第57話 えくすとら
翌朝。
野営を終えた一行は、西へと歩みを進めていた。
草原の向こうに、大きな城壁の影。
交易都市が近づいている。
街が見えてきた頃、アークは腕を組み、真剣な顔で唸っていた。
(さて……今回はどうやって街へ入ろうかのう)
以前は、ドワーフの国で“魔法使い”だとバレないように偽装。
最近は、大ジャポンで“黄門コス”で通行料免除。
今回も、当然なにか仕掛けたいアークであった。
しゃもは呆れ果てたようにため息をつく。
(なんで毎回、普通に入ろうとしないんですかね)
アークはハッと顔を上げ、にやりと笑った。
(よい案が浮かんだわい! 商人の知り合いとして入れば、通行料はタダじゃ!)
しゃもは即ツッコむ。
(つまり、“詐欺商人”ですね)
(やかましいわ!!)
カノンは困ったように笑っている。
商人(店主)たちは先に門へ歩いていく。
門番は店主を見るなり、頭を下げ、顔パスで通した。
続けて護衛たちもそのまま通過する。
そして、アークの番。
アークはしゃもじを扇子代わりにパタパタ仰ぎながら、
やたらと偉そうにゆっくり歩み寄る。
(さも“古くから取引している商人”という雰囲気じゃ……完璧!)
――しかし。
門番は、完全スルー。
声をかけられない。止められない。怪しまれもしない。
アークは逆に困惑した。
(……お、おかしい。いつもなら何かしらあるじゃろ……?
「おぬし何者じゃ」とか「通行料払え」とか……)
むしろ、スルーされるほうが落ち着かない。
アークは思わず門番に詰め寄る。
「……よいのか? 本当に、よいのか? わし、通るぞ?」
門番はきっぱりと答えた。
「店主様の紹介客であれば、通行料は不要です。
この街では、それが決まりです」
アークは微妙な顔になった。
(……まっとう……? 正攻法……?)
それは、アークにとって最も“調子が狂う対応”だった。
しゃもが横で小声でつぶやく。
(アーク様、普通に認められると弱いですね)
(う、うるさいわい……!)
こうして――
今回は何の問題もなく街に入ることができた。
なぜか腑に落ちないアークをよそに、一行は賑やかな街中へ進んでいくのであった。
街の中心部は活気に満ちていた。
通りには屋台と露店がびっしり並び、香辛料の匂いと人の声が混ざり合っている。
店主とは一旦別れた。
アークは腕を組み、ふむと唸った。
(せっかく“商人のふり”をしとるんじゃ。
ここは一つ、商売というものをしてみるのも一興よな)
しゃもが眉間を押さえた。
「……やめておきなさい。絶対に面倒になります」
アークは聞く耳を持たない。
「商人とはな、買うだけではなく“売る”ことも仕事なんじゃ」
しゃもは深くため息をつく。
「……(面倒が確定した……)」
カノンはアークのローブの袖をちょんと引いた。
「何を売るんですか?」
アークは収納魔法に手を差し入れ、ずらりと取り出した。
大小さまざまな魔石が、ドサァッと積み上がった。
それは、旅の中で倒してきた魔物たちの体内にあった魔石。
アークにとっては「肉ではない部分」なので、ずっと収納に放りっぱなしだった物だ。
しゃもは小さくため息をつく。
「……本当に“食べられないから保管してただけ”なんですね」
(明らかに市場に流通してよい“量”ではない)
市場にいた露店主たちが、一斉に目を丸くする。
露店主たち
「「「!?!?」」」
カノンは純粋に目を輝かせた。
「わぁ……きれいです……!」
しゃもは小声でアークの耳元へ囁く。
「……言いましたよね? 余計なことはするなと」
アークはしゃもじをトントンと肩に当て、自信満々に笑った。
「心配するな。わしはあくまで“素人商人”じゃ。
相場を崩すほど野暮なことはせん」
その言葉に――
露店主の一人が震えながら声をかけた。
露店主は、積み上がった魔石の山を前に、喉を鳴らした。
「……ま、魔法使いさん……!
そ、その量の魔石……いったいどこで……?」
その言葉に、アークはビシッと指を突きつけた。
「誰が魔法使いじゃ!!
わしは――1000年生きたエクストラ商人じゃ!!」
しゃもは、ぴたりと動きを止めた。
「……アーク様。
1000年生きた大魔法使いじゃなかったんですか?」
アークはハッと固まった。
(……やってしまった)
今までのノリで反射的にツッコミ、
自分の設定を自ら壊してしまった顔である。
しかし――
もう引き返せない。
アークは胸を張り直し、声を張った。
「……い、今のわしは!
エクストラコールド商人 アーク・エクストラじゃ!!」
しゃもは呆れ果てる。
「名前まで増えましたね……」
カノンはキラキラした目で拍手した。
「かっこいいです! アーク様!!」
露店主は完全に理解が追いついていなかった。
「えっ……あっ……は、はい……?
エクストラ……コールド……商人……?」
アークは堂々と頷いた。
「そうじゃ。わしは商人。
この魔石は旅のついでに拾っただけじゃ」
周囲がざわめく。
「拾った……?」 「討伐じゃなくて拾った……?」 「いや拾える量じゃないだろこれ……」
それでもアークはしゃもじをセンスのように扇ぎながら言った。
「欲しいものがあるなら買え。
今なら大サービスじゃ」
しゃもは、空を見た。
(……またこの街に伝説が増えるな……)
露店に、にわかにざわめきが広がる。
魔石の山を囲む人だかりは、あっという間に倍になった。
誰かが叫んだ。
「ギルドに知らせろ! 価格がぶっ壊れる!!」
その声が合図のように、通りの奥から**ドタドタドタッ!**と足音が迫ってきた。
商人ギルドの紋章を胸に付けた男たちが十数名。 そして、その中央に――
ギルド長らしき、腹の出た男。
ギルド長 「おいおいおい……聞いたぞ?
“街一つの相場をひっくり返せる量の魔石”が持ち込まれたと……」
ギルド長の視線が、アークへ向く。
「持ち主は……誰だ?」
アークは、しゃもじをセンスのように扇ぎながら一歩前へ出た。
「わしじゃが?」
ギルド長は目を細めた。
「……冒険者か? 魔法使いか? 傭兵か?
身分と所属を教えてもらおう」
アークは胸を張り、堂々と宣言する。
「わしは――エクストラコールド商人 アーク・エクストラじゃ」
ギルド長は一瞬、完全に固まった。
周囲も沈黙。
しゃもは小声で肩を落とす。
「……言い切ってしまいましたね」
カノンは無邪気に笑う。
「すごい肩書きですアーク様!」
ギルド長は、額に手を当てた。
「……商人かどうかは置いておくとして。
その魔石の来歴を確認したい。
盗品の疑い、密輸の危険性、魔物災害の発生可能性……」
アークはそれを遮った。
「拾っただけじゃ」
ギルド長 「拾える量ではない!!!」
露店の周囲の人々 「(ですよね!!)」
アークは呑気に笑う。
「まぁ、細かいことはよい。
売る気があるのなら売る。
買う気があるなら買え。
商売とはそういうものじゃろう?」
ギルド長は深い息をついた。
(……めんどくさい相手だ)
だが、魔石の質と量は、どれも最高級。
無視などできない。
ギルド長 「……わかった。場所を移そう。
取引はギルド本部で行う。
こちらへ来てもらおうか」
アークはしゃもじを肩に担ぎ、うなずいた。
「よかろう。案内せい」
しゃも 「(……また街に伝説が一つ増えますね)」
カノンは楽しそうに荷を持ち直した。
「ギルド、本物のギルド……!行ってみたかったんです!」
こうして、
**“エクストラコールド商人アーク・エクストラ”**は、
街の経済を動かす大取引へと進むことになった。
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