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09

ここら辺から主人公の様子がおかしくなっていくよ

十月学園付属総合病院のロビー

日の光が床に反射して、落ち着かない。


葉山薫は、壁際の長椅子に腰を下ろしていた。

スマートフォンを握ったまま、画面は暗い。


約束の時間ではあるがまだ、連絡はない。


仕方なく、頭の中でこれまでの出来事を整理する。


久我山亮の死。

遺書。

バスの爆発。

USB。

名簿。

写真。


久我山は、被害者だったのか。

それとも、プレイヤーだったのか。


考えが同じところを回り始めた、そのときだった。


リネン台車の音。


ごろごろ、と規則正しい音が、ロビーに近づいてくる。


顔を上げると、清掃員の男が一人、台車を押して入ってきた。

白い作業服。帽子を深く被り、視線は落としたまま。


一瞬、何でもない光景に見えた。


だが。


――顎。


帽子の影から見えた、顎のあたり。

不自然な凹凸。


傷跡。


葉山の背筋が、ひやりとした。


バスの中で見た顔。

一瞬だけ、目が合った、あの男。


清掃員は、葉山に目もくれず、エレベータへ向かう。


偶然かもしれない。


それでも、体が勝手に動いた。


葉山は立ち上がり、距離を保ったまま後を追う。


清掃員がエレベータに乗り込み、扉が閉まる。

表示灯がを追っていく


――地下二階。


葉山は、周囲を見回す。


ロビーの端に、清掃用具置き場の表示。

人の気配はない。


杞憂だろうが、迷う時間はなかった。


中に入り、壁に立てかけられたモップを掴む。

木製の柄。思ったより軽い。


非常用階段の扉を、乱暴に押し開けた。


ひんやりとした空気が流れ込む。

コンクリートと消毒液の混じった匂い。

人の気配が、急に薄くなる。


モップを力任せに、床へ叩きつける。


がん、という鈍い音。

もう一度。


がん。


三度目で、柄が悲鳴を上げた。


「……悪いな」


誰に言うでもなく呟き、今度は膝で叩き折る。

ぱきり、と乾いた音。


折れた先端は、不格好に尖っていた。

即席で、原始的で、最低限。


葉山はそれを握り直し、非常用階段を駆け下りる。


地下二階。


扉が閉まった瞬間、空気が変わった。


電灯はある。

だが、あるだけだった。


天井に並ぶ蛍光灯の半分以上が落ちていて、

点いているものも、床を均等に照らす気はないらしい。

光はまばらで、必要最低限。

人の輪郭が分かるかどうか、という程度だ。


葉山は息を殺し、視線を走らせる。


――いた。


廊下の奥。

一室だけ、はっきりと明かりが点いている。


開け放たれた扉。

白い光が、地下の暗がりに滲んでいた。


足音を抑え、近づく。


中を覗いた瞬間、胃の奥が冷えた。


清掃用のカート。

その中に、人が入れられようとしている。


ゴスロリの女だった。


手足を押さえられ、無理やり体を折り曲げられている。

相手は――顎に傷のある男。


「……」


声は出さない。


葉山は、半分に折ったモップを握り直す。

先端の尖りが、掌に食い込む。


距離、二歩。


躊躇はなかった。


踏み込んで、

突き出す。


ひと突き。


狙いも、技術もない。

ただ、全体重を乗せた。


「会いたかったぜこのクソッタレがよ」


男の背中に、確かな感触。


だが――


次の瞬間、葉山の脇腹に衝撃が走った。


ばちっ、という乾いた音。


「――っ!」


身体が硬直する。

視界が白く弾け、力が一気に抜けた。


スタンガン。


床に膝をつきながら、それでも視線を上げる。


男は舌打ちし、モップを引き抜いた。

血が床に落ちる。


「……邪魔しやがって」


それだけ吐き捨てると、

男は非常口へ向かって走り出す。


止められない。


足が、言うことをきかない。


扉が閉まる音だけが、地下二階に響いた。


残ったのは、

倒れたカートと、乱れたフリルと、

点々と続く血の跡。


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