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「切り刻んで、殺すの?」
ふんわりとした金髪の毛を持ち、緑色の宝石のような目を持った白い天使(?)は、無情にもそんな言葉を吐いた。
俺にそんなことが出来るはずは無いのに。
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「私、お姫様なの。貴方と一緒にいたら、美女と野獣ね」
いや、間違ってはいないが、非常に傷つく。
俺、泣いてもいいだろうか?
ちんまりとした手を取りながら、王子のように湖に案内している俺に吐かれた言葉は、まさかのアレ。
「で、いつ殺すの?」
やっぱり、泣いてもいい?
「俺はお姫様を殺すほど、飢えてはいないからなあ」
っていうか、こんなに儚げで可愛らしいものをボロボロにするような残虐な性質を持ち合わせていないだけ、と言える。
俺、別に肉食ってわけじゃないし。一応、雑食。
肉も食べるけど、兎とか、小鳥とか中心。
人間は怖くて殺したことが無い。
まあ、野獣って言ったら野獣なのかもしれないけど、どうなんだろうねえ。
「じゃあ、もしかして王子様?」
「それはない」
それだけは即答できた。
こんなボロボロのシャツとズボンを履いた王子って、どんな夢見がちなお姫様でも言わないだろうよ。
っていうか、欲しいか? こんな王子。
俺がお姫様だったら、即刻拒否する。
いまいち掴み所の無いお姫様に惑わされながら、先へと進む。
この近くには、とても澄んでいてて綺麗な湖があって、そこに行けば水も果物も在るし、魚だって獲れるだろう。
それに、泥にまみれたこのお姫様の白いドレスを綺麗にしてあげたかった。
なんだって、こんな……。
聞いていいのか、分からない。
こんな風にボロボロになって、こんな山奥に一人でぽつんといた綺麗な人。
どんな境遇なのか、想像もつかないし、考えるのが怖い。
「野獣さん、野獣さん」
「野獣って呼ばないでくれ」
ぐすん。と鼻をすすれば、彼女は初めて可愛らしく笑った。
やっぱり、見た目は天使だよな。
中身は……お姫様って、こんな感じなのだろうか? ってくらい天然だが。
「可愛らしい野獣さんに会えて、私は幸せね」
「可愛らしいって……男に言っても喜ばれない言葉だな」
「あら。でも、男らしい野獣さんではないし……」
泣くって言うより、首を吊りたい。
存在を否定されたような言葉が胸にズガシャッと刺さった。
ああ、もうこの可愛らしい存在と要ると、心が折れてしまいそうだ。
勘弁してくれ。
「あら。あれかしら?」
彼女が見た先には、俺の案内したかった湖が広がっていた。






