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異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


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第65話 ワイルド

出発しようとしたその瞬間――

静寂を破るように、ぐぅぅ〜〜〜っと小さな音が響いた。


音の発生源は、エクレア。


耳まで真っ赤になりながら、両手でお腹を押さえている。


カノンがすぐに気づいて、優しくのぞき込んだ。


「お腹、すいたよね?」


エクレアは恥ずかしそうに視線をそらし、こくん……と小さくうなずいた。


その様子を見たアークは、どこか誇らしげに腕を組んだ。


「ふむ。せっかく見晴らしもよい場所におる。ここで腹ごしらえといこうではないか」


しゃもは呆れ気味に、ため息をひとつ落とす。


「……つまり、アーク様がご飯を作りたいだけですね」


アークは完全に聞こえないふりで、すでに鍋と食材を取り出している。


「登頂の記念じゃ。景色の良き場所で食う飯は別格なんじゃ」


エクレアはカノンの袖をつまみながら、小さく微笑んだ。


食事の時間が――

再び、旅の流れをやわらかくしていく。



アークは大木の枝を慎重に見定め、

太くて平らな一本を選ぶと、魔法で表面をなめらかに削り、まるで展望デッキのような空間に整えていった。


風通しよし。景色よし。光の入り具合も完璧。

どこか、都会の子どもたちが遠足で大はしゃぎしそうな“特等席”だった。


しゃもがため息をもらす。


「……さすがに過保護すぎなのでは?」


アークはその指摘を聞き流さず、堂々と胸を張った。


「環境こそ教育なんじゃ。

 これからの未来を担う宝に投資することは、断じて過保護ではない」


しゃもは棒のままじと目で見つめる。


「……結局アーク様が一番楽しんでますよね」


アークは咳払いでごまかしながら、調理の準備に取りかかろうとした――

が、手が止まった。


(……問題はここからなんじゃよ)


周囲では、カノンとエクレアが楽しげに遊び回っている。

魔族の少女は、もう怯える表情ではなく、心から笑っていた。


それなのにアークの表情は思い詰めている。


(前回……初めてわしの料理が敗北した……

 アンコがダメじゃった……甘さの方向性が違ったんじゃ……)


しゃもが横で腕を組むように見守りながらつぶやく。


「“一度負けた”ことを気にしている時点で、もう面倒な人です」


アークは食材を前に腕を組み、うーんと唸った。


・柔らかいほうが良い

・甘いものは好き

・プリンは大当たり

・あんこは大外れ


(む……? つまりエクレアの“好きな系統”というものが……?)


アークは目を細め、天を仰いだ。


(今こそ、料理人としての真価を問われておる……!)


風が吹きぬける。

見晴らしは最高。

舞台は整った。


あとは――

エクレアの笑顔を勝ち取る一皿。


アークは、なにかを吹っ切ったように腰を上げた。


まずは、香ばしく焙煎された《カカオ魔メ》の山に手を伸ばし――

石臼を魔力で浮かせ、その中へザラザラと投入する。


ゴリッ……ゴリゴリゴリッ……!


魔力で臼を回転させ、種をすり潰す音が枝の上に響く。

粉が細かくなるにつれ、芳醇な香りが立ちのぼる。


しゃもはその様子を横で観察しながら、そっと問いかけた。


「アーク様。エクレアが好みそうなレシピ、教えましょうか?」


アークは一瞬だけ目を細め、

次の瞬間、キラリと瞳を光らせ――


「……いらん」


低く、しかし確信に満ちた声だった。

しゃもは少し驚き、だがそれ以上の口出しはしない。


アークは粉末状になった“カカオ魔め”を器に移し、次の作業にうつった。


収納魔法から取り出したのは――

複数の魔物の肉の山。


黒毛魔牛

穴ぐ魔

ねぎ魔

さらには希少種の魔つ茸まで。


それらをすべてナイフで細かく刻み、ぐるぐるとかき混ぜ、

肉汁と旨みが均一になるようまとめあげる。


魔法で火を灯し、大鍋を温める。


ジュワァァァァァッ!!


ひき肉が油を弾き、香ばしい匂いが爆発する。

アークは木べらを力強く回しながら、迷いなく調味料を投じていく。


クリスタルソルト

森野草の香味粉

トマトの濃縮ペースト

カカオ魔メの微量パウダー


しゃもが目を細める。


「……ミートソースに“カカオ魔メ”を合わせる気ですか」


アークは手を止めずに答える。


「苦みは旨味を引き立てる。

 甘さを走らせたいなら“土台の深み”がいるんじゃ」


がっしりした肉の旨さに、魔トマトの酸味が合わさり、

ほんの少しのカカオの苦みが奥行きを与える。


グツグツと煮込みが進み、ソースは濃厚な輝きを帯びていく。


アークは味見をし、一度目を閉じ――

微笑んだ。


「……完璧じゃ」


しゃもはふと、口元をほころばせた。


「“勝ちに来ましたね”、アーク様」


枝の上のキッチンには、

濃厚で芳醇な香りが満ちていた。


エクレアの心を掴むために――

アークは本気で動き出した。



アークは仕上がったミートソースを前に、しばらく腕を組んで考えた。


パスタにのせて仕上げたい――本来ならそれが王道。

しかし、ここは大自然。枝の上。野営の延長戦。


アークは収納魔法から、わざと大きめのパンを取り出した。


「こういう場所ではのう……ワイルドが映えるんじゃ」


パンを豪快にちぎり、ミートソースへ勢いよくダイブさせる。


ジュワッ……と音を立ててパンがソースを吸い込み――


アークはそのまま一気にかぶりついた。


「ぴぇぇぇぇぇ!! うんまい!!!」


あまりの旨さに思わず素の声が漏れる。

しかしハッとして口を閉じる。


(いかんいかん……今は“父親(仮)”としての威厳を見せる場じゃ……!)


アークは姿勢を正し、口元をぬぐい、エクレアへ向き直った。


「……ワイルドじゃろ?」


どう見ても食い意地全開の姿だったが、アークは得意げな表情。


しゃもが冷静に突っ込む。


「さっき“教育がどうこう”と言ってたのはどちら様でした?」


アークは胸を張った。


「大自然の中では、これこそ礼儀なんじゃ」


説得力はゼロだったが、本人は真顔である。


エクレアは何をやっているのかよく分かっていない様子だったが、

パンをソースにダイブさせて食べる方法は理解したらしい。


恐る恐る真似して、ひと口。


――次の瞬間。


エクレアの表情が変わる。


目を大きく見開き、夢中でソースとパンへ手を伸ばす。

口の周りを真っ赤にして、止まらない。


「……っ……っ……!」


言葉にならないほど美味しいらしい。


その横でカノンは嬉しそうに笑っていた。


アークはそっと息を吐く。


「ふぅ……ようやく“勝てた”の」


安心の色がほんの少し浮かんだ。


その後、アークはカカオ魔メを使ったココアを用意し、カップを差し出す。


エクレアは不思議そうに覗き込み、そっとひと口。


――ぱちん、と目を丸くした。


「……あまい……おいしい……!」


ココアの優しい甘さが、少女の心に灯火をともした。


枝の上のランチタイム。

エクレアの笑顔が、ようやく戻ってきた。

読んでいただきありがとうございます。

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