですから、顰蹙を買いますけどね」

「仕方在りませんね。成婚の儀の巫女を務められるのは、陛下の血筋に最も近い巫女とお兄さまに聞きました」

第七王子だったラヴァニーユの母は、現ヒンコ男爵の妹に当たる。

大仰に驚いたルリは、元巫女に興味津々だった。スターニス王家もスターニス王国も知り尽くした2人の話を聞きながら、田舎街の領主の娘だったミルティーユは何も知らないのだと痛感した。

知っているのは、この6年間下町娘として聞きかじった情報とココ侯爵家にお世話になった数日間だけ。


ミルティーユそっちのけで、ルリ達は話し込んでいた。


子供だった所為か思い出せないミルティーユは一人蚊帳の外で、手持ちぶさたに室内を見回す。

女官長に「懐かしいでしょう?」そう言われても、たかだか1週間では何の感慨も浮かばない。

懐かしいと言えば、結局訂正できなかったあの枷の様なクリノリンだろうか?

6年前まで当たり前だった物。今では何かをするのには邪魔だと言うことを知ったけれど……。



「ルリさん。ノワ様のことはお話に?」

「いいえ。ちょっと、遊んでしまいまして……」

「ああ。御衣装ですか……それならば、此方を」

急に声が潜めたかと思えば、後ろ手に手にしていた包みをルリに手渡した。

「あら、宜しいのですか?」

「ええ。姪用に用意したので大した物ではありませんが、今のよりは良いでしょう」

視線を彷徨わせて捕らえたミルティーユに投げかけ、全身を目で追われた。

ルリは丁寧にリボンを解き、包みから取り出した。

プラム色のワンピースは少し大人っぽかった。

「まあ、素敵」

「蜂蜜色の髪に似合いますよ。髪の毛は左右を流して……」

ルリはワンピースをミルティーユに宛がうと、髪型をどうしようかと楽しんでいた。

「時間がありません。髪は私が編みますから、ルリさんはお手伝いを」

ルリは楽しみをとられてがっくりと方を落としたが、次の瞬間には手早くハンガーに掛け、着直したばかりの服を脱ぐように促した。



あっという間に、女官長プロデュースで侍女が一人誕生した。

厚塗りではないが、化粧も施されている。最後に唇にティッシュを宛が色移りを防ぐ処置をルリがした。

鏡を見て、凄腕に感心していると、「早くなさって下さい」と促される。

扉を出たら、王妃様の侍女。

その手前で、女官長はキリッとした顔で振り返る。

「それと、ミルと言う名では、稚拙すぎます。此処で侍女として振る舞うならミエル・ホーニングとでも名乗って下さい。後宮では家名まで名乗るのが当たり前です」

呆れ顔で見ると、ミルティーユの着替えを手伝っていたルリの視線が止まる。

女官長には全てお見通しだったようだ。ルリ発案の俄仕立ては……。


ワンピースに袖を通していたミルティーユは、この決定事項を聞き逃していた。



程なくして、下町娘は完璧な侍女へ姿を変えた。

「長居していれば、怪しまれます。すぐに出ますよ。新入りの侍女として紹介致します」





後宮勤めらしく、ピンとした背筋でミルティーユの部屋を出る。

そして、俄仕立ての茶番を再開した。









入れ替えました。

元々書いていた話に加筆して挿入話とする予定だった話です。

ワンピースはミユが着ても問題無いとでも思って下さい。

姪よりは丈が長くなると思いますが……。


次回は、差し変え前「第四の名前」だった話の三分の二です。

加筆になってしまったので、前後編に分けました。

あとがきに、期間限定で小話「バジがラニーを慈しむ訳 1」を載せますので、良かったらお付き合い下さい。




                              実桜

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