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歩き続けて程なくして、小さな茂みが見えてきた。
「お姫様、あれだ」
「あの小さな木かしら? すごく毒々しい色をしているわね」
彼女の頭くらいまでしかない木に、黄色地に丸い紫の丸いボツボツがある実がついていた。
鮮やか過ぎる色は、確かに毒々しい。
普通の人間は好んで食べようとはしないだろう。
彼女の足を地面に着けると、ヨタヨタしながら、実の方に足を進めだした。
もっと近くに下ろしてやれば良かったな……。
彼女は実に手を伸ばし、毟り取った。
「えいっ! あら、採れたわ」
「採るのは簡単にできるんだが……」
「硬い」
手で握り潰そうとやっきになるお姫様。貴方の方が、毒々しいと思うのは俺だけだろうか。
彼女の手から果物を奪う。
「人から物を盗ってはいけないのよ」
「はいはい」
適当に返事をしながら、湖で汲んできた水に浸す。
「この果物は、雨の日に飛び回るラモチナというたいそう大きな虫が攫ってくれるのをまってるんだ」
「攫って……」
「そうすれば、種が遠くまで運ばれて、近くの場所にばっかり落ちることはなくなるだろ? だから、雨、つまり水に浸すと柔らかくなるんだ」
濡れている実の皮を持っていたナイフで剥く。
その間、お姫様はじっと俺の手元を眺めていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
彼女は毒々しい皮のなかから現れた、薄オレンジ色の果肉に口をつけた。
「美味しい」
彼女から、ふっと笑みが漏れた。
俺もその様子にニヤリとする。
美味かろう!
俺が滅茶苦茶苦労して探し出した実だからな!
美味いという話を聞き、あまりの硬さに困り果て……。
雨の日に飛んでくる、たいそう気持ち悪いサイズの虫たちに気づかれないようにして探り続けた魅惑の果実。
「素敵……こんなの初めてだわ」
「そりゃ、人間には広まってないからなあ」
「そうなの」
さっきから、割と大人しくお姫様の頭を撫でる。
「眠いのか?」
「眠い? え、ああ……そうね。眠いわ、パウロ」
果物を数個採って、また移動する。
今度は右手に果物を、左手に俵みたいにお姫様ん担ぎあげたのだが。
このお姫様は……
「視界が高いわ! 飛んでいるみたい」
風を感じるためか、身体を精一杯伸ばしている。
落とさないようにしなければいけないのに、厄介な!
「羽根が生えてるんだろ」
「ふふ。パウロは恥ずかしいことを言うのね」
言ったのは、貴方だ!
何故か俺だけが恥ずかしい奴みたいな感じで言われ、彼女はそのままその話題に興味を失った。
なんか、腑に落ちない。
軽い彼女を安全な場所へ、ということで。
仕方なく、本当に仕方なくだが、俺の家へ向かう。
馬小屋みたいとか、言われたら泣いてやる。
……お、俺はそんなこと全く思ってない。
加えて下心もない。ああ、ないとも!