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「とっても素敵なところね」
まあ、そりゃそうだろう。
この湖は何にも汚されていない、綺麗な湖だ。
水はもちろん、その周りに咲き乱れる花や、木々は伸び伸びと成長し、かつ草食動物がいるため、伸びすぎてもいない。
風景だけでも、かなりの価値がある場所だ。
「とりあえず、水浴びでもしてきたらどうだ?」
「ええ、そうね」
多分傷らしいものは無かったと思うから、水に入れても平気だろう。
って、別に足とか腕とか見てたわけじゃないし……。ああ、見てなんか無いさ!
……すみません。許してください、神様。
「って、何やってんだよ!?」
「何って、水浴びを」
いきなり服を脱ぎ始めたお姫様に、俺は失礼ながら、自分のシャツを脱ぎ捨て被せた。
いや、水浴びって……。
普通、俺の目の届かないところでやるだろ!?
お姫様とはいえ、俺に襲われるとか、考えたりしないんだろうか。
つうか、このまま一人で水浴びさせてたら、蛇とか虫とか野獣(俺ではない、決して)に襲われたりするかもしれない!
しかも、多分このお姫様は逃げないだろう。
「分かった。落ち着け、俺」
「そうね、落ち着いたほうがいいと思うわ」
いや、貴方のせいですよ、お姫様。
こめかみがビキビキ言っている気がするが、実際には胃がズキズキしていることは間違いないので、突っ込むのは止めた。
人生、諦めが肝心だ。
俺はとりあえず、極めの細かい柔肌を見ないように気をつけながら、彼女のドレスを元に戻した。
コルセットとかいう面倒なものが付いていない服だったため、俺にもなんとか戻せた。
っていうか、確かに上等な布ではあるのだが、これって……?
お姫様の着るような服ではないと思うんだよな。
白い、ふんわりしたスカートのワンピースで、とても愛らしくはあるが、貴族ってガチガチの服を着せられるものなんじゃないのか?
それに、ちんまりしているとはいえ、彼女は15、6くらいに見える。
そんな年頃の女性が、よくもまあ……。
考えるのは止めよう。なんか怖い。
「お水、飲んでも平気かしら?」
どうやら、真水を飲んだら腹を下す可能性があると言うことくらいは知っているらしい。
ちょっとだけ安心した。
「ああ、平気だ。ここの水は上手いぞ」
「ふふ。それは楽しみね」
そう言いながら、湖の端に彼女は座った。
スカートの端が水についているが、特に気にしていない様子だ。
細い白い手が透明な液体をすくい、それを口元まで運ぶ。
綺麗な動きだった。
液体だけではなく、唇も透き通っているような、不思議な感覚を受ける。
って、俺。目を覚ませ!
本当に野獣になっちまうだろうが!
「美味しい」
やっぱり微笑んだ彼女は、綺麗だと思った。