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「ねえ、野獣さん。野獣さんは野獣さんて名前なの?」


 いや、もう何と答えたら良いのか分からないから。

 落ち込んだ俺の様子を何の勘違いをしたかは分からないが、彼女は口に手を当てて悲しげな顔をした。

 次にどんな言葉が出てくるのか、予想できない……。


「野獣さん、名前が無いなんて可哀想に」


 俺は別の意味で可哀想な奴だ。


「名前をつけてあげないとね。じゃあ、ペスとか? いえ、ポチとかタマの方が相応しいかしら?」


 全て『可愛いペットにつける名前全集』に載っているんだが、狙ってやっているんだろうか?

 なにそれ怖い。


「うーん、そうね。パウロとか如何?」

「それでいい」


 ペットの名前よりはましだと思ったら、即答していた。

 っていうか、パウロ。

 何か知らないけど、俺の名前はパウロ。

 もういいや。

 そんなことより、腹が減った。


「何か、食べるか。好き嫌いは?」

「ユリガストのシチューは食べれないの。それ以外なら、特に無いはずよ」

「……分かった」


 何が分かったかというと、彼女が食べられるか食べられないか分からないということが、分かった。


「とりあえず、果物を取りに行こう」

「はい、パウロ」


 ニコニコしている彼女の手を取り、俺が知っている中で一番美味しい実のなる木まで引いていった。

 多分、身体は結構つらいのだと思う。バレないよいに必死なようだが、足を引きずっているのが見てとれた。

 しかし、果物をとりにいくためとはいえ、お姫様をこんなところに一人で置いておくなんて出来ない。

 仕方ない、よな。


「ちょっと、大人しくしててくれよ」


 俺が言うと、悪役の台詞みたいだなと思いながら、彼女を抱き上げた。


「軽っ!」


 ちんまりしてて、確かに細いとは思っていたが、ここまでとは。


「ふふ。私には羽根が生えているの」

「また適当な」


 どこかで電波でも受信しているのだろうか。


「あら、ロマンがないのね。パウロは」


 ご期待に添えないようで申し訳ないが、ロマンはある。

 ロマンはあるが、口に出せないだけだ!

 自信満々で悲しいことを言っている自覚はあるが、もうこれも仕方ないと諦めた。

 抱っこをするように持ち上げれば、首の後ろに手を回された。

 ちょっと緊張するが、それ以上にこの綺麗な人を落とさないようにしなければいけないという重い使命がある。

 草も当たらないように気をつけながら、進んだ。


「もうすぐだから、我慢しててくださいねー」

「まあ、やる気のない返事ね。構わないけれど、面白いわ」

「はいはい」


 あんまり、気を使わなくてよさそうなお姫様に、俺は適当な返事を返した。


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