風鈴の演奏家、爆誕!
楽団でトライアングルを担当する奏者、トライアングルがない。トライアングルの代わりにあった風鈴。これで乗り切ろうとする。
地方の小さなオーケストラ「ぽんこつフィル」の控えめなトライアングル奏者、山下は青ざめていた。本番10分前。
トライアングルがない。
楽屋をひっくり返して探しても、あるのは夏祭りの景品のような、ガラス製の風鈴が一つだけ。
「誰だ、こんなもの置いたのは!?」と叫びそうになったが、時間は刻々と過ぎる。
「…いや、待てよ。トライアングルも風鈴も、叩いて鳴らす金属とガラスの響きじゃないか」
彼は一瞬の迷いの後、「バレない。誰も気付くまい」という根拠のない自信を抱き、風鈴をぶら下げたスタンドとマレット(風鈴用ではない)を手にステージへ向かった。
いよいよ曲はクライマックス。トライアングルの出番だ。山下は緊張でプルプル震える手で、風鈴のガラス部分を優しく叩いた。
チリン。
透明感のある、涼やかな音が会場に響いた。
「よし、イケる!」
次いで、指定されたフォルテ(強く)で叩く箇所。山下は思い切って、マレットの柄で風鈴の短冊(舌)を力強く弾いた。
チャリン!チャリーン!!
指揮者が感動のあまり涙ぐんでいる。聴衆は、その「例年にない澄み切ったトライアングル」の音色に酔いしれていた。誰もが、それが風鈴の音だと全く疑っていない。
演奏後、指揮者が山下の手を握りしめた。
「山下君!素晴らしい!君のトライアングルは、まるで夏の午後の木陰のそよ風のようだ!今までで最高の演奏だよ!」
「え、あ、ありがとうございます…(トライアングルじゃないけど)」
山下は、誰も気付かなかった事実に安堵しつつ、心の中で確信した。
「世界初の風鈴演奏家、誕生の瞬間である」
彼は静かに、次の演奏会に向けて風鈴の短冊を少しだけ長くしようと決意した。




