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べドウィン

作者: 加藤 一央
掲載日:2010/07/13

 熱が、こらえてもこらえても絞り上げた歯磨き粉のようにあふれ出る。

 僕はきみに告げるべき言葉を編み上げて、喉もとで声にして震えながらおずおずと差し出すその瞬間に、それをやめてしまった。

 僕はらくだみたいだった。ベドウィンに鼻輪を手引かれて、砂丘をとぼとぼ歩いてるみたいだった。ベドウィンは灰色のひげに覆われていて皺くちゃだった。眼球が、日中砂に照り返す紫外線で焦がされて真っ白だった。

 千夜一夜。月の匂いがする。

 碧い硬質な線に導かれて、らくだの蹄が砂に突き刺さり、そのたびに月の位置が少しづつ動いた。天球の隊商は月光を受け入れる。月を良きものとし、月夜になるべく遠くへ、進めるだけ進もうとらくだを急かした。

 次のオアシスでらくだを休ませよう。隊商の先頭をゆくベドウィンがオアシスのあかりを見た。彼は立ちどまって静止した。瞬間接着剤でかためたみたいに彼のすごく大きくて優美でゆるやかなマントがたなびいて止まった。それが、部族のあるべき姿だった。マスケット銃を振り回して、らくだで突撃したこともあった。千の夜のいくつかは、そんな戦いの夜でもあった。

 静止した夜に。僕らは言うべき言葉をおずおずと、結局伝えずじまいだったじゃないか。

 部族の曲はドラムの輪唱で編み上げられている。ビートとビートが交差してマントのすき間から月夜へと巻き上がっていく。僕はらくだみたいに大きなまぶたをしばたたかせ、きみを見ていた。

 部族のかたまりに、月は均質で硬質な、碧くて平べったい光をマントのように投げかけて、僕らは白いシーツの内側で熱を帯びて、それで君に言うべき言葉を失ってしまい、瞬間接着剤でかためた夜に、僕はらくだのようなまばたきをして、それで眼球は白かった。

 千夜一夜。きみに言葉を。

 先頭の男が動いた。

 マントが揺れて、それは雲みたいだった。

 蹄が砂に埋まった。僕はそれを砂から引き抜いてまた一歩踏み出し、より遠くへ、オアシスのほうへと、歩いていた。【了】


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