第50話 ねぎ魔
小屋の中は、外のギラギラした外観とはまったく違っていた。
壁には、森の動物や精霊らしきものを模した木彫りの像が並び、
棚には色とりどりの果実を漬け込んだ酒瓶がずらりと並ぶ。
天井からは、へら型の風鈴が何十個も揺れており――
チリン……チリン……と、どこか懐かしい音が森の風と混ざって響いていた。
アークは思わず目を細める。
「……落ち着くのう。ここの空気、よう馴染む」
OGはへら杖をコツンと床に置き、静かにうなずく。
「ここは“わしの居場所”じゃ。気に入ってくれて嬉しいわい」
二人は自然と並んで座り、茶か酒かわからない香りの湯気を前に、
妙な“同志感”を漂わせていた。
しゃも「もう完全にじじい友だちですね」
カノン「なんだか……見ててほっとします」
――だが、話すべきことはある。
アークは、寝かされているルナリアに視線を向けた。
「……あの娘。ルナリア。なぜここに?」
OGはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「ルナリアは、もと魔王軍幹部じゃ。半年前、魔王から勇者討伐を命じられ戦ったが……敗れた。腕も失い、命からがらこの森に逃げてきたんじゃ」
カノンは息をのむ。
しゃもは表情を曇らせる。
「森の民が倒れておった彼女を見つけた。正体も立場も承知の上で、救ったのじゃ」
OGは静かに続ける。
「ダークエルフは、この世界でも極めて稀少。……だがそれは関係ない。
種族がどうであれ、帰る場所を失った者を捨てるなど、森の民にはできん」
アークはその言葉に胸が揺れた。
――森で生きたいだけだった者。 ――守るために戦った者。 ――そして、帰る場所を求めた者。
「……そうか」
アークは目を閉じた。
自分もまた、世界を渡り、場所を失い、歩いてきた身だ。
他人事ではなかった。
しゃもがそっと言う。
「アーク様……あの子は、ただ“ここで生きたかった”だけなのかもしれません」
アークは静かに立ち上がる。
小屋の中に、風鈴の澄んだ音が広がった。
ルナリアが、まぶたを震わせる。
ルナリアの容体を見届け、一段落ついたアークたちは、 OG に連れられ、里の中央広場へ向かった。
そこは――完全にフェス会場だった。
焚き火の周りで踊り狂うエルフ。
肉の塊を回転焼きにしているエルフ。
リスとウサギがDJブースでターンテーブル(丸太)を回している。
広場が一瞬静まり返った。
だが――次の瞬間。
OGは手に持っていた巨大へらをマイクのように構えた。
OG
「セイ!! ホーーーーーォ!!」
民たち
「ホーーーーーーーォ!!!」
OG
「騒げーーーーーー!!」
民たちも乗る。
焚き火の前で踊り出す者、指笛を鳴らす者、なぜか木に登りながら叫ぶ者まで出る。
しゃも(真顔)
「完全にクラブです」
アーク(遠い目)
「わしの知っとるエルフ文化、やっぱり死んどったわ……」
だが盛り上がりは留まらない。
OG
「今宵の宴は――!
ルナリア生存祝い!そして!!
“救世の寿司神(※自己解釈)” アークどの来訪記念じゃあああ!!」
民たち
「うおおおおお!!!OG今日もイケてるぅぅぅ!!!」
「神来ちゃった!!モテ期来る!!」
「推せる!!全力で推せる!!!」
まるでアイドルのライブ会場。
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エルフ達は走り回り、あっという間に長い宴席が組まれる。
そこに並べられた料理は――エルフの概念を殺すラインナップ。
丸焼きの魔イノシシ(炎の精霊が回転係)
スパイスまみれの串肉(肉をスパイスにしたのかスパイスが肉なのか分からない)
鍋の周囲を火の精霊たちが手を繋いで輪になって踊っている謎のスープ
酒樽×3ダース(もう地面に寝てるやつがいる)
アークは顔をしかめる。
アーク(心の声)
(……わしの知っとる木の実と草食べる清楚エルフはどこへ行ったんじゃ……
完全に肉食ロックじゃ……)
しゃも
「アーク様、受け止めてください。これが現代エルフ文化です」
カノンはほわほわ笑っている。
カノン
「お肉、良い匂いですねぇ〜♪」
アーク
「いや、カノンは絶対すぐ馴染むタイプじゃろ……」
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そこで、カノンがパッと顔をあげる。
カノン
「アーク様っ!**“あれ”**作りましょう!」
アーク
「“あれ”とは?」
カノン
「ねぎ魔!!!
アーク様が前に言ってた、ネギとお肉の串の……!
あれ、とっても美味しそおです!」
アークの耳がピクッと動いた。
アーク(内心)
(……来たな。わしが求めていた言葉が……)
しゃもは深いため息をつく。
しゃも
「もうわかりました。アーク様……
“焼き鳥モード”入りましたね」
アークはゆっくりと立ち上がり、宴を見渡し――
しゃもじを天に掲げた。
アーク
「――諸君!!!!
今こそ、ねぎ魔の真の味を教えるときじゃ!!!」
民たち
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」
火の精霊
「ういぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
動物DJ
「(ターンテーブル回転速度最大)」
OG
「待っておったぞ……しゃも神よ……!」
アーク
「誰がしゃも神じゃ!!!」
(※言いながらまんざらでもない顔)
宴は――第二形態 に突入する。
アークは腰につけていた【見た目だけ収納魔法の袋っぽい物】をポンと叩いた。
アーク
「――出でよ、ねぎ魔!」
ぽふん。
コロコロと転がり出てきたのは、
先ほど回収した“ねぎ魔”の丸ごと個体。
エルフたち
「おおおおおお……!」
「これが……伝説の……ねぎま……!(※伝説ではない)」
カノンの瞳はキラッキラである。
しゃもは冷静に指示を出す。
しゃも
「アーク様。
・肉は角度45度で薄切り
・ネギは同じ長さに
・串は熱に強い樹脂性
はい、どうぞ」
アーク
「言われんでも分かっとるわい!」
しゃも(心の声)
(絶対分かってない)
アークはしゃもじの柄を逆手に握り、
鮮やかな手際でねぎ魔を切り分けていく。
肉 → ネギ → 肉 → ネギ → 肉
リズミカルに串へ刺していく姿は、
まさに熟練の屋台職人。
カノン
「すごい……!刺すだけなのに……かっこいい……!」
しゃも
「いや、刺す“だけ”なんですけどね……?」
だがエルフたちには違って見えたらしい。
パリピエルフ
「こ、これは……伝説の……“串の舞”!!」
OG
「あれは高度な集中と鍛錬を必要とする“技”じゃ……」
アーク
「ただ刺しとるだけじゃい!!!」
焚き火の前に座り、アークは串を並べる。
ジュゥゥゥゥゥ……!!
香ばしい肉の香りと、
甘みの強い森ネギの匂いが混ざり合い、
宴にいた全員の意識が串へ吸い寄せられた。
エルフたち
「じゅ……じゅるっ……」
「それ……今すぐ……食べたい……!」
アークはしゃもじで空気を扇ぎながら、
タレを作り始める。
アーク
「このタレは――大ジャポン帝国で学んだ味噌と醤油の合わせじゃ。
焦がす寸前にぬるのが肝……」
しゃも
「はい、アーク様ただの料理中に“名言風ナレーション”入るのやめてください」
アーク
「――できたぞい」
エルフ200名
「「「ごくっ」」」
アークはまず、カノンへ手渡した。
カノン
「いただきます……!」
ひとくち。
カノンの瞳が――潤んだ。
カノン
「お、お、おいしぃ……!!!
外カリ、中じゅわぁ……!
ネギが甘い……! あああ幸せ……!!!」
パリピエルフ
「よっしゃあああああ!俺から行く!!」
がぶっ。
パリピエルフ
「…………」
エルフ一同
「…………」
パリピエルフ
「うまァァァあああああああ!!!!」
エルフ里、大爆発。
エルフたち
「串もっと!串もっとぉぉぉ!!」
「ネギ切れた!?誰かネギ育てろ!!今から!!」
「精霊よ!!!ネギの成長を数百倍にしてくれ!!!」
ネギ畑、爆速で拡張。
しゃも
「いや、何の文化進化ですかこれは」
OGは深く息を吸い、感極まったように言った。
OG
「――アーク殿。
そなた、ただの料理人ではない。
文化の、開拓者じゃ。」
アーク
「まぁ、食は世界を救うからのう(どやぁ)」
しゃも
「言いながら得意顔するのやめてもらっていいですか」
だが――そのとき。
OGの小屋で眠っていたルナリアが、
ゆっくりとまぶたを開いた。
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