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02

儀式というのが嫌いだ

宗教が絡むものは特に

釈迦もキリストも都合よくやってくる無宗教の人間にいったい何を授けるというのだろうか

葬式となれば都合よく霊体を信じ死者に対しずいぶん親切な装いをするのはなぜだろうか


葉山にはそれがわからなかったし、同時に気味が悪かった。


焼香の列に並ぶ大人たちの背中を眺めながら、葉山薫はぼんやりとそんなことを考えていた。黒い服、沈んだ表情、決まりきった動作。まるでテンプレートでも配られたかのようだ。

その中心にいるはずの人間――久我山亮は、もういない。


亮は真面目なやつだった。成績もよく、遅刻もせず、冗談を言うときですら事前に空気を読むタイプだ。そんな人間が不運な事故であっさり死ぬ。

世の中は不条理だ、という結論に落ち着くには、葉山は少しだけ亮を知りすぎていた。


葬儀が終わり、参列者がまばらに帰路につく中、葉山も外へ出ようとしたときだった。


「……葉山さん」


背後から、控えめな声がかかる。


振り返ると、そこにいたのは久我山咲だった。黒いワンピースに身を包み、亮によく似た目元を伏せている。背はやはり小さい。前に亮の家に遊びに行ったとき、リビングでゲームをしている兄を横目に、黙々とお茶を運んできた少女だ。

こういう時なにを言えばいいのだろうか

葉山がバツを悪そうにしていると、咲は白い封筒を渡してきた。


「これ……兄から」


宛名には、間違いなく久我山亮の字で「葉山 薫へ」と書かれている。


「遺……書?」


咲は小さくうなずいた。


「渡すように、って。もしもの時は、って……」


もしもの時、その言葉に葉山は若干引っ掛かりをもった。

死ぬのがわかっている人間の物言いだ。


「ありがとう。家に帰ってから読むよ」


そう答えると、咲は少しだけ安心したように頭を下げた。


葉山はバス停へ向かい、ちょうど来た路線バスに乗り込む。


一番後ろの席、左手の窓側。前方は二人掛けの席だ。

乗客は少ない。はす向かいには赤ん坊を抱えた女性。前の二人掛けには、大きなリュックを背負い、フードを深くかぶった男が座っている。


葬式の疲れか、自然とため息が漏れた。

座席に身を沈め、ようやく一息ついたところで、ポケットの中の感触が気になった。


封筒だ。


亮の遺書。


バスの揺れに身を任せながら、葉山は封を破った。中身を逆さにすると、まず一枚の写真が滑り落ちる。


マンションだろうか。無機質な建物の外観。

続いて、同じ年くらいの女性の証明写真。


そして、便箋。


『もしこれを読んでいるなら、俺はもう死んでいる』


冒頭から、いきなりだった。


『彼らはゲームをしている。ルールはわからないが人の生死がかかわることだ』


葉山は眉をひそめた。


『俺が死んだのはそのゲームによるものだ、たぶん君も狙われている』


悪ふざけなのだろうと思った。

葉山は後ろ頭を掻きながらため息をついた。


バスが停留所に入り、一時停車する。

前のフードの男が立ち上がり、降りていった。


なぜか嫌な予感がして、葉山は自分の席を離れ、右手側へ移動した。赤ん坊を抱えた女性の、さらに後ろの席だ。


そのとき、気づいた。


はす向かいの席に、リュックが残っている。フードを被った男のものだ。


置き忘れか。だが、男はもうバスを降りていた。


遺書の内容を思い返す。

久我山の冗談だろうか。

いや、あいつは冗談を言うときですら前振りをする。

こんな悪趣味な置き土産を残すだろうか。


考えに耽った、その瞬間。世界が白く弾けた。


忘れられていたリュックが、爆発した。

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