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異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


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第48話 元同族

騒動が終わり、迷いの森に再び静けさが戻っていた。

倒れた木々、焦げた地面、漂う焦げ臭さだけが、先ほどの戦いの激しさを物語っている。


アークは、気を失ったままのルナリアの横にしゃがみ込んだ。

白い肌に黒銀の髪、長い耳。

どう見ても――魔物ではない。


「……ふむ。魔族ではあるが……姿はダークエルフか」


その声は珍しく真剣だった。


魔族とはいえ、獣のように襲ってくる化物とは違う。

意思のある存在。

まして、生気を失って横たわる姿は、どこか守るべき弱者にすら見える。


アークは小さく唸った。


「魔物なら、さっきさばいて焼いて食っとるところなんじゃがのう……見た目で躊躇するとは……わしもまだ修行不足じゃ」


しゃもがすぐ横から冷静に。


「いえ、純粋にアウトです。人型食べるのは倫理以前に事件です」


アークはぶっきらぼうにしゃもを睨む。


「味の話をしておるんじゃ。美味いかどうか――」


「やめなさい」


背後からカノンの声。


カノンはしゃがみ込み、そっとルナリアの額に触れた。

その目は真っ直ぐで優しい。


「アーク様。この人……誰かを守ろうとしていました。

 たぶん悪い人じゃありません。……助けましょう」


その一言に、アークは視線をそらし、鼻を鳴らした。


「……ふん。人が良すぎるところは変わらんのう」


思案の中――


しゃもが低く告げた。


「アーク様。周囲、囲まれました」


アークはため息をついた。

実はとっくに気づいていたが、考えるのを続けていただけだ。


「まったく、いつもいつも静かに帰らせてはくれんのう」


地を軽く一度、しゃもじで叩く。


「《拘束結界・八方縛はっぽうしばり》」


風が巻き、落ち葉が舞い上がり――

森の影に潜んでいた者たちが、一斉に見えない鎖に絡め取られた。


悲鳴も上げられないほど、完璧な拘束。


アークはゆっくり立ち上がり、肩を回す。


「さて……次は何の始末じゃ?」


しゃもがぼそっと。


「アーク様、言い方がもう完全に“この場のボス”です」


カノンは苦笑しながら、倒れたルナリアの手を握っていた。


森は静かなままだが――



拘束魔法によって地面に縛られた影たちが、姿をあらわす。

それは――エルフたちだった。


透き通るような髪、森の色を映した瞳。

そして、弓と魔法を使いこなす戦士の装い。


アークは一瞬、息をのんだ。


(……懐かしい)


気のせいか、風が少し温かくなった気がした。


千年前の記憶が脳裏をよぎる。

同じ森を駆け、同じ歌を聞き、同じ夜空を見上げた仲間たちの姿。


けれど――


アークはもうエルフではない。


それを理解しているからこそ、胸に小さな痛みが走った。



---


それでも、表情はいつもの飄々としたものに戻る。


アークは拘束されたエルフの頬を、しゃもじでツンツンしながら尋ねた。


「さて質問じゃ。  なぜわしらを襲おうとした?  それから――このダークエルフとお主らはどの関係じゃ?」


しゃも 「アーク様、尋問の仕方が完全に悪役です」


カノンは心配そうにルナリアの体を抱え、静かに耳を傾けている。


一人のエルフ戦士が、噛みしめるように言い放った。


「答える義務はない。

 人間に我らのことを語るつもりはない。

 彼女――ルナリアを返せ」


アークの肩がピクリと揺れた。


(……人間)


言われるまでもなく、もう自分はエルフではない。

魔力も、寿命も、姿も、すでに“別のもの”だ。


少しだけ、ほんの少しだけ――寂しさが滲む。


「……そうか」


アークはしゃもじを下ろし、淡く笑った。


「ならば良い。

 無理に聞くつもりはない。

 争う気も、奪う気も、ない」


そして、指を鳴らす。


拘束魔法がほどけ、葉が散るようにエルフたちの身体が自由を取り戻した。


続けて――


アークはルナリアの魔力を優しく調整し、その身をゆっくりとエルフたちのもとへ返す。


「わしはもう、お主らと同じ“森に生きる者”ではない。

 だが……仲間を思う心は、少しだけ理解できる」


エルフたちは驚いたように目を見開いた。

警戒はしているが、敵意は感じられない。


ただ、一人の少女エルフが静かに呟いた。


「……あなたは、何者なのですか」


アークは空を見上げて笑った。


「ただの旅人よ。

 ちょっと料理が得意なだけのな」


しゃも 「いや、千年生きた元エルフ大魔法使いですけどね」


アーク 「言わんでよい!」


森に、少しだけ心地のいい風が流れた。


カノンが小さく微笑んで、アークの袖をつまむ。


「アーク様……今の、とても優しかったです」


アークはそっぽを向き、鼻を鳴らす。


「ふん。料理人はな、必要なものしか取らんだけじゃ」


しゃも 「照れてますね」


アーク 「黙らっしゃい!」


森に風が吹き、木々の葉が揺れた。

それはまるで、エルフたちの歌のように――穏やかな音だった。



ルナリアを優しく抱えるようにしていたエルフたちの中で、ひときわ落ち着いた雰囲気の青年が一歩前へ出た。


エルフのリーダー 「……彼女を、守ってくださったのですね。深く感謝いたします」


そう言って、森の民らしい優雅な礼をする。


アークは照れたように鼻を鳴らした。


アーク 「たまたま通りかかっただけじゃ。気にするな」


エルフのリーダー 「いいえ……その“たまたま”に救われる命もございます。  もしよろしければ、我らの里に来て休まれては?

 魔法の温泉や、森の食事もお出しできます」


その言葉にアークはぴくりと反応した。


(……この世界のエルフが何を食い、どんな魔法を使うか……気になるのう)


アーク 「うむ。興味はある。行こう……が、その前に少し用事がある」


エルフたちは頷き、先に森の奥へと帰っていった。



アークは珍しく何も喋らず、落ち葉を踏む音だけが森に響く。


カノンは少し不安そうにアークの隣へ。


カノン 「ア、アーク様……今日のアーク様……いつもと雰囲気が違います……」


しゃもは、その横でツルッと冷静。


しゃも 「気持ち悪いですね」


カノン 「ちょっ……なにを!?」


しゃも 「いや、絶対今“しんみりモード”入ってますけど、  どうせ頭の中は今日のご飯の事でいっぱいです」


カノンは真剣な顔で首を振る。


カノン 「違います! 今アーク様は……故郷のことを思い出して、  きっと、色々と考えておられるんです……!」


しゃも 「このお爺さん、人生で一度でも“反省”とかしたと思います?」


カノン 「……うっ」


しゃも 「で、今どこ向かってると思います?」


カノンは少し考え……そして目を丸くした。


カノン 「……ねぎ魔の群れが落ちた場所……?」


しゃも 「そういうことです」


二人がそう呟くと、おとなしく歩くアークが突然。


アーク 「おんどれら!!

 わしだってじゃなぁ……!

 たまには浸りたいときくらいあるんじゃ!!

 人間の心はちゃんとあるんじゃぞ!!」


しゃも 「でも今、ねぎ魔の群れの死骸のど真ん中にいますよね」


アークは めっちゃ無言で 足元を見る。


そこには、焼いて食べるのに最適なサイズの ねぎ魔 がどっさり。


アーク 「……これはたまたまじゃ」


しゃも 「たまたま迷わず来れる意味とは」


カノンは、やさしく笑った。


カノン 「……でも、アーク様らしいです」


アークはそっぽを向きながら、しかししっかりとねぎ魔を回収し始めた。


アーク 「……せっかくだから晩飯は焼き鳥じゃ」


しゃも 「言いましたね。やっぱり“食”が最優先ですね」


カノン 「ふふっ……アーク様、楽しみです!」


読んでいただきありがとうございます。

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