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異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


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第55話 禁術

エルフの里を発つ昼。

霧が森の根を覆い、葉の隙間から柔らかな光が差していた。


アークは荷をまとめると、ルナリアの前に静かに立った。


ルナリアは迷いのない目で言う。


「……私も行きます。魔王のもとへ」


だがアークは、ゆっくりと首を横に振った。


「そなたはここに残れ。

 この里は、そなたを必要としておる」


その言葉に、ルナリアはわずかに眉を揺らす。


続けて、OGが口を開いた。


「ルナリアよ。そなたが戻ってきてから、里の空気は変わった。

 戦いではなく、“守る”ために動く者が必要なのじゃ。

 わしひとりでは、里を導ききれん」


気づけば、里の者たちが周囲を囲んでいた。


狩りを共にした者。

畑を教えた老女。

子どもたちに読み書きを教えた若者。


皆が、ルナリアを見つめていた。


押しつける言葉はなく。

ただ、そこに「居てほしい」という無言の願いだけがあった。


ルナリアは、自分の胸に手を当てる。


半年前――命からがら逃げ込んだ時。

自分はただ生き延びることしか考えていなかった。


しかし今は違った。


自分はこの里の一員になっていた。


戦うためではなく。

奪うためでもなく。

誰かを守る理由を手に入れていた。


ルナリアは深く息を吸い、そして――小さく微笑む。


「……わかりました。私はここに残ります」


その決断に、エルフたちは目を潤ませ、静かに頷いた。


カノンは嬉しそうに手を握り、

しゃもは「良い判断ですね」と短く言い、

アークはただ背を向け、軽く片手を上げた。


「では、行くか。西じゃ」


日の光が森を染め、吊り橋が揺れる。


アーク。

カノン。

しゃも。


三つの影は森を抜け、ゆっくりと西の大地へ歩み出した。


目指すは――魔王の国。


静かな旅立ちの風が、枝葉を鳴らして送り出していた。



◇◆◇


西へ向かう道は、森を抜けた先で一気に開けた。


見渡す限りの大草原。

風に揺れる背の高い草が波のように連なり、雲の影がゆっくりと流れていく。


アークは深く息を吸う。


「……うまい風じゃ。大地の匂いも悪くない」


カノンは嬉しそうに背伸びをし、

しゃもは静かに魔力の気配を探っていた。


そのとき――

地面が、ぐぅ……ごごご…… と低く唸りはじめる。


草原の奥。

大きな影が、ゆっくりと姿を現した。


それは、牛にも竜にも似た巨大生物。


鈍く黒光りする甲殻。

背にいくつも突き出た石の角。

そして口元からは熱気のような息が漏れていた。


名:黒毛魔牛

大陸級危険魔獣。


しゃもは即座に判別した。


「……アーク様。あれ、普通に国ひとつ踏み潰せるクラスです」


カノンは大きく目を見開く。


「ど、ど、ど、どうしますか……!?」


アークは草を指でちぎり、風向きを見る。


そして――


「あの肉……絶対うまい」


しゃも 「……はい、もう止まらないやつですね」


カノン 「アーク様!? 今、考えてること食べることですよね!?」


返事の代わりに、アークはしゃもじを構えた。


バサルト・タウロスが咆哮を上げる。 その咆哮は草原を震わせ、かすかな雷鳴すら呼んだ。


アークは一歩、前へ。


「行くぞ。今日の晩は、大草原ステーキじゃ」


風が鳴り、影がぶつかり合う直前――


草原に響くは、戦いの幕開けの音。



緊張が走った、その瞬間だった。


黒毛魔牛に向けてアークがしゃもじを構え――

魔力を練り上げようとした、そのとき。


草原の反対側から、砂埃をあげて人影が飛び出してきた。


商人らしき男と、武装した護衛が三人。


「お、おい!そこの爺さん!!早く逃げろッ!!」 護衛のリーダーが叫ぶ。


黒毛魔牛の咆哮が草原を揺らした。


カノンはびくりと肩を揺らし、しゃもは冷静に魔力を測る。


護衛は焦りで声を荒げる。


「アレは国ひとつ踏み潰す魔獣だ!勝てるわけがねえ!!」


しかしアークは、微動だにしなかった。


「……どう倒すかのう」


その声はあまりにも落ち着いていた。


護衛リーダー 「いや聞いとんのか!?逃げ――」


アークはひとりごとのように淡々と考え始める。


「炎はダメじゃ、焦げたら旨味が飛ぶ。

 雷もいかん、内部が熱で煮えてしまう。

 氷は……ふむ、解凍の手間が面倒じゃのう」


しゃもは呆れて。


「完全に“料理の観点”で考えてますね……」


アークはさらに続けた。


「となると――傷をつけずに気絶、もしくは即死。

 つまり、禁術《柔皮・無傷封(やわはだ・むしょうふう)》で仕留めるのが一番じゃ」


護衛・商人・カノン・しゃも

全員固まった。


しゃも 「ア、アーク様……それ、国家で禁止された禁術です……」


アーク 「かまわんかまわん、良い肉のためじゃ」


黒毛魔牛が突進してくる。


大地が揺れる。

草原が裂ける。


アークは、ほんの少しだけ指先を動かした。


「《柔皮・無傷封(やわはだ・むしょうふう)》」


すさまじい衝撃が周囲の空気を押しのける。


大地が波打つように揺れ――


黒毛魔牛は、 ふわり、と 重力を忘れたように宙へ浮いた。


巨大な体が、まるで子牛のように、ゆっくりゆっくり倒れていく。


ドスン。


土煙が上がるが、傷一つついていない。


護衛リーダー 「は、は……?」


商人 「……じ、じ、じ、じ、じ……神?」


カノンは目を輝かせていた。


「アーク様の“やわやわ魔法”です!生きてるお肉をふわっと眠らせる魔法です!」


しゃも 「正式名称はもっと恐ろしい魔法ですが、本人は気にしてませんから……」


アークは頷き、黒毛魔牛に手をかざした。


「《解体魔法》」


光が走る。


黒毛魔牛は切り傷一つ無く、最高の状態で部位ごとに分けられていった。


美しい霜降り、分厚い赤身、稀少部位が完璧に並ぶ。


「よし、熟成庫入りじゃ」


「《収納庫ストレージ》」


肉は素直に光へ吸い込まれていった。


護衛一同 (……いや、もう討伐とかじゃなくて収穫だろ)


アークは満足げに背伸びして言った。


「さて、酒のうまそうな村はどこかのう」


しゃも 「西です。魔王の領土の方へ向かいますよ」


カノン 「アーク様、またごはんたのしみですねっ!」


アークは鼻で笑い、歩き出した。


黒毛魔牛討伐ではなく、黒毛魔牛“収穫”。



アークに、商人と護衛たちが深々と頭を下げた。


「命を助けていただきました……。恩に報いたいところですが、我々に差し上げられるものなど……」


「いや、よい。気にするな」


それでも商人は顔を上げずに言葉を続けた。


「西へ向かわれるのでしょう? もしよろしければ……次の街まで、同行させていただけませんか。護衛はおりますが、この草原は危険が多く……。守っていただけとは申せません。ただ、道中、ともに歩ければと」


アークはカノンの方へ視線を向ける。


カノンは「飛んだら一瞬ですよ」という顔。


アークはため息をひとつ。


(……まあ、飛んだらこの者ら置いていくことになるしな)


少し考えてから、静かに頷いた。


「縁じゃ。共に行こう」


商人と護衛は息をついたように安堵し、再び深く頭を下げた。


しゃもは腕を組んでため息をつく。


「……甘いですね、アーク様は」


「うるさいわい。旅とはの、縁あってこそ味わい深いものなんじゃ」


「(良いこと言ってる風ですが、絶対あとで面倒になりますね)」


カノンは嬉しそうに微笑んだ。


「みんなで歩くの、楽しいです」



---


太陽が傾き、空が金色に染まる頃。


一行は草原の真ん中に野営地を作った。


風はやわらかく、草はさらさらと揺れている。

焚き火がパチパチと音を立て、淡い灯りが輪を描いた。


商人は手慣れた様子で毛布やテーブルを広げ、護衛たちは見張りの交代と準備を引き受ける。


アークは火の前に座り、顎に手を当ててつぶやいた。


「さて……今日はどう料理するかのう」



火は揺れ、夜が落ちていく。



読んでいただきありがとうございます。

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