第51話 巻き戻し
ねぎ魔フィーバーで揺れるエルフの里の片隅――
簡易の寝台の上で、ルナリアが静かにまぶたを震わせた。
「……ここは……」
薄く目を開けると、柔らかい森の光と、揺れる木の葉の影。
あたたかい香り。
そして……ほんのり漂う、焼き鳥の匂い。
ルナリア
「……おなか……すいた……」
体を半分起こすと、隣にいたカノンがぱっと駆け寄った。
カノン
「ルナリアさん! 気がついたんですね! よかった……!」
ルナリアの視線がカノンへ向く。
その瞳は戸惑いと、かすかな警戒と――
そして、安堵が混ざっていた。
ルナリア
「……あなたが……助けてくれたの……?」
カノン
「助けたのはアーク様です。
私は……お手伝いしただけです」
カノンは照れくさそうに笑う。
ルナリアはその笑顔を数秒眺めて――
まるで光にあたためられたように、表情を緩めた。
「……優しいのね。あなた」
カノン
「えへへ……よく言われます!」
しゃも
「(自覚はあるらしい)」
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そこへ、
串を片手にしたアークが戻ってくる。
アーク
「お、起きたか。気分はどうじゃ?」
ルナリアはしばらくアークを見つめ、言葉を選ぶように口を開いた。
「……なぜ私を助けたの?
私は……魔王軍だったのよ」
アークは椅子にどっかり座り、肩をすくめる。
「理由は二つじゃ」
ルナリア
「二つ……?」
アーク
「一つ、飯の前に食材を焦がす料理人はいない。
まずは状態を整えてからじゃ」
しゃも
「※翻訳:相手が戦えないうちに手を出すのは嫌だった」
ルナリア
「…………それで、もう一つは?」
アークは少しだけ、真面目な瞳になる。
「“傷ついた者にとどめを刺す流儀”は、
わしの生きてきた世界には無かった。
……それだけじゃ」
ルナリアの肩が、かすかに震えた。
長い間、
“裏切り者” “敵” “化け物”
そう呼ばれて生きてきた。
その言葉は、
彼女が押し殺し続けてきたものに、そっと触れた。
ルナリア
「……ありがとう」
声は、とても小さかった。
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そこへ、場違いなほど元気な声が飛ぶ。
OG
「ルナリアが目覚めたぞーーー!!宴再開じゃあああ!!」
エルフ全員
「「「うおおおおおおお!!!!!」」」
アーク
「ぴぇぇぇぇ……休ませてやれやぁぁぁ!!」
しゃも
「この国、騒ぐことしか能がないんですか?」
カノン
「でも……楽しそうですね!」
ルナリア
「……(小さく笑う)」
その笑みは――
長い孤独の果てに生まれた、ほのかな春のようだった。
宴の喧騒が少しだけ遠のいた場所。
森の涼しい風が流れ込む木陰。
ルナリアは膝を抱え、静かに夜空を見上げていた。
片腕の袖が、風に揺れる。
アーク、カノン、しゃもは少し距離を置いて座る。
しばしの沈黙のあと――
ルナリアが口を開いた。
「……魔王軍はね。
ずっと前から、“戦いたい”わけじゃなかったの」
アーク
「ほう?」
ルナリア
「魔族は、生まれながらに魔力が高くて……
世界が私たちを“危険”だと決めつけた。
人間も、エルフも、獣人も。
誰も、私たちを『普通の民』として見なかった」
カノン
「……」
ルナリア
「だから魔王は“戦うしかなかった”。
“生きるための戦い”を、ね」
しゃも
「防衛戦争だった、ということですね」
ルナリア
「えぇ。
でも――それを変えてしまったのが、“新しい魔王”」
アーク
「新しい?」
ルナリアはゆっくりとうなずく。
「今の魔王は、元々は人間だったわ。
旅人で……世界を知り、強さを求め、そして――魔王の座を奪った」
アーク
「人間が……魔王に?」
ルナリア
「彼は言ったの。“世界を作り直す”って。
人も、魔族も、獣人も……
“みんな強者だけの世界にすべきだ”って」
カノン
「……それって……」
しゃも
「弱者を切り捨てる社会、ですね。最悪です」
ルナリアは片腕の失われた肩にそっと触れる。
「……あの日、私は勇者と戦ったの」
その声には、少し震えがあった。
「魔王軍の幹部として、前線に出ることは珍しくなかった。
けれど、あの勇者は……他とは桁が違ったの」
焚き火の火が、ルナリアの影を長く伸ばす。
「攻撃は読みづらく、魔力も異常に高くて……
勝てると思っていたのに、まるで歯が立たなかった」
アークはわずかに目を細める。
ルナリア
「戦いの中で私は左腕を失い、もう立つこともできなくなって……
必死で逃げて、気づいた時にはこの森に倒れていたの」
カノンは息を呑む。
しゃもは黙って耳を傾けていた。
ルナリア
「そして、出会ったの。
敵のはずの……この里のエルフたちに」
焚き火が柔らかく揺れる。
「彼らは私を責めなかった。
魔族だと知っていたのに、それでも助けてくれた」
ルナリアはゆっくりと微笑む。
「だから私は、ここで生きることにしたの。
恩を返すために。
“誰かに救われた”命を、また誰かのために使うために」
アーク
「……うむ。よい選択じゃ」
しゃも
「(アーク様、今日はやけに人間味あるな……)」
カノン
「ルナリアさん……強い人、ですね」
ルナリアは苦笑する。
「強くなんてないわ。ただ――逃げなかっただけ」
焚き火の光が、ルナリアの横顔をやわらかく照らしていた。
アークは、しばらく無言でその腕を見る。
その瞳には、軽口も豪胆さもなく――ただ、静かな決意だけが宿っていた。
アーク
「……ルナリア。目を閉じるのじゃ」
ルナリア
「え……?」
アークは続けることなく、ただもう一言。
「信じよ」
ルナリアは少し迷い、だがゆっくりとまぶたを閉じた。
アークはしゃもじを軽く構え、深く息を吸う。
その瞬間、空気が変わった。
焚き火の炎が揺れ、風が止む。
森そのものが息を潜めるかのように静かになる。
「《時縫いの回帰》」
淡い金色の魔力がルナリアの肩口から流れ出し、失われていた腕の輪郭を形作っていく。
それは肉が盛り、筋が通り、血管が張り、皮膚が覆う――
まるで時間そのものが巻き戻されていくように。
カノン
「……わぁ……」
OG
「これは……蘇生ではない……。時間を……戻しておるのか……?」
しゃもは、じっとアークを見ていた。
今は、茶々を入れる場面ではないと、理解している。
やがて、光は収まり――
ルナリアの腕は、元通りに戻っていた。
アーク
「……よいぞ、目を開けよ」
ルナリアはゆっくりと目を開く。
そして、自分の腕を見た。
一瞬、呼吸を忘れる。
「……っ……!」
震える指先。
拳を握る。
力が入る。
涙が、ぽろりと落ちた。
「……こんな……魔法……見たことない……」
アークは静かに首を振る。
アーク
「蘇生魔法ではない。
ただ、“腕があった時”まで、時間を戻しただけじゃ」
ルナリア
「時間……を……操った……?」
OGは腕を組み、深く息を吐く。
OG
「そんな芸当……わしは長く生きたが、初めて見たぞ」
カノンは目を潤ませながら、笑みを浮かべた。
「ルナリアさん……よかった……!」
ルナリアは胸に手を当て、深く、深く頭を下げた。
「……ありがとう。
あなたに……救われた命を……私も、誰かのために使うわ」
アークは鼻を少し鳴らす。
「うむ。そうしてくれれば、腕を戻した甲斐もあるというものじゃ」
しゃも(小声)
「(アーク様、照れてますね)」
カノン(小声)
「(うん……実はすごく優しいんだよね)」
焚き火は静かに揺れ、
夜は、穏やかに更けていく――。
読んでいただきありがとうございます。
1日だけ休むつもりだったのですが、書くのめんどくさくなってだいぶ更新遅れました。
ごめんなさい。




