第6話 宴
夕暮れ時。
村の広場には長い木のテーブルと簡素なベンチが並べられ、子どもたちがわくわくしながら走り回っていた。
アークはその中央に設置された大鍋と鉄板の前に立ち、腕まくりをする。
「ふむ……これだけあれば、久々に“本格料理”ができそうじゃな」
収納魔法から取り出したのは、先ほど“獣”として持ち帰った肉の塊。
子どもたちには「森で捕まえた獣の肉」と説明しているが、実際は討伐した魔物の肉である。
別に食べても悪くはないし、分からなければ問題ない──アークはそう判断していた。
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煮込みの仕込み
まずは定番の煮込み。
狼型の赤身肉を一口大に切り分け、軽く塩を振ってから魔力火で表面を焼き、アクを抜く。
鍋に水を張り、玉ねぎ・にんじん・じゃがいもを投入。
そこに焼いた肉を加え、魔力火でコトコト煮込んでいく。
香ばしい匂いが漂い始め、子どもたちが鼻をひくつかせる。
「いい匂い……!」
「しゃもじいさん、なに作ってるの?」
「これはな、スタミナたっぷりの“獣肉煮込み”じゃ。夜は冷える、これを食えば体が温まるぞ」
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ステーキ調理
そして、もう一方では鉄板を熱し、厚切りの肉を並べた。
魔力火で鉄板をじんわり温め、薄く油を引いてから焼き始める。
しゃもじ式ステーキ・レシピ
1. 肉は室温に戻し、軽く塩胡椒を振る。
2. 鉄板を魔力火でしっかり熱し、油をひく。
3. 強火で表面を一気に焼き固め、肉汁を閉じ込める。
4. 焼き目がついたら中火にして、しゃもじで軽やかにひっくり返す。
5. 好みでニンニクや香草を加え、風味を移す。
6. 火を止め、葉で少し休ませてから切り分ける。
「よし、返すぞ──」
アークは神器しゃもじを構え、鉄板の上の肉に差し入れる。
木のしゃもじとは思えぬ軽やかさで、分厚い肉がくるりと宙を舞い、見事に裏返った。
「おおおーっ!!」
「すげぇ! しゃもじでステーキ返した!」
子どもたちが歓声を上げる。
しゃもじの先からは、香草と肉汁の香りがふわりと広がり、広場全体を包み込んだ。
やがて、煮込みもステーキも仕上がった。
テーブルに並べられた皿からは、湯気と香りが立ち上り、村人たちの喉が鳴る。
「さぁ、遠慮せず食え。今日は宴じゃ!」
アークの合図で、子どもたちが一斉に皿に飛びついた。
ひと口食べた瞬間──
「「「おいしーーーい!!!」」」
歓声が夜空に響く。
久しぶりの肉の味に、子どもたちは頬を赤らめ、目を輝かせ、口いっぱいにほおばっている。
「しゃもじいさん、ありがとう!」
「こんなおいしい肉、初めて!」
大人たちも黙っていられず、慎重に一切れ口に運び、目を見開く。
「……な、なんだこの柔らかさは……!」
「肉の旨味が全然違う……」
そして、誰かが呟いた。
「やはり……しゃもじを使って調理したからだ」
「そうだ、しゃもじだ! しゃもじいさんのしゃもじ料理だ!」
たちまち広場は「しゃもじ!」「しゃもじいさん!」の声で埋め尽くされた。
そんな中、アークは自分用に取り分けていたステーキ皿を手に取った。
目の前の肉は、黄金色の焼き目と香草バターの香りをまとい、湯気を立てている。
千年エルフとして肉を禁じられてきた彼にとって、これは正真正銘「夢のステーキ」だった。
「……これが、わしが夢にまで見たステーキ……」
震える手でフォークを握り、ナイフで切り分ける。
肉汁がじゅわっとあふれ、香りが鼻腔をくすぐった瞬間──アークは無意識にしゃもじで肉を口元へ運んでいた。
ひと口。
「ぴょぇぇぇぇぇぇ!! う、うんまいっ!!!」
思わず奇声を上げてしまうほどの衝撃。
外は香ばしく、中はしっとり柔らかく、ハーブとニンニクの風味が舌の上で踊る。
千年の禁欲を破る“禁断の一口”は、彼の脳天を甘美に貫いた。
「こ、これぞ……肉! これぞわしが求めておった異世界飯じゃあああ!!」
アークは感動のあまり、しゃもじを両手で掲げてしまう。
その姿を見て、村人たちがますます盛り上がった。
「やっぱりしゃもじだ! しゃもじが奇跡を呼んだんだ!」
「しゃもじいさんのしゃもじ料理万歳!」
子どもたちは笑顔で頬張り、大人たちも笑顔で踊りだす。
広場は夜空の下、笑い声と肉の香りでいっぱいになった。
アークは顔を赤らめ、額に手を当てる。
「……わし、千年生きた大魔法使いなんじゃが……どうしてこうなった」
だが、心の奥では──
「(ぴょぇぇぇぇぇぇ……うまい……! これだけでも転生した甲斐があったわい)」
と、誰にも聞こえぬ小さな声でつぶやくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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