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異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


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第60話 緊張

会場の空気が――一瞬で変わった。


ざわ……ざわ……と小さな波が広がり、

次の瞬間には、どよめきが渦になって会場全体を飲み込んだ。


「ま、魔族の子どもを……あの老人が買ったぞ?」

「しかも即金で……金貨の束を迷いなく……」

「っていうか誰だあのじいさん……見たことない顔だが……」


別のテーブルでは、裕福そうな商人が顔を引きつらせた。


「わ、わしが二千まで上げたのに……

 一気に三千で上書きとは……何者……?」


別の参加者

「てかあれ、魔石で稼いだ大金だよな? さっき噂になってた……」

「魔石を山ほど持ち込んだ謎の大商人……!」

「もしかして……王族筋か? ドワーフの王と繋がってるとか?」

「あるいは……光の加護を受けた聖者かもしれん……!」


勝手に盛り上がる会場。


魔族の少女は、ぽつんと立っていたが――

誰も近寄れない。


なぜなら目の前で、

あのアークが少女を庇うように立っているからだった。


「……あのじいさん、ただ者じゃねぇ……」

「立ってるだけで、なんか“オーラ”出てるぞ……」

「いや、あれ絶対魔法使いだろ……」

「でも本人は“エクストラ商人”って名乗ってたと……」

「わからん……!!」


司会者でさえ口がぱくぱくしている。


「え、えー……落札者が決まりましたので……えー……奴隷オークションは……以上で……」


声が震えていた。


護衛たちは武器に手をかけたまま固まり、

商人たちはうかがうようにアークと少女を見つめている。


その中で――


カノンは少女のそばにしゃがみ込み、そっと手を差し伸べた。

少女は戸惑いながら、震える指でその手を取る。


しゃも(小声)

「……一撃で吹っ飛ばして、

 魔牛を即死させて、

 ステーキを泣きながら食べる“エクストラ商人”……


 そりゃ会場も混乱しますよ」


アークは「やかましいわい」とだけ返した。



パーティー会場を後にしたアークたちは、

買い取った魔族の少女を連れて街へ戻ることにした。


少女は鎖こそ外れたが、まだ震えが止まらず、

アークにもカノンにも目を合わせようとしない。


カノンはそっと横に寄り添い、

小さく笑って手を差し出した。


少女は迷いながら――

おそるおそる、その手を握った。


カノン

「大丈夫ですよ。もう、誰もあなたを傷つけません」


少女は答えない。

ただ、ほんの少しだけ握る力が強くなった。


アークはその様子を横目で見ながら、

ふう、と一つ息をついた。


(……まあ、怯えるのも無理はないか)


しゃも

「アーク様があの場で落札したので、なおさらですね」


「やかましいわい。助けてやっただけじゃ」


商人の店主は、道中何度も振り返り、深々と頭を下げた。


店主

「本当に……本当に、ありがとうございます。

 今夜はどうか、我が家でゆっくりお休みください」


石畳を進むたび、街の灯りが少女の瞳に映り込む。

彼女はまだ言葉を発さないが、怯えの色は少しずつ薄れていっていた。


やがて――

立派な家屋に辿り着いた。


豪華だが落ち着いた商人の家。

アークたちはそのまま案内され、客間へ通される。


店主

「さあ、どうぞ。今夜はここでお休みください。

 ……その子も、安全です」


少女はカノンの後ろに隠れつつ、ぎゅっと手を握りしめたまま。

アークは椅子に腰を下ろし、しゃもじをトントンと膝で叩いた。


「さて……まずは飯じゃな」


しゃも

「アーク様、事情を整理してからにしましょう」


カノン

「ふふ……今日はいろいろありましたもんね」


少女はその言葉に、少しだけ眉をゆるめた。


静かな夜が、ようやく訪れようとしていた。



少女の体はずっと強張ったままだった。

カノンの手を握り返してはいるものの、震えは止まらない。


アークはその様子を静かに見つめ、膝に乗せたしゃもじを軽く叩いた。


「……少し、楽にしてやろう」


アークは少女の額に手をかざす。

淡い光が、指先から柔らかく広がった。


精神安定の魔法――

痛みも恐怖も覆い包む、穏やかな“眠りの風”のような魔力。


少女の肩がすっと下がり、ふるえがゆっくりと消えていく。


カノン

「アーク様……」


「無理はさせられんじゃろうて。今は、心を休ませてやる時じゃ」


少女はきょとんとした目をアークへ向けた。

怯えの色は薄れ、代わりに “安心” がうっすらと宿っていた。


カノンはそっと腰を落として少女に微笑む。


「ね? こっちへ来ましょう。……一緒にお風呂に行きましょうか」


少女は小さく首を傾げたものの、カノンの手をしっかり握り直した。


アーク

「しばらく任せたぞ。無理はさせるでない」


カノン

「はい。ゆっくりしてもらいますね」


二人が浴室へ向かう足音が、廊下に静かに消えていく。


──浴室。


湯気がほんのりと漂い、静かな水音が響く。


カノンは少女の髪をほどき、優しく肩にタオルをかけた。


少女は大人しく、少し不安そうにしながらも座っている。


カノン

「大丈夫ですよ。怖くないですからね」


少女の体には、砂埃や汚れがまだ残っていた。

カノンは桶に湯を汲み、そっと身体へかける。


少女はびくりとしたが――

すぐに、強張りがふっとほどけた。


「……」


声は出ない。

けれど、ほんの少しだけ表情が柔らかくなる。


カノンは優しい手つきで、少女の髪を洗い、背中を流す。

その動きは丁寧で、母親のような温かさがあった。


やがて、湯気に包まれた浴室で、少女はようやく息を深くついた。


まるで――

やっと安心できる場所に辿り着いたかのように。


静かで温かな時間が、ゆっくりと流れていった。




読んでいただきありがとうございます。

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