08
車は、静かに走っていた。
夜の住宅街。街灯がフロントガラスに流れていく。
伊藤は片手でハンドルを回し、もう片方で顎を掻いた。
「……さっきの写真だが」
沈黙を破ったのは、伊藤だった。
葉山は、窓の外から視線を戻さずに答える。
「死体の写真があっただけで、…今はそれ以上考えてないっすね」
「だろうな」
「安直に考えれば久我山が写真の女を殺害したように見えるけども…」
USBに入っていた画像。
あれは、偶然手に入るものじゃない。
「……被害者の写真を、あんな形で残す理由がない」
久我山亮は、クソ真面目だった。
少なくとも、葉山の知る限りでは。
「遺書に彼らはゲームをしているって書いてあったけど、その『彼ら』に久我山自身も入ってるってわけなのか」
伊藤は小さく鼻を鳴らす。
「刑事の世界じゃな、被害者と加害者は割と簡単に入れ替わる」
それ以上は、言わなかった。
車は、葉山のアパート前で止まった。
古い、二階建てのアパート。
「USB、どうする」
伊藤が聞く。
「これはお前がみつけたもんだろ?」
倫理観からはずれているだろうが、彼なりの筋の通し方なのだろう
「死体写真入りUSBなんてただの呪物じゃん、当然預けますよ」
「賢い」
「ただ、いろいろ調べ上げるだろうけど、結果だけはくださいね」
「わかった」
車が見えなくなると体が重くなった気がした。
ポケットの中で、スマートフォンが震えた。
着信。
画面を見て、葉山は一瞬だけ動きを止める。
――ゴスロリ姉さん。
着信画面にそう書かれている
通話に出る。
「もしもし」
『生きてる?』
相変わらず、第一声がそれだった。
「なんとか」
『進捗は?』
単刀直入。
だが、隠す理由はなかった。
「久我山の部屋から、USBを見つけました」
『へえ、中身は?』
葉山は一瞬、言葉を選ぶ。
「……名簿と、写真です」
『写真?』
「遺書に入ってた女の写真。」
電話の向こうで、息を吸う音がした。
遺体の写真とは言っていないが、察しがついているようだ。
『なるほど』
「久我山は、ただの被害者ってわけでもないらしい」
『あら、たどり着くのが随分早いわね』
ゴスロリ女の声は、妙に落ち着いていた。
『そのUSB、誰が持ってる?』
「伊藤って警察の人。」
『うん、今はそれでいい』
今は、という言い回しが引っかかった。
『それと、葉山』
名前を呼ばれて、葉山は足を止めた。
「なんです?」
『来てほしいとこがあるの?』
「どこに」
一拍、間があった。
『十月学園付属総合病院』
思わず眉をひそめる。
「……俺、退院したばっかりなんですけど」
『知ってる』
即答だった。
『明日学校さぼってきなさい、詳しくはメールかなんかで送るから』
それだけ言って電話が切れた。
葉山はスマートフォンを下ろし、アパートを見上げた。
久我山亮。
友人。
被害者。
――プレイヤー。
どれが本当なのか、まだ分からない。
ただ一つだけ確かなのは、
この“ゲーム”は、もう身近なところまで来ているということだった。
葉山は、ゆっくりと階段を上った。




