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異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


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第58話 魔石

アークはギルド長に連れられ、商人ギルドの奥へと案内された。

重厚な扉が開き、すぐに応接室へと通される。壁には立派な証文や取引記録が並び、いかにも“商人の城”といった雰囲気だ。


ギルド長は席に着くなり、真剣な声で切り出した。


「本題に入らせてもらいましょう。

……先ほどの魔石の件です」


アークは背もたれに寄りかかり、しゃもじを軽く回しながら耳を傾ける。


ギルド長は眉を寄せ、言葉を続けた。


「お願いしたいのはただ一つ。

――あれほどの魔石を、むやみに大量に売らないでいただきたいのです。

相場が壊れれば、この街の経済はひとたまりもありません」


アークは小さく目を細めた。


(相場、のう……そんなもの気にしたこともなかったわい)


ギルド長は両手を組み、さらに頭を下げる。


「必要な金額はこちらで用意します。

ですから、どうか――この街を混乱させるような真似だけは避けていただきたい」


アークはしばらく沈黙し、しゃもじの先でテーブルを軽く突いた。


「……ふむ。金は欲しいがのう」


しゃもが隣で肘をつつく。


「アーク様、軽いノリで街ひとつ混乱させないでくださいね」


アークは鼻を鳴らし、ため息をついた。


(そもそもわしは……ただ商人のふりをしてみたかっただけじゃのに)


しばらくして、アークは小さくうなずいた。


「よい。そこまで言うのなら、無茶な売り方はせんよ。

わしは楽しみたかっただけじゃ。街に迷惑をかけるつもりはない」


ギルド長は胸を撫でおろし、深く礼をした。


「ご理解いただき感謝します。

――では、改めて取引の条件を提示させていただきます」


応接室の空気がようやく落ち着きかけた――その瞬間だった。


バァンッ!!


勢いよく扉が開いた。


入ってきたのは、アークを草原から案内してきたあの商人。

顔は涙でぐしゃぐしゃ、息は上がり、まるで世界の終わりみたいな顔をしている。


「ア、アーク様ぁぁぁぁ!!」


商人は転がるようにアークの前まで来ると、膝から崩れ落ちた。


「ひどいです!!

私に何も言わず……勝手にギルドと取引を始められるなんて……!

あの魔石は……わ、私が……!

私が最初に声をかけたのに……!!」


泣きじゃくりながらアークのローブにすがりつく。


しゃもは冷静にぼそり。


「……アーク様、完全に『先に取られて泣く商人』の構図ですね」


アークは眉を寄せ、面倒くさそうに肩をすくめた。


「落ち着かんか。

わしは別に、おぬしを差し置いて交渉していたわけではないぞ?」


商人は涙目のまま、アークの袖を握り続ける。


「で、ですが……!

街に着いたら“お店へ来てください”って……!

お礼と、それから……その……魔石のことも……!」


アークはやれやれといった表情で立ち上がった。


「しょうがないのう」


そしてギルド長に向き直る。


「わしの魔石はまだまだある。

ギルドにも、そして――こやつにも分けてやればよいじゃろ」


ギルド長は驚きつつも、感心したようにうなずいた。


「そのように配慮していただけるのであれば、こちらも助かります」


商人はさらに涙をこぼしながら、アークの手を握った。


「アーク様ぁぁ……!

なんて慈悲深い……!」


しゃもはため息をつく。


「(いや、このお爺さん、ただ“面倒になったからまとめただけ”なんですけどね)」


カノンだけが嬉しそうに、ぽんとアークの背を叩いた。


「アーク様、優しいです!」


アークは鼻を鳴らし、しゃもじを肩に担ぎ上げた。


「ふん。こういうのは“流れ”じゃ。

わしはな、食材さえ手に入れば機嫌がよいのじゃ」


こうして――

ギルドと商人、双方との取引が成立することになった。


街の経済も、商人の気持ちも、すべて丸く収まる形で。


商人は涙をぬぐいながらも、どこか誇らしげに胸を張った。


「アーク様……!

せ、せめてものお礼として――

今夜開かれる《商人連盟パーティー》に参加できるよう、手配いたしました!」


アークは瞬きした。


「ほう……商人の集まりか」


商人は勢いよくうなずく。


「はい! 世界中から珍品・名産・秘蔵の品が持ち寄られる、商人たちの大イベントでして!

見栄の張り合いではありますが……そのぶん、滅多に見られない逸品が揃うのです!」


カノンの目がきらりと輝く。


「すごそう……!」


しゃもは冷静につぶやいた。


「珍品……高価……面倒な匂いしかしませんね」


だがアークだけは――違った。


彼の眉がぐいっと上がり、鼻がぴくりと動いた。


(珍品……

 名産……

 秘蔵の品……

 そして“食材”……)


商人は、アークの心を射抜く最後の一言を付け足す。


「もちろん、各地の名物料理や食材も多数持ち寄られます!」


アークの目が、ギラァァッと光った。


「参加する!!!」


しゃも 「即答……」


アークは拳を握りしめ、ぐっと前に身を乗り出した。


「うまいものにありつけるチャンスを逃すわけにはいかん!

わしは行くぞ、カノン、しゃもよ!」


カノンは嬉しそうに笑ってアークに寄り添う。


「はいっ!」


しゃもはため息をつきながらも、どこか楽しげだった。


「……また事件にならなければいいですが」



パーティーに参加することになったアーク一行は、

店主の厚意で、そのまま店へ案内された。


扉を開いた瞬間、

思わずアークが目を細めるほどの眩しさが店内を満たしていた。


高級そうな布で仕立てられた衣装。

金銀で縁取られた靴。

宝石で埋め尽くされたアクセサリー。

棚には高価なバッグや装飾具が並び、

どれも「商人の権力」がそのまま形になったような品ばかりだった。


「……金持ちというのは、なんでこうもキラキラさせたがるんじゃ」


アークがぼそりと呟くと、しゃもが冷静に返す。


「アーク様も十分、金持ちの香りがしてますけどね」


「やかましいわい」


店主はにこやかに手を広げた。


「どうぞ、お好きなものを選んでください。

 本日のパーティーは一流の商人ばかりが集まりますので、

 相応の身なりでないと浮いてしまいますから」


アークとカノンは視線を交わし、服選びを始めた。


カノンは鏡の前で一着のドレスを手に取る。


淡いクリーム色のワンピース。

肩まで柔らかく落ちる生地で、装飾はほとんどない。

それでも彼女が着れば、シンプルなのに十分華やかだった。


「アーク様、これ……どうですか?」


カノンは少し恥ずかしそうに回って見せた。


アークは一瞬だけ言葉を失い、すぐに咳払いしてごまかす。


「うむ……似合っとる。うん、まあ、悪くない」


しゃもがすかさず言った。


「アーク様、顔がにやけてますよ」


「にやけとらんわい!」


一方アークは――

どういうわけか、妙に派手な衣装を選んでいた。


襟にふわふわの白い毛皮。

胸元には金のチェーンがジャラジャラ重なり、

袖口には宝石がぎらついている。

まるで成金の典型のようなスタイルだ。


「……アーク様、それは……」


しゃもの声が完全に引いていた。


「ど、どうじゃ。パーティーというのはこういう場じゃろ?」


「嫌味の権化みたいになってますけど?」


「うるさいわい! パーティーとは気合いじゃ! 気合い!!」


店主は満足そうに頷いた。


「お似合いですよアーク様。とても“商人らしく”見えます」


「それは褒められとるんか?」


カノンはくすりと笑った。


「アーク様、歩くだけで音が鳴りそうです」


「…………うむ、確かに少しうるさいの……」


ジャラ……ジャラ……


歩くだけでアクセサリーが豪快に鳴った。


こうして、

アークは派手すぎる成金コス。

カノンは品の良いシンプルドレス。


それぞれパーティー装備を整え、

夜の商人パーティーへ向かうことになった。

読んでいただきありがとうございます。

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